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生徒手帳

「このまま転移で無視して行っても良いが……」

「ハネバシ様!」


 俺に襲いかからんとする黒い影を槍で一突きしたラムレスさんが声を掛けてきた。

 もう戦いは始まっている。

 俺は転移で空中をショートジャンプしながら巨大な化け物に向かって近づき、無数の武器を奴の体内に向かって送りつける。

 更には萩沢や国の職人達が作った爆弾を同時に送り飛ばし、発動させる。

 カッと閃光を放ちながら化け物は全身を爆破されつつ、武器に刺し貫かれて消し飛ばされる。


「凄い……」


 が、そんな勝利も束の間。

 俺の攻撃など大した事では無いと言うかのように巨大な影が更に増えて向かって来る。


『手ごたえとしてはどうじゃ?』

「見た目の大きさの割に強くはない! みんな、冷静に対処すればどうにでもなる!」

「おおー!」

「ハネバシ様! どうか私達の方へ意識を集中するのは最小限に、敵陣へと向かってください!」

「わかった!」


 そのまま俺は黒い影を無視する様にジャンプして敵の本拠地の前に着地した。

 自分でも中々に便利だと内心思う。

 行った事がない場所だとしても、巨大な黒い影の隙間から見えた。

 そして、それがなんであるのかを理解する。


 見上げた敵の本拠地……それは俺達が通っていた学校に限りなく似せて構築された建物だった。

 学校の各部屋の窓から見えるのは禍々しい人影や不死者の群れ。

 俺は建物から出てくる……アンデッドに目を向けた。

 その姿は森で朽ちた者達なのか、スケルトン、ゾンビ等無数にいる。


「このまま突っ切るぞ!」

『うむ!』


 転移で突撃する際に強い反発を感じる。

 相手が妨害しようとしているんだろう。


「おおおおお……」


 俺は一歩大きく後ろに下がる。

 俺のいた場所目掛けて無数の魔法や能力に寄る攻撃が降り注ぐ。

 誰が攻撃したのか目を向けると、そこには……見覚えのある姿をした者がいた。


「おおぉおおお……うううう」


 丸井によく似た……操り人形の様な赤い人型の魔物……?

 他にも無数の人間が各々武器や能力を使って飛びかかって来る。

 みんな背格好は学生服を下に着用している。


 依藤達がここに強引に呼び出されたりしていないよな?

 そう思いながら視覚転移で確認する。

 うん。依藤達が暴れない様に自らの心と戦っている。

 少なくともここにはいない。

 じゃあ、コイツ等は一体何なのか?


『こ、ここまでしっかりとした輪郭を持っているのは初めてじゃ!』

「はぁあああああああああああ!」


 めぐるさんの剣とノア=トルシアの二刀流で俺は敵に向かって距離を詰め、疑似剣術の型の一つにある蹴りを入れながら吹っ飛ぶ相手に更に接近して、手で相手に振れ……様子を確認する。

