未来予測
「そういえば坂枝って体育の授業とかでも不利な方を味方するよな。それもある意味、分が悪い方に賭けてるって事なんじゃないか?」
依藤が納得した様に手を叩いて呟く。
妙な裏取りが始まったぞ、茂信。
「じゃあ最終的に坂枝もそうなるって事か?」
「んー……反応や表情から若干違うの。わらわの知っているサカエダは何かあるとコインを弾くのが癖じゃったぞ」
どんな茂信だよ。
会ってみたい様なみたくない様な、複雑な気分だ。
でも、実際には会わない方が良い相手かもしれない。
なんか会ったら嫌な気分になりそうだしな。
「並行世界だから色々と違いが出るんじゃ?」
「かもしれんな。二度程会ったが、どっちも似た感じじゃったからてっきり今回もそうだと思っておった」
と言った所で、何故か……茂信が俺を見ている。
なんだ?
「その時には幸成はいたか?」
「いや、少なくともユキナリは初めて見る日本人じゃな」
「坂枝の腰巾着とか他の生き残りから聞かなかったか? 何かあって死んだとか」
微妙な事を聞くな。
茂信の腰巾着はともかく、何かあって死んだとか、確認する必要があるのか?
「クラス名簿とやらも見せてもらった事があるが、少なくともユキナリは知らん」
「という事は今の坂枝は羽橋がいないとギャンブル好きになってるって事だな」
「まあ羽橋って今は違うけど元々は自己保身って言うか、かなり堅実なタイプだったから茂信を影武者に言いたい事や作戦を提案していただろ? 完全な運任せって思考放棄をせずにいたから今の坂枝が構築されたんじゃね?」
そういう考えもあるのか。
まあ俺が原因で茂信がそこまで変わるとは思えないが、これまでの茂信とは違う何かがあったのかもしれない。
それもまた並行世界なんだろうし。
「ちなみにその賭け癖の所為で色々と困っておった。根は良い奴じゃから人助けもそれなりにするからの、仲間には男前だと思われておったが」
なんだ。賭博癖があるだけで茂信は茂信なんじゃないか。
ん? 茂信が俺の肩に手を乗せる。
どうした?
「ここまで幸成の存在をありがたいと感じた事は無い……」
こんなしょうもない理由で感謝される事になるとは……。
気持ちはわからなくもないが、並行世界の茂信の話だろうに。
「今回のサカエダは随分と優等生っぽくて心強く思うぞ。ちなみに何の能力を持っておるのじゃ?」
「鍛冶だな」
「おお、良い能力を引いたの。過去二回のサカエダはギャンブル、賭博の二つじゃ。トランプやサイコロを武器にする能力じゃった。運が関わる能力じゃな」
そんな能力もあるのか……そういやポーカーって能力がこの世界にあったな。
ギャンブル系の総合能力だったのかもしれない。
「精練ギャンブルって言葉があるし、手に職付けたって感じにも見えなくは無いな」
「う……」
「元も子も無い事を言ってやるなよ。茂信が可哀想だろ」
「にしても、能力って完全なランダムじゃなかったんだな」
まあ確かに。
これまでの話では並行世界の萩沢は錬金術って能力だったらしいし、方向性は一緒だ。
精錬ギャンブルが原因だと仮定したら、茂信もそれは同じという事になる。
更に本人の性格に差があれば能力にも影響が出るみたいだ。
「ちなみに未来予測の様な事が出来る能力でな、みんなにありがられておった。森を出る方角を当てたそうでな。他にも危機的状況……森での殺人を察知したりなど、どちらかと言うと占い師みたいな認識じゃったな」
「結構チート臭がする能力だな。確実に当たりか外れを事前に知る事が出来れば能力と相性良いだろ」
「ハズレもするぞ?」
じゃあダメじゃないか。
未来予知ではなく、予測だからハズレがあるのかもしれないな。
そんなに美味い話は無いって事か。
「つまり羽橋がいないと坂枝はとんだダメ人間になるんだな」
「坂枝くんは羽橋君がいないとダメな人なのよ」
