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最初から出来る事

「ついでにお願いします! みんな! ここから帰れるぞ!」


 帰還の水晶玉の効果は……?

 ルシアを見るとさあ、とばかりに手を上げられた。

 俺は手を上げる冒険者達を指定して、城下町に送り届けさせる。


「ど、どういう事だ!? 羽橋の転移って羽橋以外、生き物は飛ばせないんじゃなかったのか!?」

「待て、学級委員に持ちこませてもらった植物とかあったろ? アレって一応、植物だけど生き物だろ?」

「ちょっと待て! じゃあ今の羽橋なら俺達を日本に帰せるんじゃないのか? ほら、Lvが上がって強化されてたとかさ」

「!? やってみる!」


 俺は胸を張って実験に立候補した依藤を指定する。

 が、依藤はなんの反応も示さない。


「くそ! なんで、なんで飛ばせないんだよ!」


 思い切り魔力を込めて転移を指定する。

 すると依藤が僅かに持ちあがる様な手ごたえを感じた。


「え?」


 その瞬間、バシンと何かに弾かれ、依藤の足元に……紐が一瞬見えた。

 なんだあれは!?


 ……まさか。

 わかった。どうして冒険者を飛ばせて、依藤を飛ばせないのか。


「なるほど、よくわかったぞ。ユキナリよ、非常に酷な事じゃが、知りたいかの?」

「……ああ、教えてくれ」


 何を言いたいのか既にわかってはいる。

 だが、この事実を自分ではない誰かの口で聞いて、納得するしかないと思った。


「既に出来る事を新たに覚える事など出来ん。そなたの能力は最初から異世界とこの世界を行き来させる事が出来る様じゃな」


 つまりは、そういう事なんだろう。

 ……そういえば、あの森でクラスメイトを転移させようとした時、何かに引っ張られる様な感覚があったと言っていた気がする。

 あの紐が転移を妨害しているって事か。

 何者かが……俺達の敵が異世界人を日本に帰れない様に拘束している。


「要するに俺達の敵が……ぐ……」


 そこで、突然依藤達が揃って頭痛を訴えるように頭に手を当てる。


「どうした!?」

「ぐ……なんだ? なんで不自然にイライラするんだ?」

「悪い。何故か俺もだ」

「ごめんなさい……何これ……?」

「奴の干渉じゃな。少しずつ精神を浸食して殺し合いをさせようとしているのじゃ。最近、異変が無かったかの?」


 茂信達が夜に呻いている時の事を思い出す。

 もしかしてあの事か?


「祝福を受けたユキナリは影響が無い所か、みんなの浸食を抑えていたんじゃろう。じゃが、奴も本格的に力を使い始めたか……封印が解けかかっているのじゃろうな」

「祝福?」

「ユキナリよ。お前は覚えが無いかの? 何か聖なる力……白を連想する何かを、少なくとも選ばれた者にはそのような存在の影がチラつくはずじゃ。そなたと、クラスの者達とで大きく違う事はなんじゃ?」


 俺とみんなとで違う事……それは、俺だけ日本に帰れる事だ。


 突然――ガツンと激しい頭痛の様な衝撃を受ける。

 な、なんだ……?

 ぼんやりと脳裏に、森の光景が映し出される。


「どうか……お願いします」


 それは夢に見た白い幽霊。

 森に立つ夢の風景……そうだ。よく見ている気がする夢だ。

 少なくとも茂信にうなされている日は高頻度で見ている気がする。

 北東の方角に暗雲が広がっていて、四角い……壁画にも描かれている建物……あれってやっぱり学校だ。


「ここはあなたの夢です」

「あ……やっと声が……」


 今まで音飛びでしか聞こえなかった声がはっきりと聞き取れる。

 ぼんやりと白い幽霊が俺に声を掛けてくる。

 同時に、地面から紐が伸びて来て、俺にまとわりつく。

 ルシアも似た様な事をしてきた。


 いつもこの夢だと、この紐を幽霊が斬ってくれるんだ。

 やはり同じく、白い幽霊が紐を断ち切る。


「あ、ありがとう……」

「これは、過去に起こった事でもあります。みんなにも同様に巻きついて……います」


 あの紐……それが敵の正体なのか?


