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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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93 姉妹になれたらの歌

 洞窟に帰り着き、隊員が大広間に集まった。
 ンドペキ初め隊の幹部はレイチェルと別室で話しこんでいる。
 彼らを待ちながら、チョットマは軽食を配給した。
 隊員達の間では、南軍に加担した隊がどこのものか、が話題になっていた。
 北部方面攻撃隊ではないかという案が多数だったが、反対意見もあった。
 北部方面攻撃隊は隊としての一体行動はできないだろう。組織としての形が崩れているのだ。規律も乱れていることで有名だ。組織だった戦闘の経験も少ないだろう。
 そんな隊が、隊列を揃えて大規模な戦闘に加われるだろうか、というのだ。

 西部方面攻撃隊ではないかという声もあった。
 こちらの方は、まだましだ。それなりに一体行動もできる。
 しかし、先日の戦闘で壊滅的な打撃を受けているはずだ。

 攻撃隊には他にも南東方面隊、南西方面隊があるが、どちらも目立たない存在で、隊長も愚鈍な男だということだった。
 それに、今、街の防衛は手薄になっているはず。
 これらは街の防衛任務についているのではないか、という声が多かった。


 パリサイドの行動も話題になった。
 ただ単に空に浮かんで、まるで戦況を見ているだけだった。
 どちらの味方をするわけでもない。
「チョットマ、やつらに連れて帰ってもらったんだろ。どんな様子だった?」
「どんなって、連れて帰ってやろう、俺の脚に掴まれって言われただけで」
「それで、はいはいって、やつらの脚に掴まったのか?」
「一応、所属と名前は聞いたんだけど」
「で?」
「JP01の部下だ、信用しろって。KW兄弟だって」
「ふうん。よくわからんな」
「うん、でもちゃんと連れて帰ってくれたし」
「やつらは洞窟の位置を知っていたということだよな」
「そうみたい」
「それなら、味方をしてくれてもよさそうなものだけどな」

 そうともいえるが、部隊は三つ。
 アンドロの軍、政府の正規軍、そしてンドペキの東部方面隊。
 彼らはどの軍と共闘するのだろうか。
 いまのところ不明だ。

 洞窟に引き上げてくるとき、パリサイドはまだ空に密集して浮かんでいた。
「やつら、どこにつくか、様子見をしているんじゃないか」
 そんな意見が、最も正しいように思われた。


「イコマからの連絡!」
 洞窟の外の警戒部隊から連絡が入った。
「荒地軍は、エーエージーエスに立て篭もっている模様!」
 今後の作戦にどう影響するのか、ンドペキ達がどう判断するのかわからなかったが、少なくとも、南軍がそのまま街に帰還する可能性は低くなったということだ。
 荒地軍がそこに一時的に篭っている情報を、南軍が掴んでいることは確実である。

 ンドペキら幹部の作戦会議はなかなか終らない。
 隊員達が大広間に集結してからかなりの時間が過ぎているが、誰もが粘り強く待っている。
 チョットマはバードを見舞ってみようかという気になった。
 まだ、彼女と話したことがなかった。
 誰かが付き添っているだろうが、彼女は不安なはずだ。
 パパは出て行ったきり、なかなか帰ってこないのだから。
 そして、誰も今の状況を話してはいないかもしれない。
 バードの部屋はレイチェルの部屋の隣。
 そこにいても、作戦会議が始まるときはわかるだろう。


「入っていいですか?」
 チョットマが部屋の前で声を掛けると、「どうぞ」という声が返ってきた。
 想像していたより元気そうな声だ。
「ンドペキ伍長の隊所属のチョットマといいます」
 そう挨拶して、部屋に入った。
 小柄な女性が横たわっていた。
 心配してしまうほど、顔色が悪い。

「始めまして」
 チョットマは、枕元に立って自己紹介した。
 アヤは、はにかんだように笑うと、
「あ、あなたがチョットマさん。助けてくださって、ありがとうございます」
と、言った。
「あ、いえ、私は何も」
「いいえ、本当にありがとうございます」
 アヤは、チョットマがハクシュウに頼んだことを知っていた。

「それに、ホトキンという人を連れてきてくださって、あそこから出ることができました」
「いえ、たいしたことは……」
 実は大きな犠牲を払っている。
 ハクシュウとプリブを失ったのだ。
 しかし、チョットマはそのことには触れなかった。
 彼女を責めても仕方が無いことだ。


