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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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92 熱くならない歌

 全員のゴーグルにも他の軍の動きは表示されていたし、パパとンドペキとのやり取りもわかる。
 正規の政府軍が現れたことによって、事態が好転するかに見えた。

 しかし、こちらの呼びかけに、彼らは応じようとしない。
 また不安が頭をもたげてきた。
 攻撃されるのではないか。
 ハクシュウがやられたように。

 もしそうなれば、どうすればいい。
 数の点で言えば、対等以上に渡り合えるだろう。
 しかし、相手はレイチェルの部隊だという。
 そんな相手と戦うことはできない。
 正規の政府軍と戦うことは自分達の破滅に繋がる。
 ハクシュウの弔い合戦は、誅敵となることを意味する。

 確かに一時は、反逆者と呼ばれることを覚悟したときもあった。
 しかし、今は状況が違う。
 レイチェルは我が方にあり、相手はレイチェルの直属部隊なのだ。
 何とか接点を持つしかない。
 そして理解してもらうしかないのだ。


 ンドペキが近づきつつある南軍に何度も呼びかけている。
 しかし、なんの返答も寄越さない。すでに射程距離に入っていた。
 緊張が続くが、ンドペキは絶対に発砲するな、と繰り返した。

 ついに南軍が視認できる位置まで近づいた。
 木々に遮られて、全貌を眺めることはできないが、兵が見え隠れする。


 南軍が停止した。

「我々はおまえ達を、敵としてみなしている!」
 初めて、南軍の指揮官が叫んだ。
「直ちにレイチェル閣下を開放されよ!」
「違う!」
「ニューキーツの街へお連れしろ! 期限は、六時間! 開放されない場合は、当方はおまえ達を殲滅する!」
 そういうなり、南軍は後退を始めた。

「待て! レイチェルを拘束しているのではない! 我々はレイチェルと共にあるのだ!」
 そう叫んだが、相手はもう応答しようとはしない。
 チョットマは怒り心頭に達して、言い返した。
「あんた達! 何寝ぼけているの! 私達がレイチェルをエーエージーエスから助け出したのよ!」
 しかし、この抗議にも、返事はなかった。
「事実を見ないで行動するのが、レイチェルの軍か! それが防衛隊なのか!」
 スジーウォンも叫んだが、これにも反応はない。
「クソッ!」


 南軍はそのまま遠ざかっていった。
「ちきしょう!」

 東部方面隊として、こんな侮辱はない。
 担架に乗せるにしろ、背負子で担ぐにしろ、六時間あればレイチェルを街へ送り届けることはできるだろう。
 しかし、それは相手の誤解を正当化する。
 しかも、その後の東部方面隊の名誉回復は不明だ。
 レイチェルを手に入れた後、心おきなく攻撃される恐れもある。
 むしろ、南軍の態度から判断すれば、そう考えるのが妥当だろう。

 レイチェルはその誤解を解いてくれようとはするだろうが、一旦暴発している軍を押しとどめることができるだろうか。

「コリネウルス、今の応答をレイチェルは聞いていたのか!」
「ああ、聞いていた。それどころか、飛び出して行きそうになった」
 いっそ、そうすればよかったのに、とチョットマは思った。
 しかし、レイチェルの身の安全を考えると、それは冒険的過ぎたのだろう。
「あの指揮官は!」
「ロクモンだと言った」
「むうう」


 ンドペキの号令をが下った。
「全員、洞窟へ撤収!」
 東部方面攻撃隊は、粛々と引き上げを開始した。
「コリネウルス! 例の書簡を用意してくれ。俺が向こうに届ける。誰かに持たせてくれ!」

 ンドペキの言葉を聞いて、チョットマは背筋が冷たくなった。
 憎悪に燃えている相手に、隊長のンドペキ自身が書簡を届けるのはかなり危険な行為ではないか。
 無事に帰れる保障はない。

 上手く書簡を届けることができたとしても、それが本物であることを分からせる頼みの綱は、小さなピンクのハートマークにすぎないのだ。
 すかざず、スジーウォンとパキトポークが異論を唱えた。
「それはまずいだろ!」
 コリネウルスが「それなら俺が行く」と言った。

 チョットマは、こうなれば自分が使者になりたい、と思った。
 隊員達の幾人かも名乗りを挙げた。
「南軍はまだそれほど遠いところにいるわけではない。レイチェル自身に行かせるべきだ」
 という声も上がった。

 しかし、隊長自身が行くといったものを、いまさら誰かに肩代わりさせるようなンドペキではない。
 案の定、
「ここは、俺が行くから価値がある」と、はねつけた。

「いい気になるな!」
 パキトポークが吼えた。
「おまえに万一のことがあれば、後の俺達はどうなる! ハクシュウもおまえも、部下をどう思っているんだ!」
 いきなり後頭部を殴られたかのような、衝撃だった。
「おまえがもし行くというなら、俺はおまえを見損なったぞ! 俺が行く! スジーウォン! コリネウルス! それでいいな!」
 チョットマはパキトポークの迫力に気おされてしまった。
 もう、自分が行くとは言えない雰囲気だった。
 すぐにはスジーウォンもコリネウルスも、そしてンドペキも応えなかった。


 反応したのは、パパだった。
「本来は私が行きたいところだが、残念ながらフライングアイでは書簡を持っていけない。差し出がましいようだが、ここは洞窟に一旦戻って、作戦を練り直すのがいいのではないでしょうか。南軍はそのまま街に帰ってしまうと

は考えられない。きっと、このあたりに展開したままでしょうから」
 その通りだ。
 北軍の姿が消えた理由がはっきりしないまま、この地域を立ち去るはずがない。

「うむぅ」
 ンドペキが唸っていたが、コリネウルスがパパの案を推した。
「その通りだと思う。ここはむやみに危険を冒すところではない」
 歯軋りが聞こえそうなほどンドペキの近くにいて、彼から発せられる怒りがひしひしと伝わってきた。
「熱くならずにいこうぜ」
 パパに同調して、スジーウォンもンドペキを促している。


「そうだな」
 ンドペキもようやくその気になった。
 チョットマはほっとした。
 ここで誰かが犠牲になることだけは避けたかった。
 ンドペキはもちろん、パキトポークもスジーウォンも。
 隊列は、後方に警戒怠りなく、ゆっくりと洞窟に向かった。

「私は北軍の消えた辺りを探索します。彼らが消去されたのか、どこかに隠れているのか、突き止めなくてはいけません」
「よろしく頼みます」
 パパにそう応えたンドペキの声は、すでに落ち着きを取り戻していた。
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