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職業神殿

「王様の話を補足致します。例えば、たゆまぬ努力の末に能力外の剣術を覚えた、望まぬ能力者に剣術の能力を与えたらどうなりますか?」

「意味の無い結果になるか、もしくは効果が上乗せになるか」

「後者だと言われております」


 上乗せになるのか。

 そりゃあ自力で依藤の剣術を再現出来る奴が、実際に使えるようになったら理解率は果てしないだろう。

 感覚の違いだって即座に対応しそうだ。

 それがステータス上の能力と経験の差なのかもしれない。


「あの……それで? この能力が重要なのはわかりましたが、王様達が興奮している意味はなんなのでしょうか?」

「ええ、話の流れからおわかりの通り――」

「能力交換の能力を所持する者はとても希少なのだ。前例が無い訳ではないが、まさに百年に一人の逸材。どの国、どの場所へ赴いたとしても熱烈に歓迎されるであろう」


 王様が大臣の言葉を遮って力強く言い放った。

 そ、そんなにも珍しい能力なのか。


「そういえば幸成の転移の能力って国の能力一覧に無い珍しい能力だったよな?」


 茂信が呟く。


「俺以外にもいない訳じゃないだろ。前例がない能力は」

「だけど、能力交換に該当する能力は需要が高い様だし、良いんじゃないか?」

「ガウー」


 気楽に答えてくれる……。

 希少価値があるという事は不必要な事件を持って来る可能性だってあるんだぞ。

 それがみんなに悪影響を出したら意味が無い。


「ハネバシ殿への警備の騎士を増員した方が良いだろう。何か不埒な事を仕出かす輩がいないとも限らない。国を上げて異世界人の者達の警備を強めるのだ」


 なんか王様が大々的に宣言しちゃったよ。

 やばいんじゃないのか?

 まあ俺の警備の増員というのは先程俺が考えた、俺が悪用しない様に監視する、という面もあるんだと思う。

 それは必要な事だし、文句は言わない。


 とはいえ、俺の能力は転移だ。

 日本で定期的に物を買ってくる必要があるんだし、警備の騎士が増えても監視し切れない部分はあると思うんだけどな。


「現在、ハネバシ様の能力交換を知る者は少数……情報封鎖の後に、ハネバシ様には覆面を付けて、職業神殿で能力交換員の職をして頂くのはどうでしょうか?」


 え? 何か俺に仕事をやらされるわけ?

 大丈夫なのか?


「ふむ……厳重に、異世界人の皆の保護も合わせて国家機密とする! この事が異世界人の者達以外から口外するのならば重犯罪と認定、一族郎党含めて厳罰に処す!」


 うわ!

 いきなり風向きが重い方向に向かったぞ。


「これも異世界人の皆さまの生活の保護の為、どうか目覚めた能力は、同じ異世界人の皆さまにも内密にして頂くようお願い致します」

「わ、わかりました。とはいえ、結構な人数に知れ渡っていると思いますけど」


 俺と一緒に狩りをしていた依藤達もいるし、茂信も知っている。

 ラムレスさん達騎士も知っているからな。

 異世界人であるラムレスさん達は立場があるけど、依藤達にも黙ってもらう必要があるのか。

 まあ依藤達が外部に漏らして得をする様な事は無いか。

 金銭的に困っている訳でも無いしな。


「では次の話を致しましょう。ハネバシ様には職業神殿で能力交換の職務をして頂けないでしょうか? 給与は一回の交換で報酬の八割、斡旋料として二割程、国と職業神殿が頂く事に致します」


 何かこう……ゲームの神殿とかで教皇役をさせられそうな匂いがしてきたぞ。


「一回の交換と言いましたが、それは幾ら程なのでしょうか?」


 依藤が手を上げて答える。

 場合によっては受け入れられないと言った面持ちだ。

 この中じゃ一番強いからなぁ。

 責任を持って応答しているんだろう。


「過去の前例を元に、最初の内は一回の交換に付き、一人に付き30万ポイント、二人なので合計60万ポイントを徴収しようと思っております。おそらくハネバシ様が就任して業務をすれば、それこそ数限りない来訪者が……国の隔たりなく来訪致す事態となるでしょう。もしもご意見があるのでしたら承ります」

「抽選制、金やポイントをより積めば優遇等、どんな事でも応じるであろうな。希少能力故、ハネバシ殿の自由に料金や制度を設定して良いぞ」


 どんだけ弱みを握った状態な訳?

 王様を含めて、こう……かなり金のなる木なのは一目瞭然だ。

 というか……魔力をある程度消費するけど実際に行う時間は10分程度だぞ?