黒本さんは黙っててね。
そういう話題じゃないから。
「ところでルシアちゃん、お願いがあるんだが」
「なんじゃ?」
萩沢がルシアに声を掛けている。
またお前か。
今度は何をするつもりだ。
「のじゃーって言ってくれ!」
「のじゃー」
「おお……! もう一回!」
「のじゃー。毎回言わされるがこれは何の意味があるんじゃ?」
「前の俺も言わせてんのかよ!」
……いや、お前等馴染み過ぎだろ。
「雑談はこれくらいにして……神殿が見えてきたぞ」
まったく……これから色々と大変だってのにみんな気楽なもんだな。
俺達は職業神殿に赴き、聖剣の間へと案内される。
一応、国の通達もあって聖剣への挑戦等の類は大規模に制限されている。
明日は俺の勤務日だけど、どうしたものかな。
なんて思いつつ、ノア=トルシアが刺さった台座が見えてくる。
「懐かしいのう」
「本体なんだよな?」
「まあの、仮にわらわが死んでも時間を掛けて本体の前で蘇る様になっておる。そう……弄ってもらったからのう」
「めぐるさんとの約束?」
「それもあるが、この世界の為に自ら選んだ道じゃ」
ルシアなりに何か信念があるって事なんだろう。
俺との戦った時も例え勝てなくても、みたいな事を言っていたし。
「とは言っても、悠久の歳月をずっと起きている訳ではないぞ? 眠っている時も多い」
「ああ、そう」
「じゃあ羽橋、さっそく抜いて見てくれよ」
依藤と茂信が興奮気味で提案してきた。
気持ちはわかる。
伝説の聖剣が抜けるって言われたら興奮する気持ちもな。
まさか聖剣本人に勝たなきゃ抜けないなんて条件なんて誰も思わないだろう。
俺は台座の前に立って、突き刺さる聖剣ノア=トルシアを見る。
「もしも抜けなかったらルシア、どうなるかわかってるよな?」
「なんで脅してんの、お前?」
「盛大にホラを吹いた事になるからだ」
「安心せい、絶対に抜けるようになっておるよ」
うーん……どうにも信じ難い。
まあ、これで抜けませんだったらルシアは何が目的なんだとか指摘出来るし、虚言で確実に処刑される事になるだろう。
そう思いつつ、聖剣ノア=トルシアの柄を握って……うわ、抜ける。触るだけでわかる。
前回みたいにビクともしないなんて次元じゃない。
指で突くだけでずれるだろこれ。
そう思いながらスッと引き抜く。
「おおおおおー!」
職業神殿の神官達が声を上げるが、クラスの連中の表情は曇りがちだ。
なんだ? 俺が選ばれた聖剣を引き抜いたってのが気にくわないのか?
「これだけ?」
「もっと光が集まって派手な演出が出るんじゃないのか?」
「そうそう、もっと、神々しい光とかをさ」
気にするのはそこか?
要するにゲームとかで伝説の剣を抜く時みたいな派手さが欲しいと。
確かに、本当にあっさり抜けたけどさ。
「ふむ……相変わらず日本人はその辺りに細かいようじゃな、こんな事もあろうかと……ユキナリよ。もう一度台座に刺して抜くのじゃ」
「は? 何をするんだ?」
「良いから抜くのじゃ」
はいはい。
ため息交じりに剣を台座に刺す。
「柄を両手で持ち、ゆっくりと引き抜くのだぞ」
「要望が多いな……まあ良いけどさ」
言われるまま、両手で柄を持って……ってところで部屋の照明が暗くなり、台座の部分を中心に淡い光が発生する。
室内の壁に幾重にも光の筋が走り、台座へと吸い込まれて行く。
なんだ? 何か企んでいるんじゃないだろうな?
警戒しながら剣をゆっくりと引き抜くと、刀身が光り輝き、室内の光が虹を作りながら剣に吸いこまれて行った。
「おおおおお!」
クラスの連中も揃って声を上げる。
「後は剣を掲げるのじゃ!」
刀身を上にして掲げる。
するとシャキンとどこからともなく音が響き渡り、剣に光が集約して煌々と輝く。
誰が否定するまでもなく、完全に聖剣と呼ぶに相応しい抜け方だった。
「どうじゃ!」