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ピンチに参上

「話が終わった所で装備が出来たぞ。コスト面でのバランスを考えてミニドラゴンの皮の鎧+5をな」

「懐かしい! こんな短期間で作れるのね」


 前に幸成くんと一緒に作ってもらった鎧のはず。

 思い出は美化されると言うけれど、あの頃の辛いサバイバルの中で、楽しいと思える記憶だわ。


「昼間に遭遇したミニドラゴンのお陰でな。武器は当面、鉄鉱石で強化した包丁で繋ぐとして……行ける所まで行くつもりだ」

「メタルタートルが懐かしいな! あの剣があればもっと行けるんじゃね?」

「羽橋がいないと倒せないだろ」


 確かに……昼間も遭遇したけれど、手も足も出ないのがわかっているから無視したのよね。


「あー……そうかー……くー……依藤、どうにか出来ねえの?」

「メタルタートルクラスならLvと強い剣があれば倒せなくはないが、現状は無理だ」


 こう考えると幸成くんがどれだけみんなに貢献していたのかがわかる。

 あの剣が無ければ小野くんに負けていたらしいし。

 ……いえ、幸成くんの事だからきっと無くても勝てたと信じる。

 むしろ私があの剣を隠し持っていなかったのが悪かった。


「ともかく、ミニドラゴンの鎧+5を依藤が装備してロックリザードの胸当てを――」


 と、着回しをして効率良く、私達は森を抜ける計画を話し合った。


「そう言えば聡美さん。Lv5になったよね? 拡張能力が出たはずだけど、どんな能力が出た?」


 みんなLv5になった際の拡張能力に変化は無かった。

 私の能力は変わらず千里眼だったしね。

 ちなみに共鳴の力で茂信くんの鍛冶を手伝った際、必要ポイントの節約と拡張能力の前借り……強化が疑似的に出来る物だった。

 だから+5なんて作ってもらえている訳だし。


「共鳴波……昼間使用した感覚だと能力者のステータスを一時的に上昇させる能力だったみたいです」

「元々能力を上昇させるのに、戦闘系のステータスも上げる能力も出るって感じか」

「援護特化みたいな能力みたいだもんな。助かるぜ」

「私も似た拡張能力を覚えるけど、もう少し後だもんね」


 実がそこで告げる。

 実も似た様な能力があるみたい。

 確かに分類で言えば近いかもしれない。

 実は拠点回復、拠点での回復と技能を中心とした物を覚える。

 聡美さんは共鳴、誰かと力を合わせる能力だから援護を覚えても不思議じゃないんだ……。


「これで少しでも早く、森を抜けられるようになる。がんばって行こう」


 依藤くんの言葉にみんな頷く。


「よーし、じゃあ今日は交代で休んで、明日もがんばって行こうぜ」

「おう」

「とは言え……あのサバイバルを思い出すと、ウソみたいに順調だが……こう、早く大きな風呂とかに入りたいな」


 萩沢くんが相変わらず空気を読まずに言いたい事を言う。

 私だって気にしてる事を……。

 一応、泉を見つけたので、交代で水浴びをしてるけどね。

 前回はクラスのみんなが辛い状況ではあったけど、設備は機能していた。

 そう思うと、人数が少ない今の方が辛い。

 けれど、みんなが一丸となって森の脱出を図っている今こそ、前に進めている様な気がした。



 二日後。

 みんな経験があると言っても無理な行軍……魔物が進む度に強くなって行き、依藤くんでも苦戦するようになっていた。


「こりゃあちょっとLv上げとかしないと厳しいかもしれない……ゲームじゃないが……な」


 依藤くんが魔物を屠って汗を拭いながら答える。


「ったく、どうなってんだよ」

「思い出だと簡単に倒して言った様に感じるけど、実際はこんな物よね。さすがに疲れが出てくるわよ」


 黒本さんも疲労の色を隠せない。


「うーん……さすがに厳しいねー」


 実もみんなを回復させつつ答える。

 拠点回復の難点は回復に時間が掛る点で、無理な進軍をすればそれだけみんなが怪我をする。

 その手当てに追われてしまっていて、実自身の疲労も増えている。


 しかも装備も出揃っているわけでもなく、みんなが馴れた様子で進んで行くのでそろそろ連携が瓦解しそうになっていた。

