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悲劇の始まり

 夜……。

 まただ……また、俺は夢を見ている。

 それはこの前見た、飴玉をくれた顔の分からない男子生徒と仲の良い女子生徒、そして視界の主。

 視界の主は二人に色々と手助けしてもらい、温かい気持ちでサバイバルの状況を生き抜いていた。


 男子生徒はまだ、死んでいないらしい。

 つまり以前見た夢よりも、少し前の時間、という事だろう。


「――さん。大丈夫?」


 視界の主は頷く。

 心配性なのかそれとも気に掛けているだけなのかよくわからない。

 それでも、視界の主にとって、彼と彼女が頼れる相手なのは間違いない。

 時折現れる魔物達の襲撃をクラスのみんなで追い返して、喜び合っている。


 視界の主は、自分をドン臭いと思っているらしい。

 伝わってくる意識からは、勉強はそれなりに出来たが、頭の回転は悪く、運動も苦手だったそうだ。

 その影響か、転移後は仲の良い二人以外に足手まといだと思われているらしい。


 視界の主の能力は何なんだろうか?

 扱いからして俺達風に言うなら拠点系の能力だろうか?

 俺はそんな事を考えながら繰り返される映像に意識を向ける。


 視界の主が信頼する男子生徒と女子生徒。

 主は女子生徒が男子生徒に好意を抱いているのに気付き、秘めたる想いを胸に仕舞っているのが伝わってくる。


「――さんは――君に、告白、しないんですか?」


 それでありながらも、恋に対して応援する姿勢を見せていた。

 女子生徒は驚くような赤面する様な顔をしながら建物の影に視界の主を連れて行き、口元に指を立てて注意する。


「ど、どうしてわかったの!?」

「わからないはずないじゃないですか」


 凄く大切な二人が、仲睦まじくしている光景は、見ていてとてもきれいだと思えた。

 だからこそ、こんな状況、幸せでいて欲しいと願う。

 関係が崩れてしまっても、視界の主にとっては良かった。

 辛いけれど、それでも……と。


「早く告白しないと私がしちゃいますよ」


 ちょっと意地悪とばかりに答えると、女子生徒が困った様にうろたえている。


「なーんてね、冗談ですよ。だけど、早く告白しないと他の人に取られても不思議じゃないですよ?」

「もう……」


 なんてささやかな、それでありながら楽しそうな光景が続く。

 視界の主の後押しのお陰で大切な二人の距離が近付いて行くのにそんなに時間は掛らなかった。

 拠点配置だった様で、二人は時々手を繋ぎ合っている瞬間が増えていたようだ。

 ただ、そんな幸せな時間は……長く続く事はなかった。


「――君? 朝ですよ?」


 いつまで経っても姿を見せない男子生徒に視界の主と女子生徒が仮設で作られた家の扉を開ける。


「あ……」


 ドサリとそこで持っていた物を落とし、二人揃って腰が抜ける。

 そこには……仰向けで倒れて死んでいる男子生徒が横たわっていた。

 一目で分かるほどの出血が室内にあり、血だまりが固まっていた。

 それはつまり、死んでから相当な時間が経っている証拠だ。


「いやぁあああああああああああ!」


 女子生徒がその生徒の死体に駆け寄り、生きているのを確認する様に揺する。 

 声を聞きつけてクラスの連中が集まってくる。

 それと同時に仮設の建物から魔物が飛び出し、即座に駆逐された。

 必死に男子生徒に声を掛けて揺する女子生徒と視界の主。

 だが、死んだ男子生徒が目を開ける事は……なかった。


 男子生徒の恋仲だった女子生徒は男子生徒の死体の前で感情を発露させていた。

 魔物が人知れずに入りこんでいたんだとクラスのみんなは決め付けた。

 おそらく、この段階ではみんな、信じたかったんだろう。

 犯人がこの中にいないという事を。


「貴方達は何をして――! あ……」


 だが、視界の主が近寄ることで冷静さを取り戻して、視界の主の胸で号泣していた。

 そこで……視界の主はある事に気づいた。

 いや、気づいたからこそ、自らの能力に戦慄をしてしまった。


 あまりにも残酷な、自身が授かった能力。

 その意味を知り、自問自答する。

 魔物が犯人ではない事だけは証明する事が出来る。

 犯人は間違いなく……クラスメイトの中にいるのだ。

 大切な人達の幸せを壊した奴がこの中にいる。

