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落差

「……やっぱりこっちも夕方か」


 今、俺は日本にいる。

 陽が沈み、夜の色が濃くなる時間の校舎近くで辺りを見渡す。

 車のエンジン音が心地良いと思える日が来るなんて思わなかった。

 そう思いながら、通学路を歩いて下校して行く。

 直前まで異世界にいた訳だが、やはり落差が酷い。

 何度も繰り返しているので大分慣れては来たけど。

 こちらも夕方という事は、やはり時間の進みは一緒の様だ。


 さて、これからどうするか。

 変に思われない程度に茂信や飛山さん達に協力したい。

 まあ出来る事と言えば日本から何かを持ってくる事位だけど。

 やはりチョコレートやアメだろうか?

 あんな物でもみんな喜ぶからな。

 ……とりあえず、スーパーに行こう。


「待ってよー」


 スーパーまでの道で子供とすれ違った。

 公園が見える。

 小学校の頃に茂信と何度も遊んだ公園だ。

 ……あまりに平和だ。

 本当は何も起こっていなくて、俺が幻覚を見ているだけなんじゃないか?

 なんて考えてしまう位、日本側は変化が無い。


「お、羽橋じゃん!」


 ぼんやりとしていると信号の辺りで中学時代、よく遊んだ友人が話しかけてきた。

 そう、こいつが丸井だ。

 中学の頃は俺、茂信、彼と行動する事が多かった。

 進学の際にコイツが別の学校に行ったので、俺はあまり会わなくなった。

 偶に茂信から話が出ていたので、茂信とは繋がっていたと思う。


「おう」

「どうよ? 最近は」

「そうだなぁ……」


 異世界でサバイバル生活している茂信達を助けたい、なんて言っても信じてもらえないな。

 仮に友人が同じ事を言っても、俺は信じないだろうし。


「……今のクラスが俺だけのクラスなんだけど、どう思う?」

「俺だけのクラス?」

「教室に席が一つだけで、俺以外のクラスメイトがいないんだ」

「ああ、変わっていると言えば変わってるな。だけど前にも言ってたじゃないか。えっと……何だったか? 特別学級?」


 これだ。

 隣のクラスや教師、果ては俺の両親まで同じ反応をする。

 おそらく、誰に聞いても同じ反応をするんじゃないか?