 一旦弱い魔物が多い、初期地域に戻るか考えていたその時、前方からドタドタと複数の音が聞こえる。

 数が多い。


「また魔物の群れか!」

「魔物共が仲間を呼んだって所だ。昔も経験がある。飛山さん、撤退の準備を頼む。しんがりは任せろ!」


 と、依藤くんが構えたその時。後方の茂みからボトルグリーンビッグコングというゴリラ型の魔物の群れが音も無く飛び出してきた。


「しまっ――」


 依藤くんが振り返り、みんなを助けるべく走り出す。

 早い! 私達の倍の速度でみんなの後方に向かおうとしている。

 一番近くに居たのは萩沢くん、黒本さんと実が少し離れた所で援護をしていた。

 私は聡美さん、茂信くんと一緒に中衛で、依藤くんが先頭だった訳で……。


「萩沢くん!」

「う――」

「ウホオオオオオ――」


 ボトルグリーンビッグコングは格上の魔物……しかもどう見ても攻撃力だけは高そうな……茂みの近くにあった木々を容易くへし折った腕力を持っている。

 そんなボトルグリーンビッグコングの力強い拳が萩沢くん目掛けて放たれようとしていた。

 咄嗟に萩沢くんが頭と首を腕で守る体勢に入ったけれど、私達の反応速度よりも早く放たれる一撃で……死なない事を祈るほかない。

 世界がスローモーションに感じて見える。


 瞬間――!?

 前方……依藤くんが素早く、萩沢くんを守ろうと走っている速度の更に何倍もの速度で、影が通り過ぎて行く。


 何!? 一体何が!?

 私達がその影に目で追いつくよりも早く……影は――

 瞬間、地響きが起こり、土煙りが辺りに巻き起こった。


「ヒィ!? あ、あれ?」


 目を閉じ、体を丸めて防御をしていた萩沢くんは声を漏らしていた。

 が、何時まで経っても攻撃が来ない事に痺れを切らし、目を開いて辺りを確認する。

 煙と共に砂煙が去ったその時、そこには……何か高そうな鎧を着用した二足歩行の大きな三毛猫の魔物が、萩沢くんを守る様にボトルグリーンビッグコング達を全て屠って立っていた。

 手には血塗れの剣……背中にはマント……。

 パッと見は太った猫に見えなくもないけれど……。


「ニャー」


 血の付いた剣を振るって血糊を飛ばした三毛猫の魔物は振り返り、笑っているかのような表情で萩沢くん目掛けて親しげに鳴いた。


「ニャ」

「あ、あああ……さ、サンキュー」

「ニャ!」


 大きな三毛猫の魔物は親指を立てて萩沢くんを抱き起した。

 腰に手をまわして……こう、レディーファーストみたいな感じで。

 貴族風の立ち振舞い?


 ……何だろう。

 萩沢くんがピンチを助けてもらった乙女のように見えてしまうのは、私の幻覚だろうか?

 助けられた萩沢くんの足が重なって乙女っぽいのが原因だと思う。


「お前は……ミケじゃないか!」

「ニャー」


 依藤くんの言葉にミケと呼ばれた魔物が親しげに近寄ってくる。

 茫然としていた私達は警戒を……解けないんじゃない?


「依藤くん! 再会を喜ぶのは良いけど、大丈夫なの?」

「ニャアアアアア!」


 私の声を察したのか大きな三毛猫は大きく声を上げる。

 すると、辺りの魔物の気配が遠ざかって行くのを感じた。

 ど、どう言う事?


「どうやら魔物を追い払ってくれたんだな」


 茂信くんが辺りを振り返りながら頷いた。


「助かる。かなり厳しかった所だ。ほら、萩沢もミケに助けられたんだから礼くらい言えよ」

「あ、ああ。助かったぜミケ!」


 萩沢くんが礼を言うと、三毛猫の魔物は一際嬉しそうに尻尾をクネクネさせながら萩沢くんに近寄ってスリスリを始めた。


「ニャアアァアアアアン!」

「おわ! やめろ! 抱きつくな! やめろって言ってんだろ! ぶわ! 獣臭ぇえ! ミケ! ちゃんと風呂入ってんのか!?」

「ウッホ」


 ……黒本さんがスケッチを始めている。

 なんでそこでスケッチ?

 ちなみにお風呂に入っていないのはむしろ私達の方なんじゃないかな?


「えーっと……」


 聡美さんが首を傾げている。

 私もそうだ。事態に追いつけない。

 少なくとも、あの三毛猫の魔物は味方なんだろうな……位はわかるんだけど。


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