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悪い噂

「……それで?」


 体色が統一では無い魔物とかいるんだな。

 クマ子の場合、最初はベビーブルーだったけど。


「坂枝や羽橋は知らないのか? 三毛猫ってのはな。遺伝子の関係でほぼ確実に雌になるんだよ」

「それは知ってるが……さすがに異世界だろ」


 俺もマメ知識で聞いた事がある。

 有名なライトノベルで主人公が飼ってる三毛猫が希少な雄だとか読んだし。

 三毛猫の雄って言うのはそれだけでレアな存在。

 つまりレアじゃないなら雌確定という事だ。

 確か30000分の1だったか。

 ある意味、萩沢は大当たりを引いた事になる。

 だが、現代社会の三毛猫の話ならそうだが、ここは異世界だぞ?


「もちろん、その可能性も視野に入れて、テイミング前に股間をチェックしたさ! だけど、テイミングした時に、全身が逆立って股間が生えたんだよ!」

「元からあったのか、それとも生えたのか……」

「ニャ」


 どっちなんだろうな。


「人化薬は飲ませたのか?」

「そんな訳ねえだろ! 野郎に飲ませてどうするんだよ! くっそ!」

「他に剣を調達してテイミングに行けば良いだろ」

「同系統は一本だよ! 畜生!」


 なるほど……一回限りの挑戦で失敗の結果となった訳か。

 自業自得だな。


「かと言って捨てるのか? この子を」

「ニャ!?」


 自分が捨てられるかもしれないと自覚してサーベルキャットが変な声を上げる。

 結構かわいいじゃないか。

 萩沢に捨てられたら可哀想なので俺が世話をしてやるか。

 なに、もうクマ子を飼っているんだ。一匹二匹増えた所で対して変わらない。


「うるせえ! 俺の勝手だろ!」


 涙ぐむサーベルキャットがよろよろと萩沢に近づいて行く。

 なんとなく、試合に勝った後のユニークウェポンモンスターに似た動きだ。

 目がウルウルしているな。


「や、やめろ! そんな目で俺に近づくな! く……」

「ニャ……ニャア」


 さすがに萩沢も葛藤している。

 そこまでクズではなかったようだ。

 ん?

 何の因果かまた実さんがやって来た。


「こんにちわー! って……ど――萩沢くんと……猫さん?」


 今、道具屋って呼ぼうとしたよね。

 実さんと萩沢の間にある亀裂は致命的な程に広がっているのだろう。


「ニャ」


 あ、実さんにサーベルキャットが挨拶をする。


「初めまして」

「萩沢がテイミングしたサーベルキャットの……雄だ」

「へー」

「ニャア」


 挨拶を終えたサーベルキャットが萩沢に捨てないでとばかりの懇願を再開する。

 実さんに挨拶するって余裕さえ無ければまだ良いと思うんだけどな。


「ガウー」


 そんな様子を実さんは怪訝な目をしながら俺達の方へ来る。

 萩沢は逃げるようにサーベルキャットから少しずつ離れて行く。

 クマ子と同じく、何だかんだで面倒見たくなる魅力がこの手の魔物の能力なのかもしれない。

 その魔の手から萩沢は逃げる事が……出来るのだろうか?


「お前なんてどっか行っちまえ! 俺はやる気は――」

「ねえ……一体何が起こってるんですか?」

「実はな――」


 俺と茂信は先ほどの出来事を実さんに説明した。

 雌のサーベルキャットをテイミングして人化させて彼女にしようとしていたが、そのサーベルキャットが雄で計画が頓挫したとの話。


「なるほど」


 実さんは腕を組んで俺達の話を聞き入った後、萩沢とサーベルキャットの元へ向かった。


「……萩沢くん、もしもこの子を捨てる様な酷い事をしたら私が萩沢くんの悪い噂とか、クラスの女子達に広めちゃいます。ううん、絶対に萩沢くんが女の子と縁が無い様にしてやる!」


 いや、悪い噂って……。

 キラーンと実さんの目が光った。

 アレは絶対にクマ子を人化させた事を根に持っている目だ。

 そもそも、クマ子の一件で女子達の萩沢への評価は低下中だ。

 計画が失敗したからと、テイミングしたサーベルキャットをゴミの様に捨てたとあらば、クマ子の一件や、クマ子みたいな相棒が欲しいとユニークウェポンモンスターをテイミングした連中から白い目で見られる。

