クラス固定
「大災害……」
「うむ、今年は大活性と異世界人の来訪が重なる。挙句異世界人は大量……それこそ、国所か大陸が滅びる可能性が非常に高い」
「大活性というのは?」
どうも知らない知識がポンポンと出てくるな。
なんとなく意味はわかるから、危機感は募る。
「厄年とも言われる魔物の活性化とポイントのインフレ現象じゃな。火山の噴火の如く、地表に溢れる現象じゃ。わらわが生を受けた頃には噴火時に奪い合いがあったと囁かれたもんじゃ」
「奪い合い?」
「無尽蔵とも言えるほどのポイントが大地から溢れ出す場所があるんじゃ。近寄るだけで持ちきれないポイントと魔力の混合物が手に入るんじゃぞ。能力と併用すれば出来ない事は無いと言われる。まさにやり方次第でどんな事すらも叶うと言われていた」
「資料に無いわね」
黒本さんが書物を広げて唸る。
それだけ昔の事という事だろうか?
あるいは情報を秘匿して隠していたのかもしれない。
争いの原因だろうしな。
「予兆として、時折蛍火のような光が伝導率の高い所から溢れておるはずじゃぞ? 見覚えがないかの?」
「……あるな」
めぐるさんと見た泉の事を思い出した。
もしかして、あれが予兆か?
あの蛍みたいな光……魔力やポイントだったのかもしれない。
「現在、この国はライクスと言うんじゃったか? 代々の異世界人がこの問題に取り組み、時に敗北して災害が発生しおった。少なくともライクスの大活性で願いを叶えた者は遥か過去の事じゃよ」
「血生臭い話だな」
「より効率良く、その争いに勝つ為に研究がされたと聞くがの……奴の目的はその活性化を利用して、この世界の全ての者を皆殺しにしようとしている……と聞き、実際に行っていたのをわらわはこの目で見て来た」
うーん、何か規模が大きくなってきてよくわからなくなってきた。
どちらにしても、その黒幕とやらを倒す事に変わりは無いんだよな?
いや……何か引っ掛かるぞ。
「要点を纏めよう。その敵の目的はこの世界を滅ぼすこと、その為に俺達異世界人を呼び出してLvを上げる事、なんだよな?」
「あれ? それならなんで小野に強奪なんて能力を授けるんだ? それだと人員が減るだろ。そんな殺し合いを発生させない様に、危険な能力を授けるなんてする必要ないんじゃないか?」
「そうね。もしも私がその黒幕なら小野くんにそんな能力を授けたりしないで、サッサと人里に行かせるわ」
「森にしか召喚出来ないとかなら別なんだろうけど、なんでそんな能力を授けるんだ?」
確かに……その大活性で世界を滅ぼす為に俺達を召喚したなら、小野を優遇する理由が浮かばない。
小野は男は殺し、気に入った女を連れて森から出る事を企んでいた。
そんな奴は黒幕からしたら、扱い辛い所か足手まといにしかならないだろう。
しかし、これまでの話を聞いた限り、小野はこれまでも黒幕に利用されていたはずだ。
「わらわの説明不足じゃな……奴の根本的な目的は世界を滅ぼす事では無い。あくまでそれは二番目の目的じゃな」
「二番目? じゃあ一番目の目的は?」
「奴の本来の目的はそなた等異世界人全員の抹殺じゃ。じゃからクラスメイトの仲が悪くなるように優遇した媒体に働きかけ、無意識化にすりこんで争いを助長させる。そして殺し合いをさせる。全ての異世界人を殺し終えるかそなた等の様に逃げられたら次は世界を滅ぼす為に動く……それを遥か昔から続けておるのじゃ」
何処までも救いが無いな、その黒幕は。
つーか、俺達に何の恨みがあるんだよ!
段々その黒幕にイライラしてきた。
そもそもそいつさえいなければ、誰も傷付かずに済んだってのに。
「一体何なんだそいつ? 目的がよくわからないぞ?」
「いろんな並行世界から私達のクラスを転移させているのよね?」
……俺達のクラス固定。
何か特別な理由がなければ、そんな拘りを持つ意味が無い。
「恨みを晴らす為、とわらわの最初の持ち主が言っておったのう」
「恨み? 俺達、恨まれる様な事をしたか?」
覚えが無い。
いや……この場合、並行世界の俺達がその黒幕に恨まれているのか?
