戦闘準備
購入した菓子類を隠し持っていたと言い訳して、虐げられている拠点組の連中に配りながら数日の時が流れた。
そうして、ついに茂信が横領して調達した装備に目処が立った。
戦闘組が出撃し、警備が薄くなる時間を狙って拠点組の反抗派閥である俺達は集まって会議をする。
まあ……拠点組内でも派閥がある事が問題か。
まず戦闘組……プレイヤー組にとって死活問題となる設備能力を持つ能力者系。
茂信、姫野さん、飛山さんに結界担当、料理担当、大工担当がここに該当する。
この六名は一応、プレイヤー組にとって生命線だ。
飛山さんは優先度が下がり気味だけどさ。
一人でも蔑ろにすれば被害を被るのは自分達だと理解している。
なので食料供給は優先的に行われる。
待遇も良い。
茂信、姫野さん、飛山さんは優遇された分を他の冷遇されている者に分け与えているんだけどさ。
結界、料理、大工は優遇されている環境を受け入れてしまっていて拠点組とは仲が悪い。
言うなれば拠点組の中でも特権階級だ。
次に恵まれた能力は得られなかった女子。
彼女達は戦闘組に取り入る……言ってはなんだが売春をして立場を向上させている派閥だ。
俺は男なのでよくわからないが、姫野さん曰く、何名かいるらしい。
書記という、何に使うかよくわからない能力を得た女子生徒は戦闘組の男子と恋仲になる事で取り入ったのだ。
まあ……人それぞれだよな。
これはしょうがない。
だからこそ、拠点組にまとまりが無い。
最後に男で能力に恵まれないと評価された拠点組……だな。
俺もここに該当する。
他に戦闘組にも下位層があるみたいだけど、今回は除外する。
あっちは戦える分、まだマシだ。
能力を使いこなせていないし、拠点組の下位層に因縁を吹っ掛けてストレス解消をする奴がいる。
……全体で言えば冷遇されている人の方が少ないのかもしれない。
それでも、クラスの三分の一は苦しい状況にあるのもまた事実。
「どうだ? 装備は出来たか?」
拠点組内でのLv上げ組が組まれる。
……計画立案者の茂信と飛山さん、賛同した姫野さんを筆頭に情報がばれたら危険、という事で信じられる人員が集められた。
ただ、状況が状況だからそこまで人数はいない。
一応、戦える状況を作るために内密に行動しているからな。
今はそれぞれ、立案者が信用できる人という事で少数に留まっている。
俺は幸いにも茂信と飛山さんに迎え入れられた。
茂信は元々仲が良いけど飛山さんは俺が下位互換として扱われる事に未だに負い目を持っているようだ。
他、底辺扱いにされてしまっている道具作成の能力の萩沢が同行する。
何でも必要素材が色々と面倒なのと、ポイントを使用するために底辺扱いらしい。
それ程性能が悪い能力ではないのだが、谷泉が必要になったら小野に複写させて極力頼らない様にしている。
しかもその頻度も低い。
道具に頼らないスタンスなのか? それとも材料とかが面倒すぎるのか?
同じ作成系の茂信に対して思う所はあるのが端々に感じられるが、俺からの差し入れや茂信のケアのお陰でこうして一緒に行動している。
もちろん谷泉達に思う所もあり、俺達以外を信用できないと思っているから裏切れないのだろう。
萩沢の能力も悪くは無いし、錬金術とか出来たらカッコいいなと言ったら苦笑いをしていた。
だって薬草とかで薬を作れる能力者だぞ? 素材が増えたら作れる物も増えて夢が広がる。
これが普通のRPGなら話が進めば進む程、重要になってくる能力だ。
「うん。見てくれ」
と言って茂信は植物性の魔物の皮や骨を組み合わせた鎧、毛皮で組まれた軽装鎧等の防具を人数分出す。
「人数分揃えるのが大変だった。素材は元より、ポイントとの戦いだったよ」
「……飛山さんが戦闘組に少しは育ててもらっているんだから、一番にポイントを振り込んで良い装備品を持たせれば良いんじゃないか?」
女の子だけど、Lvのお陰で俺達よりも腕力が高いと事前にわかっている。
なんともむなしくなる話だ。
それで稼いで新たな装備を……ってやって人数分集めた方が効率的で安全だ。
「さすがに一人はちょっと。怖いのは元より期待に応えられるかわからないよ……」
