プリント写真
「わらわはこのメダルで遊ぶゲームに誘惑されるのう……沢山メダルを持っておると勝っている気分になれそうじゃ」
「ここの奴は金に換金出来ないぞ」
「そうなのかの? まあ、それでも楽しそうじゃな」
メダルを投入して、メダルを落とすあのゲームをルシアは楽しげに凝視していた。
「ふむ……あっちで再現したらそれなりに客が来そうな物ばかりじゃな。カジノの新商品になりうる」
で、麻雀とかのコーナーをルシアはさらっと流していた。
興味ないのかな?
とは思ったが、カジノとかで再現されているから真新しさが無いのかもしれない。
「まだ見ているか?」
「いや、他も気になるからそろそろ別の場所に行く。あっちのボタンとスティックがあるのはなんじゃ?」
ルシアはアーケードゲームのコーナーを指差す。
「あっちは対戦ゲームとかが並んでいるコーナーだな」
大体、その辺りか。
ライクスではプレイ制限を施してある物ばかりだ。
後はシューティングやパズルゲームが多いかな?
最近だとアクションゲームは少なめだし。
「ガウー」
クマ子がガンシューティングゲームのコーナーを指差して鳴いている。
先ほどパンチングゲームをしていた機材の近くだ。
「あっちも面白そうじゃな」
「遊びたいなら良いんじゃないか?」
「うーむ……」
何か二人のテンションが高まっていて見ていて微笑ましい気持ちになる。
アーケードゲームのコーナを見たルシアは顎に手を当てて分析し始めた。
「ふむ、スティック操作とボタンを入力する事でキャラクターを動かして戦う、ユキナリがライクスに持ちこんで規制された奴と系統は同じじゃな。相手の攻撃を先読みし、限られた体力で相手を倒す……疑似試合じゃが……操作をしている者の感覚が鋭敏であると差が随分と出そうじゃ」
「まあな」
「二次元タイプと三次元タイプがあるんじゃな」
よく二次元なんて単語が出るなぁと思ったが、日本人に教わったのか。
めぐるさんはゲームもそれなりにやっているみたいな事を言っていたし、教わったのかもしれない。
「ふむ、まさに勝負を楽しまねば争いの元じゃな。で、次は……確かしゅーてぃんぐと言うんじゃったか」
シューティングゲームを今度は分析するのかな?
「花火や炎の魔法の中を掻い潜って術者を仕留めるゲームかの?」
……否定できない。
色々と間違ってはいるが、似た様なものだ。
「無数の弾が飛んで行くのう……戦争で敵の矢や魔法を避けて反撃する一騎当千の練習になるかもしれんな」
「なんか物騒じゃない? そもそもこの世界の人間にこんな真似出来ないから」
「そのようじゃな」
異世界じゃ出来るかもしれないのが怖いな。
ゲームの中では現実じゃありえない現象が発生するけど、それって願望も交じってはいると思う。
そっちの方が面白いって意味で。
かと言って少なくともルシアみたいにシューティングを敵の弾を避けて戦うシミュレーターみたいに言うのもどうかと思う。
「ユキナリなら敵の内部に剣を飛ばして一発撃破、弾は来ない所に瞬間移動じゃな」
「詠唱が短縮されているから出来なくは無いけどさ……」
思えばシューティングって相手の攻撃を避けながら弾を打ち続けるゲームなのは確かだ。
俺だと茂信が作った剣とか近くの物を転移で飛ばして攻撃かな?
そんな妄想は置いておいて、前は弾が多くてクリア出来ないとか思っていたけど……今の俺なら簡単にクリア出来るかもしれない。
意識を集中すると限りなく遅く感じるし。
シューティングゲームをスロウでプレイ出来たら難易度は軽そうだなぁ。
ずるい気もする。
ルシアが対戦ゲームで呟いた難点も適応する。
本気になったらフレーム単位で見切る事が出来そう。
……Lvがゲームの醍醐味を潰しているなぁ。
ネットゲームのFPSとかも勝率上がってそうだ。
「どちらにしても、楽しそうじゃな。夢が詰まっておる。ライクスで人気がある理由がわかるの」
いや、ライクスに持ちこんでいるのは移植版や家庭用ゲームなんだが……まあ良いや。
説明したら理解してくれるだろうけど、そんなに差は無いしな。
「ガウガウ」
「おお、そうじゃったな」
クマ子が指差すガンシューティングのゲームを見る。
「銃器じゃったか。それによる射撃遊戯じゃの。魔法の撃ち合いみたいな物じゃな。これはこれでシミュレーターとして使えるかもしれんが、こんなに連射するのが実戦向けでは無いの」
「まあ……何処までも実戦を視野に入れた分析をするんじゃなくて楽しめよ」
「わかっておる」
「ガウー」
で、次は……。
「子供が多いコーナーかの?」
カードを使って遊ぶゲームコーナーにルシアは目を向ける。
小学生がカードのバインダーを持って熱心に遊んでいる光景だ。
最近はこういうのが増えて来たんだよな。
一昔前に流行っていたイメージだけど、なんだかんだでやっている子が多いみたいだ。
だが……もう子供は帰る時間じゃないか?
