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本当の持ち主

「え?」


 その場にいたみんなが揃って声を零した。

 出して当たり前だ。

 ルシアの口からめぐるさんの名前が出てきたんだからな。


「なんだと!? じゃあ……処女だって言うのか!? 羽橋! ぜってー許さ…………は?」


 ルシアが処女だって事を認識して激怒した萩沢でも、そこで呆気に取られている。

 少し反応が遅い様な気もするが、さすがの萩沢もビックリしているという事だ。


「だから、わらわの本当の持ち主、メグルは女じゃ!」


 俺達の反応をよく聞き取れずに聞き返したのかと勘違いしたのか、ルシアはもう一度同じ事を言った。

 聞き間違いなんかじゃない。

 確かにルシアはめぐるさんの名前を言った。


「なんじゃ? 生娘がそんなに珍しいか! 下手に子を産むと歳を取る様になってしまうからしょうがないんじゃ!」

「今、めぐるって……?」

「そういえば先ほどヒヤマと申しておったな。もしや……ヒヤマ=メグルが此度の転移で呼ばれたのかの? 会えるなら別の世界のメグルとも会いたいのじゃが」


 ルシアは無邪気な……悪気の無い様子で言った。

 俺は返答をする余裕も無く、ルシアを凝視していた。


「ああ、わらわの剣が収められておる部屋を見たかの? あそこにはわらわの剣を持つメグルを壁画に描いてもらったのじゃ。是非ともわらわの持ち主だったメグルに見てもらいたいのう」

「あのなルシア、さん。飛山めぐるさんはな……」


 依藤がルシアに恐る恐るそれとなく伝える。

 ルシアの方もその反応で理解したのか、頷いた。


「そうか……メグルは逝ったか……」


 ルシアは寂しそうな表情を浮かべた。

 それを見て、俺はめぐるさんの形見の剣を強く握り締める。


「羽橋の剣は飛山さんが持っていた剣なんだ。その……羽橋は飛山さんと良い間柄でな」

「ふむ……なるほどのう。例え世界が違えどメグルが好意を持っていたという事は、ユキナリはきっと良い奴なんじゃろう」


 その言葉を聞いて、ルシアが並行世界のめぐるさんをどれだけ信頼していたのかわかった。

 なんというのか、めぐるさんの名前を呼ぶルシアはとても穏やかな雰囲気だった。


「ではわらわはメグルの剣に敗れたのか、それならば嫌な気分はせんな」


 それからルシアは俺の頬に手を当ててから言った。


「なんとなくしか事情を察する事しか出来んが、言うぞ」

「あ、ああ」

「メグルはわらわの行いを決して褒める事はない。せめて次の時までと後を託しただけじゃ」

「託した?」

「うむ、わらわ達の敵が不死の力で何度も蘇る事はわかっておったからな。まあメグルはわらわがこんなに長く現世に留まるとは思っていなかったじゃろうがな」


 などとケラケラ笑う。

 その表情は俺には無い、大切な人の死を受け入れた者の顔だった。


「わらわはメグルが大事にしたこの世界を守りたい。目的は一緒じゃから、共にがんばっていくのはダメかの?」


 きっと、本当の事を言っているんだろう。

 悪い子ではないんだと思う。


「……わかった。でも、お前を使うかどうかは考えさせてくれ」

「まあ良いじゃろ。では、これからに備えるのじゃ。何か知りたい事があったらいつでも聞くがいい」


 こうして、俺達はルシアを連れて行く事になったのだった。



 空飛ぶ城が着陸し、機能を停止した事と、城下町に戻ってきた冒険者達の証言で国は一応に警戒をしつつ戻ってくる俺達を受け入れてくれた。

 ルシアの配下をしている魔物達は城に戻って……姿を現さない。

 取り巻きの魔物とからしく、ルシアが召喚すると呼び出せるとか何とか。

 やはり扱いはユニークウェポンモンスターのボスとか何だろうか?