別の世界の俺達が何をしたのか知らないが、どんだけ恨んでいるんだよ。
「世界を呪っているとも聞く。他には、クラスメイト同士で殺し合うと殺された者が持つ能力を奴が手に入れてしまう。強奪されても変わらん」
ゲ! つまりクラスメイトで殺し合いをさせると敵がその能力をそのまま獲得できるって事だよな?
それなら小野の手段はまさに効率が良い。
小野が皆殺しをした後に、森を出て国の連中に殺されたとしても黒幕は何の痛みも無い。
徹底したクラスメイト殺しを推奨するそいつは何者なんだ?
「そいつは何者なんだ? 正直言って……今のクラスのみんなの総合計Lvの化け物って、八方手塞がりだぞ」
「というか……前提としてそんな奴を相手にせずに済む方法は無いのか? 例えばみんなを日本に戻すことで、奴の支配から脱げられるとか、魔王を倒した異世界人が日本に帰ったって話もあるんだろ?」
「活性化を利用したり、能力で帰還したのは見た事があるがの……根本的に奴を倒さねば帰れた事は無い」
「はっ、それこそ羽橋がお得意にしている奴だな。羽橋は日本に帰れるんだよ」
「ふむ……そういえばユキナリはどんな能力を所持しているんじゃ? 何かを飛ばす能力なのはわかったがの」
「転移だ。この世界と日本、俺達の世界を行き来出きる能力だ」
俺はルシアに転移の能力を説明した。
おそらくだが、コイツは嘘を言ってないと確信したからだ。
行動も一貫しているし、聖剣で、しかもユニークウェポンモンスターだ。
これまで戦ってきたユニークウェポンモンスターのボス達は好戦的な奴だったが、悪い奴ではなかった。
だからコイツも信用出来る。
何より、ルシアにも何か強い理由があって戦っているんだとわかった。
敵が同じなら足を引っ張り合うよりも、協力して黒幕を倒した方が良い。
「ふむ……」
「俺はこの力でみんなを帰したいと思っているけど、幾らLvを上げても元の世界に転移させる拡張能力を覚えないんだ。例えば……クラス転移、日本転移とか。それを習得できるなら、みんなを帰せば勝率が上がるんじゃないか?」
今までの例から考えるに日本に居れば、合計Lvにカウントされない可能性が高い。
時空転移も使い方次第でみんなを帰せそうだけど、消費する魔力が多すぎる。
数分位なら今でも戻れるが、それでは意味が無い。
「……転移か。試しにわらわを飛ばしてみよ」
「え?」
クマ子の事例からユニークウェポンモンスターは転移出来る可能性がある。
少なくとも武器化しているクマ子は飛ばせる。
「羽橋の転移って自分以外の生き物は飛ばせないぞ? クマ子の例があるからルシアちゃんは飛ばせるかもしれないけど」
「試しじゃ」
「わかった」
俺は転移を呼びだしてルシアにカーソルを合わせて指定する。
「ミキ、実験じゃから障壁を消して大丈夫じゃ」
黒本さんがルシアに言われて障壁を消した。
俺はそのまま転移先を指定する。
「了承アイコンが出たのう。了承っと」
すると砂時計が発生して、ルシアが指定した箇所に転移する。
「ん?」
そこで依藤と萩沢が首を傾げる。
が、すぐに言った。
「まあ、ユニークウェポンモンスターは出来るかもしれないな」
「ふむ……」
ルシアは仰々しく頷いた。
何かわかったんだろうか?
みんなを帰せる手段を見つけてくれたなら凄く助かるんだが。
「では……見た所、お前」
と、遠くで傍観していた冒険者を指差して手招きする。
何故、ここでこの世界の人間が必要になるんだ?
「ユキナリ、奴に飛ばせるか指示をしてみよ」
「さすがに出来ないだろ」
「良いからしてみよ。拒否をしたら殺す……と脅すのじゃ」
物騒だな、おい。
なんだかんだで魔王をやっていたって事なんだろう。
そもそもユニークウェポンモンスターだしな。
種族的な意味で好戦的な性格なのかしれない。
「お願いします。協力を」
「あ、ああ」
という感じに俺はルシアが指定した冒険者に転移を指定する。
「えっと、これに「はい」を選択すれば良いんだな」
恐る恐ると言った様子で、ってこの段階でおかしくないか?
アイコンなんて出ないはず……。
少なくとも今までは出なかった。
砂時計が出現し、やっぱり冒険者は転移した。
「な!?」
「うわ! 転移してる! これって街に帰せますか?」
「で、出来ますけど……」
思わず冒険者の言葉に頷いてしまった。
目の前で起こっている光景が信じられない。
どうして冒険者を転移させる事が出来たんだ……?