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能力と才能

 で、この世界の者同士ならメインの能力も交換する事が出来るらしい。


「なんと! それは素晴らしい!」


 王様も大興奮だ。


「ハネバシ殿! どうか我が国の国民達の為に人肌脱いで頂けないだろうか?」


 えっと……これってつまる所のどういう状況なんだろうか?

 王様を含めて、辺りの人達が今までにないほどのテンションで俺に頼みこんでいる状況だ。


「あの……それって要するに、俺は処分されるって話じゃないんですよね?」

「当たり前だ! く……ハネバシ殿、どうか我が王族の者との縁談を頼めないかの?」


 ラムレスさんがぶっ放した事を王様が平然と言ってのけたぞ。

 良い能力者を抱え込んで味方にする、という事なのかもしれない。

 あるいは……ゲームを手放したくないとか?

 そこで茂信が手を上げて王様に質問する。


「まずどういう事かを説明して頂けないでしょうか? あくまで俺達も概要程度しか理解していない事なので」

「ふむ……それもそうか」

「希少な能力で国がむしろ歓迎するとラムレスさんからは聞いていたのですが、どういう事なのでしょうか?」


 まずそこを気にしないといけない。

 話を整理すると、俺は能力転移で指定した相手の能力を交換する事が出来る様になった。

 王様達の話ではこれがとても希少という事だ。

 で、強奪に属する能力で処分されるのではなく、むしろ歓迎される。

 この違いは一体何なんだろう?

 一応、考えられる可能性は複数あるけれど、全てじゃない。


「まず、ハネバシ殿の能力が強奪に該当しない証明として、掛けられた相手の了承が必要だと言う事。次に相手の了承が無い場合は不可能であり、この世界の者同士で、主体となる能力の交換が出来るという点が強奪とは異なる点にある」


 王様が丁寧に俺に教えてくれる。

 この国に来た当初は茂信とかクラスを引っ張っている者とだけ話していたのに、俺から目を放さないぞ。

 そんなに重要な能力って事なのか?


「相手の了承が必要なら能力を奪うとは言えないだろうなぁ」


 茂信の言葉に周りの連中が揃って頷く。

 まあ相手の了承が必要なら奪うのは難しい。

 けど……例えば能力を渡さないと殺す、とか言って脅す事は出来るんじゃないのか?

 そういう危険性は間違いなくあると思う。

 国側もそこ等辺を考えてはいるんだろうけど。


「もちろん悪用しようと思えば出来なくはないと思われるが、此度の異世界人の者達は国に馴染むよう、国へ利益を生むように常に行動している。十分な信頼があると我が国は認識している事に他ならない」

「えーっと……」


 俺は王様の手に握られているゲーム機や、大臣が持ってる植物のイラスト集、更には来客用に出されたテーブルに乗る香辛料が利いた料理等に目を移す。

 更には同人誌とか、図書館に蔵書された品々……どちらかと言うと悪影響を与えてる物ばかりが脳裏に過ぎて行くのだが……。

 大丈夫かこの国?

 サブカルチャーで侵略して来ている気がするんだけど。


「えー……ハネバシ様が何を考えていらっしゃるのか、こちらも十分に承知の上で話をしております」


 大臣が前に出て説明する。

 ああ、了承済み?


「ですが、様々な交易品を使って、国を脅かそうとする素ぶり等、此度の異世界人の皆さまが仕出かした事はありません。それを信頼という形で、こちらは認識しているのをご理解ください」

「は、はい」

「国でも少々困惑しつつあるポイントのインフレーション現象の解消にも一役買っている点でも問題は無いので安心ください」


 そういえばラムレスさんも言っていた。

 厄年の影響なのか魔物から得られるポイントが増加し、市場がかなり荒れ始めているとか。

 そんな所でインフレの解消として異世界から持ち込まれた品々の流入が若干の歯止めとなっているらしい。


 まあ、俺達の場合は高額な武具の類は茂信がポイントを湯水のごとく消耗してしまうし、他にもポイントの消費が多い。

 相対的に下がりつつあるポイントの価値基準の低下を防いでいる……と?

