表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/233

グリズリー

「ガウー」


 クマ子も便乗して人化して手を合わせている。

 一応、実さんもクマ子も国内では上から数えた方が早い美少女な訳で、マイナー武器であるボクサーグローブのユニーク武器んの使い手からしたら美少女のお願いと言うとても美味しい状況。


「私達、さっき試合表を確認しました。このボスの札なんですけど……ダメですか?」

「あー……これは、悪くは無いなぁ……」


 冒険者の方も実さんが持っていた札に対応するボスを照らし合わせているっぽい。


「同格ですね。むしろハネバシ様が挑戦する方のボスの方が人気があります」


 ラムレスさん。説明しないで良いです。

 実さんは意図しているのか天然なのか、冒険者を誘惑する様にお願いしてる。

 相手も妥協して戦うボスとそのボスよりも人気の高いボスとの戦闘札の交換がぶら下がっている。


「よし! いいぜ! その代わり、後で試合を見に来てくれよ!」

「はい!」


 卑猥な事を要求するかと思ったら、健全な返答だった。

 だが、問題はそこじゃない。

 頷かないでもらいたい!

 かと言ってこんな所まで来てしまった手間、異議を唱えるのもなぁ。


「クマ子のケモノ耳バリエーションの増加を期待していたが、ペンギンじゃ期待できなく無いか?」


 萩沢が勝ってもいない相手から得られるクマ子の変身パターンの皮算用を始めている。

 まあ……多分、勝てるとは思うけどさ。


「萩沢くんは何にもわかってませんね」


 対戦札を交換してから実さんが勝ち誇った笑みを萩沢に向ける。


「何も魔物としてのパーツだけがクマ子ちゃんの魅力じゃないんですよ? 魔物としての姿で幸成くんの好きな動物であれば幸成くんがクマ子ちゃんを大事にしてくれるに決まってるじゃないですか」


 そして実さんは強く拳を握って前に出して力説する。

 く……実さんは魔物形態のクマ子を気に入っていたんだ。

 萩沢の話題を逸らしても無駄だった。

 当然の結果って事じゃないか!


「更にペンギンさんのクマ子ちゃんならとても可愛いです! クマ子ちゃんも幸成くんの好きな動物姿になりますし、私もそんなクマ子ちゃんなら満足出来ます! なのでメリットしかありません」

「ガウー」


 ああ、はいはい……もう好きにしてください。

 俺はぼーっと実さんと萩沢の会話を見ている事にしよう。


「レッサーパンダのボスさんは不幸にも島にはいませんね……私もクマ子ちゃんがクマである所は譲れないので、どちらかしかありません」

「クマ姿は譲れないんですね」


 クマ子がクマ姿であるの事は絶対に譲らない実さんの信念は何処にあるんでしょうね?


「はい!」


 その満面の笑顔は誰に向けているのか、俺には理解できませんよ?


「クマ子ちゃんがクマである事を忘れてしまったらクマ子ちゃんではないですよ?」

「そういう問題?」


 何か非常に間違っている様な気がする。

 というか三回も戦うボスの中で、一枠がペンギンだとして……残り二枠は何なんだ?


「それじゃあこれから行きましょうー」

「ガウー」

「……おおー」


 俺が力無く手を上げるとみんな苦笑いをしながら、同情の目を向けてくる。

 そんな訳で俺達は荷物を置いて、本日の試合会場へと向かった。



「それで……今夜戦うのはどんなボスなの?」

「えー……パンチングナイトグリズリーさんです。色は出現時に変わるそうなんでわかりません」


 ああ……そうなんだ?

 グリズリーって所が実さんらしいな。

 また重量級な訳ね……。


「明日のお昼にペンギンさんです。次は……お楽しみにしてくださいね」


 実さん……サプライズのつもりだろうか?

 ラムレスさんとか国の連中に聞けば教えてくれそうであるけど……。

 暗闇の中でスキップで歩いて行く実さんに俺はそれ以上知る気力が損なわれてしまった。

 強くなれるから嫌じゃないけど、何か間違っている様な気がする。


 そう思いながら、島の中腹にある大きめのリングに到着した。

 するとクマ子の腹に巻かれたベルトがキラッと光り、ピーコックブルーパンチングナイトグリズリーと言う魔物の群れとボスが姿を現す。

 どしーんと、やっぱ木から飛び降りてきたっぽい。

 パンチングベアーのボスの時も思ったが、デカイな。


 やっぱ腕回りに妙に逆立つ毛を持ってる。

 こう……長袖の袖を無理やり破り捨てたみたいな感じの……毎度思うけど、ボクシングって上半身裸なイメージあるけど、この世界じゃどうなんだろう?

