ペンギン
試合免除は結構だけど……実さんが不満に思いそうだな。
そう思って実さんを見てると、首を傾げられる。
「どうしたんですか?」
「いや、試合の審判出来なくて不満かな? って思って」
「どうしてですか?」
「いや、実さん、俺とクマ子の試合を楽しみにしてるんじゃないの?」
「???」
実さんはずっと首を傾げてる。
無自覚ですか……そうですか。
ちなみにグローブの性能は……ナイトウォールラスのグローブと似てるな。
上位互換だったんだろうけど、シャコの所為で性能が落ちる。
ベルトは基礎性能が若干上がったっぽい。
シャコのお陰でかなりクマ子はパワーアップしたのは間違いないな。
「お待ちかねのクマ子ちゃんの変身パターンの増加ですよー!」
実さんの言葉にオレンジグローブナイトウォールラスのボスがこれでもかと目を輝かせて俺を見てるのは……何なんでしょうね。
「ヴォフー……」
手を合わせて祈る様なポーズを取らないで貰いたい。
その巨体でそんな事をされても俺に何が出来るのか。
と言うか、何を俺に望んでるんだお前は。
俺との再戦でもクマ子との戦闘でも無く、ペンギン相手ににらみ合いをしていた様だし。
「ガウー」
まあ、俺の視界にはボクサーケープペンギンの変身パターンが浮かんでいるんだけど。
「あの……すごく選び辛いんだけど」
「だろうなー大きなセイウチにずーっと凝視されてるみたいだし」
「クマ子の変身パターンを変えないでくれって懇願してる様にしか見えないだろ」
「ペンギンもそれを理解して敢えてって風にも見えなくは無いし」
そう。
ぶっちゃけるとオレンジグローブナイトウォールラスのボスはクマ子の変身パターンのリストラをしないでほしいと視線で訴えているのが分かる。
「ささ、幸成くん。クマ子ちゃんが幸成くんの大好きなペンギンに変化するんですよ」
「いや、だから、実さん」
クマ子の事になると実さんって周りへの配慮が吹き飛ぶんだよな。
「ガウー」
クマ子もオレンジグローブナイトウォールラスのボスの視線なんて全く気にしないって様子だし。
そんなにもペンギン姿になりたいのか。
能力的には現実のセイウチとペンギンとは異なり……似たり寄ったりの能力値をしている。
若干、セイウチの方が攻撃力が高めかな?
どっちも水中戦用の魔物って感じだ。
「その……な」
オレンジグローブナイトウォールラスのボスに視線を向ける。
たぶん、断れば唾を吐いて渋々海へ帰るよな。そう言う演技をする魔物だし。
茂信達に視線を向ける。
どっちが良いと思う?
クマ姿であるグリズリーを消す意味は殆ど無い。クマ子を水中仕様だけにしたいなら別だけどさ。
普段世話する意味で、それは扱い辛い。
なので、セイウチかペンギンの二択となる。枠が無い訳だし。
すると茂信達は察して、どっちを取るか、その場にいる連中で多数決を事前に決めた訳じゃないのに行う。
結果、ペンギンが大多数となってる。
オレンジグローブナイトウォールラスのボスは振り返って事態を理解、思い切り無言で睨んでる。
「その、ごめんな」
正直に言えばセイウチ姿のクマ子は海で遊ぶには悪くは無いけど、地上じゃ大きすぎるんだよ。
腹を引きずるし、動きが遅すぎる。
ペンギンもきっと変わらないけど、少なくともセイウチよりは扱いやすいと思う。
多数決でも何でも決まっちゃってるし。
俺はナイトウォールラスを削除してボクサーケープペンギンに変身パターンの登録を終える。
「ガウー」
クマ子が俺の選択に寄る変身パターンの変化でボクサーケープペンギン姿に変化した。
身長は、ボクサーケープペンギンのボスよりも小柄だけど、1メートル90センチはある。
でかすぎるだろ。まあセイウチよりも小柄な分、マシかな?
毛と言うか羽毛は、マメに俺やクマ子自身が手入れをしていたから艶がある。
ボクサーケープペンギンのボスに比べたらやっぱ丸みがあるなぁ。
なんて言うか、アニメとかでの雌ペンギンって雰囲気が漂ってる気がする。
今度頭に花のアクセサリーかリボンでも付けるか?
小さい足でトコトコと……セイウチ姿よりは身軽に歩く。
白と黒のコントラストはやっぱペンギンの長所だ。
◇ボクサーケープペンギン Lv55
能力 ボクサー
拡張能力 分厚い羽毛(大) スタミナアップ ハニーハント サーモンハント 属性耐性(中) 全能力成長補正(中)刹那の見切り カウンターパンチ威力増加
特殊能力 アシスト インセクトキラー 水中適正(中) レジェンドチャレンジャー アーマーフォーゼ メタモルフォーゼ
「キュウウ」
「わークマ子ちゃん良かったですね。これで幸成くんにもっと可愛がって貰えますね」
実さんがクマ子に抱きついてこれでもかと撫でてる。
非常に申し訳ないと思いつつ、俺はオレンジグローブナイトウォールラスのボスに視線を向ける。
どうせ、ペッと悪態を吐きつつ海へ帰るんだろ?
