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最初の持ち主

「まあ、あの時はクラスのみんなで来たからな。今とは違って自己紹介はして欲しいか」


 萩沢くんが呟く。

 前に来た時はクラスのみんなでここにいたんだね。

 私は一歩出て自己紹介をする。


「飛山めぐると言います。クラスのみんなと同じく異世界召喚された学生です。能力は『転送』です」

「ヒヤマ……」


 回りのみんなが何か絶句している様に見えるんだけど、なんで?


「メグル!?」

「あの聖剣ノア=トルシアの最初の持ち主!?」

「勇者メグル=ヒヤマ!?」

「え!?」

「いや、そうではない! ハネバシ殿の亡くなった想い人と同じ名を持っておるじゃと!?」

「そうだ! 死んでいるはずの人物ではなかったのですか!」


 王様を初め、兵士や騎士っぽい人達が揃って声を荒げて私へ詰め寄ろうとしている。

 というか勇者って何!?

 私がなんで自己紹介しただけで勇者扱いされているの!?


「あー……わかりやすく表現するなら、幸成が世界を救った際に願いが叶って生き返ったと思って下さって良いと思います」


 茂信くんがそう補足すると驚きの表情を浮かべていた王様が冷静さを取り戻して座り直す。

 どうやら茂信くんの話に納得しているみたい。


「な、なるほど。そのような事が起こるとは……まさに奇跡! ハネバシ様が喜ぶ事でしょう」

「そうなんですが……その幸成本人が何処へ行ったのか……心当たりがない訳じゃないのですがね」


 と茂信くんは聡美さんを紹介する。


「彼女の名前は浮川聡美さん。俺達とは少々事情が異なるけれど、仲間であり、またこの世界に来る機会をくれた人です」

「よ、よろしくお願いします」


 聡美さんは緊張した様子で頭を下げた。


「なるほど……して、ハネバシ殿は一体どこへ?」

「あ、はい……おそらく、幸成君は……事件の根本的な原因を解決させる為、この世界の過去へ転移してしまい、帰れなくなっているのではないかと、思います。ここまでは情報を掴む事が出来ました」

「なんと! それは誠の事なのか!?」


 幸成くんの行方を聞いて王様達は我が事の様に驚いている。

 それほどまでに幸成くんはみんなの力になっていたという事なんだろう。

 日本と異世界を行き来する事で、人々の力になって行ったんだね。

 自分だけ元の日本に戻れる事、その事実に甘えていると自嘲していた幸成くん。

 私は、私の告白を断った幸成くんのその、自分を戒める想いに魅力を感じていた。


 あの時に私の告白を受け入れていたら、きっと私は幸成くんを軽蔑していたと思う。

 それからしばらくして私が認識耐性を得たからだ。

 この時になって状況を理解した私はきっと、彼を軽蔑した。

 他人が苦しんでいる姿を黙って見ていながら、女性からの告白だけはしっかりと受けるなんて、私は卑怯だと思うはず。


 けれど、彼は違った。

 何も知らない私の告白だからこそ、彼は断った。

 どうにかしてみんなに話す機会を探していて、同時に解決の手段を一人思い悩んでいたのを知っている。

 あのサバイバルの中で幸成くんを問い詰めれるのだとしたら、その人はどれだけ聖人君子?

 さもその人は素晴らしい人物何でしょう。

 行き来出来る事をあの時のみんなに話なんてしたら利用された挙句、谷泉くんや小野くんに殺されていても不思議じゃない。


 ……特に小野くんには知られてはならなかった。

 あんな……迷いなくクラスメイトを殺せるような人が近くにいた事実だけでも私は戦慄する。

 確かに谷泉くん達は褒められる様な事はしていなかったけど、殺されるほど悪い事をしていたとは思えない。

 自分達の権利を守る為に森を抜けられるのを隠していた事を差し引いても……ね。


 幸成くんの軌跡は既にみんなから聞いていて、この世界の人達も幸成くんに対して好意的な印象を持っている。

 私は……そんな幸成くんが好きだって思えて……とても誇らしいと思えた。

 そんな幸成くんがまだどこかで戦っているのだと思うと、心が締め付けられる。


「……それではどうやってハネバシ殿と再会できるか皆目見当も付かない。まさに雲を掴む様な話ですな」

「ええ。とはいえ、俺達の目的はその幸成を迎えに来たんです」


 茂信くんが王様に事情を説明する。

 すると王様は、さっきから何かに縋る目で私達を見てくる。


「と言う事は……ハネバシ殿と再会した暁にはまた旅立ってしまうと言う事でしょうか?」


 さっきの話を考えると、この王様、ゲーム機を直して更に新しいゲームを買ってきて欲しいだけみたいに見えるのは私の勘違いだよね?