 冷たく、心臓の鼓動などの類は感じられない。

 少なくとも生きている人間ではない様だ。

 僅かな戸惑いを覚えつつ、俺はソイツを切り伏せる。


「おおおお……」


 赤い霧となって丸井に良く似た魔物は消え去った。

 ……嫌な汗がどっと湧き出る。

 俺はとんでもない事をしているのではないかと考えてしまう。

 これは……呪いの影響で死んだ者達の末路……なのではないかと、直感的に思えた。

 ここは無数の日本人の俺達のクラスメイト達が亡くなった土地。

 アンデッドとして蘇った者達がこうして暴れているのではないかとすら思えてしまう。


『ガウー?』

『大丈夫かユキナリよ?』


 だが、ここで俺は歩みを止める訳にはいかない。


「ああ、例え誰が道を遮ろうとも、俺は歩みを止める気は無い!」


 めぐるさんの剣とノア=トルシアを掲げて、意識する。

 放つは天魔一刀。

 両方の剣から魔力が構築されて、大きく光の柱が伸びる。

 昇降口から無数の生徒に似た何かが近付いてくる。

 俺はその団体目掛けて天魔一刀を振り下ろす。


「……っ!」


 全てを蹴散らす光が降り注ぎ、土煙りと共に地面が抉り取られる。

 跡形も無くなり、霧散するアンデッド達を横目に俺はそのまま校門を通り抜ける。

 肌に感じるこの感覚。

 振り返ると後方で国の騎士や冒険者達が無数に出現する魔物達の侵攻を留めている。


「おおお……」


 構築されて出現したアンデッドに俺が攻撃するのを察して、ルシアとクマ子がスイッチして武器が交換される。

 持ち替える事で必殺技を放った際の隙がキャンセルされるそうだ。

 グローブで飛んでくる無数の攻撃を避けて近場にいる相手を思い切り、殴りつけてボーリングの要領で吹き飛ばす。

 早く……早く終わらせなければいけない。


「ルシア! 倒さなきゃいけない奴は何処にいるのかわかるか?」

『そうじゃな……場所は毎度決まっておる。ユキナリよ、そなたならばこう言えば伝わる。歴代の日本人にもこうして言うのが一番早い』


 俺はなんとなく察している。

 とある教室に目を向けた。


『そなた等のクラスの教室があった部屋じゃ。ただ、校舎内は外見よりも大きく複雑な迷路となっておるぞ』

「わかった。それならこれだ」


 場所は校庭からでも一発でわかる。

 転移で即座に指定して武器を教室中に射出する。

 バリンと指定した教室が粉々に砕け散る。


『うお! 果てしないのう』


 ルシアが驚きの声を上げているが、気にしている暇はない。

 障害物が多いとそれだけ何を転移させたとしても扱い辛いからな。

 どちらにしても相手がこれで出てくるなら、やった者勝ちだ。

 しかし、まるで逆再生をしたかのように教室が修復されていく。

 あっちもそうそう尻尾を出したりしないか。


「飛ぶぞ!」


 昇降口からわざわざ入る必要も無ければ、他の教室の窓を壊して入る必要も無い。

 転移で目的地に飛べば何よりも早い。

 そう思いながら再生して何事も無かったかの様に存在する教室を指定して跳躍する。


「くっ!」

『ガウ!?』

『なんじゃ?』


 はずだったが、何かにぶつかる様な衝撃と共に飛ぶ筈だった教室へ飛ばずに何処かの廊下に転移してしまった。

 辺りを見渡すとゆらゆらと半透明な人魂が廊下内を漂っている。

 昇降口から溢れ出るアンデッドは来ない?

 転移で強引に空間跳躍しているから来るまでに時間が掛っていると思えば良いのかもしれないけど。


 そう思いながら再度転移しようと思っていると、辺りの空間が歪んでいる事に気付いた。

 教室の扉、階段、場所毎に空間が歪んで重なっている。

 同じ様で違う場所が学校内で構築されていて……まるで学校をベースにした迷宮と化していた。

 ルシアの言う通り外と内側とで大きく違うようだ。何となくで転移しても弾かれる。

 一度行った所なら引き寄せも出来そうだけど、やっぱ楽をするのは難しいか。

 まあ……どっちにしてもレジストされそうなのを強引に突っ込んでるわけだけど。


 廊下の窓から外を見るのだが、そこには暗い夜の様な闇しか見えない。

 そして……俺達を召喚した時に浮かび上がった魔法陣がそこら中に書き記されている。

 所々血生臭かったり、蛆みたいな生き物が這っていて気色悪い。

 廃墟とも言える間取りにウンザリする。


 ……アンデッド化していない白骨死体が所々に転がっていた。

 俺はそれとなく、白骨死体の傍に転がっている掠れた……生徒手帳? を見つける。

 読む暇は無いかもしれないが、出来る限り素早く読み取ろうと意識する。


 開くと見知らぬ生徒の顔写真があった。

 なんとなく、人相が悪い。

 他にも何個か集めたのか、複数の手帳があった。

 何やら日記染みた物が書かれている。




 ここは一体どこだ?

 俺は俺をいじめるクズ共を殺して異世界で成功するはずだったのに、気が付いたらここにいる。

 あの悪魔め! 俺を騙しやがったな!

 何が悲しくてこんな暗い廃墟のような学校みたいな場所を徘徊しなきゃいけねえんだ!

 くそ! 能力を使って襲ってくるゾンビ共を殺してもキリがない!




 という自分語り的な所から始まり、途中で終わっている。

 とりあえず書いた的な物なのかもしれない。

 所々破けていたりして読めない物もあった。


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