Lv上げ
「今回は俺がやっておく」
自主的に萩沢が手を上げる。
「良いのか?」
「ああ、虫は好きな方だし、どんな構造してるのか興味あったからやってみる。綺麗な甲殻を茂信に加工してもらったら楽しそうじゃないか」
虫が好きとは……男ならそんなに珍しく無いのか?
もしかしたら萩沢は生物の科目が好きなのかもしれないな。
……そうだとしても生きて日本に帰らないと始まらないか。
「そうだな。確かにゲーム的な楽しさがあるかも」
なんて感じに俺達は着実に魔物を仕留めて行った。
3度目の戦闘を経験した時だっただろうか。
パパーっとなんか音が聞こえた。
Lvアップ!
Lv2
「Lvが上がったの?」
飛山さんを除き、揃ってみんなが同じ言葉を吐く。
えっと……一応はステータスが成長しているようだ。
「順調だけど時間はどれくらい経過した?」
「えっと、30分くらいだと思う」
姫野さんの言葉に状況を整理する。
また30分か……もっと時間が立っていると思った。
一戦10分のペースか……。
「少し遅いのはしょうがないか……」
「これって遅いのか?」
飛山さんの話を推測するに少しペースは遅い様だ。
とはいえ、俺達に出来る事はこんなもんだろう。
むしろ俺達でもLvを上げて行けるという結果を残せただけでも儲け物だ。
「とりあえず、着実にLvを上げてLv5を目指そう。谷泉くん達が隠しているつもりだけど、Lv5で能力に拡張が掛るらしいの」
「そうなのか?」
初耳なんだが。
そういえば小野の能力が上がって効果時間が延びたとか聞いたな。
拡張とやらの事だったのか。
「この前の夜の会合で話したじゃないか」
え? あー……俺が日本に戻った時の話だったのかもしれない。
この場合、俺がいなくてもいた認識になる。
なるほど、こういう難点があるのか。
気を付けられる事じゃないが、警戒はしておこう。
「悪い。まだ戦闘で混乱しているのかもしれないな」
しかし……Lvで能力の拡張か。
どんな事が出来るようになるのか楽しみだな。
なんて話をしていると今度はアップルグリーンチューリップという緑色系の歩くチューリップ……と遭遇した。
葉を動かして、花粉を飛ばしながら花の部分で噛みつこうとしてくる。
大きさは膝くらい。小型で助かるのかどうなのか。
植物系の魔物だなぁ。
まだ戦いやすいから良いか。
しかし群生していたのか6本いる。
少し離れた所に何本もいるみたいだ。
完全に魔物の群れみたいな感じだが、大丈夫か?
「一匹一匹はあんまり強くない! 行こう!」
「わかってる!」
そう思って俺は5本程斬り飛ばしている所で増援がわらわらとやって来ているのに危機感を覚える。
「谷泉くんだったら喜びそうな光景だね」
飛山さんも冷や汗を流しながら呟いた。
そうだろうなぁ。谷泉だったら喜んで炎を撒いているはずだ。
相性も良いだろうしな。
まだそこまで数は多くないが、何処まで湧くんだ?
