認識外攻撃
瓦解したスチールダークネスリビングナイトを仕留めた依藤達はその場で手当てを始める。
魔物の死体?
もちろん俺が転移させて、こっちで待機中のクラスメイトが解体、茂信に加工してもらっている最中だ。
「鎧が壊れた奴等は修理するから脱げ、すぐに修理して届ける」
『……羽橋、助かった』
依藤が礼を言ってる。
何を今更って感じだな。
『良いタイミングで援護射撃をしてくれるのな。こりゃあ確かに助かるぜ』
「動かない的程当てやすいものはないな」
『死ぬかもって思った』
死なせる訳にはいかない。
若干、危ないかと思ったけどさ。
もう俺が現地に行って先頭で戦いたい衝動に駆られるけど、みんなは俺が前に出て欲しくないと言うから、我慢するしかない。
「幸成、修理が終わったぞ。敵の傾向から、属性を付与転移しとけ」
「ああ、茂信、サンキュ。じゃあ転移後に依藤の所に返す」
と、取り寄せた依藤達の鎧を返却する。
「幸成……お前?」
なんだ?
とも思ったが視覚転移の先にいる依藤達が会話を始めたので、そっちに意識を向ける。
『おお! すぐに修理されたか』
『ここの魔物を加工して良い武器とか出来ねえの?』
「茂信、良い武器作れないかって聞かれてるぞ?」
「スチールダークネスリビングナイトが良い武器になるぞ。手元の素材で作れる良い装備になる」
「じゃあサクッと作っておいてくれ」
「了解、試作品な。強化もしておいたから使ってくれ」
と、更に茂信が剣とか槍を出してくるので、依藤達に届ける。
パッと見の性能は確かに高めだな。アダマントタートルの剣程じゃないけど。
依藤の天魔一刀の威力とか上がりそうな能力が付いてる様に見えた。
『おおー即日手にはいるとは思わなかった』
黒い刀身の剣を依藤が振りかぶる。
闇属性武器っぽいな。
『闇の騎士って感じになってきた』
『ははは、鎧に近い付与をしておけばダメージは減らせるだろうな』
「既にやってある」
『完璧な布陣だな。これで魔王って奴の所まで余裕なんじゃね?』
『だと良いな。ともかく、この城の心臓部とかも一緒に探そう』
なんて感じに依藤達は城内の探索を続けた訳だが……途中で広間と言うか玉座の間が見える。
そっと、依藤達が覗きこむ。
そこに……凄く仰々しい鎧を着た人物が玉座に腰掛けている。
かなり大きい。
全身鎧で、顔はよくわからないが、アレが魔王なのだろうか?
死んでいるのか倒れた冒険者達を部下の魔物が運んで……玉座の後ろで動けない様にして……魔法の紐で縛りつけている?
後方には……ガラス張りの先、かなり遠いけど、いろんな機材、巨大な歯車が回っている。
『マッピングした限りだと、あの魔王っぽい奴の先に重要施設がありそうだ』
『戦わないと装置類は止められないか? と言うか、アレって……間違いなく冒険者のLvを奪ってるよな?』
敵も考えたな。
そりゃあ敵が迫って来ているんだ。
自分のブースト効果を持続させるために生かさず殺さず縛り上げて近くに置いておくよな。
既に依藤の作戦は失敗したと考えた方がいいか。
「俺が転移で飛ばして壊すって事をしても良いが……」
『下手に暴走したらシャレにならない。後、さっきの転移攻撃の際、建物への攻撃は弾かれた様に見えた』
『頑丈に作っているのか。弾く条件を詳しくしているのか分からないが、戦わないといけないって事か?』
調査するにしても魔王を先に仕留めた方が早いか……と言うか相手もそう簡単に調べさせたりなんかしないか。
「しょうがない。ササッと反則攻撃の実験をするか。視覚転移の登録は弄ったから魔王は丸見えだ。依藤達は下がっていてくれ。攻撃に反応して依藤達に襲ってくる可能性がある」
『ああ。わかった』
そんな訳で依藤達がある程度、離れたのを確認してから、俺は遠距離狙撃をする為に転移を使用する。
もしも魔王が城内の情報を知っているならば通じないかもしれない。
十分に注意はしたつもりだが……依藤達を守る為とは言え、止むなくするしかなかったからなぁ。
とにかく……っと。
茂信の作った使い捨ての剣を指定して、魔王に向かって飛ばす。
『――!?』
バッと魔王がその巨体からは想像が出来ない速度で、玉座から横っ跳びして俺が放つ剣を次々と避けた。
くそ……化け物か!
避けられるなんて思わなかったぞ。
もしかして魔力的な反応とかを感知してるって事か?
そのまま依藤達がいる方向へ走り去ろうとしている。
させるか!
