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バロン

「皆さまの私物はちゃんと保管してあります。それとハネバシ様が帰ってきたら支払おうと思っていたポイントと金銭は事が事なので代表としてサカエダ様に提供するでよろしいでしょうか?」

「うん。後で幸成と再会したら話を付けますので……色々とこれから物入りになるでしょうから先立つ物が欲しいですしね」

「わかりました。後は……」

「ニャー」


 そこでミケさんが片手を上げて鳴く。


「む? バロン・ミケ卿、何か意見があると言う事かね?」

「バロン?」


 萩沢くんが眉を寄せてミケさんの方を向く。

 バロンって何? どういう翻訳なのかな?

 直訳だと男爵だと思うけど、この世界でもそうなのかな?

 というか、ミケさんってどんな名前なの?

 萩沢ミケだって実が言っていたけど……。

 そもそも卿という字とバロンが被っている様に聞こえるけど。


「ああ、すっかり説明を忘れておったな」


 王様が大臣に合図を送る。


「ハギサワ殿のユニークウェポンモンスターであるミケ卿は、大活性での活躍や各地での騒動の鎮圧の偉業により我が国が男爵の地位を授けたのですよ。今では定期的にメーラシア森林への調査もしてもらっています」

「ニャー」

「そ、そうか。ミケの奴、俺がいない間に随分といろんな事をしていたみたいだな」


 萩沢くんが反応に困った態度でミケさんを見ている。

 森から出るまでの間を見ていると、とてもそうは見えない。

 なんて言うか萩沢くんにじゃれつくことしか考えていない人? に見えるし。


「宴の席でのミケ卿の立ち振舞いは国の見本とすべきほどの立派な態度であった。ユニークウェポンモンスターであるのが惜しいほどの人材であるな」


 どれだけ褒められているんだろう。

 段々萩沢くんの機嫌が悪くなっている様な気もする。


「ハギサワ殿はサカエダ殿と共同経営していた店から、ミケ卿の屋敷に引越しする事をお勧めしているのではないでしょうか?」

「ミケてめぇ屋敷持ちかよ!」

「ニャアアアアン」


 ……なんだろう。

 ミケさんが若干照れくさそうに萩沢くんへ、愛の巣って言った様に私には聞こえてしまった。

 きっと気の所為だと思いたい。


「ムフフフ」


 それと黒本さんが音も立てずにスケッチしているのを注意したい。

 ミケさんの腹に拳をぶつける萩沢くんだけどミケさんはビクともしてない。

 むしろ殴られているのを喜んでいる様に見える。

 この姿を見ているととても男爵の地位を授かった揚句、立派な立ち振舞いをする方には見えない。


「じゃあ萩沢はミケの屋敷で良いな」

「お、おい、坂枝!?」

「にゃあああん」


 萩沢くんが顔を若干青くさせて茂信くんの肩を掴む。


「どうした?」

「悪いがミケの屋敷に引っ越すのは無しだ」

「別に良いだろ。ミケはお前が飼い主なんだからさ」

「ともかく、屋敷はNGな! これは絶対だ。俺がみじめになるだろ!」


 え? そこが気になるの?

