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「何か好きな物を買ってやるけど、欲しい物はあるか?」

「いいのかのう? ではちょっと待っているのじゃ。迷うのう……」


 そう言いながらルシアが何にするか悩んでいるのはお菓子のコーナー。

 うん。外見と変わらずに商品を選んでいる。

 俺は兄弟とかいないけど、妹とかがいたらこんな気分なんだろうか?


「値札はこれじゃな」

「お金は気にしなくて良いぞ」

「良いのか!? ではますます何にするか迷うのじゃ。ここからここまでとかはダメかのう?」


 棚単位か……。


「買う事自体は別に問題は無いけど……立場的に危ないから避けてほしい」


 棚単位で買う位の金は用意できる。

 とはいえ、そんな真似したら滅茶苦茶怪しまれるから出来ないけど。

 警察とかに補導されそう。

 ……なんだかんだで補完されそうで怖いけどさ。


「となると予算は精々あのカゴ1個分が限度じゃな」

「そんなにお菓子が食いたいのか?」

「興味があるのじゃ。後、絶対に高値で売れるのじゃ」

「俺が買ってやった菓子を売る気か?」

「冗談じゃ。わらわも色々と経験しておるし、複雑な感覚があるのじゃ」


 それもどうなんだ?

 しかし菓子を選ぶ姿は完全に子供だな。

 よく考えたら俺よりも年上なんだっけ。

 全然そんな風には見えないな。


「ガウー」


 クマ子がクンクンと鼻を効かせて器用に蜂蜜のあるコーナーを探り当て、数ある商品の中から選んでいる。

 そうして同じ商品なのに差があるのかはわからないが、蜂蜜の瓶を持ってきた。

 さすがはクマと言うべきか、それともハニーハントの力が働いているのか。

 きっと比べたらクマ子が持ってきた蜂蜜の方が美味いんだろう。


「それが良いのか?」

「ガウー」

「こら、行儀が悪いから瓶を鼻に乗せてバランスを取るな」


 芸を教えていた弊害かクマ子が変な遊びを始める。

 なんて感じにクマ子とルシアに物を買い、他に頼まれた品を購入してスーパーを出る。


「ガウー」

「蜂蜜を舐めるのは後でな?」


 クマ子が蜂蜜の瓶を大事そうに抱き抱えて涎を垂らしている。

 しょうがないのでクマ子には代用として蜂蜜を使った菓子パンを与えて我慢してもらう。

 ルシアは店を出ると早速チョコ菓子の包みを開けて食べ始めた。


「うむ……わらわの知る味とは随分と違って面白いのう。若干薬っぽいこの味が日本の味なんじゃな」

「随分と味覚が良いのな」


 チョコ菓子に含まれている内容物を味で理解するとか、普通に凄いな。

 これも聖剣の力なんだろうか。


「チョコと言うんじゃったか。わらわのいた世界にも似た様な物があったが風味が随分と違うのじゃ」


 油分が多い甘い物と言えば異世界にも似た様な味のお菓子はあったなぁ。

 ただ、確かに似て異なると言えばそうだ。

 少なくともチョコではないな。

 平和になった時にカカオの木とか運びこめば異世界でもチョコを食えるようになるかもしれない。


 大量の袋を……人目を避けて転移で飛ばし、次の店に行こうとしていると丸井と遭遇した。

 この時間になると高頻度で遭遇する。

 なんかいつもスーパーの近くにいるよな。

 まあ、あっちも帰りがけって事なんだろう。


「お? 羽橋じゃん。調子はどうだ……って」


 タイミングが悪いとも言えるか?

 ルシアとクマ子を連れている。

 どう誤魔化す?


「熊野と剣崎と一緒か?」


 はい?

 熊野? 剣崎?


「おお、マルイではないか。わらわはユキナリと一緒に買い物をしたのう」


 ルシアも平然と答える。

 まるでお互い知り合いかの様に親しげだ。

 丸井も特に不思議に思っていない様で、頷いた。

 え? 何? 認識改変ってここまで改変されるのか?