空気を広範囲に指定して送り飛ばす。
すると魔王が手を掲げた。
バチッと俺の視界がスパークした挙句、魔王がいた場所の半径二メートルが結界の様な物が発生して空気が送り込めず、阻止された。
「レジストしただと!?」
やはり魔王クラスって事か。
くっそ……とにかく、気付かれたからには立て続けに攻撃をしなくちゃいけないが、如何せん詠唱がネック過ぎる。
「あれ? 幸成くん、その……」
実さんが何か茂信と顔を合わせている。
悪いが今は話している余裕が無い。
「おい、幸成……お前、さっきから詠唱――」
「ならこれはどうだ! クマ子、依藤達の方に飛ばすから誘導を頼むぞ」
「ガウ!」
俺の指示にクマ子が敬礼してグローブ化する。
俺は依藤達の元にグローブを飛ばして茂信に目を向ける。
「じゃあ、更なる奥の手をしてみる」
「奥の手?」
「みんなが認識出来ない所から……飛ばしたら魔王はどう反応するかな?」
言い終わると同時に俺は日本の自室に飛ぶ。
茂信に作ってもらった転移用の剣も一緒だ。
すると魔王の歩みが僅かに緩む。
よし、認識改変が掛った。
日本にいる俺は異世界ではいない者として扱われる。
つまり、完全な認識外からの狙撃だ。
転移させた際の魔力の流れとかを感じとって避けているのかもしれないが、認識外から飛ばされた攻撃はどうかな?
最近じゃこの攻撃で狩りをした事もあるくらいの、俺の奥の手だ。
気付かずに致命傷の一撃が飛んで行くんで、山奥の魔物にはよく効いた。
「食らえ!」
この作戦が失敗したら、依藤達に正攻法で挑んでもらうしかない。
アイツさえ倒せば、みんなを日本に戻せる……かもしれない。
自然と胸が熱くなる。
胸に手を当てて、持ってきた使い捨ての剣を、魔王に向かって放つ!
砂時計が落ち切り、魔王に向かって使い捨ての剣が突き刺さろうとして……弾かれ……。
「させるかあああああああああ!」
持ってる魔力で強引に押しこむ。
ズブっと、能力で飛ばしたにも関わらず確かな手ごたえ。
複数の剣が全身鎧を着た魔王らしき化け物を貫いた。
ドサッと魔王は膝をついて、その姿のまま、立ち上っていたオーラが霧散していく。
もう何発か打ち込んでおこう。
転移を使って魔王に使い捨ての剣を何本も突き刺す。
……ピクリとも動かない。
よし、仕留めたぞ! 俺達の勝ちだ!
「ふぅ……案外上手く行くもんだ」
これで依藤達が戦う必要はなくなった。
念のために現地に飛んで先に仕留めたか確認だな。
依藤達はクマ子が足止めしてるし……今、動けるのは俺しかいない。
音声転移は世界をまたぐと作動しないのが最大の問題だな……。
なんて思いながら俺は魔王の死体が転がる玉座の間へと転移した。
スタッと着地して、剣が大量に突き刺さり、膝をついて絶命している魔王に近寄る。
依藤達は……うん、俺を思い出したみたいだな。
『羽橋……うん。見てるか?』
「ああ、見てる。狙撃で仕留める事が出来たぞ。しかし奇襲を避けた挙句、レジストとか……」
『さすがは魔王って事か? これで俺達は帰れるのか?』
これでみんなを帰す事が出来るなら良い事尽くめだ。
『ガウー』
クマ子がみんなを前に行かせない様に説得はしてくれていたからな。
『すぐに魔王の元へ向かう。羽橋は何処にいる?』
「その魔王の前だよ。死んでるかちゃんと確認出来るのは俺しかいなかったからさ」
依藤達が到着するのを待つよりも確認したいって気持ちを優先してしまったからな……。
まあ……この先に、本当の魔王って奴がいるかもしれないって不安はある。
どちらにしても依藤達と合流したら、俺は茂信の方へ戻るか。
『じゃあすぐに向かう。何が起こるかわからないんだ。警戒しろよ?』
「ああ、それで――」
と、俺が依藤と会話をしているその時――
魔王から靄が出て、一瞬で俺に向かって何かが突撃してくる所だった。
咄嗟に、避けて距離を取りながら腰に下げた剣を抜く。
キンっと剣と剣がぶつかって火花が散った。
「そなたが先ほどの狙撃手か。認識外の一撃にわらわも驚いたぞ」
強靭な蹴りをくらって更に吹き飛ばされるが、どうにか受け身を取る。
「く……効果切れか」
俺と似た様な転移系の攻撃?
チラッとしか見えなかったけど魔王の亡骸をすり抜ける様に出てきた。
そこには銀髪赤眼の……少女が魔王の腰に差してあった剣を持って立っていた。
年は……12歳くらいか。顔の作りはとても整っている。
幼いにも関わらず妖艶な匂いと言うのか、邪悪そうな雰囲気を纏っている様に感じた。
少なくとも魔王に関わる者であるのは間違いない。
恐ろしく早い一撃だった。
間違いなくシャコよりも早く強い、必殺の一撃を放ってきた。