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道具屋

 人間に近い姿になれる薬?

 萩沢、クマ子に何をさせるつもりだ。


「どうだ? やるか?」

「ガウガウガウ!」


 これまでに無いくらいクマ子が頷いた!


「そうかそうか! ならばこの薬を飲んで人間風の美少女へと昇華して羽橋の恋人になるのだ、クマ子よ! そうして羽橋の心の穴を女として慰めろ!」

「ガウー!」


 ちょっと待てコラ!


「何ふざけた事を仕出かそうとしてるんだ!」


 萩沢に向かって怒鳴るが、クマ子は萩沢の持つ薬へと視線を外さず、今にも受け取ろうとしている。

 させるか!


「クマ子! 飲むんじゃない!」

「ガウ!」


 しかしクマ子は俺の忠告を聞き入れず、薬を受け取る。

 そして二本足で立ち上がって、フラスコの蓋を外そうと試みる。

 ち! 地味に背が高いし、手を上げてるから届かん。

 ジャンプすると合わせてクマ子もジャンプした揚句背を向けやがる!


「やめるんだクマ子!」

「ガウ、ガウガウ!」

「えっと……」

「ふふん。さあ! 早く飲むのだ」


 事態に追いついていない茂信と胸を張る萩沢。

 萩沢、後で覚えていろよ。

 クマ子の腕を掴んで、俺は強引に降ろそうとしたのだが、クマ子は絶対に渡さないとばかりに手を下げない。

 そんな薬を飲ませてたまるか!

 転移で薬を指定して飛ばそうと試みる!


「ガーウ!」


 拒否された!?

 所有権がクマ子の物になってる!


「クマ子よ、蓋が取れないならフラスコの蓋を舌で取るが良い」


 萩沢の野郎! 余計な事を!


「ガウ!」


 コクリと頷いたクマ子が俺に圧し掛かって動きを封じてからフラスコの先を口に含む。

 ゴリっと言う音と、ゴクゴクとクマ子が薬を飲む音が響き渡った。


「く……重い!」


 薬を飲む事を阻止できなかった!

 圧し掛かったクマ子を退かそうと抵抗していると、クマ子がセイウチに変身するのと同じように魔法の紋様を浮かび上がり、包まれる。

 やがて光が散るとそこには……チャンピオンベルトを腹に巻いた……女の子がいた。


「ガウー」


 耳はクマで髪は茶色系。

 クマの名残として尻尾もあるし、手はグローブ付けてるからわからないけど、足はクマのスリッパみたいな足だ。


「ガウガウ」


 ブンブンと足を振ると、スリッパが生足に変わる。

 見た目の年齢は……15歳くらいだろうか?

 胸が地味にあって、俺に圧し掛かっていた所為か、顔に胸が当たっていた。


 く……なんか妙に柔らかいと思った。

 顔はクマ子の名残というか、若干ふっくらとした無邪気そうな整った顔つき。

 体格は太っていないけど痩せてもいない、若干ふっくらで家庭的っぽいと言うか……。

 うん。美少女が目の前に半裸でいた。


「ガウ」


 スッと立ち上がって自身の体の変化を見ている。


「これは服を急いで持ってきた方が良さそうだな」


 茂信が自室の方へ向かう。

 随分と冷静だな! おい!


「なんだ言葉は喋れないのか……失敗か?」


 萩沢も冷静に分析している。

 犯人が何を言ってやがる。


「ガウ!」


 どう! 凄い?

 とばかりに両手を上げるクマ子? と思わしき美少女は俺に鳴く。

 女の子がガウガウ言っていて、ちょっと引いた。

 ドサッとどうにか体を起こして立ち上がろうとしている俺の後方で音がした。


「く、クマ子ちゃん!?」


 そこには実さんが、クマ子への差し入れとばかりに持ってきたっぽい食べ物を落としていた。


「ガウ?」

「実さん?」


 よろよろと実さんは俺……ではなくクマ子を凝視して震えるように歩く。

 何か信じられない物を見る目でクマ子だと思わしき美少女に近寄って行くのだ。


「ガーウ? ガウガウ?」


 実さんにもクマ子だと思わしき美少女は誇らしげに胸を張って鳴く。

 面倒なのでクマ子と統一しよう。

 間違いはきっとないはずだから。


「だ……」


 実さんはそんなクマ子を見て、声を絞り出す様に……叫んだ。


「誰がこんな真似をしたんですか!?」


 実さんは俺に視線を向ける。

 なんで俺なんだよ。

 俺は被害者だ。


「クマ子ちゃんがこんな姿になるって……Lvが上がった所為? それとも私の知らない間に試合があったんですか?」


 そこで萩沢がやらなければ良いのに、自慢げに胸を張って口を開いた。

 やめておけ!


