Lv振込み
「2250って……一桁以上違うぞ」
「ちょ――そんな化け物を相手に勝てるのか?」
「しかも俺達のLvを上げる事は出来ない。この世界の連中に任せるか、羽橋に期待するしかないぞ……そんな真似をさせる訳には……」
「いや、がんばれば勝てるかもしれない」
全員が一斉に俺の方を見た。
なんだ?
「羽橋、今何Lvだ……? というか、この前聞きそびれたな」
……あれ?
そういえば誰にも言ってない。
別に隠していた訳じゃないが、聞かれなかったから答えていなかった。
Lvとポイントを稼ぐ為に毎日飛びまわっていたからな。
というか、言おうとしてタイミング良く魔王の出現が云々と聞いて言えなかったんだ。
「3020だ」
「さんッ――!? え? おい!」
萩沢が唖然とした表情で俺に向かって怒鳴る。
冒険者は既に居ないから、同行している騎士が何か唖然とした表情で俺を見ている。
口は堅い連中だ。
「国に言われてみんなには伏せていたが毎週最低三日は職業神殿で働いてて一日1500万ポイント……ああ、効率が上がってもっと増えているんだったっけ。それ以外に輸送と交易、更に余裕のあるみんなが稼いだポイントに俺自身の狩り、狩りで手に入れた素材を売ったり、後ポイントをLvに直接変換出来る事に気付いて、経験値よりも効率が良い時はそっちに振ってる」
自然と俺にポイントが集まってきたからLvを重点的に上げていた。
もしかしたら日本に帰す拡張能力が得られると期待していたからな。
実際は黒幕の所為で出来なかった訳だが……。
「Lvに振り込むとか……」
「そういえば戦闘系と拠点系で必要経験値が違うんだよな? 羽橋は経験値の入りは拠点よりだったはずだからLvの上がりも良かったのかもしれないな」
ああ、だから上がるのが早いのか。
4桁まで行ったら似たり寄ったりだと思うがな。
そういえば途中で必要経験値が少なくなる頃があった。
なんだかんだで俺も拠点よりの経験値テーブルなんだろう。
「なるほど……それだけ強ければわらわが手も足も出ないのが頷ける。しかも遠距離で物を飛ばせるのならば間引かずに勝てる可能性もあるかも知れんな」
Lvの上がりが悪くなってきたからステータスにもかなり振りこんでいる事も説明すべきかな?
今まで隠すみたいな感じになっていたし、全て話すべきだ。
いくら能力が上がっても頭が良くなる訳じゃないからな。
戦うのが俺だとしても、みんなの助言は必要だ。
「後はポイント相転移で、ネットゲームのステータスポイントみたいに――」
「待て羽橋、ネットゲームのステータスポイントみたいにステータスにまで振り込めるのか!?」
依藤が何か戦慄して俺を指差している。
驚異的な能力……なんだろうな。
白い霊が与えてくれた強奪に匹敵する能力らしいから、そうなんだと思う。
今にして考えれば、取得Lvと性能がおかしくはある。
「お前、どれだけ振り込んだ?」
俺は思い切り依藤に高速で近づく。
「うお」
「これくらいに早さとか力とか魔力とか振り込めるだけ振り込んだ。じゃないと奥地のボスみたいな魔物に硬いのとか早いのに後れかねないんだ。群れで来る奴もいるしな」
すると依藤が髪に手を当てて嘆く様に呟く。
「坂枝がおかしいって疑問に思うはずだ。羽橋、お前はもう十分過ぎる程強い」
「ガウー」
クマ子がメロメロってポーズを俺に取る。
いや、お前は知っているだろ。
グローブ状態で連れて行っているんだから。
「それだけLvがあれば転移の短縮とか取れてるんじゃないか?」
「え? うん」
「取れてるのかよ!」
「さっき異様な速度で詠唱完了してたしな。最強だろ」
「だけどみんなを帰せないし……」
これだけの事をしてもみんなを帰す事が出来ない。
万能の能力を持った相手にLvで勝ったとしても同様の能力を持っている可能性は大いにある。
能力やステータスで勝てるかどうかは未知数だ。
というか、強引にさっきの紐を引き千切れないだろうか?