 幸成くんの事、心配しているんだよね?


「あー……そこはわかんねえなぁ。俺も場合によっては永住しても良いと思ってるし」

「にゃあああん」


 萩沢くんがこの世界に永住するか考えていると話した瞬間、ミケさんが嬉しそうな声で鳴いた。

 これまでの経緯から萩沢くんの事が大好きなのはわかっているから納得ね。


「もう制限の類は無いんだろ? なら幸成に頼めば自由に行き来出来る可能性もあるぞ? ね? 浮川さん」


 茂信くんが聡美さんに尋ねると、聡美さんは頷く。


「多分、幸成君次第だと思いますけど、彼さえいれば出来るんじゃないかと」

「それなら永住したいって奴は……残っても良いかもな」


 依藤くんも前向きに検討するって態度で黒本さんの方を見る。


「私は出来れば永住してここに文化を根付かせたいわね」

 ……なんの文化を?

 と、指摘するのはきっと無粋だから辞めておきましょう。

 熱心に語られるでしょうし、話の腰を折ってしまう可能性がある。


「私はクマ子ちゃんとみんながいるなら何処でも良いと思ってる」


 実は……そのクマ子ちゃんって子を最初に名前を上げる所が気になるけど、そういう考えな訳ね。

 私は……どうしたら良いんだろう?

 いずれ来る帰れる時……その時に決断しないといけないのかな。

 ……幸成くんが居れば行き来自由なら、別に直ぐに決めなきゃいけない訳じゃない様な気がする。


「クラスの連中、異世界の事を思い出したら永住したがる奴、けっこーいると思うぜ」

「萩沢、ちょっと黙ってような」

「お、おう」

「ともかく答えは保留と……どちらにしても皆さまはハネバシ様を帰還させるために行動を始めると言う事ですね」


 大臣の質問に私達は頷く。


「王を含め、我々も異世界人の皆さまがライクス国に長く留まる事を望んでおります。どうかご検討を宜しくお願いします」


 と、大臣が頭を下げると同時に王様と騎士も頭を上げる。

 歓迎されているんだなぁ。


「では現実問題の話をするとしようかの。ハネバシ殿の帰還を目標に動くとして、何か手立ては?」

「えー……今の所無いです。幸成がどの時代まで行ってしまったのかすら、あやふやでして」

「だから私は国の文献を調べてみようと思っているわ」


 黒本さんが手を上げる。

 なんでも以前は国の書庫などで情報を調べてみんなを助けていたらしい。

 何より黒本さんの能力は『書記』。

 これ程信用出来る人も稀だと思う。


「なるほど、クロモト殿なら確かに、適任であろう」

「後は並列して手がかりをみんなで手当たり次第調べて回る……それとLv上げをしていきたい。Lvがリセットされているんだ」

「うむ……概ね話は理解した。皆の者、国を上げてハネバシ殿を帰還させるために尽力するのじゃ! これは王命である!」

「「「ハ!」」」


 王様の言葉に大臣や騎士達が揃って敬礼する。


「異世界人の皆さまは今まで使用していた家をそのままお使いください。ヒヤマ様とウキカワ様はー……」

「はい。私の家が数部屋空いてるよ」


 実が手を上げる。

 家? 実は家を持っていたの?


「あんまり使ってなかったけど」

「実ちゃん、羽橋の部屋で寝てたもんな」

「え!?」


 いつの間にか実に先を越されていたって事!?

 確かに実はかわいい。

 女の私から見ても綺麗だし、ちょっと抜けている所もあるけど、優しくて良い子だもの。

 この世界に来てからはクマ子さんの事ばかり言っているけど、幸成くんとも決して仲が悪かった訳じゃない。

 つまり幸成くんも手が――


「うん、クマ子ちゃんと良く寝てたよ」


 ……この返答、実の事だからたぶん、深い意味は無い。

 聡美さんの方を向いているとまだ詳しい事情を把握していないって感じで驚いている。


「たぶん大丈夫よ。実は天然なだけ」

「あ、そうですよね。なんとなく幸成君とは少し離れた所で寝ていた様な気がします」

「うん」


 実もそこで頷かないで。

 なんか幸成くんが可哀想というか、実がおかしいのか悩んじゃうから。


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