端末
「順序が必要じゃ。まずハネバシだったかの、そなたはわらわと戦う際に注意した事、対応から事前に国の伝承辺りから情報を聞いたじゃろ?」
「ああ」
魔王が定期的に現れる事とかだな。
この場合、魔王……ではなくルシアが能力を使って敵と同等のLvに上昇する事を言っているんだろう。
この情報を事前に知っていたから対策を取れた訳だしな。
「その辺りは伝承に残させておいたからのう……」
と、いう所でルシアは俺達の中にいるライクス国の騎士や冒険者に目を向ける。
……どうやらこの世界の人達に聞かれたくない内容の様だ。
「生憎と理由に関しては異世界人にだけ教えたい。手出しはせぬから下がってもらいたいのう」
国の騎士や冒険者達は揃って顔を見合わせる。
信用できないだろ。
「小声でも良いがのう。耳を澄ますでないぞ?」
で、俺と依藤、黒本さん、萩沢が代表してルシアの近くに集まる。
突然豹変して襲ってきたら、今度こそ次は無い。
数分程度なら今の俺でも時空転移で前に戻れるはずだしな。
一撃で殺されなければ不意打ちでもやられない。
「下手な事を仕出かしたら容赦しないぞ」
「何か仕出かす前にそなたがわらわを仕留めるじゃろ。そなた、自身がどれだけの速度で動けるか自覚した方が良いぞ」
「じゃあ魔法で防壁を立てて音を遮断するわね」
「おお、助かるのじゃミキ」
「……?」
黒本さんがルシアの言葉に首を傾げている。
そうだよな。
さっきからコイツは自己紹介をしていないのに名前を当てている。
何故、萩沢や黒本さんの名前を知っているんだ?
「で? 何なんだ? 俺達にしか教えられない話ってのは」
「そなた等、わらわを相手にした場合の情報で、周りの者のLv分強くなると知っておるじゃろ?」
「ああ」
「ちなみにわらわの限界は精々500じゃな。強化装甲を着用して1000行ったらオーバースペックで壊れかねないかの」
「化け物じゃねえか!」
萩沢が戦慄する様に答える。
依藤も同様だ。
……なんか、その言葉が凄い胸に刺さった。
化け物で悪かったな。
「マサル、落ちつかんか。まあ、それだけのLvがあっても足元にも及ばなかった相手がいる訳じゃし、わらわも相談を決断したんじゃが」
依藤がチラッと俺の方に視線を向けるが、ルシアの話に耳を傾ける方が先決だ。
「ここでじゃ……わらわの様な一定時間ではなく常時発動し、その限界も無く、範囲も膨大に広い化け物が出てくるとしたらどうする? そもそもわらわはその化け物を想定されて作られた様なもんじゃ」
「えっと……どういう事だ?」
「このルシアって子が本来戦う相手がその化け物で、その化け物と俺達とで何か関わり合いがあるって事だ」
依藤も察しが良いな。
多分、そうなんだろう。
……それが俺とか言わないよな?
「わらわを倒せた者には、その化け物に対して切り札となる拡張能力が付与される。どうやらそこにいるハネバシが得たようじゃ」
よかった。俺じゃないらしい。
気付かない内にみんなを異世界に閉じ込めていた犯人が俺、とかいう展開ではないみたいだ。
「へー、どんな能力なんだ?」
「敵を未来の果てに飛ばす拡張能力だそうだぞ」
……間違いは無いか。
「未来転移って所か、時空転移だったらどれだけ良かっただろうな」
これは……言ったらみんな非常に残念がる。
今の俺では少しの時間しか過去に遡れないんじゃ、意味が無い。
黙っておいた方が良いだろうなぁ……目算が立ったら絶対に話そう。
その化け物を倒してからでも手は……あるはずだ。
「話が逸れたの。何故、わらわがそなたらを間引くと言ったかと言うとな――」
そこで依藤の表情が青ざめて行く。
俺も脳裏に閃いたけど、放棄した疑惑がふつふつと浮かび上がってきた。
「まさか……」
「その化け物は、俺達異世界人のLvを合計した強さを持つ……とか言わないよな?」
依藤がルシアの両肩を掴んで揺する様にして詰問する。
ルシアは悔しそうに俯いた後、静かに見つめ返して頷いた。
「そうじゃ。かの化け物にして、そなた等をこの世界に召喚した黒幕は、そなた等のLvの分だけ強くなる。そなた等は奴の端末の様なもんじゃ」
端末……。
言い得て妙だな。
黒幕が俺達のLv分強くなるんだったら、まさしく端末だ。
「わらわの使ったLv上昇能力は敵の使う能力を擬似的に再現したに過ぎん」
ざっと全員分のLvを数える。
やばいぞ……仮に一人100Lvだったとしても軽く4桁は行く。
というか、俺の分を含めたら尋常じゃない強さになってしまう。
……俺の分はポイント相転移で削れるか。
だとしても、その黒幕が厄介な敵なのは変わらない。
「いやいやいや、そんな事……信じられるはずがない」
「そうだ!」
依藤と萩沢が否定している。
……個人的には否定したいが、そういう敵がいてもおかしくはない。
実際、目の前に周囲のLvに合わせて強くなる存在がいるんだしな。
つまり、その化け物を弱体化させるには召喚された異世界人を極力少なくして、仕留めるしかない。
確かにその理屈なら、間引くという言葉がしっくり来る。
敵の強さが俺達に比例するんだから俺達を殺せばその分、敵が弱くなるという事だ。
今までのやり取りでルシアの限界Lvが多くて1000だった以上、勝てる状態にしなければいけなかったんだろう。
……そうだとしても、みんなを殺させたりなんてしない。
やっと希望が見えてきたんだ。
誰一人欠ける事無く、その黒幕を倒す。
絶対に!