そうすればみんなを帰せるんだが……。
「それは敵の所為だろ」
「まあ……」
「そうだ。状態異常転移で紐を外せないか?」
俺は依藤に向かって状態異常転移を作動させる。
紐が見えたんだ。出来るかもしれない。
しかし……俺が転移させようとした紐に転移を指定は出来なかった。
「くそ……」
「羽橋、少し落ちつけって」
「そういう所はLvが上がっても変わらねーのな」
「そいつさえ倒せれば……みんなを帰せるはずなんだ」
俺にしか見えない白い霊は俺にポイント相転移を授けたらしい。
そのポイント相転移によって俺は驚異的な強さを得た。
ならば奴を仕留める事を考えて行こう。
「その敵は何処に出現するんだ? 俺達も向かうべきか?」
「そなた等日本人が現れる森じゃ」
「あそこか……」
「奴自身はまだ封じられていて姿を見せておらん。毎度わらわも先に手を打てないかと行動をしてはいるのでな。一言に森と言っても範囲が広い故、それでも見つけるのは難しいがの」
確かにあの森は広い。
森のどこに出現するのかわからないと見つけるのは難しいだろうな。
「時期じゃないって事か?」
「だとしても先回りをするべきだろ?」
「そうじゃが……活性化のピークに姿を現す以外は無理じゃ」
ルシアがそう答える。
何度も戦ったという経験から裏付けされた自信なのか、強い口調だった。
「炙り出す為に色々とやったが、奴も複数能力者……対抗手段を幾らでも所持しておる」
強奪能力者の結晶みたいな奴だ。
それも小野とは違い、何百年も溜め込んだ凶悪な存在。
いくらLvに差があるとは言っても、倒すのは難しいかもしれない。
「まあ……炙り出すのではなく、期限を縮める事は可能じゃがな」
「そうなのか?」
「ああ、マサルやミキ、代々の異世界人が活性化の時期を……平和の時間を少しでも延ばすために行っている細工を切れば、奴もすぐに姿を現す」
代々の異世界人達か。
その人達のお陰で今まで俺達はその黒幕の攻撃を受けずに済んでいたって事だ。
感謝すべき事なんだよな。
「どうする? 来るべき時に備えて時間を稼ぐか、それともすぐに戦うかの?」
ルシアの問いにみんなが呻く。
今すぐ戦うのもありだが、武器や防具、Lvを十分に稼いでから決戦に挑むのも悪く無い。
「ここで決めて良い事じゃないな」
「まあ、どちらにしてもそなた等、日本人達はLvを上げる事は禁じるべきじゃろうな……それに、抑えていられる時間もそこまでない」
「残り時間はどれくらいだ?」
「ふむ……」
ルシアが何やら手をかざし、魔法を唱えるとスクリーンが出現して時計が現れる。
「持って二週間じゃな。こちらも奴の弱体化をする為に装置も起動をさせてはおるし、準備期間としては十分じゃろう」
「弱体化?」
「活性で溢れる魔力総量を分散させて放出させておるのじゃ。現在も継続して行っておる」
「それって海にある遺跡とかか?」
「うむ、あの遺跡は侵入不可の高度な結界を作ることで、地脈から常時魔力とポイントを吸って力を消費しておるのじゃ。そもそも街にしろ村にしろ、装置の経路じゃぞ?」
つまり街や村に設置された結界は、その厄年の災害の負担を軽減する効果があるって事か。
これも昔の異世界人達が残してくれたんだよな。
「バカにならないポイントを使うんじゃないのか? 普段はそこに冒険者や国の騎士がポイントを振りこんでいるぞ」
「そりゃあ、根こそぎ吸ったら地脈が大地が枯れ果てて人を含めて何者も住めぬ土地になるのでな。調整くらいはしておるが、今年は規格外に溢れる年なのじゃ」
「ポイントとかって魔物を倒さないと出ない物じゃないのか?」
「魔物が蓄積しやすい資源であるのは変わらんが、地脈から得た力を元に作り出される。この世界の構成する物質じゃ」
「萩沢の売買じゃないか? 変換するとポイントになるだろ」
「あー……そういう事か」
なるほど、確かに物にも宿っている。
だとしたら大地にも同じ物質が含まれていたとしてもおかしくはない。
……必要な事でもあるけれど、多過ぎれば毒になると。