村到着
ユニークウェポンモンスター、か。
剣辺りが妥当かしら?
以前はメタルタートルの剣で戦っていたし、やっぱり剣がしっくりくる。
とは言っても、みんなが強くて私の出る必要があるかは微妙だけど。
「そんな事したらルシアちゃんが泣くかも知れねえぞ」
萩沢くんがミケさんにじゃれられながら答える。
言わされてるのかしら?
「だからそのルシアちゃんって誰?」
「聖剣ノア=トルシアちゃん。並行世界のめぐるちゃんの剣だって自慢してたぜ」
「並行世界ねー……」
聡美さんの方を見ると頷かれる。
「記憶にありますね。時々蟲毒だった私の前に立ちはだかった剣だと思います。幸成君が持っていた剣も同様だったかと」
「へー……だけど、その子がどうして泣くの?」
「並行世界とは言え、めぐるちゃんが別の武器とユニークウェポンモンスターを使役しているのを見たらどんな気分になるか……ってミケは察しているんじゃない?」
茂信くんが萩沢くんに擦り寄るミケさんの言葉を代弁した……みたいだ。
え? 実だけじゃなくて、茂信くんまでミケさんの言葉がわかるの?
「そんな事言われても困るんだけど……」
結局、その場は保留となった。
何でも低Lv時の入手はそこまで複雑な物は無いそうなんだけど……それでも所持能力や拡張能力とかで入手できない人がいるそうだ。
そんな訳で……私達は森を抜けた後の草原の先、人里らしき村に辿り着いた。
村……よね。
なんて言うか石造りの中世を舞台にした映画みたいな建物が並んだ村。
……なんで村の真ん中にストーブみたいな物があるのかしら?
「ここは前にも来た事がある。ちょっと話をして来るよ」
茂信くんと依藤くんが近くに居る村人に声を掛けに行った。
森を出る前にみんながこの世界の人達と話が通じるって事は教えてくれていた。
「あのストーブみたいなの何かしら?」
「あれは……確か過去、並行世界の萩沢くんが作った物の複製品らしいけど……歴史が変わっているなら発明されていないわよね?」
「俺じゃない俺が作ったと証明されているのもどうなんだ? 似た別物かもしれねーぞ」
「どうなのかしら? 結局は何処かで話をしないといけないわね」
「ああ……十分気を付けねーとな」
なんて様子で話をしていると茂信くん達が戻ってくる。
後方に全身甲冑の人を連れて来てる。
「話は出来た。やっぱ俺達の事は覚えてるってさ」
「城への移動もしてくれるってさ。道具も貸してくれるみたい」
「お! やっと城の方へ戻れるのか。いい加減疲れてた所だぜ」
「ニャー」
あ、ミケさんが挨拶をすると全身甲冑の人が敬礼している。
ミケさん……もしかして偉い立場なのかな?
「初めましての方もいらっしゃいますね。紹介をした方がよろしいでしょうか?」
「気にしなくて大丈夫です。城の方で俺達が説明しますので」
「ライクス国で合っているなら、問題ない」
「は、この国はライクスです。異世界の方々、よくいらっしゃいました」
で、茂信くんと依藤くんがキョロキョロと見渡しながら尋ねる。
「やっぱ危険な能力者かどうか一度は審査するんですよね?」
「ああ、ありますね。そのような形骸化した儀式が、ご安心を、森から来た異世界人の皆さまがそのような危険な能力が引っかかった等と言う話は国の設立から存在しませんよ」
なんか甲冑の人が笑っている。
逆に茂信くんは首を傾げているなぁ……。
「あれ?」
そこで聡美さんが何か見つけた様にストーブを指差す。
「なんかあのストーブの近くで光ってません?」
「え?」
みんなでその方角を見る。
けれど、誰も聡美さんが言った物を見つけられない。
私も見つけられないのだけど……。
「とりあえず恒例なので、村へどうぞ」
案内されて私達は村に入る。
「はい。大丈夫です。試す様な真似をして申し訳ありません」
「はぁ……」
「ふう……ホッとしました」
聡美さんが胸をなでおろしていた。
