未来の憶測
「まあそこまで多い訳じゃないけど、資料にあるのだとね」
黒本さんがそう呟く。
「この名前、見覚えあるな。隣のクラスだ」
「こっちも」
「幸成……」
茂信が俺に声を掛けて、名簿にある名前を指差す。
……丸井?
そこには俺や茂信の友達である、別の学校に通っている丸井と同姓同名の奴がいた。
他にも茂信の名前もあるな。
逆に俺の名前は無い。
奇妙な偶然があるな。
しかし偶然とは良い切れない程にその類似が多い。
もちろん、物語なので誰かが勝手に作った可能性だって否定は出来ないけど……。
「逆に侵略者とか支配者って罵られている異世界人の名前もリスト化させているわ」
と二枚目に目を通す。
……小野?
他に谷泉とかその一派に所属する奴の名前もある。
後は……学年内で悪い噂を聞く奴とかの名前だ。
……本当、偶然にしては多過ぎるな。
「幸成」
「羽橋、もしかして過去に他のクラスも呼びだされてるのか?」
「少なくとも確認をした感じでは、他のクラスに異常は無かったぞ」
そもそも丸井だって、今日スーパーで買い出しをしようとしている所で会ったし。
特に何かあった様には見えなかった。
学校の方にはあまり行ってないけどさ。
というかあっちでは夏休みだ。
俺の知る限り特に異常は無かったはず。
「幸成、日本に戻って確認を取れないか?」
「え? うーん……前に同じクラスだった奴に電話で連絡くらいは出来ると思うけど……」
今は夏休みなので、学校に行って確認するのは難しい。
部活動とかをやっている奴なら確認可能か。
俺自身が家に行ける程友好関係が広くないのが痛いな。
「ああ、嫌な偶然が重なっているだけだと思うけど、念の為確認を頼む」
「わかった」
「後はどの伝承にもあるんだけど……特に異世界人同士の仲間が多い場合ね」
黒本さんが数冊の異世界の本を広げて指差す。
生憎と俺にはわからない文字だ。
「多く異世界人が来訪した場合、最終的に生き残った異世界人は僅かしかいないの……魔王に殺されたとか尊い犠牲となったとか書かれていて」
「魔王?」
「そんなベタな奴がいるのか?」
「みたい。定期的に蘇っては世界を闇に支配するとか書かれてるけど……」
なんとも安直な。
それじゃあ異世界人は毎回その魔王って奴と戦っているのか?
「異世界人はこの魔王を相手に戦って……その後の事があやふやなのよね。勇者名も分からないし、ただ、異世界人としか書かれていないの」
「元の世界に帰った……とか? だから俺が日本に帰った時みたいにいなかった扱いで、だけど辻褄合わせだけが残ったみたいな」
「かもしれないわね。後は……古い書物になると風化が激しくて読めないのが多いわ」
黒本さんが溜息を吐く。
普段からそうやって真面目な態度であってほしいな。
今の黒本さんは知的で出来る女性って感じなんだけど……。
俺と茂信、依藤のBLを考えないでほしい。
「中間報告はこんな感じだな。黒本さんはまだまだ継続して行くから、みんなは……異世界の生活に慣れてきたか?」
「さすがにな」
「むしろ能力のお陰で大分楽に進めてる」
「日本に戻れた時が怖いな」
「確かに」
「それじゃあ、解散だ」
そんな訳で茂信達の頼みで翌日から日本側に戻って、確認を取ったのだけど、名前が被った奴は特に何かあった様子は無い。
クラスで死ぬと異世界から日本に戻るとかだったらどれだけ良かった事か……とは思った。
とにかく、異世界人の名前って偶然被る事ってあるようだ。
……学校名とクラス名も同じとなると、俺達の上の年代とか世代も偶然呼ばれたとかあるのだろうか?
