高額収入
で、能力転移を作動させて二人に承認を促す。
すると、俺を前にして祈っていた二人がそれぞれハッとした様に驚きを見せた後、承認をしたようだった。
俺の魔力が減ると同時に二人の顔が明るくなる。
「藁にも縋る気持ちで申し込みましたけど、まさか本当に手に入るとは思いませんでした! ありがとうございます」
「やっと! みんなと同じ土壌に立てる! ありがとうございます!」
二人揃って晴れやかな表情で祭壇を降りて行く。
「今回の報酬です」
実さんが俺を回復させている最中に神父が俺にポイントを渡す。
本当に50万ポイントが振りこまれたぞ!
凄いな。
あの二人はそれぞれ30万ポイントを払って行ったという事だ。
もしかしたら貴族側の青年が全額支払ったのかもしれないけどさ。
二人とも欲しがった能力が手に入った様で、歩調が軽い。
中年男性なんて年甲斐も無くスキップしてる。
本当に欲しい能力だったんだなぁ。
そんな感じで分単位のスケジュールで俺は能力転移で、依頼人同士の能力を交換して行った。
さすがに1日……夕方の5時頃には業務が終わったけれど、数えるのもウンザリする人の能力を交換して行った。
もちろん、交換された者達はみんな表情が明るくなって行った。
途中で変則的な処理として、片方が望む能力を交換し、別の人と更に交換とかも行った。
まあ、そうそうマッチングが噛みあう事も珍しいか。
この辺りは臨機応変って事っぽい。
僅か1日で膨大なポイントが俺の懐に流れ込む、今までの収入と比べてもおかしい数字だ。
1日にして大金持ち……になった様なもんだな。
しかし、これだけポイントがあって、買えない物とか素材が多々ある。
一応、プールするのが相場か。
「ふう……疲れた」
「ガウー」
仕事から帰って、茂信の工房で休むと人型のクマ子が俺の肩を揉んでくれる。
こういう部分は人型になって良かったと思える部分なんだろうか?
「お疲れ、どうだった?」
「ぶっちゃけ凄いポイントが入って来る。僅か1日で1500万ポイントが入ってきたぞ」
「せんごっ――」
あ、茂信が絶句して口元を隠した。
「スッゲーな!」
「ニャ!」
萩沢も興奮気味だ。ミケも合わせている。
まあ萩沢の口が堅い事を祈るしかない。
しかし……よく考えるとおかしい話だ。
1時間300万ポイントだぞ?
まあ初日だからかもしれないけど、人の数だけ悩みがあって、一人に付き30万ポイントで望みの能力が手に入る状況みたいな物だ。
需要があるって事なのは本当なんだな。王様が抱え込む訳だ。
とはいえ、能力不適合で困っている人の数にも限りがある訳で。
いつまでこの収入が維持されるかは不明だ。
溜めるだけ溜めて、みんなの装備代の足しにするのが無難だろうな。
「それだけのポイントがあればもう何も怖くないんじゃね? フルメタルタートル装備所じゃねえだろ」
「まあ、そうなんだがな」
「問題は素材か」
茂信の言葉に俺は頷く。
アダマントタートル素材の装備は金を積んでも手に入らない物が多い。
それこそ、伝説級の素材って事なんだと思う。
「じゃあアレだな。フルメタルタートルの甲羅を俺が売買で生成してやるから、精練しようぜ!」
萩沢の言葉に茂信が目を光らせて俺を見ている。
なんか精錬の話をすると茂信はいつもこんな調子だよな。
親友だと思っていたが、認識を変えねばならないかもしれない。
「フルメタルタートルシリーズで過剰精練が出来れば俺も一気に有名人だ! 店に飾りたい」
「あのな……」
そんな金食い虫を作ってどうするんだよ。
確かに出来ない状況ではなくなって来てるけどさ……。
めぐるさんの形見の剣でなければやっても良いけど、稼ぎが泡に帰すのは結構きついんだぞ?