「あの、バードさん、アヤさんとお呼びすればいいのでしょうか」
「よろしければアヤと呼んでください。あなたと私は、パパを通じて姉妹のようなものです」
「はい!」
 チョットマは、パパが自分のことを話してくれていたことに少し驚いた。
「チョットマさんのことを聞いたことがあります」
 驚くと同時に、暖かいものが込み上げてきた。

 チョットマは、言うべきことを思い出した。
「私、あの、聞き耳頭巾?の布を買いました」
「えっ」
 チョットマは市場であった出来事を話した。
「それを、パパは聞き耳頭巾の布だって」
「そうなんですか!」
「ホトキンの奥さんに渡してしまったんですけど、街に帰ったときに取り返してきますね」
「ありがとうございます!」

 アヤがいうのに、その布は自分の部屋で厳重にしまい込んでいたという。
 エーエージーエスに囚われたときに、政府か誰かの手によって持ち出されたのだろう。
 そしてその日のうちに、あの布地屋の女将の手に渡ったということだ。
「ひどいことをしますよね」


「あの、あの布、すごい力ですね!」
 アヤが笑った。
「私、フード代わりにしたんですけど、まあ、それはそれは、いろんな声が聞こえて、大変でした!」
 アヤの顔に喜びが広がった。
「いいえ、すごいのはあなたじゃないかな。あれを使ったからといって、誰もがいろいろな声を聞けるというものではないです。私なんか、半年かかってやっと、鳥の声の意味が時々わかるっていう程度でしたから」
「へえ、そうなんですか」
「ねえ、チョットマ。あなた、もしかすると、とてもすごい人かも」
 褒めてくれているようだが、チョットマは照れくさいだけで、あまりうれしくはなかった。
 実感がなかったのだ。

 チョットマはアヤに、隊が置かれている状況を説明しようとした。
 しかし、アヤはそれを遮ると、もっと楽しい話をしたいといった。
「私をあそこから救出するために、皆さんがとても頑張ってくださって、それが皆さんを苦境に立たせていることは知っていますし、本当にありがたいと思います。でも、これからどうなるか、私は知りたいとは思いません」
「そうなんですか?」
 そんなアヤの言葉は、チョットマには驚きだった。
 こんなにあいまいで不安な状況に置かれたら、誰でも、これからどうなるのかと思うのではないだろうか。


「私は、あなたのパパに会えて、とてもうれしかった。ね、私とイコマがどういう関係か、聞きました?」
「……はい」
「イコマは、んっと、私はおじさんって呼ぶんだけど、あの人と再会できただけで、なんとく十分な気がするの。私がこれからどうなるのか、おじさんが決めてくれる」
「ん……」
「決めてくれるというか、私はおじさんがすべて。私はどうなってもいい」
 アヤの言葉はチョットマには反応のしようがないものだった。
「もし、力になれることがあるなら、私はすべてを投げ出してでも、それをする。でも、もし私にできることがないのなら、邪魔しないように、そっと後ろにいてる。だから、私がこれから先どうなるかって、あまり興味はないの



 チョットマには理解しがたい話だった。
 私もンドペキが好き。
 ハクシュウも好きだった。
 もちろん、パパも好き。

 でも、今、アヤが言ったような割り切った考えはできなかった。
 しかし考えてみると、これから先自分がどうなるかって、実際はあまり考えたことはない。
 考えているふりをしているだけ?
 それで、自己満足しているだけ?

 チョットマは、自分がまだまだできていないな、と思った。
 一方で、アヤは死にかけて、だからそんな弱気なことを言っているのかもしれないとも思った。

「ねえ、チョットマ」
「なあに」
「もっと仲良くなりたいね」
「わたしも!」


 やがて、大広間で作戦会議が開かれた。
 冒頭に、ンドペキが報告した。
「街は、すでにアンドロに押さえられている。イコマ氏の情報によれば、一時間ほど前、アンドロ軍がどこからともなく現れ、政府軍を急襲したらしい。生き残った防衛軍は城外に逃れている、とのことだ」
 隊員達は静まり返った。
「ニューキーツが……」
「アンドロが……」
 万事休すだった。
「もう一点。街の噂だ。レイチェル救出に向かった政府軍が監禁施設内で、ハクシュウ率いる精鋭部隊によって壊滅したという話で持ちきりだったそうだ」
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