聖剣の輝き
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」
耐え切った俺に――無数の能力による攻撃が放たれる。
炎、氷、水、電、風、土、重力、毒、光、闇、植物、怨霊、刃、呪い……それこそ無数だ。
最小限の動きでその全てを剣で弾き、叩き落とす。
「俺の話を聞いて――」
「―――」
声にならない叫び……超音波か!
めぐるさんの剣とノア=トルシアをぶつけて、金属音を発生させる剣技を作動させて音波を相殺する。
僅か数秒でこれだけの事を仕出かすとか……積もり積もった無数の能力による一斉射撃。
厄介極まりないな。
室内の影が浮かび上がって、俺に向けて様々な武器を持って突撃してくる。
「おおおおお……」
剣で応戦するが、剣を持った人影は俺の剣技を受け止めて、切りつけようとしてくる。
「おっと!」
転移で武器を引き寄せて軌道を遮り、閃光玉を炸裂させる。
僅かに出来た隙を、使って横軸に天魔一刀を放ち、接近してくる無数の影を仕留める。
影達は霧散するが、即座に再出現して高速で突っ込んで来る。
果ては彼女の周りに再度、無数の能力が浮かび上がって放たれる。
くっ……本当は傷付けたくないが……。
「……っ!」
敵味方区別等付ける必要などない。
俺さえ仕留められればいい、とでも言っているかの様な一斉射撃だ。
挙句……これは死の刻印か?
当たったら即死する恐るべき能力を放って俺を殺そうとしてきた。
「はあ!」
当然、そんな危険な系統攻撃に対策をしていないはずはない。
茂信が作った鎧や、萩沢やクラスメイト達が作った対抗策の詰め込まれたお守りが驚異的な一撃に成り得る攻撃を無効化してくれている。
発動には膨大な魔力を消費するが今の俺にそのコストを支払う事は容易い。
俺が彼女の攻撃を受けても耐えきれるのは、みんながいるからだ。
彼女の周りに漂う無数の怨霊が弾ける様に分離して俺に向かって突撃してくる。
人の顔をした大きな弾丸の様な存在が手を伸ばし、能力を作動させながら、声を発する。
「おおおお……シネ、コロス、苦しめ、のた打ち回って絶望に倒れろ。なんでお前等が生きている。俺達は死んでいるのに、なんでお前等は生きているんだ。不公平だ!」
「人類平等! そしてその中で君臨する……」
攻撃を弾いたり、避けているとルシアが言った。
『相変わらずじゃの、生きとし生ける者を呪い続ける声しかせん。平等を提唱しつつ自身は上とはどんな矛盾なのかの』
いや……違う。
これは呪いによって纏わりついた者達の憎悪だ。
叶えられなかった野望、欲望、憎しみ……自我すら失われ、残った物。
それ等が凝縮して一つになった呪い。
「長い事戦っていたから難しいだろうけど、出来ればあんまり悪く言わないであげてくれ」
『どういう事じゃ? 何かわかったのかの?』
『ガウ?』
「ああ……彼女も最初は、好きな人達を奪われて悲しかっただけなんだ」
命を奪われて、悪意に晒されて……そして彼女が引いた能力が悪かっただけなんだ。
こんな事が間違っているってわかっているから、自分を切り離して、信じてくれた人達を守ろうとしてくれていた。
『それはメグルが言っていた、可哀想という事なのかの?』
ルシアの質問に頷くとノア=トルシアの輝きが増した様に感じた。
不思議とそれが殺意などではない事が理解出来る。
『ならばわらわはどうすれば良いのじゃ?』
「手伝ってくれるのか? きっと、俺はルシアが想像している事とは違う事をするぞ?」
『わらわはメグルの剣じゃ。ユキナリよ、そなたがメグルと同じ考えに行き着いたならば、わらわが協力を拒む理由など無い』
「そうか……なら、まずはなんとかして話が出来る状態にしたい」
『承知したのじゃ!』
剣を持つ力を強める。
ユニークウェポンモンスターとしての効果なのか、ルシアから力が流れ込んできた。
俺は双方の手にある剣に光を纏わせて剣技を作動させながら無数の武器をここに引き寄せて飛んでくる亡霊へと目掛けて攻撃する。
「ウェポンバースト!」
光り輝く一線が亡霊達を斬り伏せる。
が……ここは呪いの中枢部、この程度の攻撃ではまともに散らしきる事など出来ないか。
再生した怨霊が俺に向かって突撃してくる……のでグローブにスイッチし、出来る限りの速度で周りの全てを殴りつける。
「おおお……ううう……あああああああああああ!」
亡霊が叫びをあげて、赤いオーラを纏うと、今までの数倍の速度で動き始める。
ソードバリアを放って受け止めるのだが、何度も受け止めきれる程じゃない。
『強化系の能力じゃ! ユキナリよ、悠長に構えている暇などないぞ!』
「わかってる!」
しかも徐々に強く――違う!