「ヴォフ……」
これでもかとばかりに落ち込みを見せながらトボトボと海へと帰って行く。
「唾吐いて激怒しながら悪態を吐いて海へ帰れよ……」
後ろ髪思い切り引かれるだろうが!
何なの? 再会した戦友に嫌な物を見せて体験させてしまった様な罪悪感。
どうしてお前はこんな所に来たんだよ。
多分、あのシャコを倒す、もしくは島の者達に警告をしに来たんだってくらいは分かるけど。
「ああもう……今度な、どっかで再戦するんだろ? その時は選んでやるから」
「ヴォッフ!」
俺の言葉に目を輝かせて振り返って敬礼している。
「ちなみに再戦……はボスが了承しないと出来ないのですが、戦う事が出来た場合、勝利するとグローブが更にパワーアップするそうですよ。確かMkー2と付くそうです」
ラムレスさんも説明を忘れないなぁ。
「ヴォフヴォフ」
その時まで、腕を磨いてるぜ!
ってばかりにオレンジグローブナイトウォールラスのボスがシャドーボクシングをして俺に拳を向ける。
「ああはいはい。わかったから、また何処かで会おうな」
「ヴォフ!」
俺の言葉に頷いてオレンジグローブナイトウォールラスのボスは跳ねて海の中へと入って行った。
なんだろう……ユニークウェポンモンスター相手に友情を築いている気がする。
「幸成も大変だな」
「茂信……スポーツ大好き、男の友情を好むお前が言うのか?」
むしろお前も何かユニーク武器を手に入れろ、他人事でお前の戦友が増えるのを笑って見てやるからさ。
「ははは……」
茂信が乾いた笑いをしてから、実さんとクマ子に目を向ける。
ペンギン化したクマ子が腕……フリッパーにぶら下がる実さんを持ちあげて楽しそうに鳴いてる。
「なんか羽橋の方が色々と追加でイベントと言うか何かが多くね?」
よく気づいたな萩沢。
俺もそう思う。
「言うな、俺だって好きでやってる訳じゃない」
「これが観衆を楽しませる戦いの結果か……」
「ニャアアア」
「たぶん、違うと言いたい」
ボス相手に友情を築くとか……なんて言うか、今度戦ったら、テイミング武器無いのに仲間になりそうで怖い。
あの大きなセイウチを飼うのは出来れば勘弁願いたい。
「俺も猫系のボスと友情を築けばワンチャンあるか?」
「ボスだぞ?」
「娘を下さいって頼むんだよ! そうすりゃ同系統でも……いや、別系統の猫魔物をテイミングするか」
すげえ! そこまでやるのか萩沢!
「フシャー!」
あ、ミケが威嚇してる。
完全に浮気宣言だもんな。
君は雄だけどね。
「ニャー!」
ミケも何か体を鍛えたいとばかりに屈伸や腕立てをしている。
「とにかく……勝負は終わったし、宿に帰るか」
三日目のボスって何と戦うんだろう?
シャコ撃破で免除されそうな予感がするんだけど。
「クマ子ちゃーん! ペンギンさんの姿で一泳ぎしましょう」
「キュウウー!」
実さんとクマ子は海へと駆けて行った。
多分、このまま海水浴になるのだろうか?
結界とか無いから魔物の襲撃に気を付けてほしいのだけど……大丈夫なのかな?
なんて思いながら俺達は宿へと戻った。
ちなみにクマ子がペンギン時に人化したのだけど、やはりというかなんと言うか、ペンギン由来の付属パーツ……短い尻尾と言うか尾羽くらいしか無かった。
それ以上の変化調整をすると頭ペンギン、体人間とか気持ち悪いものになりそうな雰囲気があったな。
クマ子も、複雑な人化は難しいらしくて断念していた。
三日目。
試合相手を見て、俺を含めてクラスメイトの殆どが脱力をしていた。
やはり実さんは全くぶれない。
島の竹林の奥深くに、その魔物のボスは居た。
「ガウー」
「という訳で幸成くん。幸成くんはクマさんとパンダさん。どっちが好きですか?」
そう、実さんが三日目に予約していた魔物はパンチングパンダと言う魔物でした。
やっぱシャコを撃破した活躍があって、試合免除とはなったみたいだけど……。
「えっと……疲れたからもう帰ろう。クマ子はクマで良いでしょ。ファッション変身はペンギンだけで十分だから」
「そうなんですか?」
笹を可愛らしく食べてるパンチングパンダのボスがチラッと俺達を見て、グローブとベルトを何時でも取れる所に置いてる。
期待している所悪いけれど、パンダは嫌いじゃないけど、もう疲れたし、クマ子がパンダ子になるのは微妙な気持ちになりそうなので遠慮します。
と言う訳でグローブだけ貰って俺達は帰る事にしたのだった。
ちなみにグローブにあった専用技は竹を生やして攻撃するバンブーパンチって物だった。
「ガウー」
ユニーク武器持ちのクラスメイトが有意義に楽しめる……旅だったのかな?
最終的には戦力増強は出来たと思う。
そんなこんなで俺達は、城下町へ帰還の水晶玉で戻ったのだった。