オリジナル言語
『まずは持ち込んだ物の補給が出来るかの確認、出来る限りの索敵をしながら堅実に攻めて行こう』
『『『おう!』』』
「あーテステス、じゃあ物品が送れるかテストするぞー」
俺が音声転移で依藤達に声を掛ける。
『うお、そういや羽橋はこういう事が出来るんだったな』
萩沢が今更になって驚く。
そういや、お前は前線に行く事ってなかったもんな。
『時々頼んだ物を届けてくれるから助かってる。萩沢も羽橋が如何に重要なポジションか、これでわかると良いな』
依藤が我が事の様に萩沢に向かって話す。
「はいはい。じゃあ物を飛ばすから依藤、範囲を指定してくれ、飛ばしてる最中に入られるとシャレにならない」
『了解』
という訳で依藤が物を飛ばせるかどうかを確認するために、範囲を決めて合図を出す。
俺は合図に合わせて、飛ばす物……予備の回復薬とその材料を指定する。
……うん。侵入不可の妨害はされていない様だ。
すんなりと転移が出来た。
「……?」
茂信が俺の方を見て首を傾げている。
どうしたんだ?
『おお……便利だなー』
萩沢が薬を確認して呟く。
「上手く飛ばせるみたいだ。とはいえ、いつ飛ばせなくなるかわからないから注意してくれ」
『OK! じゃあ休憩もこれくらいにして出発するぞ』
という訳で依藤を先頭に、城内への探索を始めた。
道中には倒れた冒険者とかいるかもしれないから回復薬は多めに持ちこんでいる。
場合によっては俺が追加で回復薬を飛ばす予定だ。
って感じに依藤は通路を通って城内へ続く門の前に立つ。
特に鍵とかは掛っていないみたいだが……。
『天空の城って感じで……落ちたらシャレにならねー』
『大砲を破壊しておいた方が良いか?』
等、通路の吹き抜けから城の塀にある大砲を見て前線のみんなは呟く。
そこで扉に手を掛けた際に……扉の脇にある石碑の様な物に萩沢が目を向けた。
『ん?』
『何かの石碑……やっぱり文字が書かれているみたいね』
黒本さんが石碑に書かれている文字に手を添えて読み取ろうと試みる。
しかし、黒本さんは首を振る。
『……ダメね。各地の遺跡と同じように、なんて書かれているかよくわからないわ』
が、そこで萩沢がその文字を見て……首を傾げている。
どうしたんだ?
『この文字、見覚えがある様な気がするぞ』
『小野が持っていた羊皮紙とは違うって話だからな?』
依藤が念押しをする。
ああ、そういや黒本さんに謎の羊皮紙を持っていてもらったもんな。
結局、なんて書かれているか解読不能だったし。
文字の雰囲気から何まで全く違うそうだ。
『そうじゃねえよ。これ……いやいや』
『なんだよ? 何か心当たりがあるなら説明しろって、後になって判明したら困るだろ』
『わかってる。幾らなんでもありえねえから言ってんだよ』
『萩沢、お前、もしかしてこれ読めるのか?』
え? 萩沢の奴、この謎の文字を読む事が出来るのか?
それは凄い。
しかし……なんで黒本さんではなく、萩沢が?
道具作成と関わりのある文字なんだろうか?
『ちげーって、幾らなんでもありえねえって』
『なんだ? 何かあるってのか?』
『ありえねえ! ありえねえっての! 偶然だ。恥ずかしい忌まわしき思い出でしかない! ありえん!』
「……中学生の時に書いたオリジナル言語、だったりしないよな?」
俺の音声転移の声に、萩沢がサッとみんなから視線を逸らす。
「よくそんなの覚えてるな。俺だったら忘れてるぞ」
『うっせーな! 最近、カッコつけて思い出してたんだよ』
ああ、そういや萩沢の奴、自分の作った道具にブランド名とか入れたらカッコいいだろ? ってデザインしてたもんな。
まさかその恥ずかしい思い出を掘り出して書いていたのか?