「俺が作った人化薬でこうなったんだぜ!」


 すると実さんは大きく仰け反る。


「なんて事……」

「しかし、すっげー美少女になるんだな! こりゃあ大成功だぜ! 俺の野望に一歩近づいた! 後は――」


 と、萩沢が笑みを浮かべながら腕を組み、自らの顎を撫でて才能に酔っていると……。

 仰け反りから回復した実さんが……謎のファイティングポーズを取り、青い残像を出しながら萩沢に近づいて拳を振りかぶる。


「おわ! なんだ!?」

「大くん……いや、萩沢くん……違う……この道具屋ぁああああああ!」


 実さんが言っているとは思えない叫びを上げながら萩沢に向かって拳を振りかぶる。

 萩沢と実さんのLvでは萩沢の方に僅かに軍配が上がる。

 が、怒りでパワーアップした実さんの前に萩沢は防戦になるしか選択は無かった。


「よくも! よくもクマ子ちゃんをこんな姿にしたな! 絶対に許しません!」

「実さん落ちつけ! 一体どうしたんだ!」


 萩沢も実さんの殺意に満ちた姿を見て驚きの表情を崩せない。


「ガウー?」

「えっと……」


 俺とクマ子が揃ってそんな二人の様子を見ることしか出来ない。

 萩沢の奴、上手く避けるなと思ったらユニーク武器を片手に持って回避運動に入っている。

 咄嗟によく出せたな。


 というか実さん……貴方、ボクシングが出来るんですか?

 随分と良い動きをしている様に見えるのは気の所為か。

 その残像どうやって出すの?


「ガウ! ガウ!」


 クマ子が実さんの動きを見てシャドーを始める。

 良いライバルを発見したとかそう言った感覚……じゃないな。きっと。


「た、例え何があろうと俺は悪い事をしたとは思ってない!」


 実さんの猛攻を紙一重で避けながら萩沢は答える。

 お前以外に悪い奴がいる訳無いだろ。


「そうやって安易に人化させることでクマ子ちゃんが人気者になれると思っているのかぁあああああ!」

「ガウ?」


 いや、クマ子は別の目的で人化したらしいけど?

 少なくとも人気者になりたい為に人化した訳じゃないと思うよ。


「何言ってんだ実さん! クマ子なら仮に羽橋に振られたとしてもクラスの男子、いや、この世界の人達の人気者になれる!」


 だからなんで人気者になる必要がある。

 それにしても萩沢も断言するなぁ……あ、実さんの拳を掴んでもみ合いになった。


「クマ子ちゃんが人化して悲しい気持ちになる人がいるのをわからないんですか!?」

「全然わからねえ! なんでそんなにムキになるんだ!」


 あ、距離を取って本格的な勝負に発展しそう。

 間に入って止めよう。


「待った待った! 二人とも落ちついて!」

「幸成君もクマ子ちゃんが人化して悲しいよね?」

「羽橋! クマ子が人化するのは嬉しいよな?」


 ぶっちゃけ、好ましくは思ってません!

 俺はクマ子でめぐるさんを失った悲しみを埋める気は無いし、埋めるのはめぐるさんに失礼だと思ってます!

 そう、答えるよりも早く。


「な、何が起こっているんだ!?」


 ゲーマー騎士達がやっと事態に気づいた。

 ちょっと遅いんじゃないですかね?

 茂信もやっと羽織れる物を持ってきたが、事態に驚き、地面に落として実さんを止める。


「放して茂信くん! そいつを殺せない!」


 すっげー物騒!

 さすがに殺せない発言は色々とまずい。


「殺しちゃダメだよ!」

「つーかそんなにクマ子が好きなら実さん、アンタも森へ行ってテイミングしてこいよ!」

「違うんです! 私はパンチングベアーじゃなくて、クマ子ちゃんが好きなんです! 動物のクマ子ちゃんが良いの!」

「ガウー……?」


 あ、クマ子も物凄く困った表情で首を傾げている。

 喜べば良いのか、それとも呆れたら良いのかと悩んでる感じだ。


「なんであろうと俺は悪い事をしていない!」


 萩沢も一歩も譲らない。

 お前はお前で反省するべきだと思うがな。

 主に俺に対して。


戦犯、萩沢大

共犯者、クマ子

加害者、姫野実

被害者、羽橋幸成

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