 実さんが何かしなくても、萩沢の立つ瀬は残っていないのかもしれない。


「な、何!?」

「ニャ!」


 で、実さんって愛嬌良くて治療を受ける冒険者にも人気があるとか聞いた。

 もちろん、クラスメイトにも人気は相変わらずあるし、ちょっと天然入っているけど優しいから嫌われる方が難しい。

 むしろ実さんを怒らせるって相当な事なんだってみんな思っている。

 俺からするとクマ子に対して並々ならない関心を持ち過ぎな気もするが。


 そんな実さんが主体で動いたらどうなるか……。

 未知数だけど、間違いなく萩沢へ女子は近寄らなくなるかもしれない。

 それこそ、国を出て他国にでも行かないと済まなくなるかも。


「経緯はどうあれ、萩沢くんを何よりも大切にしてくれている子なんですよ? だから萩沢くんは一歩足りないんだと思います」


 と、サーベルキャットを撫でてから実さんは更に言う。

 何が足りないって?


「それじゃあ……例えが悪いけど、小野くんや谷泉くんと何が違うんですか?」


 実さんの言葉は痛切だ。

 そう……自分を慕ってくれる相手が雄だからって無下に捨てるのは小野や谷泉とどう違うのか?


「わ、わかった。面倒見れば良いんだろ!」

「うん。ちゃんと面倒を見るなら、クマ子ちゃんを人化させた事は水に流してあげる」

「実さん……」

「ニャー!」

「ああ、雄! よろしくな!」


 実さんの説得で萩沢に捨てられないと知ったサーベルキャットは実さんに深々と頭を下げる。

 ちょっと良い話風になってるけど、実さんの萩沢への評価とクマ子の人化はあまり関わり合いが無いと思うんだが。

 とはいえ、下手に突っ込むと足元を掬われる可能性が高い。

 黙って見ていよう。

 後、雄って呼ぶな。


「気にしなくて良いんだよ。萩沢くんのお世話をちゃんとしてあげてね」

「ニャ!」


 元気よくサーベルキャットは片手を上げて答える。


「名前は何にしようか」

「幸成みたいに名付けずに定着したあだ名を名前にしないようになー」

「うるせー」


 まあ、名付けなかった俺も悪いことくらい分かってる。


「つまりクマ子はずっと仮名扱いなのか?」

「えー? クマ子ちゃんで良いと思うんですけど」

「ガウー」

「つーか……人化しても言葉は話せないみたいだけど……」

「萩沢の薬が中途半端らしいけど、人化薬服用後に学べば話せるそうだぞ」


 茂信がそう説明する。

 なるほど、ガウってのはまだ学んでないからに過ぎないのか。


「クマ子ちゃんとお話ですか……」

「じゃあクマ子が言葉を覚えたら、その時に本当の名前を教えてもらえば良いんじゃないか?」

「名前なんて無いかもしれないだろ?」

「その時はその時で良いだろ。今はずっとクマ子(仮)って事で」

「ガウー」

「ニャ!」


 という所でサーベルキャットが自己主張する。

 ああ、お前の名前を決める話なのに脱線したもんな。


「で? 萩沢、人化させないなら名前はどうするんだ?」

「うるせえな! 三毛猫からミケで良いだろ」

「ニャー!」


 名前をもらって嬉しそうにサーベルキャット改めてミケが鳴く。

 無難な名前だな。


「これからよろしくな、ミケ」

「ガウー」

「ミケくんよろしくお願いしますね」

「ま、良いんじゃないか? ハンティング好きな連中が喜びそうなミケは話題になるだろ」


 茂信の言葉に俺も頷く。

 確かに似ている気がする。

 コイツが普段はサーベルを持っている訳だしな。


「仮装させて楽しむ奴等が増えそうな外見してるしな」

「えー? 長靴履かせて服を着せましょうよ」


 長靴を履いた猫ですか実さん。


「ミケくんも良いよね?」

「ニャ?」


 あ、これはよくわかってないと思う。


「じゃあミケくんに服や靴を用意するから萩沢くんも一緒に来るよね?」

「く……わかったよ」


 という訳で、萩沢は渋々実さんに連れられて出かけて行った。

 話によると、ミケはクラスメイトの女子に好評で萩沢の株も若干持ち直したそうだ。

 ま、人化させて性奴隷にしようとしていた様なもんだし、落ち所は悪くないんじゃないかな?

 ぶっちゃけ……一番の被害者は俺とクマ子だけどさ。

 まあ、そのクマ子もクマ子で、人化しても女子達に人気がある訳だけど。


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