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異世界へ

 私は内心、茂信くんが何で依藤くんを連れてきたのか疑問に思う。

 だって依藤くんって私の記憶が確かなら戦闘組で、しかも幸成くんを刃物で脅した人だ。

 実がそう愚痴っているのを、あの時の森で散々聞かされたから覚えている。


 ただ……私が最初にクラス転移の事件の話をした際、一番に食い付いて本当にあった事なんじゃないか! とは言っていた。

 とはいえ、漫画を読むのが趣味で、不思議な事を望んでいるんじゃないかとも思える怪しいラインでの返答だった。


 事件後の変化と言えば……剣道部に所属してすぐに県大会で優勝した。

 悪い事件が立て続けに起きていただけに、注目は少なかったけど、学校内では良いニュースだったし、みんなでお祝いしたのを覚えている。


 戦闘面では確かに頼りになるとは思う。

 だけど連れて行って大丈夫なのか不安。

 その漫画という趣味も、以前はそんなに読んでいた印象が無い、というのも気になる。


「やっほー飛山さん。姫野さん」


 で、依藤くんの彼女になった黒本さん。

 漫画繋がりで馬が合い、そのまま彼女になった経緯がある。

 黒本さんは同人誌と言う物を描いていて、夏と冬の大きなイベントに参加したらしい。

 最近では漫画の新人賞を取った若き漫画家としてデビューしたと聞いている。

 漫画の内容は……私も若干理解出来る内容だったかな?

 実は首を傾げていたけど、クマ子ちゃんをイラストにしてもらって喜んでいたかな?


「とりあえず頼りになりそうな連中を連れてきた。他の……親しいクラスの奴等とはそれとなく連絡はしたんだけど、時間までに来なかった。突然だったから予定が合わないのは当然……だね」

「そう……」


 あの危険な森での日々を思い出す。

 確かに、あんまり大人数で行くのは得策じゃないのかも知れない。

 あの時の様に仲間割れが起こるのが一番怖い。


「じゃあまずは自己紹介から始めましょう。私の名前は浮川聡美です。よろしくお願いします」


 そうして聡美さんはみんなに飴玉を配る。

 なんで飴を配るのかはなんとなく分かるけど……いや、失礼かな。

 おばさんっぽいと思ってしまった。


「聡美ちゃんかー! 俺の名前は萩沢大! 大くんって呼んでください」

「大くーん!」


 依藤くんが萩沢くんを名前で呼ぶと、萩沢くんは振り返って中指を立てる。


「彼女持ちが邪魔をするんじゃねぇ!」


 ああ、このノリ、幸成くんが好きだったなぁ……。


「依藤隼人です」

「黒本美樹です。よろしくお願いします」


 ただ……私は依藤くんを見る。

 すると茂信くんが大丈夫と微笑む。


「萩沢くんが来るのはなんとなくわかっていたけど、依藤くんはどうして? 確か剣道の稽古があったんじゃないの?」


 私の質問に依藤くんは、まっすぐに見返してくる。


「稽古は良いんだ。俺はこの話を聞いた時、信じなきゃいけないと思った」


 依藤くんは握りこぶしを私に見せるように答える。

 そこには確固たる意思があって、刃物を幸成くんに向けていた人と同一人物には見えない。


「あの集団失神事件の後……何か守らなきゃいけない決意があったのを忘れている様な、とても嫌な感覚がずっと付き纏っている気がして、落ちつかない。剣道もその落ち付きの無さを忘れるためにやっていただけだし、拘りは無いんだ」


 そうして竹刀を入れたバッグを見せるように依藤くんは遠い目をして言った。


「飛山さんが前に言っていた事……俺は夢なんかじゃないって確信がある。その証明が出来るなら、どんな事だってして見せる。これが俺の決意と覚悟だ」


 ……これは、大丈夫なのかな?

 まだ疑心は解けないけど、聡美さんの話を信じるなら、こうやって私が依藤くんを疑い続けている事も、黒幕の思う壺なのかもしれない。

 それに……幸成くんなら、今の彼を許す気がする。


「こうなった隼人は止まらないのよ。だから私も一緒に行くわ。私も何かその話には強い興味を惹かれるし、何かあったら隼人が助けてくれるもの」


 っと、黒本さんは依藤くんの手を握る。


「美樹……」

「隼人……」


 あー……うん。

 そう言うのはどっか別の場所でして欲しいな。


「隼人、坂枝くんとのシーンを描きたいから後で仲睦まじい感じで話をしてね」


 あ、依藤くんが転びそうになっている。

 黒本さん、貴方はそれで良いの?


「俺は今日、美少女達と一緒にいられると知って来ました!」


 聞いてもいないのに萩沢くんは説明を始める。

 あまり変わってなくて喜べば良いのか、悲しめば良いのかわからない。


「萩沢、何か用事があるんじゃなかったのか?」

「別に? まあ今日みんなに呼ばれなかったら都市伝説探しをしようと思ってたけどよ」


 都市伝説?

