輸送料一億ポイント
「ガウ?」
クマ子が首を傾げている。
「うーん……後はな――」
で、本題の印象的な夢の話だ。
「上手く情報を纏められれば何か真実とかが見えてくるかもしれないが」
不死の化け物を永遠に仕留めるとかも考えないと、俺達が生きて日本に戻れたとしても別の俺達に被害が及びかねない。
出来るかどうかはわからないが、こんな事、二度と起こらない様にしたい。
「大体が小野みたいな奴が暴れて、倒すや逃げる夢ばかりなんだよな。昨日見た夢も誰かが殺されている夢ばっかりだった」
「食料を配る能力者が殺される夢か……ルシアさんには覚えは?」
「調理や料理の能力とは違うのじゃな?」
「ああ」
「ふむ……類似点がかなり多い能力者じゃから誰なのかを特定は出来ん。ただ、やはり陰惨な出来事があるんじゃな」
俺達も一度は経験した事だ。
そして……俺達は犠牲こそ多かったが幸運にも死者はそこまで出ていない。
だからこそ、敵は驚異であるそうだが。
「ただ……そうじゃな。ユキナリがぼんやりと覚えている異世界人に関しては話せるぞ。徐々に過去にさかのぼって行っておるように見受けられる」
「そうか」
やっぱり追体験って事なんだろう。
過去……最初の転移で何かあったんだろうけど、それを知る術が夢だけか。
「もしかして幸成を守ってくれている白い霊ってのは過去の俺達の善意かもしれないな。黒いのが悪意ならな」
「そうかもな」
出来る事や聖剣を抜いた意味とか総合すると、黒幕……今は魔王と称しておく。
奴を倒した意識の結晶なのかもしれない。
俺にポイント相転移を授けたのか、更にパワーアップさせてくれたのかわからないけれど、こんな規格外の力を与えてくれている訳だし。
敵は悪意を持って俺達、果てはこの世界を滅ぼそうと画策しているみたいだしな。
「高頻度で見るならメグルの様に真相に辿り着けるかも知れんぞ」
「そうだな、ぐ……がんばってみてくれ、幸成」
茂信が頭を抑える。
症状は軽いけどそれでも苦しいのは変わらない。
俺もフッと……白い幽霊が見せる夢が脳裏にチラつく。
という訳でルシアとの相談を終えて決戦の準備を整えるのだが……なんかルシアが手をもじもじとさせて俺を見ている。
萩沢がここにいなくて良かったな。
アイツはミケと一緒に部屋で休んでいる。
仮にここにいたらまた騒ぎ出すと確信を持って言える。
「そのな……ユキナリよ」
「なんだ?」
「そなたはこの世界ではなく別の世界にも行けるのじゃろ?」
「ああ、一応な」
物資調達くらいしか最近は行く事は無いけど。
ポイント稼ぎは俺のLv上昇に直結するから、蔑ろにも出来ない。
それ以外はルシアと一緒にLv上げとポイント稼ぎに魔物狩りへ行く感じだ。
「それで日本人以外は転移させられる。つまりわらわもそなたの世界に行く事は出来るのかの?」
「ガウガウガウ!」
ルシアの質問にクマ子が吠えながら威嚇する。
そして人化して俺の腕に腕を絡ませてルシアを睨みつける。
この二人……二匹? は本当に仲が悪いな。
クマ子が一方的に危険視している感じだけどさ。
「良いではないか。知的好奇心じゃ! わらわはメグルの本来いた世界にも興味があるんじゃ!」
「こんな非常時に何を言ってるんだよ」
日本に帰って観光?
