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 気が付くと、私達は見覚えのある、あの森の広場に立っていた。

 変化と言えば能力を教えてくれた石碑が無い事くらいだろうか?

 建物らしき物の残骸が散見している様にも見えるけど……。なんか記憶よりも形状が異なる。

 なんか野営基地の名残と言うのかしら? 私の記憶にある木造建築の家とは作りが違う。

 仮設住宅の残骸と言うのが正しい。


「無事辿りつけたみたいですね」

「ええ」


 聡美さんと顔を見合わせて頷き合う。

 のだけど、前に立っているみんなが棒立ちで動かない。

 いや、ドサッと持ってきた荷物を落とす。


「「「「ああああああああー!?」」」」


 私と聡美さん以外のみんなが揃って絶叫を上げた。

 な、なに?


「思い出した!」


 みんな揃って口を開けながら指差し合う。


「思い出したって……何を? 森での事?」

「ああ、谷泉の支配と小野の暴走、森を出た後の出来事全てをな!」


 坂枝くんがパンと拳を手の平にぶつけて不機嫌そうに言い放つ。

 な、何が……聡美さんの話では詳しい事まではわからなかったけど……。


「俺達が元の世界に戻れてめぐるちゃんや谷泉、小野が生きているのって羽橋の野郎が全部無かった事にしたんだったな!」


 先ほどまで陽気でいた萩沢くんまで不機嫌になっている。


「ああ、しかも未来転移とか嘘こいて! 時空転移だったとか! ホント懲りねえ野郎だ!」

「何アイツ! ヒーローにでもなったつもりか!」

「実際にヒーローだろ。呪いに汚染された俺達を含め、みんなを助けたんだぞ」


 依藤くんが何度も誇る様に答える。

 けど、茂信くんや萩沢くんは我慢できないと言った様子で怒りを露わにしていた。

 で、萩沢くんは茂信くんの方を半眼で、呆れた表情で見つめる。


「……なんだよ?」

「羽橋が居なくなったら途端にギャンブルか! 羽橋がペットじゃなくて坂枝がペットだったのが証明されたな!」

「異世界にMDバーガーを持って来る奴に言われたくない!」


 な、なんか茂信くんらしくない怒り方で萩沢くんに怒鳴っている。

 と言うかペットって何!? どんな関係なの?


「だけど……一体どうして異世界に来た瞬間、みんな思い出したのかしら?」


 黒本さんが冷静に事を分析している。


「私やめぐるさんはそれぞれの持つ能力で改変に耐性と呼べる物があるからこそ、異世界の記憶を所持していますが……」

「そう……ですね。私は幸成くんが日本に居た時に、幸成くんがいた事を認識していました」

「幸成もそんな事を言っていたし、俺達もなんとなく覚えがある。転移による認識改変だろ?」


 茂信くんが頭を掻きながら私の返答に同意してくれる。


「だけど羽橋が無かった事にした事を、異世界に来るだけで思い出すってのはどうにも説明が付かない気がするぜ?」


 萩沢くんが納得できない様子で答える。


「元々なんで世界を渡ると認識が改変……居なかった事になるのかすらわからないんだ。証明なんて無理なんじゃないか?」

「敢えて説明するのならば、羽橋くんが無かった事にした、そして私達は揃って日本に戻される、無かった事にされる。だけど無かった事になるとしても羽橋くんがそこに至るまでの出来事がある。自身に掛る改変を無効化出来たとしてもね」


 黒本さんが枝で地面に絵を描いて行く。


「残滓がそれぞれ私達の中にあった様に、何もかもがリセットされたのではなく……ゲーム風で言うなら何処かに記憶や事象がセーブされていたのかもしれないわね。で、私達がこの世界に来た瞬間、ロードされたとか……」

「じゃあめぐるちゃんはあぶねーんじゃね? 小野に殺されてんだぞ?」


 萩沢くんの言葉でみんなが揃って私を見る。

 ところでさっきから気になっているんだけど、実は空をぼんやりと見ていて、状況を理解しているのだろうか?


「クマ子ちゃん、貴方は実在したのね。今、私が迎えに行きます!」


 ……なんか前と比べて空気が読めない子になってしまった気がするわ。

 迎えって、どこに行くつもり?

 今にも走り出しそうな実をさり気なく茂信くんと依藤くんが物理的に止めた。

 実の方は特に無反応で、思考に耽っている。


「めぐるさんが死ぬ? そんな真似は私が絶対に……させません!」


 聡美さんが胸に手を当てて言い放つ。


「気持ちはわかるけどよ……いきなり燃え盛って死んだりとか……しないでくれよ?」


 萩沢くんの言葉に私は自身の体を確認する。

 うん。そんな感じはまったくしない。

 とは言え、注意しないと行けないのも事実……よね。


「過去に起こった事が追いかけてくるのか、それとも単純に記憶のロードが発生したのかはもう少し状況を確認すれば分かるかもしれないわ。最悪、死の運命なんて私達が結束して跳ねのければ良いのよ」