話に出てきた危険な能力かもしれないと内心思っていたのかもしれない。
それから聡美さんはストーブの方に近づいて行って、何かを指差す。
「これです。これが光っていたみたいです」
「……何が?」
「ですからこれです」
「何かあるのー?」
「ニャー?」
っと、拾おうとして、聡美さんは尻餅を着いた。
「あいた!?」
「だ、大丈夫?」
私が近づいて抱き起こす。
すると聡美さんは少しだけ考える様なポーズをしてから顔を上げた。
「……なるほど、どうやら時空改変した影響と緩衝的な要素があったみたいです」
「どう言う事?」
「ん? 何の話?」
私達が疑問を浮かべていると、どうやら何かしら聡美さんにしか見えない光が聡美さんに情報として流れ込んで来た……らしい。
共鳴の力で並行世界の事を理解したのと同じ現象が発生した……のだとか。
「ぼんやりとした認識でしかないのですが……。無かった事になったはずの過去に並行世界の萩沢さんがこの世界に戻ってきたり……したみたいです」
「何?」
「ただ……一度戻って帰って来た、今の私達と似た感覚だったみたいです」
「どうやって来たのかはわからねえけどって事か?」
「はい。ただ、その時の召喚で殺人などの危険な事を仕出かした人や、異世界に戻りたくない人は来なかったみたいですね。やっぱり記憶がある様ですよ」
聡美さんにしか見えない光……並行世界の情報が転がっていたと……。
うーん……一体何なのかしら?
「あまりにも大きな改変に歴史が本来の歴史に戻そうとする作用が発生した……とかかしらね?」
黒本さんが冷静に、聡美さんに尋ねる。
「……わかりません。それならもっと血を見る様な事が発生しなくてはいけないと思うのですが……どちらにしても歴史改変で皆さんが困るほどの大きな変化は無い様に何かしらの現象が起こった……としか説明できないです」
「大々的に城の方へ戻って書庫で歴史の調査をした方が良さそうね。この世界で何が起こっているのか、調査しましょう」
「何やら深い事情があるご様子、すぐにでも我等がライクスの城に向かった方が良さそうですね」
「ええ」
茂信くんが頷くと甲冑の人が綺麗な水晶を懐から取り出して手渡してくれる。
私はそれを凝視してみた。
帰還の水晶玉
「萩沢、めぐるさん達がどんな物かわかってないから鑑定してやってくれ」
「お? そうだったな」
「本とかでどんな物か理解していれば一発で出るのだけどね」
萩沢くんが鑑定を作動させる。すると私の目に、効果が現れた。
帰還の水晶玉 効果 拠点帰還 ポイント価値 1000000
道具 登録した拠点の結界に帰還する事が出来る転送装置
凄いポイント価値に見えるのだけど、みんなは気にならないのだろうか?
「めぐるさんが居たら一度使用したら不要な代物だろうな」
「ん? と言う事はハネバシ様と同様の移動系能力者の方ですか!?」
あ、幸成くんの名字が呼ばれている。
相当有名人なんだ?
「そうそう、彼女は転送の能力者なんだ。幸成よりも移動に関しては優秀な能力者だよ」
「なんと!? と言う事は我が国では仕事に事欠きませんよ。ご活躍を楽しみにしております」
敬礼されてしまった……。
幸成くんはこの国で何をしたんだろう。
「それでは異世界人の皆さま、王へ謁見をお願い致します」
と、甲冑の人が水晶玉を空に掲げると私の使う転送の様に視界が一瞬で切り替わった。
辺りを見渡すと、息を飲む。
なんと……とても大きな城と、石畳の……夢の国の遊園地よりも大きな城下町が広がっていたのだ。
ただ、私と聡美さん以外は特に驚いた様子もなく、甲冑の人に連れられて歩いて行ってしまう。
「すごい……」
「ええ……ホント、私達異世界に来たんですね」
私達だけ、なんか田舎者丸出しみたいな感じで辺りをキョロキョロと見渡しながら、案内されるまま城の方へと歩いて行ったのだった。