もしかして……みんな日本に戻ったけど、複数の時代に呼ばれるとかあるのかも知れない。
未来の憶測にゾッとする。
アレだよ。
俺がみんなを転移で戻せるようになったと何か実験して、誤って過去に飛ばしちゃったとか……。
時空転移とか、違和感無く習得出来そうだもんな。
名称的に。
うん、十分に注意して行こう。
そもそも時空転移なんて手に入れたら使い道は……取らぬ狸だ。皮算用はやめておこう。
なんて感じに日常は過ぎて行っている。
そんな矢先での事。
依藤達の案内の元で俺はLv上げをさせてもらった。
俺が相手じゃかなり危ないらしい魔物を相手に依藤達がさっそうと仕留めて俺に経験値を供給してくれる。
「何か悪いな。見てるだけみたいになっちまって」
「気にするなって、そろそろグローブ強化もさせて行こうと思ってるからさ」
「良い見世物になってもらうぜ」
「そういう魂胆があったのか……」
「ガウー」
「クマ子ちゃーん! 女の子になって笑ってー」
依藤達はクマ子が人化する事を知ってからテンションが高めだ。
実さんがここにいたら怒られていたな。
これは後で詳しく話しておかないといけないぞ。
せめて実さんの前でだけは言わない方向にしておきたい。
「ガウー」
もちろん、依藤達の仲間には女子もいる訳だが、そんな女子もクマ子の事は気に入っている。
愛嬌が良いからな。
「絶対に負けるなよ。クマ子ちゃんが泣くぞ!」
「とは言ってもな……次の対戦相手は実さんが指名してるしなぁ」
クマ子の変身バリエーションとかの関係を実さんがかなり吟味してるっぽい。
俺としてはグローブ事態の変化出来るバリエーションを増やすのも手だと思っているんだけどさ。
後、ユニークウェポンモンスターの楽園的な島があるらしい。
そこには数種類の、例えばボクサー島とかがあって、階級別に挑む事が出来るとか。
実さんはそこへ俺を案内するんじゃないかと思っていたりする。
……Lvに物を言わせて物理でどうにかしたい。
どっちにしても強くなって損は無いな。
「依藤達は俺に合わせて狩りに来てるけど、良いのか?」
「ん? ああ、問題ない。何だかんだで伸び止まりに差しかかってるしな。地方を巡って良い武具の素材集めをしている所だよ。これもその最中って所だ。この魔物の鱗とかが――」
と、依藤達は今、倒した魔物の素材が次に作る武具の素材だと教えてくれた。
それはそれで問題があるんじゃないのか?
「人の入らない秘境ってのもこの世界には多くてなぁ……化け物を仕留めるには念には念をで行く必要もあるのさ」
「へー……」
なんて言いつつ、俺は素材を倉庫に送り飛ばす。
「お? また来たな」
「しかし、ホントよく出てくるな」
厄年だからか魔物が活性化してると聞くけど、本当に奥地だと良く魔物が出てくる。
森でも似た感じに魔物と良く遭遇したけどさ。
「今年はポイントのインフレが加速してるらしいぜ。村や町の結界維持は余裕で出来てるんだと」
「装置の燃費悪いらしいのにな。国が抱えた両替商人がせわしなく働いてるそうだ」
うーむ……来るべき時が来るのかな?
依藤達はまたも出てくる魔物を俺が前に出るまでも無く仕留めた。
直後俺のLvが60に達した。
「あ、上がった」
さすがにここまで来ると伸びがゆっくりになってくるなぁ。
なーんて思っていると俺は自らの拡張された能力を見て絶句する。
「や、やばい……」
「どうした? みんなを帰す能力がついに出たか!?」
俺は震える様に視線を依藤達と同行している騎士……最近じゃゲームのし過ぎで依藤の方へ移転させられたラムレスさんに目を向ける。
「国に殺される……」
「は?」
「ど、どういう事でしょうか?」
俺は動悸を必死に抑える。
う……止まりそうにない。
俺はここで終わりだと言うのか?
何も出来ずに、みんなの助けになれずに世界中を敵に回す事になってしまうのか。
「何か不吉な拡張能力に目覚めたと判断してよろしいのでしょう。ですが安心してください。例え、国の結界でハネバシ様が弾かれたとしても、私達が事情を説明いたしますし、国王もハネバシ様には温情を授けて下さると思います」
ラムレスさんが力強く答える。
「そうだぜ。もしもヤバイ能力に目覚めたとしても、俺達が羽橋を守ってやる! 国が敵に回ったとしても、それは変わらねえ! な!」
「「「おう!」」」
「何より羽橋がいなきゃ新しい漫画が手に入らない」
「ゲームが手に入らない!」
「同人誌が手に入らないじゃないか!」
「生理用品はどうするの?」
「それでももしもの事があったら姫野ちゃんを代表にクマ子ちゃんは私達が責任を持ってお世話します」
お前等な……。
うん。少し落ちついて来た。