飛山さんが困った様に答える。
堅実なのはわかるが、いくら俺達でも一人で戦わせるつもりはない。
こう……攻撃力的な意味での話だ。
「そう思って武器は飛山さんを筆頭に良い物を揃えるつもりだ。まずはみんなのLvを上げる事を優先すべきだと思う」
「ま、それなら動きの良い奴に持ってもらう手もある」
「了解」
ある程度作戦は済んだ。
で、茂信や飛山さんの提案で、飛山さんのポータルを使って拠点から少し離れた所へ跳躍してから近隣の魔物を倒して回るそうだ。
気を付けないと行けないのは戦闘組との遭遇……魔物を探すよりも怖いな。
「姫野さんは結界維持のために長い事留守には出来ない。戦闘組の帰還前に戻らないと行けないと言う問題もある」
「とんだ複合条件だな」
「まあ、ざっと聞いた話だけど、戦闘組が向かうのは拠点から西の方角らしい。だから俺達は反対側へ行けば遭遇の危険性は減るだろう」
「出かける時に行く方角もチェックしておいたし、問題は無いはず」
「うむ……」
提案側の言葉には筋があるし、異議を唱える必要も無い。
後はどれだけ上手くいくか、だな。
「じゃあ装備品の配給をしておく。帰る時に羽橋に渡して預かってもらってくれ。信用できないってのは、みんな無いだろ?」
茂信の言葉にこの場にいるみんなが頷く。
うん。この前の問答とは違って心地良い環境だ。
谷泉と大塚がいないというだけでも、俺としては最高の環境と言える。
「ちなみにこの装備品って戦闘組に比べるとどの程度落ちるんだ?」
「……戦闘組の三軍辺りの装備かな。これからの狩りでポイントさえ集まれば、素材はどうにか出来るから差は縮まるはず」
「初期装備とかの基準で言えば?」
「ゲーム風で言うなら二番目の町の一番良い装備くらい」
ま、それなら良いんじゃないか?
で、茂信が俺に渡してくれたのは軽さと動きやすさをメインに置いた骨の胸当てだった。
それとボーンソード。
盾はオニオンシールド? ああ、植物性の魔物に玉ねぎみたいなのがいたもんな。
骨の胸当て 付与効果 軽量化
ボーンソード 付与効果 軽量化 切れ味 悪い
オニオンシールド 付与効果 粘膜刺激
この骨……食べ残しの残飯を使ったんじゃないか?
ほのかに香ばしい肉の匂いがする様な気がする。
あ、それでもステータスを見ると防御力が上昇している。
「この盾の粘膜刺激ってなんだ?」
「玉ねぎを斬ると涙が出るでしょ? それが相手に掛る事がある……らしいの」
飛山さんが視線を逸らしながら言う。
……しょうもないなぁ。
とはいえ、実際の戦闘であの玉ねぎ独特の刺激が目に広がったら、程々に厄介な気もする。
ま、初期装備がそれなりにあるだけマシか。
どちらかと言えばメインの装備は飛山さんにまわしている訳だし。
「じゃあ行くぞ。パーティーは……結成済みだね」
ステータスの項目にあるパーティーアイコンで仲間を設定できる。
何でもこれで手に入る経験値やポイントを分割出来るのだとか。
「姫野さん、時間は?」
「後2時間は大丈夫なはずだよ」
「じゃあ試しの滞在時間は2時間。それで戦えるか試して行こう」
拠点の見張りに注意しながら飛山が建物内に光の柱を作り出す。
俺達は装備で身を固めて光の柱を通り抜けた。
一瞬で視界が切り替わる。
こう……何処へも行ける扉ってこんな感じなんだろうなぁ。
俺の転移とはちょっと仕様が異なるのがわかる。
これで俺の能力と反発して俺は飛山さんの転送に乗れないとかだったらどうなる事かと思った。
辺りを見渡すと、完全に森の中って感じだ。
後ろが詰まっているだろうから歩いてみんなが来るのを待つ。
「全員揃ってるね」
飛山さんが前に立つ。
「じゃあ私が先頭に立って魔物と戦う。みんな思い思い、出来る限りの力で戦いに挑んで」
という訳で俺達は森の中をLv上げの為に出発した。
……そういや俺の転移って行った事のある場所なら行けるっぽいから、これからは一人でなら外に出られる様になった。
だから外に行けなかった訳だし。
まあ一人で戦えるかはわからないけどさ。
という訳で明日から戦闘パートです