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飴玉

 そんな決戦が近づきつつある日々の事。

 俺は寝ていたと思う。


 ……また、俺は夢を見ている。

 白い霊が俺にポイント相転移とこれから起こるであろう出来事を教えてくれた夢と同じタイプなのはわかった。

 あの白い霊に触れて見えたあの感覚と同じだからだ。


「一体どんな状況なんだよ」


 それは碑文に浮かぶ文字を見た、見知らぬクラスメイト達の話。

 俺達と同じく混乱した状況の中でのサバイバル。


「この俺が最強で、お前等は俺に従っていれば良いんだ!」


 やがて暴走した奴によって大半が死に、命からがら逃げ出した白い霊の加護を受けた生徒の追憶。


「お前の様なクズがみんなを支配するなんてふざけた事を許す訳ないだろ!」


 夢から覚めると掌からこぼれおちる水の様に大半は忘れてしまうけれど、雫が俺の記憶として焼きつく。

 クラス内で死者が出るともう殺し合いは止まらない。

 時には魔物に殺され、時には谷泉の様な支配者に見せしめに殺された後、正義気取りの小野みたいな奴に助けられる。

 だが、小野みたいな奴の独裁はもっと酷く、その所為で無数の死者が出る。

 そんな記憶だ。


 やがてみんなで各々を殺し合ったり、小野みたいな奴によってほぼ皆殺しにされる事が起こる。

 それまでの経緯が悲惨だ。

 小野みたいな奴で賢い奴は男を事故に見せかけて殺し、女は揃って誘惑して正義面をする。

 さすがに不自然な程男が減って行けば女達だって気付き、怪しむ者が現れる。

 そうなると、力こそが正しいと正体を現して離反を招く……までは良いが、能力の実験と称して離反した連中は次々と殺して行くんだ。


 いじめられっ子がクラス内で地位を築いて一部の女子に好かれる夢物語なんて他者から見たらこんな物なのかもしれない。

 それは女でも変わらない。

 むしろ女の方が陰鬱としている場合すらある。

 次々と男を誘惑して取り囲み、強奪などの能力で能力を奪ってから事故に見せかけて殺すなんてする奴がいた。


 しかし、それだけでは終わらない。

 白い霊の加護を受けた者達の反撃だったり、村に到着した際の一斉射撃で全滅だったり。

 どちらかと言えば白い霊の加護を受けた者が仕留める事が多いか?


