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そして世界は廻る

「う……ん……」

「気が付きましたか?」


 救急車のサイレンの音が立て続け私の耳に入ってくる。

 なんとなく重たい様な意識を覚醒させて目を開けると薬品の匂いが鼻を付く。


「ここは……」

「天ノ神総合病院です。大丈夫ですか?」


 私が起き上がると看護婦さんがお医者さんを呼んで、私の容体を確認する。


「念のために検査を受けてくださいね」

「はい……」

「皆さん、授業中に意識を失ったそうで、何か気づいた事はありませんか?」


 辺りを確認すると、クラスのみんなが運ばれて手当てを受けている最中だった。

 私よりも先に目が覚めて事情を聞かれている人達もいる。


「おかしい……異世界に行けるはずなんだ。なのにどうしてこうなった……おかしい、俺は異世界に行って成功するはず――」


 ふと、病院の廊下で俯いているクラスメイト……小野くんがブツブツと呟いている。

 看護婦やお医者さんは何か夢とごっちゃになっていると思っているのか放置しているけれど、なんとなく私はとても不快な物だと感じた。


「――の天ノ神高等学校集団失神事件についてお話します。今日10時頃――」


 頭を振るって立ち上がり、他の人達の迷惑にならない様に処置室を出て見渡すとテレビでそんな事件の報道がされている事に気付く。

 更に駆けつけた先生達の話によると私達のクラスで謎の失神事件が発生し、事故、事件両方の可能性があるとして、回復した人達から事情を聞く事になっているらしい。


 未だに意識が戻らないクラスメイトもいるけれど、大きな外傷も無く、すぐに目を覚ますだろうと、落ち付きを少しずつ取り戻している。

 みんな、心配した家族と再会して話をしている。


 話の内容から、事件が起こった時に何があったのか、特に異変等の類は無かったと揃って言っている。

 私は……うう……何だろう。

 夢と現実がごっちゃになっているのか考えが纏まらない。

 そう思いながら私は事情聴取を受けてからクラスのみんなと話をする。


「えっとめぐるさん、そっちの方はどう?」


 茂信くんに尋ねられて私は頷く。


「大丈夫みたい」

「それはよかった……さっき聞いたんだけど、谷泉の方は混乱が酷いらしい」


 谷泉くんが?

 ……どうしてだろう。

 小野くんの時と同じで、あまり可哀想だと思えない。

 私ってこんなに冷たい性格だったのかな?


「しかし一体何があったんだろう? テレビや警察の人はクラスの誰かが危険なガスをインターネットで作り方を知って持ちこんだんじゃないかとか疑ってるみたいだけど」

「……」


 ……違う。

 どうしてだかわからないけど、それは間違っていると即断してしまった。


「出来ればそんな事じゃないと信じたいな」


 茂信くんはそう言いながら病院の人達の邪魔にならない様に呟く。


「おおー……看護婦! みんなで検査入院とか何かお泊りみたいで楽しそうだな」

「不謹慎ですよ、萩沢くん」

「いや、ここは病院だろ? 寝る前にみんなで怪談をしようぜ。夜にトイレ行く奴は悲惨だな」

「だーかーらー、不謹慎ですって、看護婦さんが睨んでるよー」


 大くんと実が冗談を言い合って笑っている。

 もちろんクラスのみんなも苦笑いをしている。

 何故だが、こんな事件が起こったはずなのに私も温かい気分になった。


「暇だな……売店で漫画雑誌でも買ってくるか」

「私も」


 依藤くんと黒本さん、他にも退屈そうにしているクラスメイトが一緒に売店へと出かけて行った。

 うん。特に異常は無いみたい。

 ちょっとした騒ぎに巻き込まれたって感じで、不思議なくらい落ち付いている。


「みんな自由だなぁ」


 茂信くんがそんな様子を苦笑いしながら見届けている。

 とりあえず今夜は検査入院って事で、その後の経過は明日見る事になるみたい。

 明日には退院出来ると良いんだけど。


「そういえば茂信くん」

「何? めぐるさん」

「さっきから気になっていたんだけど、幸成くんはどこかな?」


 ふと、脳裏に浮かぶ、目覚めてから見ていない幸成くんの事を尋ねる。

 何かあった時は茂信くんと一緒にいて、常に周囲に気を使っている幸成くんを見ていない。

 目が覚めないとかでまだ緊急処置室から出られないのかな? と思っていたんだけど、どうも違うみたい。


「幸成? 誰だそれ?」

「え……?」


 茂信くんはキョトンとした様子で、私に答える。


「幸成くんですよ。こんな時にふざけないで」

「いやホント誰の事を言っているんだ?」

「ですから羽橋幸成くんですよ。私の席の前の前だった!」


 私の返答に茂信くんは首を傾げている。

 ぼんやりと、意識を失っている時に見た夢の残滓みたいな物が脳裏に過る。

 どこだったかわからないけれど、彼の寂しそうな横顔。

 何だったか思い出せない。

 思い出さなきゃいけないはずなのに。


「そんな奴、このクラスにいないと思うんだけど……もしかして意識を失った時に見た夢か何かなんじゃない?」

「いや……えっと……」


 夢から覚めた時のぼんやりした感覚が支配して行く。

 全ては夢?


 心配してくれる茂信くんに合わせて大丈夫だって答えた後、私は夢と現実がごっちゃになっていると考えを放棄し……数日後には平穏な学校生活に戻って行った。

 そして放課後。


「あ……忘れ物」


 学校から帰宅中、大分時間が経ってから私は教室に忘れ物をしていた事を思い出し、教室に戻る。

 机の中にある忘れ物を取った時に……記憶が蘇った。


 教室の黒板に浮かび上がった魔法陣の形。

 深い森。

 化け物との戦い。

 泉での出来事、約束。

 血の匂い。

 視界を埋め尽くす程の炎。

 黒と白の何か。


 ふと、誰かに見られていた様な気配で顔を上げる。

 そして……彼の席があった場所を見る。

 そこには不自然に空いている一個分のスペース。


「やっぱり夢じゃない。幸成くんは……ここにいた!」


第一部完です。


第二部はしばらくお待ちください。

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