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クマグッズ

「正直、半信半疑だけど信じるよ。変に思うかもしれないけど、あの集団失神事件から、なんか満たされない様な、大切な何かを忘れている様な気はするんだ」


 茂信くんは迷った様に、苦笑するように答える。

 その反応が私の予想とは違っていて、少し嬉しい。

 どこかで幸成くんと茂信くんの友情の様なモノが繋がっているんだと、温かい気持ちになる。


「メダルゲームをやっているのも、なんとなく、こうしていたら忘れていた何か……懐かしいような不思議な感覚が止めてくれる様な、そんな感覚がある。なんでだろうと思ってた」


 茂信くんは深く頷いた。


「うん。その話、俺は乗るよ。戻って来れないってのは正直不安だけど、こんなもどかしい気持ちが一生続くくらいなら、試してみるさ」


 そうして若干苦笑しながら茂信くんは頭を掻く。


「とは言え、何かのドッキリだったりしたら乗せられた俺は笑い者なんだけどさ」


 まだ信じ切れていない。

 けれど、話に最後まで付き合うと言ってくれた。

 今はそれだけで十分。


「じゃあ……手を」


 聡美さんが手を差し出し、茂信くんと握手を交わす。


「う……こ、これは……」


 共鳴の力で茂信くんのステータス画面を表示させたっぽい。

 やはり視界に謎のステータス画面が出て驚いた様だ。


「これで嘘じゃないと証明出来たと思います」

「あの、幸成くんの事……思い出せました?」

「いや……ただ、こんなゲームみたいな事を特に道具も無く表示させたら信じるしかないと思う」


 だけど幸成くんの事は思い出せない様だった。

 とはいえ、信じてくれた。

 それだけで心強い味方が私達に加わったのだと実感出来る。


「あの……後は誰を誘おうかと思っているんだけど……」

「ああ、じゃあ俺が男子で信じてくれそうな奴を見繕うよ。かなり危険な事みたいだしね。頼れそうな奴を誘うよ」


 と言ってから茂信くんは時計に目を向ける。


「もう大分遅い。二人ともそろそろ家に帰るべきだと思う」

「そう……ですね」


 私も時間を確認する。

 下校時刻に聡美さんと話をして……それから茂信くんと話をしていたら、もう随分と遅くなってしまった。

 早く帰らないといけないのは十分に承知している。


「聡美さん、家は大丈夫?」

「はい……そうですね。今日はもう家に帰って……明日にしましょう」


 明日は休日で翌日は祝日だ。

 みんなと相談して出発するには良い日かもしれない。


「わかりました。聡美さん。連絡先の交換と待ち合わせをしましょう」

「はい」


 聡美さんと私達は連絡先の交換をし、明日……頼れる人に相談する事を決めてその日は解散となった。



 家に帰った私は姫野実に明日、話が出来ないか確認を取っていた。


「あ、実ー? 今、時間ある?」

「うーん? あるよー大丈夫ー」


 実はあの事件以降、なんて言うのだろうか……趣味の方向性が大きく変化した。

 まずボクシングに目覚めたと言うか、試合を見に行かないかと誘われる様になった。

 そんな趣味があるんだ? なんて学校でも話題に上る程だ。


 部屋にもボクシングのポスターが飾ってあって、実の性格からして浮いている。

 将来はボクシングの審判になりたいと言っていたけれど、何処まで本気なのかよくわからない所がある。

 看護士になりたいとも言っていたからそっちが本命だと思いたい。


 それはもう一つの趣味に関わっている。

 いや、そっちの趣味の方が重傷だ。

 なんでかと言うと、クマのぬいぐるみを作成する趣味。

 これだけならまだ良いんだけど、度を越している。

 部屋がクマのぬいぐるみグッズに占拠されているのはちょっと思う所がある。


 そしてボクシングも深くこの事に関わっていた。

 ボクシンググローブを付けたクマのぬいぐるみを作るのが趣味となっているのだ。

 その趣味に関してはかなりの重症で、部屋に大きなクマのぬいぐるみを自作するするほど。

 あまりにも大きい、そのぬいぐるみはクラスの女子の中でも有名な話になっている。

 名前は『クマ子ちゃん』と言うそうだけど……。


 それはともかく、クラス転移した際、実は私達の協力者となってくれた。