 どうしてこんなにも、酷い事を……その敵は出来るのだろう。

 ぼんやりと最終決戦の地の映像が再生されて行く。

 時にルシアが共に居て、敵を相手に戦う姿だ。


 ただ……敵の外見がぼやけてよく見えない。

 どちらにしても倒すことで霧散して俺の意識も遠のいていく。

 白い霊が役目を終えたとばかりに離れて行くのかもしれない。


 そう思っていると……。

 白い霊に触れた時の出来事が再現される。

 そこにはぼんやりと今までとよく似たクラス転移が起こり、碑文に各々能力が書き記されている。

 やがてサバイバル状況による陰鬱とした空気と……その中での友好的な仲間達との絆。


 俺達のような状況よりも良い雰囲気だ。

 食料に関しても困っていない様に思える。

 ただ、クラスメイトに疑惑の目で見られる視界の主。

 そこへ誰かがやってきて手を差し伸べられる。


「――さん。大丈夫? これ食べる?」


 そう手渡されるのは飴玉などの食糧。

 視界の主はその相手の顔を見上げながら、転移前の事を思い浮かべている。

 声を掛けてもらったり手助けしてもらったり……気が付くと教室で探していた。

 そんな日常風景が思い起こされている。

 するとそこへ顔がよくわからないけれど気が強そうな女生徒がやってきて、視界の主の行いに関して善意的な話をしている。


「また配ってるの?」

「良いじゃないか、みんなも受け取ってるんだし」

「そうだけど、魔力の回復を十分しておかないと食料の生産が滞るって言われてるじゃない」

「回復すればいいさ。どうせ魔力じゃなくポ――」


 音飛びがして良く聞き取れなかったけど、ポイントでも代用が効くかポイントを使用した方が良い事なんだろう。


「そうだけど」


 女生徒が手を差し伸べると、視界の主も自分が笑っている事を理解しながら手を出して立ち上がっていた。


「ありがとう」


 視界の主はそう、俺にはまだ認識できない二人に感謝の言葉を投げかけていた。

 とても大切な友人達と視界の主は心に思っていた。


「さーて、今日もみんなの分を作って行こうかね。――さんも来る?」


 そう背伸びをする男子生徒。

 視界の主が頷く。


「どうして碑文に分かりやすく書かれているんだが、もっと分かり辛かったらこんな苦労しなくても良かったのかな。楽したい」

「何を言ってるの、隠していたらみんな困るでしょ」

「そうは言ってもしょうもない物を――してくれって寝ている時に起こすんだ」

「それだけみんな困ってるからよ。もう……」


 フフっと視界の主も男子生徒の怠慢に対して笑う。

 悪びれも無く男子生徒が何か言っている後で……シーンが切り替わった。


 それは……その男子生徒が死体となって発見された状況だった。

 魔物に殺されたとかでは無く、間違いなく殺人。

 その先は余りにも早送りで意識が追いきれない。


「いや……いや……いやああああああああああ! 違う! 私じゃない……私がやるはずない!」


 視界が遠ざかり……何者かに睨まれる感覚を抱く。

 とても不快で、苦しい。


「なんで――――にいる! ――はこんな世界に来ちゃ――」


 絶叫と共に俺の意識は跳ね飛ばされる様に夢から覚めた。


「はぁ……はぁ……な……なんだ? 今の……」


 今までの追体験の夢とは雰囲気が違った。

 いや、似てるとは思うんだけど、何か違う。

 ぼんやりとしか思い出せないのが大半なのに鮮明に思い浮かぶ。

 白い霊は相変わらず俺の近くを漂って、何かを伝えようとしている。

 何か……まだ俺の知らない何かがある気がした。



 翌朝。

 俺はルシアと茂信に尋ねた。


「なあ、敵はいったい何者なんだ? 日本人を召喚して殺しているのはわかるが……具体的な姿がよくわからない」


 俺は白い霊によって今までの日本人の追体験をしている事をルシアに説明した。

 これまで沢山の人達がこの世界に来ている。

 共通点は俺達のクラス……並行世界だが。


「過去の日本人達の記憶か。俺達は俺達できついが幸成は幸成できついな」

「ああ、大体茂信達に発作が起こると同じくらいに発生する事もある」


 夢で見る事も多いけど、ここ最近は連日で発作毎に見える。

 茂信達みたいに長く苦しむ訳ではなく、一瞬の現象だけどさ。

 情報が一度に送られてくるみたいな、衝撃があるのがしんどい所か。

 とはいえ、気になる。

 きっと知らなければいけない、重要な事なんだと思う。


「申し訳ないのう。実はわらわも詳しくはわかっておらん。どんな姿をしているかは説明出来るんじゃがな」

「それでも良い。どんな姿をしているんだ?」

「会う度に様々な姿に変化しておるが、共通して黒い亡霊の様な姿をしていて、契約した者の魂を武器に戦ってくる」


 うわ……なんだよ、その化け物。

 黒い亡霊だから味方の白い霊と合わせて白、黒、と考えているのか。


「奴に利用された日本人の顔で苦悶に呻く顔をしておる」

「なんか嫌だな……」

「小野みたいな奴等が集合した存在か?」

「そう分析する者もおったな。自分が栄光を掴めなかった事を呪っているとも、自らの咎に縛られているとも聞く」


 戦い辛いなぁ……。

 話を聞いた感じ、欲望の塊みたいな印象を受ける。

 だけど、なんか違う様に感じるな。


「うむ……ユキナリは白い霊とのリンクがかなり強い様じゃな」

「そうなのか?」


 来るべき時が来ると選ばれた奴はみんな見ているのかと思っていた。


「少なくともわらわはメグル以外では聞いた事がない。メグルは奴がどんな存在であるかを知っている様な態度じゃった」

「今まで殺されたオノみたいな連中の集合体じゃないのか?」

「あくまでそれは他の分析じゃ。メグルはその集合体を見て哀れだと、可哀想だとも言っていた。その後も教えてくれていたんじゃが。何分わらわもあの頃は人化など出来ず、知能もそれ程高くなかったのでな」


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