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凶悪化

「栽培で大森林をね……そんな事が実現出来る程、大きな力なのか」


 そこで学級委員が目を光らせる。

 ああ、そういえば学級委員もそんな能力だもんな。

 ライクス国の地図を見ると、メーラシア大森林はとてつもなく広い森だ。

 どれくらい大きいのかと言うと……俺達は西へまっすぐ向かって一週間半で出る事が出来たけど、東の方や北、南へとなると出るのにもっと掛る。

 それだけ大きな森だ。


「他にも……ユニークウェポンモンスターや魔法の創造にも一枚噛んでいるなんて話もあるくらいじゃな。まあ、こっちはどこまで本当の話なのか疑問じゃが」


 世界の秘密を教えられた様な気がする。

 補足するとライクス国は結構大きな国だけど、他にも色々と国がある。

 勘違いしかねないけどさ。


「つまり、あの森にまた行くんだよな」


 あの森へまた行く事になるとは……そう、思いながら俺はめぐるさんとの思い出の場所に想いを馳せた。

 その敵を倒して、みんなを帰す。


「幸成だけに行かせるのは申し訳無いな……」


 茂信が本当に申し訳無さそうにしている。

 あの森に良い思い出は少ないからな。

 むしろトラウマに思っている人だっているだろう。


「気にするな。敵を倒せたらみんな帰れるんだ。むしろ期待していてくれ」


 と、言ったんだが、茂信も依藤も、萩沢すら浮かない顔をしている。

 どう言ったもんかな……。

 こういう時、コミュ能力が無いときついな。


「ま、まあ今の羽橋なら余裕じゃね?」

「活性化に伴い、魔物も凶悪化するぞ?」

「……確かに最近は凶暴な魔物が溢れ返っていたな」

「ん? 羽橋は行った事があるのか?」

「そりゃあ」


 めぐるさんや他のみんなの墓参りに行くのは当たり前だろ?