 偶然とはいえ、上手く進んでいるんだなぁ。


「話がそれましたね。では能力転移……いえ、能力交換に関しての説明を致しましょう」


 大臣が王様にバトンを託すように手を差し出す。

 すると王様が胸を張って答える。


「異世界人の皆も理解している事かと思うが、開花する能力というのは個人が選べる範囲がとても限られている。その中に、本人が欲する能力がある可能性の方が稀なのもまた事実なのだ」

「あー……うん」


 それは痛いほどよくわかる。

 俺の能力は転移。

 そしてクラスのみんなは各々、いろんな能力を意図せず授かっている。

 別に自分で選んだ訳じゃないし、出来るなら別の能力を得たかった人も多い。

 実際、俺も戦闘系の能力だったら良かったのに、と思った事が何度もある。


「この世界の者が、能力を授かる際には一定のLvまでLvを上げた後、能力を授かる神殿に赴いて能力開花の儀を行う必要があるのだ」

「はい。それは前に聞きました」

「その際に複数候補があるのだが、欲する能力が無い場合も当然存在する」


 王様の指示で、黒板が運び込まれる。

 例えば騎士になりたい者が、努力の末に能力を授けられるLvに到達して儀式を受ける。

 騎士に必要な能力というのは、戦闘向け……ラムレスさんみたいなライクス流槍術等の流派に該当する能力が望ましい。


 もちろん、ユニークウェポンモンスターを倒して武器を手に入れるなどの手段が無い訳では無いが、他の拡張能力を含めて痒い所に手が届かない。

 しかもユニーク武器が手元に無いと使えない訳で……他に授かった力がある分、優遇もされる事もあるけれど、それでも望まぬ能力を授かる事が多いそうだ。

 それこそ、授かる能力によって自身の進路を考えないといけないのが、この世界の人達の人生なのだ。


 ……例えば騎士になりたいのに授かったのが金属加工の能力と、職人になりたかったのに授かった能力がライクス流剣術だった者同士がいたとする。

 職業的な交流はあるだろう、悩みだって分かち合えるだろう。


 だが、ここで能力を交換出来る者が間に入ったらどうなる?

 騎士になりたかった者にライクス流剣術、職人になりたかった者に金属加工の能力を交換出来てしまうのだ。


「能力と本人のなりたかった職業が噛み合わないのは世の常だ。異世界人の者達は無いのか?」


 アレだ……能力ってのはやっぱり才能に近い認識なんだな。

 授かった才能が本人の行きたい道に合わない事は多々存在するだろう。

 もちろん、能力を頼らずになりたい職業に就く者はいる事を王様も承知している。

 だけど、それでも能力を持った相手とでやらねばならない努力の量はそれこそ、果てしない程の差があるのだ。


「確かに……ありますね」


 サブカルチャーに例えるとわかりやすいかもしれない。

 漫画家になりたいけど絵が描けない。

 幾ら描いても、上手くならない。

 努力をしたけど、他に上手な人は山ほどいる。


 地球であれば明確な才能として表示される事は無いが、この世界ではステータスという形で証明されてしまう。

 ここに才能として能力の差が大きく見せつけられたらどうなる?

 ……やってられないだろうな。

 漫画を描く才能がある事と無い事が証明されてしまうんだ。


 だが、ここで明確に、望まぬ……漫画を描く才能を持った相手が自身の才能を欲して、交換できるとわかったらどうなる?

 喜んで相手と自分の才能を交換するだろう。

 それによって、なりたかった職業に就けるのなら、それこそ悪魔に魂を売る奴がいてもおかしくない。


 この世界はなんだかなんだで管理社会な側面もあるのか。

 もちろん、努力を認めてはいるみたいだけどさ。


「つまり能力交換に該当する能力がそれだけ人々の希望に成りえると言う事なんですね?」

「理解が早くて助かる。そうだ、ハネバシ殿が発現した拡張能力はそれだけ人々の希望に成りえるのだ」


 なんだかな……それこそ才能が無くても努力でどうにかして欲しいとも思うけど、明確に才能がわかる世界なんだよな。

 泣きたくもなるか。


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