「つーか、どんな化け物だよ。一回殺せば良いだけじゃないのか?」
「生憎と奴は不死の能力も持っておってな……定期的に復活するのじゃ。封印か、野望を砕くか、それこそ未来の果てに吹き飛ばす等をした方が、まだ長き平和を維持出来るじゃろう」
「そんな奴と何度も戦っているのか? 伝承になんで残って無いんだ」
「ある程度は形として出ておるじゃろ。悪の異世界人、魔王、災害、災厄……色々とな。詳しい情報は異世界人側が不利になるのでの、その辺りは濁して後世に伝えておる。わらわや過去の異世界人、協力者が口を固くして話さない様にしておるのじゃ」
だからライクスの人達に話さなかったのか。
……こんな情報を知られたら森を出た段階で異世界人が皆殺しにされる。
これが事実なら例えラムレスさんにも言えないな。
しかし……不死の化け物か。
「やられたら困るけど、全員殺しておけば平和なんじゃね? なんで間引いてんの? 間引くって事は何人かは生かすんだろ?」
萩沢、随分とぶっちゃけたな。
とはいえ、ルシアの立場から考えれば全員を殺しておいた方が効率が良い。
そこ等辺は人情的な物なのか?
「国に全滅させるとそれはそれで色々と面倒でな。生き残った者が復讐に走ったり、もっと厄介になる挙句、黒幕に再召喚されかねん」
再召喚……それは確かに何人か生きていないと困るな。
色々と複雑な事情があるみたいだ。
「とはいえ、奴の刺客が厄介じゃからな。その辺りを仕留める様に伝えてある」
それって強奪の能力に反応する結界の事か?
確か強奪以外にも何個か危険な能力に反応するんだよな。
「過去に召喚された異世界人で、自分こそが最強になる為にとかか? 強奪とかで不死を得たとか」
「あー、ありそう。そんな奴が世界を荒らすなんて国に知られたら俺達の命ってかなりやばいぞ」
「そうね。もしかして小野が持っていたあの羊皮紙の書き手かしら?」
という所で黒本さんが羊皮紙をルシアに見せる。
「これ、読める? 私の能力じゃ読めなかったのだけど」
「生憎とわらわでも読めんよ。それっぽく見せておるだけじゃろうしの。意味は無い」
「そうなのか?」
「うむ。それにしてもオノか……相変わらず奴はよく利用される。今回は上手くそなた等が仕留めたようじゃな」
小野も知っているのか。
「他にもカネシマとか、ヤマネとかタニイズミとかの場合もあるがのう。大体その辺りがよく処分される」
「谷泉は知ってるが……」
他二人は知らないな。
谷泉の取り巻きでもない。
ルシアの言葉に依藤、萩沢、黒本さんが俺に視線を向ける。
「ああ、なるほど。だから今回は豊作じゃった訳か……」
「別にその頃から強かった訳じゃないぞ?」
「それでも……俺達は助けられた事実は変わらない」
依藤が強く拳を握って言い切った。
またか。
今はこいつから事情を聞きたいから後にしてくれ。
「推測じゃが、そなた等をこの世界に転移させる経緯にオノが噛んでおるじゃろうな。奴と契約をして、クラス転移に巻き込んだのは事実じゃろう。自身に追加で授かる能力を事前に知っておれば、より多く巻き込める時に使う」
追加……強奪の事か?
今さっき習得した時空転移の様に特殊な方法で手に入れた、という事かもしれない。
つまり、強奪は小野の能力ではなかったという事なのか?
よくわからない。
「やっぱ小野が犯人かよ!」
「いや、あくまで小野は敵に利用されていたって事だろ?」
やっぱり羊皮紙が黒幕との繋がりだったのか。
サバイバル中、小野はニヤニヤしていたもんな。
後から自分だけ特殊な能力を授かるとわかっていたら、そういう気分になるのもおかしくない。
実際、その能力を得てから大暴れをした訳だし。
「ちなみに通常の能力はこの世界に来た時に自然と授かる物で、奴が授けた物ではないそうじゃ」