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アイリスボクサーシャコ

 茂信が何か納得して俺を哀れな者を見る目をしている。

 なんでそんな目をしてるんだよ。

 おい、親友、その目をやめろ!


「そうだな、なんだあの手付き。極自然にさりげなく実さんがクマ子の毛を撫でるみたいにペンギンを弄ってたぞ」

「ニャ!」


 いや、そんな事言われてもな。

 まあペンギンやレッサーパンダは卒業したけどさ。

 こう、生物的な好奇心というのは……まあいいか。


「クマ子と実さんがペンギンを避ける理由が無いな」

「ヴォフ!?」


 萩沢を筆頭に何か同意してる。

 おい、オレンジグローブナイトウォールラスのボス。

 お前はなんでチワワみたいな目で俺を見てるんだよ。


「う……いや、なんでその目?」


 本当に意味がわからない。

 なんで倒れたボクサーケープペンギンを起こしただけでそんな反応されないといけないのか。

 というかオレンジグローブナイトウォールラスのボスは俺に何を期待しているんだよ?

 その巨体でする目じゃないぞ。

 敢えて表現するならハゲた髭の生えたおっさんがチワワの様な目で見上げている様な気色悪さ。

 俺に何を期待してんだよ。


「変身バリエーションからリストラされそうだからじぇねえの?」

「ニャ」

「ヴォフー」


 萩沢の言葉に頷かれてもな。

 決定権は俺にあるけど、クマ子の意思ってのもある訳で、俺が一存で決めるのも間違っている気がするんだが。

 ってそうじゃなくて。


「まだ戦ってもいない挙句、対戦相手のグローブが取られちまった様な状態だろうが、勝負も何もないでしょ」


 俺はリングの上に居るはぐれユニークウェポンモンスターに視線と指をを向けて固まる。


「う……」

「ブクブクブク……」


 意識を向けていなかったのには本能的な意味もあったのかもしれない。

 背筋に悪寒が走る。

 シルエットでしか見えなかったのがくっきりとその体躯が目に入る。


「ひっ……」


 うえ……。

 思わず視線を逸らしたくなる。

 まずグローブから見て馴れなきゃ俺は直視できない。

 グローブは今まで見たグローブ内ではもっとも使いこまれた歴戦の戦士のグローブと言った雰囲気、そのグローブから連なる腕は甲殻類の様な硬そうな腕、これ……腕と言うか捕脚って言うんじゃなかったっけ?


 で、胴体の方はエビと言うかなんと言うか……甲殻を持っていて、足は三対、腹には遊泳脚っていう部位がある。

 所々に棘があって、尻尾は扇状。部位名は尾扇だったかな?

 確かエビに似てるけど遺伝子的には遠い筋なんだっけ?

 顔はとにかくエビとの違いを俺は理解できない。


 そんな……等身大のエビ、じゃないな。

 シャコがリングの上に立っていた。


「キュウ……」


 まだ殴られたショックからボクサーケープペンギンは立ち直れていないようだ。

 辺りに居た冒険者共は揃って逃げ出してしまっていて、他に残っているのはボクサー島中に居るユニークウェポンモンスターだけだ。

 まあ、自分達の縄張りと言うか生活圏を脅かすはぐれ魔物なのだから追い出す為に躍起になるのも頷ける。


「ウホウホ!」


 ゴリラが何かドラミングして威嚇してるし、他にもいろんなグローブを付けた魔物達がリングを囲むようにして敵意をむき出しにしている。


「ブクブクブク」


 泡を吐きながらシャコ……アイリスボクサーシャコが挑発的に周り全てに手招きしている。

 すぐにでも試合が始まりそうだ。


「羽橋、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ。ぶっちゃけ好きか嫌いかと言われたら苦手と答えるくらいだし、あんなのと殴り合うのは正直御免だとも思っているけど、逃げる気は無い」

「消極的なのか戦う気があるのか、どっちなんだよ!」

「危険です!」


 そこでラムレスさんが俺に進言する。

 なんだ?

 ラムレスさんが注意する程の敵なのか?