 人の趣味にとやかく言うつもりはないけど、変わった事をしているなって思う。


「なんだそれ?」

「知らねぇのか? この辺りのスーパーにスパイスボーイって都市伝説があるんだよ」

「あー……聞いた事がある様な?」

「それをなんで萩沢くんが探しているの?」

「単純に気になったからだけど? ちなみにクラス委員とかも手伝ってくれるぜ」


 う~ん、色々な趣味があるんだなぁ。


「それはともかく、何か危険な事があったら、この萩沢大。さっそうと助けます!」

「えー……」


 私は聡美さんと茂信くん、実に顔を向けながら萩沢くんを見る。

 みんな苦笑いをしている。

 なんでこの人を連れて来たんだろうかとも思うけど、森での出来事を思い出す限り、大丈夫……かな?

 ムードメーカーだし、悪い人じゃないもんね。

 それから私達は自己紹介をした後、異世界へ行く方法を話した。

 もちろん、聡美さんと手を繋ぐ事で僅かにステータス画面が見えるようになったわ。


「こりゃあ確信を得るには十分じゃね? 何か準備出来る物を買って集めた方が良いよな?」


 萩沢くんが画面を確認するように目を動かしてから答える。


「ああ……じゃあ一旦解散して、準備をしてから再度集まろう」

「OK」

「うん」


 と言う形でみんなして異世界へ行く準備を始めた。

 リュックに詰め込めるだけの荷物、武器になりそうな物を用意し、指定した場所にみんなで集まったのは三時を過ぎた頃だった。


 みんな重装備って感じで荷物を持ってきている。

 食料、武器、調理機材、持って行ける物は全てと言えるくらいの重装備。


 ただ、萩沢くん、貴方は防寒具を持って来すぎだと思うわ。

 そんなに寒いところだったっけ?

 後食料は保存性が高いのが良いと思う。

 なんでMDバーガーなのかな?


「じゃあ皆さん、準備は良いですか? ここから先、帰りたいと思っても帰れないですよ?」

「おう。美少女の為なら何処へだって行くぜ!」

「覚悟の上だ」

「うん」

「ええ、その覚悟はしてきたわ」


 なんとなく、まだ遊びの域なんじゃないかと思える態度な人がいるのは気になるけれど……。

 もしも何かあったら、支えて行きたい。

 ……あの時みたいに、みんなを支配しよう、クラスメイトを殺そうと思っている人はいないと思いたい。


「じゃあめぐるさん、お願いします。私が共鳴の力で能力を増強しますので」

「はい」


 聡美さんと手を繋ぎ、私は異世界転送の拡張能力を発動……く……視界に浮かぶステータス画面がチラつく。

 単純に力が足りないのか、それとも代償があるのかわからない。

 けど……今の私では出力が足りない。


「めぐるさん!」

「めぐる!?」

「お、おい! 大丈夫か!?」


 それでも……私は、幸成くんを迎えに行きたい!

 ここで何もせずに燻るくらいなら、前に進む。

 幸成くんだけ危険な場所にいさせたりしたくない!

 平穏な場所で全て無かった事にしてぬくぬくとなんてしていられない。

 私の意志が、否定する!


「はああああ!」


 バチバチとステータス画面がスパークするのを無視して私は目の前に異世界転送の拡張能力を指定して発動させた。

 全身の力が抜ける感覚を覚える。


「はぁ……はぁ……」

「これは……」

「わーお」


 聡美さんと茂信くんに支えられ、呼吸を整える。

 すると目の前に、森で見た、私が作り出して転送の光が出現していた。


「どんな原理なのかわからねーけど。ここを通れば異世界なんだな。夢があるぜー!」

「調子乗るなって萩沢、飛山さん達の話を聞いていたのか?」

「わかってるっての。その羽橋って奴を助けに行くんだろ?」

「ああ、みんなで、俺達を助けた奴を助けに行くんだ」

「漫画や小説みたいよね。隼人」

「……だとしても、俺は漫画の主人公になったつもりで行く気は無い。俺は、忘れた何かを取り戻す為に行くんだ」

「じゃあ先頭は俺が行くぜー!」


 と、みんなの制止を振り切って萩沢くんが光の中に突撃して行った。


「あ、待て! 何が起こるかわからないんだぞ!」


 茂信くんが追って入り、依藤くんと黒本さんが続く。


「さあ、行きましょう。あの世界へ……めぐるさん。貴方が開いた道によって……共鳴の力も答えました。きっと、みんなで切り開けます」

「ええ」


 呼吸を整え、私は聡美さんと手を繋ぎ……光の柱を潜ったのだった。


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