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メダルゲーム

「幸成くんだけいない。幸成くんだけの犠牲の上で成り立っている平和なんて、私は受け入れない。絶対に迎えに行くわ。だから浮川さん、何かしら手段があるのなら、教えて」


 私の決意を聞いて浮川さんは深く頷く。


「飛山めぐるさん、貴女ならそう言うと信じていました。もちろん、私は力になる為に来ました。ですがよろしいんですね?」


 念押しするように浮川さんは私に尋ねる。


「もしかしたらもっと悪い結果になるかもしれません」

「……」

「この世界に帰って来れないかもしれない。死ぬかもしれません。それでも……よろしいんですね?」

「もちろんよ」


 私は私の信じた道を貫く為に進む。

 その先に何があっても……後悔なんてしない。

 幸成くん。貴方はみんなを助けたと思っているけど、間違っている。

 みんなって言うのは、貴方も含まれているんだから。

 自己犠牲で助けられたら……そうか……幸成くんはこんな気持ちだったのかもしれない。


 私の行なった事はこういう事なんだ。

 だけど、だからこそ、私は貴方を助けに行かなきゃいけないの。

 全ては私の責任なんだから!


「わかりました。ところで、飛山さん」

「なんですか?」

「これから一蓮托生なんです。浮川さんなんて他人行儀な言い方をせず、私の事は聡美と呼んでくださって結構です」

「わかりました、聡美さん。私もめぐると呼んでください」

「はい。めぐるさん」


 ……不思議と下の名前で呼び合う事に違和感はなかった。

 もしかしたら、最初の世界で仲が良かった、という話も影響があるのかもしれない。


「話は戻りますが、貴方は本当に良いんですか? 貴方こそ、無関係ですよ?」

「ええ、私は、自分で選んでこうして接触したんです。既に選択しました。例え何が起ころうとも貴方達の力になりたいと」


 こうして私達の目的は一つとなった。


「じゃあ……これからどうしたら良いのかな? ……そう言えば異世界転送って拡張能力があったはず。この力を使えば……」


 拡張能力を確認する。

 ……うん。存在する。使えるはずだ。


「はい。その力を使えばおそらく、行けるかと思います。今すぐ行きますか?」

「ええ。それじゃあ、店を出ましょう」


 こんな所で拡張能力を使ったら驚かれるなんて次元じゃない程、騒ぎになる。

 聡美さんが頷き、私達は足早に喫茶店を出る。

 それから……人通りの少ない公園へと向かった。


「じゃあ……行きます」


 浮川さんと手を繋ぎ、薄く表示されるステータス画面から私は異世界転送を発動させようとした。

 ……ふと、私達だけで行って良いのか? みんなに協力をせずに独断専行して良いのか?

 と想いが過る。

 ……何も起こらず、ステータス画面に砂嵐が発生した。


「これは……なるほど」


 聡美さんが何か理解した様に頷く。


「何かわかったの?」

「生身のまま、世界の壁を越えるほどの力が……無いのかも? 共鳴の力で多少、並行世界から助言が聞こえますし、力も供給……出来ています、けど……」


 はぁ……?

 共鳴とはどんな力なのか、私には感覚が理解し切れていないのかもしれない。


「……めぐるさん、貴方自身が何か、心の底で想っている事があるから、かもしれません」


 私自身が心の底で思っている事?


「本当は、異世界に行きたくない……とか? それは違うわ!」


 私は納得していない。

 怖くて逃げるなんてする気は無い。


「……私達だけで異世界に行って良いか? みんなに黙って行って良いのか?」


 聡美さんに言われて心臓の鼓動が強まる。

 思いもよらない何かを指摘された気がした。


「貴方が力を使おうとした瞬間に小さくノイズの様に聞こえました。間違いない、並行世界の貴方を知る私からも同意されました……」

「……凄い力なんですね」

「みんなを不幸にした元凶ですから」


 微笑、という表現で良いのかな?

