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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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95 三点減点の記憶

「ノブ!」
 叫ぶように言って、優が部屋に駆け込んできた。
「やっと会えた!」
 飛びついてきた。
「約束のキスをもう一度!」

「うあっ、ここ大阪のマンション!」
「そう、僕らの部屋!」
 ユウが涙を見せたが、すぐに指先で拭うと、また抱きついてきた。
「見て回ってもいい?」
「もちろん!」

「わっ! お布団敷いてる! まさか万年床?」
「万年床というか、なんというか」
「もしかして、準備していた?」
「へへ。数時間以内に来るっていうから」
「フフン! じゃ、久しぶりにする?」
「いいな! 僕はバーチャルだけどな!」
「ハハ、いいじゃない! あ、そだ、お風呂は?」
「もちろん。お湯も出るよ」
「やったー。あ、お湯もバーチャルか。でも、いいよん。気持ちのものだから。ノブも一緒に入ろう!」
 イコマは、六百年間が報われた、と思った。


「大丈夫かな。監視のコンピュータが変に思わないかな」
「全然、大丈夫! あんな陳腐なシステム!」
 パリサイドの技術力から見れば、地球人類のあらゆるシステムはおもちゃみたいなものだと、ユウが言う。
「いつでも、私達のコントロール下に置けるよ。今も、コンフェッションボックスなんて使わずに、ここに来たんだよ。コンピュータには偽の会話を聞かせてあるんだ」
「すごいな。よし、ではでは」
 イコマはユウを抱き寄せた。

「興奮すると、僕の言葉は乱れるんだ。勘弁しろよ」
「そんなのへっちゃら。どんな負荷がかかっても、大丈夫なようにしてあるから。ノブだけは」
「そいつはうれしいな。ついでに、いつでも好きなときに寝て、好きなときに起きられるようにしてくれると助かるんだけど」
「了解! 二十四時間、永遠にオーケーってことね。帰ったらすぐにそうしておく。ん、あれ。でも、どうしてお布団なん? ベッドやったのに」
「アヤちゃんもいるから」
「なるほどね。ここで三人で川の字になって寝てたよね! それにしてもアヤちゃんが見つかって、本当によかった!」

 イコマはアヤが見つかってから今までのことを話した。
 ユウからは、家を出て行ってからのことを少し聞いた。
 長い話はしない。
 これからはいつでも会える、とユウが言うからだった。
 思い出話も、六百年を埋める話も、まだ不要だ。
 声を聞き、髪や肌に触れ、目を絡め、キスをしているだけでよかった。


「そろそろ帰る。あまり長くいなくなると、みんなが心配するから」
 ユウはパリサイドとなり、地球に帰還してきたというのだった。

「それで、おまえはいったい、何をやってるんだ?」 
「ニューキーツに降り立ったパリサイドの代表者やねん。今の名前はJP01」
 シリー川の対岸のコロニーにいる三千余名のパリサイドのトップだという。
「ほう! 偉いじゃないか!」
「この地位を得るために、どんなに頑張ったか。でも、その話はまたいつかね」
「うん。でもおまえ、あの教団に入っていたのか?」
「まさか! 私は神様なんて信じない。神なんてものは、君主が民衆をたぶらかし、押さえつけるために考え出したもの。いつもそう言ってたやん!」
「じゃ、なぜ、パリサイドなんだ?」
「それは聞くも涙の物語。今日はしたくないよ。こんなに楽しい一日なんやから」
 そう言ってユウが、腕を絡めてきた。


「なにか、飲む?」
「ううん。それはいい。一分一秒でもたくさん話していたいから」
 イコマはもう一度、ユウにキスした。
「この街のトップやけど、勝手にはできないねん。地球に帰還したパリサイドは総勢約三万人。その全体のトップは宇宙空間に陣取っているから、私は単に中間管理職」
「中間管理職って、また懐かしい響きだな」

「ちょっと大事なことなんやねんけど」
「なに?」
「だから、政府軍にしろアンドロ軍にしろ、どちらかに加担することはできないことになってるねん」
 今、地球上の多くの街が大混乱になっているという。
 パリサイドを容認する派と拒否する派に分かれて、紛争にまで発展している街がたくさんあるという。
 パリサイドとしては、どちらにも肩入れをしない。
 決着がつくまで見守るということになっているそうだ。

「でも、圧力はかける。いい加減に決めてねってこと」
「しかしなあ。地球人類にできるかな」
「それに、約束の会談はすっぽかされる。それなりに制裁は加えないとね」
「つまりは、勝った方と交渉するってことだな」
「まあね。実際は交渉の余地はないんだけど。こうして地球上でもう暮らし始めているし」
 ユウはその話をあまりしたがらなかった。
 それはそうだろう。ここまで話してくれただけでも、うれしかった。


「ところで、ンドペキ達が消去から免れる方法はないのか?」
「気持ちはわかるけど、私が守りたいのはノブとアヤちゃん。二人を守るためにも、私はニューキーツのパリサイドのトップであり続けなくちゃいけない。他の人のことまで指示したら、干渉しすぎってことになる。わかるでしょ」
「しかたないか」
「ごめん。でも、監視システムも削除したりするシステムも、今はものすごく機能低下してるよ」
「そうなのか?」
「でも、個人を特定して、完全に安全にするというのはできないということ。実は、それはノブもアヤちゃんも同じ。それらのシステムから切り離してしまいたいけど、まだ時期尚早。あくまで地球人類の作ったシステムとして、今は運用しておきたいから」
「わかる気がする」
「だから、ンドペキはじめあの隊員たちに安全を保証してあげたいけど、まだ無理。突発的なことはあると思ってて。機能低下はしてるけど、ちゃんと動いてるから」