「みんな! 伏せろ!」
そこで後方で静かにしていた萩沢が何かをアップルグリーンチューリップに向かって投げつける。
バシュッと音を立てて辺りが火の海に変わる。
とはいっても直ぐに消えてしまったのだが、アップルグリーンチューリップに引火して範囲内に居たチューリップ共は燃え尽きる。
火の気配に脅えてチューリップ共は揃って逃げ出した。
「おお……」
振り返ると萩沢が何か……丸い爆弾みたいな物を握りしめて勝ち誇った笑みを浮かべている。
「調理時に捨てられた肉の脂肪分を集めておいたんだ。ポイントが入ったから能力で作ってみた」
「凄いじゃないか!」
褒める茂信に萩沢は照れたように苦笑いを浮かべている。
俺も一緒になって褒めておこう。
極限状態のストレスは発散出来る内にしといた方が良いからな。
所謂、褒めて伸ばすって奴だ。
「凄いじゃないか萩沢! 谷泉もバカだよな。アイテムが一番強いゲームだってあるのにな」
俺がそう言うと萩沢は満更でも無い、という表情を浮かべた。
とりあえず成果を出した奴はとことん褒める方向で行こう。
どこまで効果があるかはわからないが、結束力を深めるには仲が良い方が良いに決まっている。
「とはいえ、さっき手に入れたポイントを使いきっちまった。燃費が悪いな。出来れば使わない方が今後の事を考えると良さそうだ」
萩沢が自嘲する様に呟く。
「あんまり自分を卑下するなよ。いつか役に立つときが来るし、窮地の時に使えば切り札になる」
まあ……効果時間も一瞬だし、そこまで火力は期待できないのが難点と言えば難点だ。
だが、あのままじり貧で撤退するよりは良かった。
これも伝えた。
瞬発火力としては優秀だしな。
「数も集まっていたから良い感じに経験値が入ったし、ポイントもとんとんだろ」
むしろ割り振られた分を集めりゃ黒字だ。
「とはいえ……爆弾で倒したのは素材にするのは難しそうだね」
燃えて炭化しているチューリップを飛山さんは見て呟く。
「十分な素材は確保しているから問題ない」
擁護する様に茂信が答え、みんなして励まし合う。
うん。あり合わせの緊急パーティーだけど思ったよりも戦えてるぞ。
物理で戦っている気がするけど、気にしたら負け!
で、数を倒したお陰ですぐにLv3に上昇した。
萩沢様様だな。
そんなこんなで周りの雑魚系魔物を仕留めて行った。
逃げ足の速いチャコールグレイ角ウサギという魔物を回り込んで倒すのにはちょっと苦戦したけどさ。
やがて帰らなければいけない時間が近付いて来た。
3から4までもう少し掛る、飛山さんは5まで後少しって所らしい。
ポイントに関して言えば……多少稼いだという所かな?
みんなで一ヶ所に集めて茂信に渡せば良い装備が作れる事を期待するしかない。
なんて所で何か違和感のある光沢のある岩っぽい何かと遭遇する。
「あ、この魔物は無視した方が良いよ。敵意も無いみたい」
そう注意したのは飛山さんだ。
俺達は目の前にある何かに目を向ける。
ブルーメタルタートル。
「亀なのかコレ?」
「黙って遠くで見てると足を出して動き始めるの。ただ、甲羅に入るのがすごく早くて谷泉くん達の能力でも倒せない……物凄い防御力のある魔物で。あの谷泉くん達でさえ無視した奴」
「へー……」
姫野さんがちょんと甲羅らしき所を杖で叩く。
コンコンと硬そうな音が響いたぞ。
あの炎が使える谷泉の能力でも倒せないって、相当硬いんだろうな。
「閉じこもっているだけで無害なんだけど……谷泉くん達はいずれ倒して見せるって言ってたよ」
「素材に良さそうだもんな」
俺の返答に茂信と飛山さんが頷く。
「そうなの?」
姫野さんはゲームに疎い感じかな? 飛山さんは理屈を理解してるみたいだけど。
「それだけ硬いって事は、上手く武器や防具に転用出来たら優秀って事だよ」
「なるほど」
攻撃力はともかく、防御力は相当上がりそうだ。
「硬いなら……能力で装備に変換できるか? 見当も付かないな」
俺も剣で軽く突いてみるがビクともしない。
むしろ突いた剣が欠けそうで怖い。
谷泉達が倒すのを諦めた魔物……ピクリとも動かず、甲羅に閉じこもる亀か。
「昔、ネットの動画でワシだったかが亀を掴んで飛んで、高い所から落として仕留めるってのを見たな。飛山さんなら出来るんじゃないか?」
「足元に転送? 残念だけど高度の指定は出来ないからなぁ……魔物を飛ばせるかわからないよ」
「そうだよなぁ……」
という所で、転移初日に考えていた事を思い出す。
俺は落ちてた石を拾い上げて亀の方を向いた。
「……俺の転移でこの亀の内部に石とか送りつけたらどうなるかな?」