そういうのは平和になってからでも良いだろ。
「良いんじゃないか?」
そこで茂信が苦笑しながら答える。
どうやら茂信はルシアの味方の様だ。
「しかし……」
「幸成も最近は根を詰め過ぎているし、戦いの日が近付いている。少しはみんなの事を気にしないであっちで息抜き位はしていても罰は当たらない。多分、依藤やみんなもそう思うさ。半日くらいなら、良いと思う」
「うーん……」
言いたい事はわからなくもない。
少しは気を抜いて体を休ませろと言ってくれているんだろう。
ただ、気持ち的にはもっとがんばらないといけないんだと思っている。
「ガウー……」
「クマ子も実さんの看病で疲れてるだろうし、俺達の事は気にせずに少しだけ息抜きをして来れば良い。ルシアさんもそんなに時間を掛ける気はないんだろ?」
「うむ」
「問題は認識改変がどう働くかだが……」
「クマ子と同じくルシアさんも平気なんじゃないか? 幸成に物資の買い出しに行ってもらった時に話していた」
「ああ、アレじゃな。わらわも元の世界に帰った異世界人という単語しか覚えておらんかったが。ユキナリに仮の持ち主になってもらってからは割とはっきり思い出せるようになったのう」
胸を張って答えるけど、それってある意味凄いんじゃないか?
なんだかんだでユニークウェポンモンスターと持ち主は密接な関係にあるんだろう。
「過去の並行世界のめぐるさんや萩沢は在留したんだな?」
「そうじゃ。メグルは生き残ったみんなを帰した後にわらわと後の世の為に残ってくれた。責任感がとても強かったからのう。何か知っておったようじゃが……」
何度か国が滅んだ事があるって事なんだよな。
ライクスについても、今は、と言っていたし。
「ともかくじゃ。わらわの知るメグルのいた世界ではないが、日本人達の帰るべき世界とやらを一目見ておきたいのじゃ。そんな平和な場所にこれからも皆を帰せるようにの」
「……わかったよ。どうせ少し買い出しに行かないといけなかったし」
「ガウガウガウガウ!」
クマ子がこれまでにないくらい騒いで俺に向かって飛びかかってくる。
今までクマ子は留守番だったからな。
ルシアを連れて行こうとしている事に不満があるんだろう。
「ふむ……クマ子も行ってみたいのを我慢しておったという事かの。しょうがないのう。ユキナリよ、一緒に連れてってくれんか」
「まあ、一人連れて行くのも二人連れて行くのも変わらないけどさ」
「では決定じゃな。他にもこの世界の者が来たがると思うがどうするかの? 輸送料一億ポイントと王に交渉してみるのはどうじゃ?」
「一億って……あのな」
随分とぼったくるな。
さすがに一億は無いだろ。
王様は俺が転移の能力で簡単に行ける事を知っているんだぞ?
「あの、何の話をしていらっしゃるのでしょうか?」
そこで調度ラムレスさんが顔を出してきた。
俺が転移で森から城下町に戻した後、王様に報告に行ってたんだっけ。
騎士達のLv上げの際も立候補してくれて、かなりがんばっていた。
もう何度も考えたけど、良い意味で騎士って感じの人だよな。
「ああ、なんかルシアが王様に転移で日本に連れて行くのに一億ポイントを支払わさせれば良いんじゃないかって提案して来てさ――」
そんなぼったくり聞く訳ないだろと続けようとした瞬間。
「絶対に頷くと思います! 是非私もお供させてください!」
即答だった。
うん、絶句するほどの速さでラムレスさんが言い切った。
「あー……そんなに魅力的?」
「ハネバシ様、異世界人の皆さまの一部には異世界に並々ならぬ関心を持つ方がいらっしゃると耳にします。それがこちらでも適応するとお考えください」
「な、なるほど」
まあ創作物が好きな人なら異世界に憧れるのはわかる。
以前の俺もマンガやゲームを楽しんでいた影響か、異世界があったら楽しいだろうな、位は考えていたし。
「気持ちはわからなくもないな。しかも危険な状況から逃げ出せそうな訳だし」
「一億ポイントかー」
そこまでして行きたいか、日本。
戸籍の無い者を日本側ではどう補完されるのか興味はある。
「まあいいや。じゃあラムレスさん、王様に話す前に実験に行ってみる?」
「是非! 後払いでも良いので、是非ともお願い申し上げます!」
別にポイントを請求するつもりはないが……今まで良くしてくれたしな。
そもそもラムレスさんの給料じゃ一億ポイントは難しいんじゃないかな?
とりあえずクマ子、ルシア、ラムレスさんを連れて日本側に行ってみるか。
そう思いながら俺は日本をイメージしながらクマ子とルシア、ラムレスさんに転移を指定した。