「あれはシャコ類に属するユニークウェポンモンスター、観測されたはぐれボクサー系のユニークウェポンモンスターの中でも他に類を見ない災害に認定される化け物です。いえ、はぐれと言うのは間違いかもしれません」

「そうなの?」

「形式上、特定の場所に留まらない流れの上級種をはぐれと言うのですが、他の同流派のボスを狩るとなると道場破りと分類されます」

「あのシャコがねー……そんなに強そうに見えないんだが。見た目は前に行った海岸のカニやエビと似たようなもんだろ?」

「そういえば……俺達が居た日本でも、シャコってパンチが強烈な生き物だって話を聞いた気がするな」


 茂信がそこで呟く。


「そうなのか?」


 萩沢が茂信に聞き、他のみんなも同意する。


「ああ、確か仮にシャコが人間と同じ大きさだったらの測定を記事か何かで読んだ覚えがある。パンチは最速、威力は化け物並になるとか、へたすりゃ跡形も無いんじゃないか?」

「目の前に等身大……いや、それよりも大きいのが実在するぞ。勝てるのか?」

「危険です! 嵐が過ぎ去るのを待つべきだと思います。相手はグローブとメダルにしか興味を持ちません。早く帰還の水晶玉の使用を提案します!」


 ラムレスさんの言葉は間違いないと思う。

 正直言って俺は戦いたくない。


「ヴォフ……」


 何故かオレンジグローブナイトウォールラスのボスが俺の背中を頭で押して来る。

 戦ってくれってか?

 冗談も大概にして欲しいんだが。

 というかお前もアイリスボクサーシャコを止める為に出てきたんじゃないのかよ。


「ブークブクブクブクッ!」


 そこでリングに立っていたアイリスボクサーシャコが俺を見て手招きしてくる。

 次の挑戦者はお前だ、とでも言いたげだ。

 にしても挑発的だな。逆に小者臭がするぞ。

 こう……チンピラみたいな。

 メダルが光って挑戦するか問われている様な気がする。


「パンチンググリズリーのボスみたいに俺との戦いを拒否しないのな」

「ヴォフヴォフ!」


 オレンジグローブナイトウォールラスのボスが何か説明してるみたいだけど、わからん。


「ガウー」

「えっと、クマ子ちゃんがジェスチャーしてますよ」


 クマ子が何か手を広げてからアイリスボクサーシャコを指差して、上? 震える、マッスルポーズ、手を振る?

 何を伝えたいのかまるでわからない。


「よくわからないな。どっちにしてもクマ子が戦うってのは……」

「ガウ!」


 と、俺の指名で立ち上がろうとした所で、オレンジグローブナイトウォールラスのボスがズルズルとクマ子の元へ行って肩を押さえて座らせる。

 で、俺を指差した。

 俺に戦ってもらえって事か?

 どうしてそんなに俺を推して来るんだ。


「ガウ」

「ヴォフヴォフ」


 ユニークウェポンモンスター同士で話をされても俺達じゃ理解できないぞ?

 やがて渋々と言った様子でクマ子が俺の元に戻ってきた。

 説得された?


「とりあえず、さっさと勝負を始めたい様だぞ」


 リングには既に二匹のボクサー系ボスがアイリスボクサーシャコと敵対する様に構えている。

 えっと、名前を確認してないけど、ゴリラとワニだ。

 最後の指名として俺が待たせている構図だ。

 お前等雑魚は群れて勝負するくらいが調度良いとでも言いたげだな。


「はいはい、わかったよ。やれば良いんだろ」

「勝てません、ハネバシ様! 逃げましょう!」

「負けちゃうかもしれないんですよ。そうなったらクマ子ちゃんはグローブが無いですよ!」

「ガウ?」


 あ、実さんの言葉にクマ子が首を傾げている。


「グローブ自体は武器として茂信とかに作ってはもらえるだろ。ユニーク装備が無くなるだけでさ」

「ガウ」


 クマ子が頷く。


「ああ、そうなのか」


 茂信、お前が理解しないでどうするんだ?

 まあ、クマ子の力の源であるのは確かだし、付与効果の面じゃかなり劣るだろうけどな。


「むしろクマ子はここで逃げる事の方が嫌なんだろ?」

「ガウ!」


 クマ子は頷く。

 おそらく、はぐれの魔物がグローブ狩りをしていると言うのはボクサー系のユニークウェポンモンスターからするとあんまり良い印象を持たないんだろう。

 だから撤退は極力避けたい。

 その意思がボクサー等の魔物達にもあって、道場破りみたいなアイリスボクサーシャコへの挑戦を諦めないんだ。

 このままじゃ島中の魔物のボスがグローブを奪われてしまうかもしれない。


 それを阻止するには、アイリスボクサーシャコに勝たないといけないと言う事だ。

 負けるかもしれない。

 それでも挑まないとな。

 Lv的に強引に相手をねじ伏せてきた俺達もアイリスボクサーシャコと同じような物だ。


「わかった。どうなっても責任は持てないが、やれるだけやってみる。クマ子、頼むぞ」

「ガウ!」


 目を輝かせ、晴れやかな表情でクマ子は俺に擦り寄り、グローブとなって俺の手に嵌った。


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