 というかルシアも普通に応答するのかよ。


「その変わった喋り方、剣崎は相変わらずだな。ま、こっちはぼちぼちって感じだ。学校が面倒でさーこんな時間に帰る羽目になっちまったよ」

「そうかそうか。特に変わらないようで何よりじゃ」

「で、羽橋と買い物ってデート? って熊野までいるとなると、さすがにねえか」

「うーむ……」


 ルシアが何故か俺とクマ子を交互に見る。

 なんだよ。


「ユキナリを中心として女二人を連れたデートじゃ」

「おい」

「ヒュー! 羽橋スゲー」


 物凄く棒読みだぞ。

 ルシアがふざけているのはわかっているみたいな態度だ。

 しかし丸井、目が笑ってない。

 こっちにも萩沢みたいな奴がいるな。


「両手に花だな」

「花って……」


 ……まあ、美少女であるのは確かだよな。

 クマ子もルシアも実さんに匹敵する美少女なのは間違いない。

 ただ、恋愛とかは……ないな。

 俺はまだしなくちゃいけない事があるし、約束を果たさないといけない。

 俺に恋愛なんて事をする資格なんて……ない。


「どうした? なんか仰々しい顔しちゃって?」


 丸井が眉を寄せる。

 おっと、今はそういう事を考えている場合じゃないか。


「そうそう、丸井。こんな質問するのは間違ってると思うけど、剣崎とはどんな関係だったっけ?」


 ルシアのポジションってどんな所なのか気になったので聞いてみる。


「ん? 中学校で知り合った……外国からの留学生だろ? 羽橋と親しい間柄みたいだけど。熊野は高校での友達だって前に紹介してくれたじゃねえか。ボクシング部なんだろ? 確か期待のホープなんだっけか?」


 クマ子はボクシング部所属扱い?

 というか、うちの学校にボクシング部なんてあったっけ?

 しかしクマ子はともかく完全外人顔のルシアは留学生設定か。

 ありがちと言えばありがちだ。


「確か二人とも寮生活してるとか言ってたじゃないか」


 寮生活か。

 こりゃあ学校に聞けば謎の寮に二人の部屋がありそうだ。

 しかし丸井、お前はよく知っているな。

 紹介した設定で答えてくれているんだろうけど。


「正解だ」


 間違っていると言ったら説明が面倒なので切りあげよう。

 丸井が嘘を言っていたらそれはそれで詮索出来るしな。


「まったく、変な事を聞いてくるなよ」

「悪い悪い。丸井の記憶力をテストしたんだよ」

「ふざけるなって」

「いつまでもここで話をするのかのう?」

「おっと、俺もそろそろ帰らないといけない時間だ。それじゃあまた近々遊びに行こうなー」


 なんて言いながら丸井は手を振って去って行った。

 やっぱり、変に思われないんだな。


「こちらの世界でのマルイはあんな感じなんじゃな」

「茂信みたいに並行世界の丸井は性格が違うのか?」

「そうではない。こう、平和な感じで良いと思っただけじゃ」

「……そうか」


 ルシアが会ったという並行世界の丸井は俺達と同じく、異世界に召喚されたんだもんな。

 きっと俺達みたいな経験をしただろうし、平和な感じ、とやらとは違うのかもしれない。

 そう考えると、この世界の丸井が楽しそうにしているのは良い事なんだろう。


「しかし、中々面白い補正が掛るようじゃな。戦いが終わったらお持ち帰りされるのも手かも知れんと思ってしもうた」

「その言い方だと、日本に永住するつもりはないんだな」

「そうじゃな。わらわはメグルの頼みを叶える目的がある。戦いを捨てる気はないし、楽しみを捨てる気もない」


 元々ユニークウェポンモンスターだからこそ、剣術を楽しんだりするんだろう。

 そういう部分は異世界出身って感じだ。


「日本にも剣道とかフェンシングとかあるけどな」

「それは異世界にもあるのう。そういう意味ではないのじゃ」

「わかっているよ」


 ルシアが何を言いたいのか位は理解できる。


「それにルールが厳格なんじゃろ? 同じ武器でテクニックだけで戦うのも良いとは思うが魔法や特殊な攻撃を乗り越える楽しみがなくてはな」


 それもどうなんだ?


「ガウー」


 クマ子もそこには同意なのかうんうんと頷いている。

 ルールがおかしい謎ボクシングをさせられるよりはまだ普通のボクシングの方が良い。

 俺としては定められたルール上で戦う方が公正だと思うが、この辺りは異世界独自なのかもしれないな。

 実戦にルールなんて無い、と言われたらそれまでだし。


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