 これで一件60万……俺の手元には50万のポイントが入ったら……1時間で300万ポイント!?


 しかもコレって安めと言うか釣り上げ可能な状況だろ?

 どんだけ棚から牡丹餅、相手の生命線を握れるわけ?

 しかもポイントインフレのお陰で、客もポイントが多くて困ってるって状態だろ?

 まあ、持っていない奴は金を稼ぐなりなんなりしないと行けないんだろうけどさ。


 ここで金を釣り上げたとして……元々高いけど更に高くなり、欲しい能力が目の前にあって交換する相手も見つかっていたとして……交換代金が捻出出来ない事態が起こったらどうなる?

 俺の妄想の中で、欲しい能力が目の前にあるのに手に入らない人が苦しげに呻く光景が浮かび上がる。


 俺だって、欲しい拡張能力がある。

 みんなを……日本に帰す能力だ。

 もちろん、能力を悪用する為に交換したがる人間がいないとも限らない。

 だけど、それでも俺は、いろんな人が欲する能力をその手にして欲しい。


「どうする? 値上げも出来るぞ?」


 依藤と茂信が俺に声を掛ける。

 だが、俺は首を横に振る。


「わかりました。職業神殿の方々がとても苦労する事になるでしょうが、国の方針で行いたいと思います。但し、騙す様な事……ポイントの釣り上げや、俺に斡旋する段階での手数料の徴収等は絶対に認めないでください」

「わかった。国の威信を賭けた計画と致そう」


 という事で俺は王様達からの願いを聞き入れて、職業神殿での仕事を受け持つ事に決まった。

 仕事をするのは週に三日。他にも色々とやりたい事がある為なのと、職業神殿と国とで、欲する能力と提供出来る能力の照会が行われるらしい。


 悪用や事前に弱みを握って能力の間接的な強奪等は、まず不可能だそうだ。

 国の厳重な審査を通らないと出来ない事になった。

 どうも嘘を見抜く能力があるそうだ。

 便利な能力があるもんだ。

 きっと今まで俺達にも使われていて、それで信用したとかなんだろうな。


 どちらにしても俺が能力転移を行う日にはびっしりとスケジュールが埋まった。

 国の職人が作った変声の道具と外見を大きく見せる衣装、更には顔がわからない魔力な物が施された仮面が提供される。

 そして職業神殿の厳重に管理された選ばれた者しか入る事の出来ない区画で着替えて、職務に就く。


 あ、実さんが俺の魔力を回復させる担当に抜擢されている。

 俺だという事は知らないらしいけどさ。

 尚、依藤の所で警護をしていたラムレスさんだが、しばらくして王様の命で俺の警護に再配置された。

 ご友人……ではなく、増員された騎士達を連れていた。



 で……俺は着任日、職業神殿に赴いた。

 城下町の外れにある大きな神殿だ。

 こう……大きな石柱に支えられた建造物で、その中に教会が丸々、入っている。

 建物内には水路が引かれていて……ぶっちゃけ某有名な竜退治ゲームの3みたいな場所って言えば間違いないかも。


 うわ……何か神殿の前で長蛇の列が出来ている。

 今までよく見ていなかったけど、これって俺のする仕事を見る為に来た連中?

 そう思ったのだけど、半分当たりで半分外れだった。

 能力開花の儀式の方に並んでいる客だった。

 他に、ユニークウェポンモンスターの予約とか分布とかの閲覧もここで行われているそうだ。


「よろしくお願いします」


 職業神殿の奥で着替えた後、俺は新設というか復刻された能力交換部門の席に座る。

 すると来るわ来るわ。

 事前予約が必要で、更に欲しい能力とのマッチングとか色々と複雑なのにも関わらず、ゾロゾロとやってきた。


「それでは能力交換を司る司祭様、どうかこの、望まぬ力を授かった者達に希望の光をお与えください」


 チーンと、司会進行の神父が告げる。

 で、俺の目の前に立っている二人……一人は身なりの良さそうな青年で、もう一人は中年の男性、筋肉の付き方が良い二人を確認する。

 交換の内容に関しては俺はよく確認出来ないんだけど、渡された資料で相手の個人情報がわかる。


 貴族っぽい方の能力が炭鉱夫で、中年男性がライクス流小剣術だそうだ。

 もちろん貴族っぽい青年はそのまま貴族で、国の騎士見習いだそうだ。

 中年男性は炭鉱で働く鉱石掘りらしい。


 確かに今の役職と能力が噛み合っていないな。


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