 確かに……飼っていた猫が突然出世して養ってくれたら悲しい気持ちになる様な気もする。

 これって明確に自分が上だって認識があるからだけど……うーん。


「あー……わかったわかった」


 茂信くんもなんとなく事情を察して頷いた。

 萩沢くん、貴方はミケさんに対して危機意識が足りない気がする。

 屋敷云々よりも黒本さんの反応とかミケさんの鳴き声とかにもっと注意を払ってほしい。

 とも思うんだけど……。


「ニャ!」


 ミケさんの態度と言うか何が本心なのか確信を持てない。

 注意する程の問題からギリギリ出ないのが歯がゆいと感じてしまった。

 忠誠心とも取れるし、黒本さんの暴走だけで判断するのは危ないよね。

 そもそもミケさんはペットみたいな存在みたいだし。

 萩沢くんとじゃれあっている範囲から出ていない。

 と言う訳で私と聡美さんは実の家で生活する事になった。


 実の家は普通の……中世風の家だけど、三階建てだ。

 ……一介の高校生が三階建ての立派な家を持っていると考えると、萩沢くんとかが永住を悩む理由も納得がいく気がする。


「前は教会の寮に住んでいたんだけどね。給料とかみんなで集めたお金で買ってたんだー」

「へ、へぇ……」

「これから私達の家になるからゆっくりしててね。とはいえ……最初は掃除しなきゃいけないかなーと思ってたんだけどね」


 家の中を確認すると、埃の類等は積っておらず、いつでも生活できる位に整理されていた。

 誰かが管理してくれていたという事だろう。

 それだけこの国の人がみんなを大事に扱っていた、という事なのかもしれない。


「お城の人達が定期的に掃除してたみたい」

「よく考えると不思議な事よね。実はいなかった事として扱われていたはずなのに」

「んー……もしかしたら幸成くんがこの世界に残っていたお陰かもよ?」

「なるほど、幸成君を皆さんが認識している。クラスの皆が残した物は幸成君の私物としてみんなが認識していたならば納得が出来ますね!」


 聡美さんが実の言葉に頷く。


「幸成くんがいつ帰って来ても良い様に国の人が定期的にお掃除していたんだよ。きっと」

「そう補完されるって事ね……」


 幸成くんもこの法則で悩んでいたんだろうなぁ。

 凄く大雑把だけど、色々と助かるのは私も自覚している。

 異世界転送を覚えた後の、あの違和感を理解するって難しいのかもしれない。

 だって幸成くんがいないはずの時間にいると記憶が浮かんでくるのだもの。

 どちらにしても掃除とか少し面倒な作業をしないで済むのは助かるわね。


「じゃあめぐると聡美ちゃんのお部屋に案内するね」

「ええ」

「空き部屋があったから良かったー」

「なんでそんな空き部屋が多い家に住んでいたのよ……」

「んー見張りの騎士さんのお部屋とかークマ子ちゃんを説得して一緒の家に住みたかったからかなー」

「あ、そう……」

「この部屋は?」


 と、聡美さんが通り過ぎようとしていた一室の扉を開ける。

 するとそこには無数のクマグッズで敷き詰められた部屋があった。

 見覚えがある……この部屋と似た部屋を。


「そこは私の部屋ーえへへ、ちょっと恥ずかしいなー」

「日本側でも似た様な部屋になっていたじゃない。とは言っても……ここまでじゃないけど」


 クマグッズで集めましたって感じだ。

 なんて言うのだろう……確か携帯ゲームで家具を集めるスローライフゲームでこんな部屋に出来た様な覚えがある。

 それにしてもクマグッズが多いわね。

 ……口にはしないけど、若干狂気を感じる。


 そのクマ子ちゃんって……幸成くんの事が好きなのよね?

 ある意味ライバルになりそうな……ってミケさんみたいな感じなのかな?

 途中の経緯で人間の姿になれるとか聞いたけど。

 どんな意図で実は幸成くんのユニークウェポンモンスターと付き合っているのか聞いてから、ある程度説得をしなくちゃいけない時が……来るかも知れない。


「クマ子ちゃん、早く逢いたいなー」


 とはいえ、実の中の優先順位でクマ子ちゃんって子よりも私は下になってしまっている気はする。

 下手をすると幸成くんもクマ子ちゃんよりも低そうなのよね。

 あんまり期待しない様にしよう。


「あはは……可愛い部屋ですね」


 聡美さんが扉を閉めて苦笑いをした。

 確かに……もう少しグッズが少ないと実は男子受けする様な部屋に住んでいるかもしれない。

 クラス内でも人気があるけど、実のこういう天然な所が人気の秘密なのかしら?


「じゃあ、話が逸れたけど二人の部屋にいこー」


 と言う訳で私達はそれぞれ部屋をもらった。

 質素な部屋だったけど、家具は買えば良いとの話だった。

 というか……国の人や茂信くんから物凄いポイントと金銭をもらった。

 一応、通貨の単位を頭に入れたけどそれにしても大金だ。

 一体、過去のみんなはどれだけ国に関わってお金を稼いでいたんだろう?


 なんだろう……例えば幸成くんと再会してクラスのみんなを行き来出来るこの世界に連れて行ったら、みんな揃って永住したいとか言い出す未来が浮かんでくる。

 少し生活は不便でも、日本にいるよりも簡単にお金が稼げるっぽい事を萩沢くんが言っていたし……。

 さすがに……そんな事は、ないよね?

 なんて思いながら私達は実の家で休んだのだった。


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