しかも依藤達はグローブの方を使用する事を勧めてくるし……気持ちはわかるんだけど。
防具の方を過剰に挑戦……とは言ってもな。
「どっちにしても依藤達に特化装備の支給をさせた方が総合的な稼ぎが上がるんじゃないか?」
「まあ……そうだな」
最近では依藤は茂信に作れる装備の素材とかを聞いて、特化装備の作成を始めている。
厄年で活発化する魔物の駆逐は国の事業にもなっている程で、俺達が居た森の方にも変化が現れていると聞く。
魔物が結構な頻度で森から飛び出して来る事態になっているんだとか。
物騒な話だな。
「まあ、どっちにしても幸成の装備の新調をして行っても良い頃合いかもしれないしな」
「Lvは上がって来ているが、まだフルメタルタートルをどうにか着て動けるくらいだぞ」
依藤達とはまだLvが離れているし、少しずつ追いつこうとしているけど、まだまだ上げてもらっているって段階だ。
能力転移で何か戦闘向けの能力が欲しいが、能力転移は俺自身を指定出来ないんだよな……。
「そういや二週間後くらいだったかな? 実さんが幸成の対戦相手を選定してるっぽいぞ」
「あー……その話か」
俺も職業神殿から帰るついでに閲覧してきた。
対戦可能な相手の予約表的な物を。
魔物の管理ってされているのと、近隣の魔物が強くて凶悪だからされていないのがいる。
分布は図書館でもわかるけど、職業神殿の管轄らしい。
更に流れのボスと言うのもいるらしい。
階級が上がるとその辺りのボスが増えて居場所が特定出来なくなる。
実さんはボクサー系のボスを選んでいる。セイウチの後のボスとなると、安易にボクサー系の島へと行く事になるだろう。
いずれ戦う事になるんだろうなぁ。
で、ボクサー島で一番強いボスを倒した後は、流れのボスを探す事になる。
俺は実さんが試合を見る時の輝く瞳を忘れない。
実さんはクマ子が人化した際の激昂から来る行動を含め、無意識に好きなのが試合鑑賞だ。
間違いない。
見世物にされかねないけど……クマ子のパワーアップの為に避けては通れない道か。
「まあ、それまでにLvを十分に上げて行くしかないか」
一段飛びの階級だと……セイウチはLv30級だったか?
Lv50級……まあがんばれば出来るだろう。
今度余裕がある時に依藤と一緒にグローブ強化の魔物を仕留めておこう。
そうすれば勝てなくはないはずだ。
「後は、国中にクラスのみんなが散り散りになってるけど、一度一挙に招集する日……一週間後だな」
「何があるんだ?」
「なんか俺達異世界人の活躍が評価されて職業神殿に安置されている物をみんなに見せるんだと」
「へー……」
「碑文的な物もあるそうだ」
「黒本さんに先に見せてほしいもんなんだがな」
「国内の派閥とか色々と手続きが面倒なんだとさ。安置されている物が収められている部屋を開ける日が限られているとか」
「寺の仏像みたいな感じか?」
「かもしれない」
役に立つのかわからないけど、異世界人が集まって見に行くって事か。
「ま、その日までは各自、自由に行動をしていてくれって話だ」
「了解」
「ガウー」
そんな訳で俺達は一週間程、各自で仕事を行う事になった。
俺は毎度変わらず頼まれた日本の物を買って、依藤の狩りを手伝い、職業神殿で転職司祭の仕事。
茂信は鍛冶屋、萩沢は道具屋を営んだ。
実さんは俺の営業日は魔力回復補佐で、他の日は教会で回復を仕事にしている。
クマ子は言うまでも無く俺の補佐と芸の練習。
時々人化してクラスの女子と遊んだり、実さんとショッピングに行く。
寝る時に人化する事は許していない。
「ニャ!」
ミケが萩沢の仕事を手伝っている。
萩沢の方は程々にLvを上げてはいたらしいのだが、ミケの加入後はおざなりだ。
そんなにも彼女が欲しかったのだろうか?
全てはクマ子を安易に人化させた挙句、クラスの女子を蔑にした末路って感じだ。
むしろミケの方が女子受けが良い。
ミケは性格が真面目で、萩沢に尽くしつつ、女子達への気遣いを忘れないからな。
クマ子と同じく芸をしている時もあって受けが良い。
というかクマ子の友人ってポジションか。
って茂信の工房に住み着くユニークウェポンモンスター達の近況の説明を何故しているんだ?