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疑心暗鬼

 みんなして誰が犯人であるのか、犯行時刻にどこにいたのか等の話し合いが続いていた。


「俺はその時間、みんなと一緒にいたぞ」

「うん。そうそう」

「私はー――」


 結局、みんなして証言時刻内で何時何処にいたのかの証言が取れていた。

 調度飯時だったので、大多数の生徒が食事の為に集まっていたからだ。

 そもそも視界の主も女子生徒に相談してから食事に出る予定だったのだから間違いない。


「いや、証言が取れない奴がいる! その時一人だった。最後に――と会った――だ!」


 そう言って怪しい――が指差したのは視界の主だった。


「違うわ! むしろ怪しいのは貴方じゃないの!」

「――を疑うって言うの!? ――の殺害想定時刻はまだここに帰ってきちゃいないんだぞ!」


 他の女子が怪しい――を庇う。

 元から持っている能力の印象が非常に悪く、しかも内容がよくわからない。

 今日になってやっとわかった能力故に……それを話す事は憚られた。


「待て待て! 味方内で争ってどうする! 今はこれからの事を考えて行動すべきじゃないのか? 犯人探しもすべきだが、証拠が足りない。な?」


 睨み合いの後、一旦はその場が抑えられる。

 どちらにしても、視界の主の中で疑いが晴れる事はない。


「――さん。俺達も独自に調べてみるからさ、少しの猶予をくれ」

「そうだぜ! 幾らなんでも怪しすぎるだろ」

「ええ」


 少しでも信じてくれた人達がいる事を、彼女は内心ほっとしていた。 

 それから視界の主は大切な二人が死んだ事に対して……涙していた。

 どうして……どうしてあんなに良い人が死ななくてはならないのか。

 許せないという気持ちが膨れ上がって行く。


 一応にして平和な時間が過ぎて行く……森を抜け出す為に探索組がまた出かけて三日程過ぎて行った。

 そんな中でも起こる殺人、増える能力……視界の主は単独で調査を続けた。

 犯人に報いを受けさせてやると思いつつ、どうにか手立てを模索していた矢先。

 他の生徒と調査隊の為に道具作りの手伝いをしていたらガツンと後ろからの襲撃を受けて視界の主は意識を失ってしまった。


「ん……」


 気が付くと……犯人と思わしき生徒とその周りにいる連中の家の中で縛られていた。


「な、何!?」


 驚きに目を向けると、犯人と思わしき生徒が蔑む様な目で視界の主を見ている。


「あのさー俺を疑うの。いい加減やめてくれね? お前が先導してるの分かってんだからさ」

「疑わないはずないじゃない! 怪し過ぎるのよ!」

「その事なんだけどよ。お前さ、顔は良いんだからさ、勝手にここを取り仕切ろうとしていたアイツ等の事なんて忘れてさ。俺の女にならね?」


 疑惑は確信へと変わった。

 コイツは女性を何だと思っているんだ?

 異世界転移するまでいじめられっ子だったのに妙に羽振りが良く、女を囲っている。


「あの二人、良い能力引いたからって仕切りやがってさ。ここは異世界なんだぜ? そんな治安を維持してどうするんだよ。クズは既に処分したってのによ」


 召喚数日……クラスを支配しようとしていた殺人鬼の不良はみんな、いや、目の前の奴が主導で死なない程度に倒すことで鎮圧する事が出来た。

 そんな日々の中で大切な二人が台頭していただけ……だ。


「ったく、――の奴、勝手に仕切りやがってさ。こっちは体張ってんだぜ? 口答えするなっての。その意味、わかるだろ?」

「だからって、何をしても良い訳ないでしょ!」

「そりゃあアイツ等に言えっての。力なき正義は無力、正義無き力は暴力って言うだろ?」

「まるで貴方は力ある正義とても言いたげね」

「そうに決まってるだろ? ここは異世界なんだよ。弱くて、対して考えもない癖に指図する奴が正しい訳ないだろ? だから手始めにアイツの好きな――を殺してやったんだよ」