 そう言う意味じゃカンガルーとかの方がちゃんとボクシングやってた気がする。


 で、やっぱガムを噛んでるっぽい?

 あ、煙草だ。


「平均よりも大きいですね。金冠でしょうか? 色も青くて良いですね……」


 狩りゲーに汚染されたラムレスさんがポツリと呟く。

 個体差あるのは知ってるけど、その表現はどうなんだ?

 後でゲームと現実をごっちゃにしない様に注意しておこうかな……。


「ガウガウガウガガガウガウ?」


 あ? 挑戦者か? ぞろぞろと女子供ばかり連れてきやがって、お遊戯でもする気か?

 って挑発している。

 やっぱりこの手の連中は挑発を忘れないみたいだ。


「幸成くんとクマ子ちゃんの実力を見てから言ってください!」


 あ、もうスイッチ入ってる。

 審判をする気満々でリングに上がってるし。

 とりあえずボスの挑発に乗るか。


「実さんが答えるのもどうかと思うけど、俺に勝ってから言うんだな」


 と、俺がリングに上がろうとしたらピーコックブルーパンチングナイトグリズリーのボスが物凄く焦った様な落ち付きの無い顔をした後、何故かクマ子を指差す。

 ……なんでクマ子?

 こんな反応初めて見たぞ。


「ガウガウガウガウガウウガガガガウ?」


 は、はんっ! 人間の手を借りてただ見てるだけとは、魔物としてのプライドも無いのか? この腰ぬけめ!

 この先も何か鳴いているんだけど、俺には何故か察する事が出来なかった。


「ガウガウガウ!」


 クマ子も挑発を受けて不快そうに鳴いている。

 しかし鳴き方が一緒な所為か、よく聞かないとわかりづらいな。

 クマ子の方が声音が高いから、俺はわかるけどさ。

 それにしても……。


「何やってんだ? 俺を指名した勝負だろ? 武器の所有者は俺だぞ?」


 リングに上がってボスに詰め寄ろうとすると、ボスは俺を睨んで首を振って相手をしてくれない。

 どういう事だ?


「ガウガウガウ」


 お前は黙って下がっていろ! の一点張りだ。

 なんで頭下げているんだ?

 下がってくださいって感じだ。


「一体どうなってんだ?」


 今までのボスとはどうも反応が違うなぁ。

 俺とは戦いたくない様だ。


「じゃあどうしろって言うんだよ?」


 俺の言葉にボスが再度クマ子に拳を向ける。


「クマ子単体で勝負しろって事か?」

「ガウ!」


 あ、頷かれた。


「ガウウウ」


 クマ子もやる気なのかリングに上がって来る。


「勝負を断られたんだが……」

「過去に前例が多数ありますよ」


 そこでラムレスさんが手帳を広げて答える。

 何かあるのかな?


「えー……色々と条件はあるそうですが、多いケースとして、対象のユニーク武器でテイミングした魔物に人化薬を服用した場合ですね。どうやら人間として分類をされて、指名されるそうです」


 俺は無言で萩沢を睨みつける。

 お前か、お前の所為でこんな面倒な指名を受ける羽目になったのか。


「う……く、クマ子がボクシング……羽橋みたいにボコボコにされる姿……何かに目覚めちまいそうだぜ……」


 どんな光景を想像して興奮してんだ!

 コイツ、実は結構やばい奴なんじゃないのか?

 まあいい。

 どうやら萩沢がクマ子に人化薬を与えてしまった事による弊害だと思った方が良さそうだな。

 明日もこうなるのか?


「萩沢、お前が人化薬なんて面倒な代物を作らなければこんな事にはならなかったんだぞ」

「クマ子がんばれー!」

「聞けよ!」


 くそ、お前のミケに何かいたずらしてやろうか!

 ミケに何か能力転移とかさせてやりたくなるな。

 欲しがる能力が分かれば斡旋させられるかな?

 それとも膨大なポイントを金銭に変えて人化薬を何処かで購入して飲ませるか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