確かに、そんなオリジナル言語を解読するのは黒本さんの能力じゃ難しいか。
文字としての体裁を保っていない訳だし。
『とりあえずなんて書いてあるか言えよ。判断はみんなでするからよ』
みんなに睨まれて萩沢をミケが庇うが……それで解決はしないだろ。
そもそも別に責めている訳じゃない。
『ぜってー間違ってるからな? ここに書かれてる文字を俺が解読すると「俺が建てたルシアちゃんの城・入り口」って書いてあるんだよ』
『……』
いや……誰だよ、ルシアちゃん。
あ、依藤を初め、みんなが呆れた様な目で萩沢を見ている。
無理に聞き出しておいてアレだが、凄く微妙だ。どう反応すれば良いのかわからない。
そもそもなんで魔王の城をお前が建ててるんだよ。
これは本人の言葉通り、誤訳だな。
『く……恥ずかしい思い出を掘り出されてこれかよ!』
『ま、偶然の一致で片付けられるが、一考の余地ありだな』
そうか? 確実にハズレだと思うが。
とはいえ、なんとなく萩沢なら書きそうな自己主張なのが不安だ。
『同名の人物が歴史にいる訳だしな。萩沢と同じような奴がいたのかもしれない』
『羽橋が転移に失敗してタイムスリップとかありえるぞ?』
『こえーこと言うなよ。過去に行った俺がこんな城作ったってか?』
なんて言いながら扉を開けて、みんなは進んで行く。
緊張感は……何か無くなった気がするなぁ。
ま、これくらい余裕があった方が良いのかもしれない。
なんて思いつつ依藤達は着実に城の中を攻略して行った。
まあ、先行して侵入した冒険者たちが動けずに籠城している所とかに通りかかって救助とかして行ってる訳だけどさ。
広間から階段を上がって、客室……兵士の宿舎に騎士団入り口、教会と……ホント、巨大なダンジョンに見えなくもない場所だ。
出てくる魔物も幽霊系とかスケルトンとか……リビングアーマーとかが目立つ。
『おらぁ! 能力を乱射出来るって結構気持ち良いな』
『物資補給をハネバシが常時してくれるから、助かるぜ』
『普段は定期的に見てくれるだけだもんなー』
常時見てなんていられないっての!
実さんがいるから回復出来ているだけだ。
最近はLvの上昇で魔力が増えたから起きてから寝るまで見続ける事くらいは出来る様になったが……。
それにしても……依藤達もかなり無茶な事をして行くな。
という所で、危険な魔物の分析が終わった。
『スチールダークネスリビングナイトが驚異だ。一撃が無駄に強力で、依藤の切り札と似た技を時々ぶっ放してくる。Lvに自信が無い奴は前に出るなよ? 殺されるぞ』
『その必殺攻撃も依藤が弾いて逸らしてるからどうにかなるだろ?』
『数で来られたら危ない……死が見えかねないぞ?』
なんてフラグをかましているからか、スチールダークネスリビングナイトが群れで襲いかかってくる。
しかも隊列を組んでるぞ。
『やばい! みんな気を付けろ!』
依藤の指示でみんな回避や防御態勢を取る。
隊列を組んで、依藤が得意にしている天魔一刀みたいな攻撃を断続的に放ち始めた。
『ぐ……やばい。後方に下がりながら――』
剣ではじいたり、魔法で防御陣形を取っている依藤達が徐々に押され始めた。
後方に下がろうとした瞬間、罠だとばかりに後方にもスチールダークネスリビングナイトが出てくる。
『回り込まれた!?』
『危ない!』
クラスメイトに攻撃が当たりそうになったのを依藤が庇う。
肩から斜めに切りつけられて、鎧が破損、鮮血が飛ぶ。
『く……』
同様にLvの高い者が低めの者を庇い、戦線がガタガタになり始めた。
「大丈夫か!?」
遠隔で回復魔法を放つ。
俺の唱えられる魔法はそこまで強力な物は無いが、多少の手助けにはなるだろう。
『え……?』
依藤達が俺の回復魔法を受けて、スッと立ち上がった。
「待ってろよ! 援護射撃を出したからな」
事前に詠唱をしておいた。
30本ほど、茂信の作った安物の剣を依藤達に陣形を組んで襲いかかっているスチールダークネスリビングナイトに向かって着弾させる。
ドスっと良い感じの衝撃と共にスチールダークネスリビングナイトの群れに安物の剣が突き刺さって瓦解する。
あ、転移場所をミスった一本が壁に突き……刺さらず弾かれた。
『すげー』
萩沢が口笛を吹く。
『い、今だ! みんな、畳みかけろ!』