 そう思うだけで視界の主の腹の虫は収まる気配は無い。


 その日の晩に視界の主は女子生徒に相談した。

 視界の主……彼女の能力が、殺人であるのだと証明出来たのだ。

 俺には映像が飛び飛びでよくわからないけれど、女子生徒は信じていた。

 そして相談した事を、視界の主はしまったと察した。


「その……ごめん、なさい。私じゃ……」


 こんな能力を持っていたら、自分が犯人だと言う様なものだ。

 だが、目の前の女子生徒は視界の主を……信じてくれた。


「うん。私は信じてる。貴方が――くんを殺すはずがない。だって、それを私に相談したってメリットなんてないじゃない」


 女子生徒はそう言って微笑んでいる。

 優しい言葉に視界の主は涙していた。

 信じてくれた事がとても嬉しかったんだと、理屈抜きで伝わってくる。


「あり、がとう……私に何が出来るかわからないけど、必ず恩返しするから……」

「何言っているの。私達は友達でしょ? 恩を受けたとか返すとかじゃないよ」

「でも、今度は――さんを助ける。私はどうなっても良い。必ず、助ける」


 それは視界の主の決意だった。

 信じてくれた友人に対する、素直な気持ち。


「――さん、その能力の話は絶対に誰にも話しちゃダメだよ?」

「わ、わかった」


 という所で来客がやってきた。

 女子生徒が応答してから振り返る。


「ちょっと出かけて来るから、その後、みんなを集めて話をしましょう」

「うん」


 そうして女子生徒は出かけて行く……まさか生きている、その時の彼女を見た最後の光景がそれだったとは露にも思わなかった。


 いつまで経っても帰って来ない女子生徒に視界の主は、不安を感じていた。

 そんなに時間が掛らないと言っていたはずなのだ。

 焦り、不安。

 そんな矢先、能力欄に何か浮かび上がり、急いで部屋を飛び出して辺りを捜索する。

 するとそこには……女子生徒と他数名のクラスメイトが一緒に倒れていた。


「――さん!」

「う、うわああああああああ!? ――と――が死んでいるぞー!」


 駆け寄ろうとすると、同時に悲鳴が上がる。

 クラスのみんなが集まってくる。

 まだ温かい。


 どうにか蘇生処置と回復能力を使えば助かるはずだと視界の主は女子生徒に懸命の応急処置を施していた。

 だが、処置の成果もなく……。


「酷い……だれがこんな……」


 視界の主は絶望していた。

 恩返しをする、必ず助ける、と言ったのに、何もする事が出来なかった。

 そんな自分の無力さえも呪っている。


「俺聞いたんだ。さっき――と――が言い争いをしてるの」


 と、悲鳴を上げた生徒が呟く。

 戦闘向けでみんなの評価が上がった生徒だ。

 いや、急上昇したと言った方が正しい。


「――が――を殺したのはお前等だ! なんて声が聞こえてきたんだよ」

「確かに不死なんて便利な能力を持った――を殺せるなんて治安維持担当の――くらいしか出来ないだろ」

「規律を守らせようとする――も、大切な恋人が死んだらこれか……」

「元々――と――は仲が悪かったもんな。殺されたとか思いこんで逆恨みでもしていたんだろ」

「あー……駄菓子屋なんて言われてたもんな――の奴」


 と、クラスのみんなは各々勝手な裏付けをして行く。


「そんなはずないわ!」


 視界の主は涙しながら言い放つ。

 そう、彼女が狂乱でクラスメイトを殺して相討ちになったんだなんて信じられるものか!

 先ほどまでみんなに相談しようと話していた――がそんな短絡的な犯行に出るはずがない。


 ……いる。

 この中に二人を殺した奴が。


「――さんは相談しようとしていた! これは立派な殺人よ!」


 視界の主の視覚が徐々に歪んで行くのが見てとれる。

 怪しいのは――だ。

 ――さんがそんな言い争いをするはずは無い。

 だけど――には味方する生徒が多かった。


「――落ちつけって」

「だが、怪しいのもまた事実だぞ。もしかしたら誰かがそんな言い争いのフリをしていたのかも」


 怪しい証言をする――が同意する。

 視界の主は首を傾げた。

 犯人ではないのか? 非常に怪しい。


「うーん……」


 そんな殺人鬼がいるかもしれないという話にサバイバルで疲弊していた彼等は疑心暗鬼にかられつつ、眠れない夜が過ぎて行った。


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