 黒本さんが不思議なくらい冷静に結論を述べている。


「それにね。もしも過去が追いかけてくるのなら、浮川さんを初めとしたここにいる全員が発狂するんじゃない?」


 全員がそれぞれ顔を見合わせる。

 そう言えば……聡美さんの話だと、クラスメイト同士が殺し合いをする様に干渉されていて、幸成くんがどうにかするまで危なかったって話だったはず。


「あー……あれか。確かに、思い出すと未だに冷や汗が出る。あんな何処からともなく湧き出る殺意は感じたくないな」

「理由の無い殺戮衝動と怒り、憎しみ……アレは避けたい。いや、過去が追いかけてくるってのは無い方向でお願いしたい」


 茂信くんが困った様子で私に言った。


「ともかく、ここにいる人達の中で大丈夫そうなのは浮川聡美さん、貴方だけだけど……どうなのかしら?」

「クラス召喚を起こした私とは別ですが……ええ、皆さんの所有権とかは持ってません」


 所有権……確か幸成くんがみんなを元の日本に戻せなかったのは、その所為だったんだっけ?


「となると私の転送を使えば、日本にみんな帰れるのかしら?」


 試しに使用してみようとした。

 だけど、失敗したみたいだった。


「……ごめん。無理みたい」

「異世界転送なんて拡張能力を持っていためぐるさんだからなぁ……」

「あー……」

「羽橋とは似て異なる能力な訳だし、同じ事が出来る訳じゃないだろ」

「気にしないで良いよ、めぐる。みんな、覚悟を持って来たんだもんね」


 実の言葉に、みんなは前よりも強く頷いた。


「思い出したからには、来る前よりも強い覚悟が出来た」

「絶対に羽橋を迎えに行くんだ」

「そうね。みんなが忘れて行ってしまった人を迎えに来たんだものね」

「あのヒーロー気取りの野郎を一発殴らなきゃ気がすまねえ」

「うん。クマ子ちゃんが待ってる」


 そして聡美さんが私を見て、頷いた。

 こんなにも頼もしいみんながいるんだもの、絶対に……大丈夫よね。


「じゃあ状況確認をしよう」


 と言う事で私は自身の能力を確認する。


「能力は覚えのあるままなのな? 別の便利な能力とか欲しかったぜ」

「それはそれで手探りになるから面倒だな……」

「ある程度、どんな拡張能力が得られるのかは覚えているわ」

「お? 美樹ちゃんやるー」


 どうやらみんな能力に変化は無いらしい。

 私もそうだ。

 あとは……あれ?


「Lv1になってる。異世界転送を使用する時はLvがあった様に見えたんだけど……」


 そう、私のLvが1に戻っていた。


「発動に代償がいるって事?」

「うーん……使った直後に下がった感じは無かったよ?」

「つーか俺達もLv1に戻っちまってるぞ!」


 萩沢くんがなんてこったとばかりに両手で頭を抱える。

 確かに全員のLvが1なのは少し不安ね。


「記憶や意識はコンバートされても肉体までは影響されなかったって事じゃない?」


 黒本さんが納得する様に頷く。


「強くてニューゲームじゃねえのかよ」

「ループしてる訳じゃねえよ。続編をプレイって思った方が良いだろ」

「お? 言い得て妙だな」


 依藤くんの言葉に萩沢くんがポンと手を叩く。


「Lvがリセットされてはいるけど、記憶と経験はあるんだ。人数も違うし昔みたいな事は起こらないさ。な?」


 茂信くんが両手を広げて告げる。

 そうだよね。

 ここには頼りになる人が沢山いて、みんなが幸成くんの事を考えてくれている。

 以前とは相当違うはず。


「ああ、そうだな。みんなで移動して行けば、思いのほか早く人里に行けるさ。先頭は俺に任せろ」


 依藤くんが一歩前に出て……西へ顔を向ける。


「まかせたぞ依藤! 一緒に俺達のLvを上げてくれ!」


 萩沢くん、凄く図々しいんじゃないの?


「はいはい。任せろ」


 おや?

 私の覚えだと依藤くんはこんな反応だったっけ?


「当面は持ってきた武器で繋ぐが……どうする? 坂枝」


 依藤くんが鉈を腰に下げて茂信くんに尋ねる。


「道中、覚えのある所で採掘して最低限装備を作って行こう」

「わかった。問題はポイントか……」

「回復は任せてねー」


 実が手を上げて言う。

 物凄く手慣れた掛け合いに、私が死んだ後、みんな苦労したんだなと感じてしまう。


「ま、ぶっちゃけこの面子だと、実ちゃんがいればどうにかなるんじゃね?」

「否定はしない」

「魔法の類は……ダメね。さすがにそこまで補完してくれなかったか」


 黒本さんが何か唱えようとして失敗していた。

 能力外でも何か使えるのかな?


「何かあったら安全そうなこの場所に戻れるから」

「そういやめぐるさんの能力は転送だもんな。うん、任せたよ」

「はい」


 道中で野宿……よりは安全じゃないかと思い、拠点だったこの場所へ戻れるよう、私は記憶した。

 これですぐにこの場所へ戻ってこれる。


「ともかく、出発だー」


 萩沢くんが何故か出発の合図を送り、私達はその足で西に向かって歩き出したのだった。


思い出せないでも良かったのですが、こちらの方がテンポが良いと思ったので。

代わりにLvは1です。

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