「でも、ンドペキの隊が軍に襲われそうになったとき、パリサイドは助けてくれたよな」
「あれは、あそこにアヤちゃんがいたからやん」
「そうだったのか」
「だから兵士を二名、送ったわ。もしあの二人が死んだら、ンドペキは報復に出るかもしれない。そうなれば、アヤちゃんの命が危うくなると思った。まずは暴発を避けたかったということやね。結局、あれはアヤちゃんじゃなかったけどね」
「なるほど。ということは、KC36632が来たことも?」
「うん。戦闘によってンドペキ隊が壊滅することを避けるのが目的。そこにアヤちゃんがいるかもしれないと思ったから」
「そういうことだったんだな」


「私もなかなか気を使うのよ」
「パリサイド内で?」
「うん。KC36632達は私の直属の部下。口は堅いし忠誠心もピカ一。そういう人を厳選してるねん。パリサイドの中で、私の行動を把握しているのは、ほんの数人だけ」
「わかった。おまえの立場が悪くなるんだったら、さっきの話はなかったことでいい」
「ありがとう。よかった」
「いや、僕こそ悪かった。そうとは知らず、余計な頼みごとをした」
「ごめんね。それと、言いにくいんだけど、念のために」
「なに?」
「もし私達に危害を加えるようなことがあれば、厳しく反撃するよ。それは当然、ンドペキの隊でも容赦はしないということ。そういうことになっているのよ。わかってね」
「ああ」
「私が言ったことを彼らに伝えるかどうかはノブの自由だけど、くれぐれも特別扱いじゃないってことを。ノブ自身がわかっておいてね。特別扱いは、ノブとアヤちゃんだけ」


「わかった。しかしパリサイドの力って、とんでもないのか? どうも、地球人類とは比べ物にならないみたいだけど」
「そうやね。昔、西暦二千年ごろにエイリアンの映画があったでしょ。エイリアンが地球を征服に来るって話。人類は生き延びれるのかって感じの」
「ああ」
「あれは嘘ばっかり。よくもそんなお気楽な映画作ってたわよね。本当は、そこにどんなドラマもないわよ」
「厳しそうだな」
「半端なものじゃないよ」

 それはそうだろう。
 パリサイドは危険に満ちた宇宙空間を旅してきたのだ。
「地球が太陽に、木星でもいいよ、そういう星に地球が飲み込まれるときのことを想像してみて。一瞬の内に、地球という天体が何十万度にもなり、粉々に砕けて霧となり、太陽や木星の大気の一部になる。ヒーローとヒロインが人類をどうのこうのって、やってる時間なんてないよ。瞬時に地球そのものがなくなるんだから」
「ううむ」
「私達の本気の攻撃って、そういうもの。パリサイドにはそれくらいの力はある、ということ。私達は数百年間も宇宙を旅してきた。六百年前には想像もできなかった遠いところまで。数万光年も離れた遠い星まで。地球人類には想像することもできなかった場所を。そのためには、私たち自身がとてつもない強さを持っていないと。わかる?」
「はあ。想像以上にとんでもないだな」
「地球人類ってさ、神がどうのこうのってさ、本当に泣きたくなるくらいに小さな存在。悲しいのは、それがわかっているのに、わからない振りをしていること」


「さあ、この話は終り」
 ユウは起き上がり、下着に手を伸ばした。
「そろそろ行くか」
「うん」
 ユウが、最後に大切な話をと言った。
「ノブとアヤちゃんは特別扱いだけど、私のことはアヤちゃんには黙ってて欲しいの。時期が来るまでは」
 イコマは驚いたが、それにも理由があるのだろう。

「わかったよ。でも、僕にとって黙っていることは難しいぞ。アヤちゃんはきっと喜ぶ。というより、彼女はなんとしてでもおまえを探したいって言ってるんだ。そんな彼女に嘘をつき続けるのは、なかなか」
「あと少しだけ。いじわるじゃないのよ」
「そりゃそうだろ」
「私やノブが自分のことを、もっときっちりアヤちゃんに話せるようになってから。その方がアヤちゃんにもいいことだと思うから」
「僕は自分のことはちゃんと話せるぞ」
「そうね。でも、もうすぐ、もっとちゃんと話せるようになるはず」


 イコマは、ユウの言わんとすることが理解できなかったが、自分とユウの間にはまだまだひと波乱もふた波乱もあるのだと理解した。
 しかし、もう何があっても構わない。かかって来いという気分だ。
 今日という日を迎えることができたのだから。
「本当はさ、私だってアヤちゃんの顔を見に行きたい。でも、もう少し我慢」
 イコマは再び、わかったといった。


「ところでさ。ノブはンドペキをどう思う?」
「どうって?」
「好きか嫌いかというので点をつけたら、何点くらい?」
 抱き合った後の他愛ない会話そのものに、ユウが聞いてくる。
「んー、そうだな。そんなことは考えてもみなかったけど、アヤを助けるのに奮闘してくれた。だから十点満点かな」
「うん。じゃ、人柄としては?」
「なんだよ。その質問」
「いいから答えて。これから、そのことが重要になるねんから」
「はぁ」
「さ」
「意味がわからんな。でも、おまえが言うんだから、重要なことなんだろう。七点にしておく」
「なんで、三点も減点なん?」
「んー、好きな女にあいまいな態度ばかり」
「ブハッ、それってノブと一緒やん。よかった! また、明日来るから」
 意味不明な言葉を残して、ユウは帰っていった。
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