 Lvが上がってから行ってみたらあの拠点にしていた場所は凄い事になっていた。

 草はボーボー、前よりも遥かに凶暴な魔物が闊歩していて、俺達が使っていた建物は倒壊……目も当てられなかった。

 森全体が陰鬱な雰囲気になっていたのはそれが原因だったのか。


 少しLvとポイント稼ぎに使わせてもらった。

 効率が良くて良いなと思ったけど、経験値が多いはずだ。

 発生源に生息している魔物だもんな。


 禍々しい巨大なホーンラット……デビルズジャイアントホーンラットなんて魔物もいた。

 仕留めたけどさ。

 角が良い値段で取引出来たし、萩沢に高額ポイントにしてもらったりもした。


「とは言ってもここ一週間は忙しくて行ってないけど」

「おそらく、もっと酷い状況になっておる。十分に気を付けるべきじゃ」

「ああ、二週間後に……本当にそんな事が起こるのか?」

「間違いないのう。それまでに出来る限りの準備をするのじゃ。その為にも、ライクスの王にわらわが聖剣のユニークウェポンモンスターである事を証明すると良い」

「そうだな。じゃあ行くか」


 俺達はその足で、王様の所へと戻って行ったのだった。

 王様も半信半疑だったけれど、ノア=トルシアを見てルシアの言葉が真実である事を理解した。

 そうして来るべき災害に備えて国は警戒態勢を強めた。


 国を驚かせた魔王城に関しては来るべき災害に備えた過去の人々からの警告として国に伝わった。

 もう少しで災害が発生するとの情報に、ライクス国は一丸となって挑む決意を固め、安全かは未知数であるが国民は迅速に事に挑むそうだ。

 連絡網から何まで足は速い国だなとは思う。

 まあ、避難する気が無い人達もかなりの数がいて、国も警護はするが何があっても自己責任になるかもしれないとだけ御触れが発令された感じだ。

 各地に出兵していた騎士も集まり、決戦に挑むそうだ。



 そんな日々の中。

 日に日に地震の発生頻度が増え……その度に茂信を初め、クラスのみんなが呻く時間が増え、長くなって来ていた。


「く……心の中を引っかき回されているみたいだ」

「気持ち悪い。憎くないのに憎めと心が叫んでる……」

「胸が張り裂けそう……疑心暗鬼で狂いそう。お願い、早く静まって……」

「クマ子ちゃん……」

「ガウ……」


 発作が起こると立っているのも辛いほど、みんな衰弱して行っている。

 クマ子に手を伸ばし、必死に心の中を蠢く感情に飲まれまいとしている実さんが印象的だ。

 今じゃ実さんは教会での仕事を休んで、安静にしている。

 一応、発作が起こった時は俺が……じゃないな。

 俺の周りに漂う白い霊が、発作の起こったクラスメイト達を治療してくれている。

 それだけで発作は収まるのだけど、頻度が高い。


 依藤達、戦闘能力が高めの連中はルシアが用意した遺跡の個室に軟禁された。

 症状は軽いそうだけど、それでも時々……殺し合いをしそうになって部屋で暴れてしまいそうになる。

 転移で治療に行った時、依藤が軟禁されている事を感謝していた。

 みんなをこんな状態にさせるなんて奴を俺は、絶対に許す訳にはいかない!


 そう……思いながら森の安全の確保を行う。

 昔拠点にしていた場所の魔物を駆逐して、結界生成の機材を設置……来るべき時に備えた前線基地にした。

 作戦では、みんなのユニークウェポンモンスターと国の騎士や冒険者達と力を合わせて、奴が姿を現した時に仕留める、という事になっている。


 切り込み隊長は俺だ。

 昔は能力的に出来なかった、一番前での戦闘という奴だな。

 勝てるかどうか未知数だけど、ルシアの話では勝算はそれなりにあるそうだ。

 ただ、どちらにしても奴との一騎打ちをする場合は、俺だけで戦う事を推奨された。


 理由は……ルシアが使った力と同じ事を奴も出来るそうだ。

 周りに騎士や冒険者がいるとそれだけパワーアップしかねない。

 そこに異世界人、つまり依藤達のLvが自動で加わるのだから厄介だ。

 騎士達の役目は一騎打ちの状況を確保する事……という話で決まっている。


 一番の問題はこの世界の人達と俺達日本人とのLvの上昇の差だろうか。

 森での戦闘で国の騎士や冒険者のLvがある程度上がったが、あくまでもある程度に留まっている。

 聖剣ノア=トルシアの試し切りでそれなりに倒したし、騎士達や冒険者が前線基地を拠点にLvを上げているのだが、予測よりも上りが遅い。

 日に日に強力になって行く魔物達に対して若干遅れがちだ。


 森の中は既に禍々しい気配に満ち溢れ、常に陰鬱とした空気に満ち溢れている。

 強いて言うのなら森を抜け出した頃は緑あふれる地だったが、今は汚染された邪悪な森といった形相に様変わりしている。

 それでも大きな負傷者は今の所出ていない。

 これが現状だ。


「十分な状況じゃな。これだけの精鋭を準備出来たなら合格じゃろ」

「本当に大丈夫なのか?」

「うむ。少なくとも時間稼ぎくらいにはなるじゃろ」


 そうか。

 ライクス国の各地では地面から歪な光の柱が時折噴出し、魔物を放出している。

 ルシアの話では魔力の活性の一環らしい。

 各地に散った騎士や冒険者が事態の収拾に努めている。


 ……めぐるさんと一緒に見た泉は紫色の光を放ち、汚染された水を吐き散らかしていた。

 こんなにも森が変貌するなんてあの時の俺は思えただろうか。


「決戦の日は近いぞ。以降も十分に準備を整えておくのじゃ」


 弱々しくも必死に武具を作る茂信の事を思い出す。

 現在の俺の装備……防具を茂信は作ってくれた。

 アダマントアーマーだ。

 しかも俺が各地で調達した素材を駆使して、最大級の強化を施してくれている。

 茂信が現状作れる最強の鎧が俺を守ってくれている。


「ああ、絶対に」


 だが……敵はいったい何者なんだろうか。

 ここまでして徹底的に日本人とこの世界を恨む不死の化け物とは……。

 そう思いながら俺は、話す事の出来ない白い霊にぼんやりと目を向けていたのだった。


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