 だから是非とも相談したい。


「前に話をしたわよね? クラス転移をしてしまったって話、覚えてる?」

「えーっと。うん、覚えてるよ。どうしたの?」

「その件で進展があったわ。だから明日時間を作れない?」


 私の言葉に実は少しだけ考えるように「うーん」と告げる。

 困った様な声だと思う。


「うん。わかった。明日、何処へ行けばいいの?」


 それでも実は私の事を尊重してくれている。

 どうしてだが、それがとても嬉しかった。


「明日の10時に駅前の公園で……」


 と言う訳で、私は実に話を持ちかけてその日は就寝した。



 翌朝。

 予定通りの時刻、駅前の公園で私は実を待った。


「あ、めぐるーやっほー」


 実が私を見つけて駆け寄ってくる。


「おはよー」

「おはよう」

「それで進展って?」

「ええ、その前に実、一つ聞いて良い?」

「何?」


 私は実に向かって酷い質問をしている様な気がした。

 あの辛いサバイバルを再度しなくてはいけないんだと言う事を、実にさせようとしているのではないかと。


「ん?」


 首を傾げる実に私は勇気を振り絞って尋ねる。


「もしも、私が話した事が事実だったとして、実……貴方は二度と戻れないかもしれない、異世界に一緒に来てくれる?」


 すると実はとても真剣な目で私を見返す。

 普段のちょっと天然っぽい所は鳴りを潜めている。


「うん。もしも行けるんだったら、私は一緒に行っても良いと思ってるよ」


 私に背を向け、少し歩いてから笑顔で振り向く。


「あのね。めぐるの話、私は覚えていないけど、心辺りはあるんだよ? 例えば……クマ子ちゃんの事」


 小さなクマのぬいぐるみを取り出して実は微笑む。


「あの事件からだと思うの。私がボクシングとクマのぬいぐるみに強い興味を覚えたのは」


 確かに、あの事件以降なのは事実……。

 実の人生にここまでクマが関わったとは思えないし、ましてや一連の事件にクマが介在した事は無い。確かに元々大きなクマのぬいぐるみは持っていたらしいのだけど、それよりも遥かに大きなクマのぬいぐるみを自作してしまうのだ。


 そういえば幸成くんがボクシングのグローブを持っていたけど……何か関わり合いがあるのかもしれない。

 審判云々も、あの時、実は審判の真似事をしていたはず。

 うん、そう考えると異世界での影響は確かに存在する。


「だから……何かあるんだとしたら、私は知りたい。知らないまま悶々としているくらいなら、めぐるの話を信じてみたい」

「そう……とても危険な事よ? 後悔はしないの?」

「しない。だって、めぐるがいるんでしょ? 他の人も誘ってるの?」

「ええ……」

「なら大丈夫。みんなで行けば怖くないよ。がんばろー」


 そう答えた実は、まるで別人の様な頼りになる顔をしていた。

 それから聡美さんと待ち合わせをし、合流した。


「彼女は浮川聡美さん」

「姫野実です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。あ、これ飴です」

「ありがとー」

「既に異世界の件、実に話は通してあります。了承も得ています」

「そうですか。では坂枝さんが連れてくる人を待ってから話をしましょう」

「はい」


 やがて……茂信くんは数人のクラスメイトを連れてやってきた。



「ウホ! クラスのトップ美少女二人と可愛い女の子!」


 ……茂信くんが連れてきたのは萩沢くんだった。

 猫のプリントがされているパーカーを着込み、あんまり真剣に事に当たらなそうなのほほんとした表情で近寄ってくる。

 クラス転移の時はみんなのムードメーカー的な所があった。

 作り出す爆弾とか凄かった覚えはあるんだけど、お調子者な所があって、大丈夫なのかな?

 事件後の変化と言えば……萩沢くんの場合、あんまり無いと思う。

 少なくとも私は変化を見る事は無かった。

 敢えていうなら成績が良くなったと言う所……かな?

 そして萩沢くんと一緒に付いて来た人物を見て、私は眉を寄せた。


「萩沢、落ち付けって」

「そうそう」


 茂信くんが親しげに連れてきたのは依藤くんだった。


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