 自分を皮肉っているんだろうけど、そんな顔で答えられても困るんだけど……。

 私の経験ではどう返して良いかわからなかった。


「めぐるさん、信じてもらえるかわかりませんが、同様の経緯を持つクラスの皆さん……めぐるさんの友人達に尋ねて回りましょう」

「え……それは……」

「行くかどうかを尋ねるんです。突然のクラス転移だからこそ、みんな戸惑い、あのような出来事になります。ですがそれぞれ私達の様に選択を迫れば良いのではないでしょうか? めぐるさん。貴方が納得できるだけの仲間を募るんです」


 行きたくないのなら、連れて行く必要は無い。

 決意を持って、一緒に異世界へ行く。


 ……うん。

 もしかしたら私は迷っていたのかもしれない。

 そうだ。

 二人で分かり合うなんてやっていたら森でサバイバルをしていた時と変わらない。

 もっと、みんなと話しあって行くべきよ。

 あの時とは違うんだもの。


 バカバカしいと私を笑う事は出来る。

 信じてくれなくても良い。信じてくれた人に……協力してもらいたい。


「そうね。じゃあ、信頼できるクラスの人を誘ってみるわ。まずは幸成くんの親友である茂信くんに頼るべきね」


 私は聡美さんを連れて茂信くんの所へと向かう事を決めた。


「あの……こんな時間に、何処にいるかわかるんですか?」

「ええ、最近は何処にいるか知っているの。電話はしてもきっと出ないでしょうし」


 あそこは音がうるさいし、多分集中しているから気付かないと思う。

 呼び出すよりもまず、何処にいるかわかっているから現地に行った方が早い。

 という事で私達は茂信くんの元へ向かった。



 騒がしい電子音が響く街のゲームセンター。

 私はそのゲームセンターのメダルゲームのコーナーへと足を運んだ。


「いた!」

「ん?」


 メダルの入った小さなバケツを脇に置いて、坂枝茂信くんがメダルゲームをプレイしていた。

 集団失神事件から少し経った頃の事、友達達とゲームセンターに遊びに行った茂信くんはメダルゲームで遊ぶ事を覚えた。

 成績優秀、スポーツ万能の茂信くんは暇な時間があるとゲームセンターでメダルゲームをしている。

 付き合いが良くなった、とか言われていたっけ。

 私としては、これも異世界の影響なんじゃないかと不安に思っている。

 なんというか、あれから何があったのか非常に気になる。


「あれ? めぐるさんじゃないか? こんな時間にどうしたの?」

「どうしたの? じゃないわ。またメダルゲーム?」


 私に指摘されて茂信くんは苦笑する。


「いやー……なんか楽しくてさ。分の悪い賭けを当てるとスカッとするんだ」

「負けっぱなしだって聞くけど?」

「いやはや……その通りなんだけどね」


 下手なギャンブルとみんなに言われている。

 ただ、茂信くん曰く、お金が絡んでいるかどうかではない……らしい。


「それで何の用? 彼女は?」


 茂信くんが聡美さんに目を向ける。


「浮川聡美と言います。よろしくお願いします」

「うん。よろしく、初めて見る人だけど、めぐるさんの友達?」

「あー……はい。そうです」


 聡美さんの顔を見てから頷く。


「それで? 何?」


 茂信くんはメダルゲームをやりながら私に聞いて来る。

 え? それ、続けるの?


「話があります。前に話した……羽橋幸成くんの件で進展がありました」


 ピタッと茂信くんは手を止めて振り返る。


「その事か……確かにめぐるさんの話を聞いて、俺も気になる名前だとは思っていたし、忘れられない気はするんだけど……」


 そう、茂信くんに何度も相談をしていた。

 だけど、覚えのない人の事を思い出す事なんて出来ないと平行線になっていたのだ。

 但し、茂信くん自体も何か引っかかりは覚えていたらしく、私が嘘を言っているとは思っていない。


「進展って?」

「はい。その事で私がめぐるさんに接触をしました。どうか話を聞いてくれませんか?」

「……わかった」


 私達は茂信くんを相手に経緯を説明した。


「うーん……とは言ってもな……」


 当初茂信くんは腕を組んで悩んでいる。


「それで、俺に何を聞きたいの?」


 聡美さんが胸に手を当てて、深呼吸をして尋ねる。


「私は皆さんに尋ねたいと思って来ました。坂枝茂信さん、貴方はその世界に今一度、戻りたいですか?」

「……」

「一度行ったら戻って来れない可能性が高いです。それでも、一緒に来てくれますか?」


 聡美さんの質問に茂信くんはとても迷う様に顎に手を当てて考えていた。

 当然の反応だと思う。

 茂信くんからすれば、幸成くんはいるかどうかもわからない存在。

 確かに多少気になっている程度でこんな話をされても、二つ返事で頷くとは思えない。


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