 凄く身勝手な理屈に殺意がドンドン湧き上がってくる。

 二人を殺した、憎き相手が目の前にいるんだ。

 コイツを……コイツだけは殺さなければいけない。


「ま、すぐに心変わりするさ、見てろって」


 そう言いながら視界の主をその生徒は持ちあげて強引に唇を奪う。


「ん――!?」


 必死に抵抗する視界の主。

 やがて舌に思い切り噛みつく。


「ってー! このアマ! 俺の魅惑的な接吻を受けて誘惑されねえってのか?」

「この子、呪い系の能力持ちだから耐性があるんじゃ?」

「ああ、そう言う事か。可哀想になー耐性さえなけりゃ俺の魅力に堕ちるはずだったのによ。大切な二人が死んだ溝を俺が埋めてやったのに」

「誰がお前なんかに!」

「まあ良いや、俺の物にならねえなら……ん? コイツの能力奪えねえな。どうせゴミ能力だし良いか。おい!」


 そこでやっと能力を使って自由になろうと思考が動いたが、直後に腹部に衝撃が走り、視界の主の意識は飛んでしまった。



 次に意識が覚醒し、気が付くと視界の主は張りつけにされてクラスメイト達に睨まれていた。


「な、何よこれ!」

「お前が犯人だったんだな!」

「はあ!? 私じゃないわ!」


 視界の主は、犯人に視線を向ける。


「何しらばっくれているんだ! お前がさっき、――達を刃物で刺殺して宣言していたじゃないか! 高笑いまでしやがって!」

「酷い……――と――があんなに気に掛けていたって言うのに……」


 被害者面で腕から血を流す生徒が呪詛を視界の主に向けて放つ。


「『私が強くなる為に必要な犠牲だったのよ! あはははは! 騙されちゃって! ってバカ笑いしていただろ!』みんな見ているんだぞ!」

「違う! そんな事私はしてない! そんな事するはずがない!」


 後になってわかる事だが、それは犯人一味が仕立て上げた視界の主の偽者……だったっぽい。

 視界の主の証言を信用していた生徒達の集まりに潜入し、一斉に殺して全ての罪を視界の主になすりつけた。

 霧という能力者が魔法を使って見せかけた……ようだがこの状況では証明するのが難しかった。

 必死に否定するが、クラスメイト達の猜疑心は消えることなく視界の主に向かって集約している。


「こんなクズは早く処刑すべきだ! じゃなきゃ後何人犠牲になると思う!?」


 ここにきて視界の主は嵌められた事を理解した。

 クラスのみんなが縛られて張りつけにされた視界の主に向かって石を投げつける。

 犯人は間違いなくクラスを先導している奴とその仲間なのに、誰も信じてくれない。

 信じてくれていた人達はみんな……死んだ、殺されてしまった……!


「違う……どうしてみんな信じてくれないの? みんなクラスメイトじゃないの? 私が本当にやったと、思ってるの!」

「クラスメイト? 勝手に味方面するんじゃねえよ!」

「この人殺し!」

「犯罪者!」

「みんなが苦しんでいるのを見て楽しんでいたんだな!」


 その場にいた誰も、視界の主を信じてくれない。

 どうして? 私が何をしたって言うの?

 そもそもどうしてあの二人をアイツは殺したの?


「トドメだ!」


 と、張りつけにされた足元に火を放たれ、挙句様々な能力を放って確実にトドメを刺そうとしてくる。

 焼かれる痛みも、貫かれる苦しみも、切り裂かれる激痛も、様々な魔法に寄る攻撃も、視界の主にとっては耐えきれない痛みではなかった。

 むしろ耐えきれないのは、クラスメイトを殺して平然としているクラスメイト……そいつに良い様に利用されて正義面する連中。


 いや、異世界転移してからの日々の全てが許せない。

 あの人達を殺した連中が許せない!

 真実に気付けなかった愚かな自分が、全ての連中が憎らしい!

 あんな奴等、人間じゃない!

 許せない……絶対に許さない!


「さあ! 今すぐ魔女――を処刑するんだ! そうすればもう殺し合いは発生しないはずだ!」


 縛られた視界の主は授かった能力を解放した。

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