 国へ異世界人の真相を話す事は今後の事を考えて秘匿……するらしい。

 ルシアの立場はあくまでもこれから起こる災害に備えて行動していて、襲ってきた冒険者達を返り討ちにした……ユニークウェポンモンスターって事で落とし所となった。


 城に戻った俺達は王様の元へ案内されて事情をある程度説明した。

 もちろん茂信達バックアップ班には別件で更に詳しい話を説明するつもりだ。


「ううむ……異世界人達が来訪する厄年ではあるが、まさにいろんな事が起こるのう」


 王様も眉を寄せて事態に感想を述べる。


「して、ルシアと申したか、国中の結界を弄っていたのはこれから起こる災厄に備えた物じゃそうだな?」

「そうじゃ」

「……して、ルシアよ。お前がノア=トルシアのユニークウェポンモンスターだと言うのならばそれを証明してみせよ」

「もちろんじゃ。ではユキナリ行くかの。わらわに勝ったそなたにしか抜く事を許可はせんぞ」

「いや、待て……」


 王様がルシアを制止して俺に視線を向ける。

 なんだ?


「報告によればハネバシ殿の能力が更に判明したとの事じゃが」

「あ、はい。生き物を飛ばせないのではなく、異世界人を飛ばす事が出来ないという事だと判明しました」

「つまり、ハネバシ殿の力であれば、この世界の者達は転移出来るのだな?」

「そうなります」

「ううむ……試しに、騎士ラムレスを飛ばしてみてくれんか?」


 そこでラムレスさんが一歩踏み出す。

 まあ実際に見てもらった方が早いよな。


「はい。では何処へ行かせましょうか?」

「それでは……サカエダ様の工房に送り届けてもらえないでしょうか? 忘れ物をしてしまいまして」


 何を忘れたんだ?

 ゲームとか言わないよな?

 さすがに自分の武器を忘れるはずはないだろうし。


「……まあ、その程度なら造作も無いです」


 俺はラムレスさんを指定して転移場所を指示する。


「了承アイコンが出ましたね。はいを選びます」


 それからすぐに詠唱が始まり、ラムレスさんが一瞬で消える。

 転移先は茂信の工房でー……っと視覚転移で飛んで行ったラムレスさんを確認する。


「あったあった。急な事態で忘れてしまいました」


 と、ラムレスさんが手に取ったのはゲーム機だった。

 ……うん。かなりダメ人間になって来てる気がする。

 後で王様に注意してもらっておこう。


 見てるって事を暗に伝える為に転移指示で呼び戻そう。

 アイコンが浮かんだと思った所で、ラムレスさんが苦笑いをしている。

 笑って誤魔化さないで欲しい。

 すぐにラムレスさんが現れて、その手にはゲーム機が握られている。


「おお……コレは凄い」

「了承さえされれば可能です」

「うーむ……ハネバシ殿はまさに国になくてはならない存在じゃ。聖剣を引き抜いたとなると勇者として宣伝すべきじゃな」

「俺は勇者でも何でもないですよ。下手に注目を浴びて厄介事に巻き込まれるくらいなら秘匿しておいてください」


 自惚れる気は無い。

 この先の事を考えたらもっと沢山の力が欲しいと思う。

 手に入れた能力で、どうにか事を解決する事……その先を見越すことしか考えに無い。

 上手くこの能力を使ってどうにか出来ないかとばかり頭に浮かんでいる。

 その為の手段が今までの出来事から構築されている。


 後は順序と手はずだ。

 ルシアの話では敵を倒さなければ始まらないそうだから、まずはこんなふざけた事を仕出かした敵を駆逐する事を最優先しよう。

 邪魔をされたらたままったもんじゃない。


「そうか? 国の象徴に出来る良い機会なのだが」

「今はこれから起こる災厄に対処して行く事を優先したいんです。下手な野心家に付け入られる隙は出来れば少なくしたいです」

「ふむ……ハネバシ殿がそこまで言うのならしょうがあるまい。ではルシアと申したか、真に聖剣であると申すならばハネバシ殿と共にノア=トルシアを持ってまいれ」

「うむ」

「じゃあ転移で取ってくるか?」

「そうじゃな、わらわの剣が収まっている部屋に行こうではないか」

「待て待て、せめてクラスのみんなの前で抜いてくれよ。そんな作業みたいにされたら、味気ないだろ」


 と、そこで茂信や依藤が俺を注意する。

 味気無いって……そんなゲームのイベントじゃないんだから。


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