 普通に考えて、あまりにもおかしい状況なのに、反応が軽い。


「それで何かあったのか?」

「いや、なんでもない」

「そうか? まあいいや、今度みんなで集まって飯でも食いに行こうぜ」

「そうだな。茂信辺りに言っておくよ」

「茂信? 誰だっけ?」

「……気にするな」


 やっぱりみんないなかった事になっているみたいだ。

 俺もいない間はこんな風に扱われているのかもしれない。

 ただ、俺は良いんだ。

 元々茂信の影って訳じゃないけど、おこぼれをもらってのん気に生きていた訳だし。

 だが、茂信達がいなかった事にされているのが、なんか嫌だ。

 惚れこんでいるという訳じゃないんだけど、それでも大切な親友がいなかった事になっているのが……苦しい。


「まあ良いや、じゃあな」

「ああ、またなー」


 そんな訳で友人と別れる。

 今まで俺の隣には茂信が居て、友人は俺よりもどちらかというと茂信に雑談をしていたんだ。

 その物悲しさが俺に現実を突きつける。


「いらっしゃいませー」


 それから俺は近所のスーパーに足を運んだ。

 悩みながら店内を物色する。

 みんなが必要そうな物が無いかを探しているんだが……これが難しい。

 まず、第一条件として俺が持っていても不自然じゃない物じゃないといけない。


 肉や魚はアウト。

 仮に持っていたとしても何処で調達したんだって事になる。

 まあ、それは狩りに出たとか言い訳出来そうだが、戦闘組が常時見張っている状況で森に行く事は実質不可能。

 しかも加工済みの肉や魚なんて持って居たら確実に怪しまれる。


 元々持っていたって……二週間経過しているのに新鮮な肉と魚があってたまるか。

 同じ理由で弁当の類もダメだ。

 そうなると必然的にお菓子類に落ち着いてしまう。


「う~ん……」


 次にあまり高い物は買えない。

 別にケチっている訳ではなく、金銭的に難しいからだ。

 大学生でも無い俺の財布に入っている金なんてタカが知れている。

 無理をしても精々四桁が限界だ。


 バイトをして……という発想が無い訳じゃないが……根本的な解決にならない。

 みんなから現金をもらえれば良いんだろうが、その金をどうするんだ? ってなる。

 どう考えても保存の効くお菓子とか、その辺りで落ち着いてしまうな……。

 まあ、それでもみんな喜んでくれるけどさ。

 そこの所をどうにかしたい。


「ありがとうございましたー」


 結局、俺は簡単な菓子類を購入して自宅に帰った。

 自宅に帰るとリビングのソファに座って考える。

 テレビでニュースを流しているが、相変わらず集団行方不明という内容は無い。

 今更確認するまでも無いが、やはりみんな最初からいなかった事になっているようだ。


 どういう原理かは知らないが、世界と世界を跨ぐとそうなってしまうらしい。

 辻褄合わせの様な物だが、これは確実だ。

 実際、今頃あっちでは俺はいない者と認識しているはず。


 しかし、確認した所、この辻褄合わせはかなり杜撰だ。

 学校にある俺の教室が良い例だろうか。

 他にも授業に出席していないのに、した事になっているとか、な。

 これは異世界でも同じで、俺が日本にいる間、あっちでは俺はいない。


 いなかった間はいた認識になっている。

 勝手にみんなの中で補完されている訳だ。

 まあ、だから異世界に長く留まれる訳だし、文句は無い。


「幸成、ご飯の前にお風呂入っちゃいなさい」

「ああ」


 母さんに言われて、考え事をしながら風呂に入る。

 温かく綺麗な……しかも入浴剤まで入っている風呂に俺は目を向けた。


 ……風呂、か。

 あっちでも一応風呂はあるが、日本の物と比べると貧相だ。

 木造の風呂で、これも家と同じく大浴場みたいな感じで設置されている。

 みんなが協力して風呂を維持している感じだ。

 まあ戦闘組が優先的に使っていて、拠点組の番に周ってくる頃には汚くなっているけどさ。

 谷泉は自分が入った後は温め直すなんてしないから尚の事だ。


 とはいえ、拠点組もそれに甘んじている訳じゃない。

 当然、追加でお湯と水を足している。


 ……茂信や姫野さん達の事を考えると自分の家でお風呂に入っている事に罪悪感を抱く。

 そうは言っても使える能力を使わない、なんて事は無い。

 俺が入るスペースがあるなら他の奴が使うべきだ。


「なんとかしないとなぁ……」


 お風呂だけじゃない。

 チョコやアメなんかで喜んでしまう程、みんなは追い詰められている。

 毎日の食事は訳のわからない生物の死骸を調理した物。

 植物型であってもそれは変わらない。

 精々、木の実くらいか。


 自生している野菜類を採取するには戦闘組の目利きとかに期待するほかない。

 さすがにキノコ類が危ない事くらいは認識していて避けている。

 料理の能力を持っている奴ががんばっているけど、日本で食べられる物と比べれば遥かに劣る。

 ましてや谷泉が独占していて、拠点組は最低限しか貰えず、満足な食事をする事も出来ない。

 まあ……それでも一日一食とかなので、どうにかなっているが……。


 せめて食べ物位はなんとかしてやりたいが、俺の能力がバレれたらどうなるかわからない以上、迂闊な事は出来ない。

 この前なんて今までお菓子をあげていた奴に『下位互換』とバカにされたしな。

 しかも、拠点組の奴に、だ。

 ……どうにかしてこちらの物を持っていける理由を考えないといけない。


「はぁ……」


 風呂から上がって、夕食を食べた後、俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。

 あっちの食事と比べて遥かに美味しいご飯で、不満は無い。

 ベッドにしたって固い木などで寝るのとは訳が違う。

 家にしたって隙間風一つ無いから寒く無い。


 ……どうしても比べてしまうな。

 あまりにも落差があり過ぎるんだ。

 谷泉達がどうしてあんなに楽しそうなのか、わからなくなってきた。


 そりゃあゲームみたいな力を使えるから楽しくはある。

 戦力外と定めた奴等に開拓業をさせて自分達は楽しい楽しい異世界冒険をしているんだろう。

 俺だって転移の能力を使える様になって、嬉しくない訳がない。

 だが……食べ物も風呂も寝る所も、こんなに違っていて何が楽しいのか。


「……」


 あまりに楽しそうにしていたからか、誰かが谷泉に日本に帰りたくないのか? と聞いた。

 しかし谷泉は日本に帰るとか馬鹿馬鹿しい、みたいな事を言っていた。

 異世界転移はロマンだが、実際に体験してもあんな風に言えるのは凄いと思う。

 尊敬はしていないがな。


 ネットや本屋で調べた限り、極限状態における精神状態の一種なんだろう。

 そういう意味では、あの場にいる中で、俺が一番おかしい事に……なるんだろうな。

 飛山さんや姫野さんに『大人だね』なんて言われた。

 だけどこの余裕は、俺が異世界と日本を行き来出来るからなんだ。


 多分、行き来出来なかったら、ずっと内心文句ばかり言って、荒れていたと思う。

 ……実際、俺は全然大人じゃない。

 本当に大人ならば帰る手段があっても茂信達に合わせて生活をしているし、名案の一つ位思いついているはずだ。

 それが出来ない俺が大人なものか。


後1、2話で魔物との戦闘パートです。

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[気になる点] 言い訳がちょっとキツイし、それに疑問を抱かない周りに違和感が凄い
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