「カードという景品が次のプレイに繋がる……集客効果を期待した物じゃな。実に面白い」
「ガウガウ」
「クマ子もやって見たいか?」
「ガウ?」
あ、あんまり興味なさそう。
で、最後は男はあんまり興味の無いプリント写真を取る機材のあるコーナー。
場合によっては男単独での使用はやめてくれとか書かれている所だ。
「おお? 写真撮影かの?」
「ああ、仲が良い奴で写真を取って共有や交換する奴な。主に女子の、が付くけどな」
とはいってもルシアは背が低いからやるには足場が必要だけど。
「おおー」
「ガウー」
「じゃあ一回撮って行くか」
「良いのかのう?」
「ガウ」
クマ子も頷いたのでルシア用に椅子を持ってきて機材に硬貨を入れる。
俺もあんまりやった事無いから、機材の周りにある説明を読んで操作した。
「3、2、1……はいポーズ!」
カシャッて音が響き、俺達の写真が撮られる。
……クマ子とルシアがこれでもかって位、良いポーズをしているのは指摘する部分じゃないんだろうなぁ。
初めてなのにどうしてこんなに写真写りが良いんだろうか。
こう……慣れた感じにピースをしている。
「おー! 落書きができるのかのーこれは面白いぞー」
なんて様子でルシアとクマ子が色々と弄り始めている。
クマ子が俺の頭に王冠を描こうとして失敗したのでルシアが代筆していたりと、まあ楽しげにプリント写真が出来上がった。
備え付けのハサミでクマ子とルシアの分を分ける。
「ユキナリはいらないのかの?」
「ああ、二人がもらってくれれば良いよ」
「ガウー」
クマ子とルシアはとても楽しげに目を輝かせて写真を抱え込む。
「それじゃ、買い物の続きをするか」
「おー!」
「ガウー」
ってな感じで俺達はゲームセンターを後にし、買い物を終わらせて異世界へと戻った。
翌日。
大量のポイントを変換し、人目を避ける様に誰もいない個室にいた。
「……俺に会うとか、あるんだろうか?」
そう、今から始めようとしているのは時空転移の実験だ。
使い捨ての能力だったら非常に困るが、見た所そんな警告文とか出ていない。
過去に戻るのは膨大な魔力が必要になるので、精々数分しか今の俺には戻る事が出来ない。
だから使用した自分に聞くとか、そんな感じの事を出来ないか思いながら、転移する場所を指定して待機していた。
……自分に会うなんて奇妙な体験に出会えるかと思いながら待ったが来ない。
「しょうがない」
試しとばかりに時空転移を指定する。
まずは物だな。
小石を過去に向かって転移させる。
するとフッと飛ばした場所に小石が突然出現した。
いや、あったのか?
これって俺自身を過去に転移させても俺には会えないんじゃ?
……よくわからないな。
「く……」
やっぱ物凄い魔力を消費する。
実験するだけで魔力がなくなりそうだ。
それと……過去に飛ばしたはずなんだがな。
うん。使い捨ての能力って訳じゃないみたいだ。
で、再使用しようとした瞬間、俺は絶句した。
「ク、クールタイムが……」
そう、時空転移には再使用の時間が存在した。
その時間はなんと三日という膨大な物だった。
数分の時空転移でさえ俺の魔力が枯渇する。
その問題を魔力回復を併用して連続使用で過去にどんどん戻って行く事を考えたが、無理って事なんじゃないか?
最低でも三日以上戻れる魔力を確保しないといけない。
それでも数分ずつになるのか?
……現実的じゃない。
未来へ送り飛ばすことしか出来ないのか?
「くそ!」
例えなんであろうとも、手立てがあるならやり遂げて見せる。
そう誓って、何か手段は無いかと探し始めた。