「ど――も―――のわたしをころして――全ての――」


 またも音飛びが酷くなったが、すぐに元に戻る。


「もう少し――に……」


 それから、夢がさめる時と同じ表情で白い幽霊は言い放つ。


「切り札は、ここに」


 白い幽霊はいつもの夢の通りに、ポイント相転移を指し示す。


「既に十分な程に、力は蓄えていますね」


 夢から覚めるかと思った所で、白い幽霊がハッとする様な表情を浮かべて微笑んでいる。


「どうか……この力で道を切り開いて」


 と、視界がスーッと白い幽霊から遠くなるのを堪える為に手を伸ばし、幽霊の手を握る。

 すると、別の何かが頭に流れ込んで来た。


 森……見知らぬ人や知っている連中だ。

 サバイバル……その中での諍い。

 頂点争いの殺し合い、その原因探し、疑心暗鬼のクラスメイト達。


 そう、俺達と似ているが、違う状況が展開されている。


 ぐ……なんだ!?

 頭にノイズの様な物が起こってドス黒い物に塗り潰されていく。

 悪意と憎悪、恐怖、痛み、悲しみ、それ等の言葉で言い表せられない感情が混ざり合っていた。

 ふらついて、石碑にもたれ掛かる。


 知っている。

 俺はこの感情を知っている。

 この感情を抱いた事がある。

 あれは、そう……小野に対してだ。

 いや、それ以上かもしれない。


 だが、この感情は俺の心を由来とした物じゃない。

 これは……。


 許さない……どうして全ての責任を――……。



 ハッと意識が覚醒する。


「ユキナリ、大丈夫かのう?」


 見ると依藤達も頭を振るって意識をしっかりと回復させた最中の様だ。

 時間にして10秒も経っていないと思う。

 辺りを見渡す。


 すると俺の近くに白い幽霊が、言葉も発せずに漂っているのに気付いた。

 視線が交差する。

 そして……苦しむ依藤達に何か光を当てている。

 それだけで依藤達の調子が戻っていく。


「あれ……か?」


 俺が指差すとルシアがその方角を見て察する。


「わらわには見えんが、ユキナリには見えるのか。本当に稀じゃぞ」

「ああ……アレは何なんだ?」

「そうじゃのう。オノが奴の刺客だとするなら、その反対の存在がユキナリとその者なのじゃろうな。何か授かっている様な夢を見なかったかの?」

「ポイント相転移……」


 もしかして、この拡張能力はあの白い幽霊が何かしてくれているんだろう。

 となると……ポイントを金や経験値に出来るのは白い幽霊のお陰って事なのかもしれない。

 小野が強奪を授かった様に、俺もポイント相転移を授かっていたって事か。


「……どちらにしても、授かった力でその黒幕を倒す事が俺達の目標なんだな?」


 白い幽霊が実は俺達の近くにいて、敵の目的を妨害していたというのは新事実だ。

 ずっと前から戦ってくれていたって事なんだろう。

 言葉は……わからない。それでも俺の近くを漂っている。


「らしいな」


 立ち直った依藤達が頭を振るって続ける。


「羽橋は本当はみんなを帰せるはずの能力で、それを邪魔している奴がいる」


 敵の姿が見えた。

 だけど、あの幻影はなんだったんだ?

 あんな風に俺達を恨んでいるとでも言うのか?

 ……だとしても、引く訳にはいかない。


「やってやろうじゃないか」

「だが、どうやって相手を仕留めるんだ? 俺達みんなのLvを総合計した化け物だろ?」

「実は戦闘向けのみんなの配置とかLvは出撃前にチェックしていたし、拠点にいるみんなのLvの平均は取ってあるのよね」


 黒本さんが資料とばかりにみんなのLvを予測込みで見せてくれる。

 やっぱり結構高い。

 生き残る為に備えていたのが裏目に出た。

 しかも俺のLvが高すぎる。

 やはりポイント相転移である程度下げる必要があるな。

 と、思ったのだが……。


「ユキナリは除外しても良いぞ。わらわの放った攻撃をすり抜けたという事は奴もユキナリには何も出来ておらん」


 そうなのか!

 なら、ポイントを荒稼ぎしてLvと能力を上げよう。

 やがて黒本さんが敵の推定Lvを割り出してくれた。


「相手の推定Lvは最低2250前後ね」

「更に今まで蓄積した能力が加わる。その限りではないじゃろうな」


 その数値を聞いて、俺は少し安心した。

 もっと行くかと思っていた。

 ルシアの話通り、沢山の能力を持っている相手だから不安ではあるが、勝算はある。


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