くっ……いきなりソードバリアが破壊された。
「倍化か!?」
『ガウ!』
本体が放った一撃で思い切り吹き飛ばされ、壁に激突する。
これは倍化の力。
いつかどこかの並行世界で俺達の誰かが得た能力の一つ。
ありとあらゆる事象を一時的に倍化させる力。
「ぐっ……まだだ!」
即座に立て直し、飛んでくる無数の攻撃を弾く。
「次はこれだ!」
萩沢が作った能力解除爆弾を教室中に転移させる。
抵抗が強いがそれすらも力技でねじ伏せて放った。
バシュっと何かが教室中に通り過ぎ、空間の歪みさえも吹き飛ばす。
「おおおおお……」
その場にいた怨霊共が一瞬、止まる。
力が使えなくなるからな。
そんな隙を逃さず俺は双方の手で、近寄る怨霊を斬り伏せて飛び出す。
能力の無効化は一瞬しか効果がない。
その隙を逃すほど、俺は間抜けじゃない。
彼女に近付き、剣を振りかぶる。
ガンと纏う怨霊が剣を受け止め、触手の様な闇を俺に向かって突き刺してくる。
教室中に棘が出現し、串刺しにしようとしてきた。
剣を抑えられては手を放して回避するか、スイッチして殴りつけるしか……無さそうに思える。
「こっちの本質を忘れるなよ」
一旦転移で日本側に飛ぶ。
咄嗟だったから学校の裏庭に飛んでしまった。
時間は夜……か。
思ったよりも時間が経っているな。
『受けたわらわだから言うが、これはかなり厄介じゃな』
「喰らえ!」
転移を駆使し、武器や道具を彼女に向かって放つ。
彼女は手を掲げて、レジストをしようとしながら、俺を引き寄せようと試みている。
――召喚か!?
俺の足元にめぐるさんの転送の光が現れ、咄嗟に避ける。
日本にいる俺を強引に目の前に引き寄せようとしている。
やはり認識改変なんて相手には効かないか。
どっちにしても攻撃の手を緩める気は無いし、手加減出来る相手でもない。
夜の学校の裏庭で跳躍するとか、目撃者がいたら遊んでいる様に見えるのだろうな。
なんて思いながら視覚転移で、彼女の方を見る。
送還の類が出来るのは知っていたが……俺の周りに刺客を送り飛ばされてくる。
黒い闇で生成された影、霊感とか無いと一般人には見えないかもしれない。
「はぁっ!」
呪いが送りつけてくる刺客を消し飛ばしながら、転移で彼女に攻撃を仕掛ける。
無数の武具が彼女目掛けて飛んで行き、彼女も俺の攻撃を弾く為に能力を使用して行く。
もはやコレは長丁場になりそうな気配だ……やばいな。
挙句、めぐるさんが前に行っていた転送による投擲みたいな攻撃を俺目掛けて放ってくる。
それを避けながら――
「旋風剣!」
群がる影をノア=トルシアの能力で薙ぎ払い、みんなが作ってくれた道具を立て続けに送り飛ばす。
彼女はそれを無意味だとばかりに手を振りかざすだけで、攻撃が相殺される。
く……知ってはいたが、どんだけ能力を所持しているんだ。
世界を跨いだ超遠距離狙撃じゃキリがない。
痺れを切らした俺が突撃してくるのを待っているのか?
……いや、あっちは魔力大活性の所為で無尽蔵にエネルギーがある様なもんだ。