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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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91 ハートマークの色

 ンドペキは、コリネウルスとチョットマに街へ向かわせようと考えていた。
 レイチェルの書簡を持たせ、正規軍と連絡を取り合うために。
 古式な通信手段だが、他に方法がない。
 荒地軍の南下によって、事態打開のチャンスが失われてしまったからである。
 レイチェルが、今その手紙を書いている。

 こんな見慣れない「手紙」という方法で、正規軍の将軍達は信用してくれるだろうか。
 コリネウルスとチョットマも、ハクシュウの二の舞にならないか。
 そうは思うが、接触の方法は彼らに任せるしかない。

「できました」
 レイチェルが二通目となるレターを書き上げた。
「四名の将軍の誰に渡してもいいと思います。直接手渡すのがベストですが、それができなければ誰でもいいと思います」
「わかりました。内容を拝見してもよろしいでしょうか」
「もちろん」
 ンドペキはチョットマを呼んだ。

「朗読させていただきます。彼らにも内容を知らせておきますので」
「そうしてください」
 三人の伍長には、今回の作戦をすでに伝えてある。
「皆、入ってくれ」
 部屋の外に待たせてあった。
 万一、チョットマの識字力が低レベルかもしれないので、読んで聞かせることにしたのだ。
 レイチェルの前で、チョットマに恥をかかせてはかわいそうだ。

親展。
親愛なるムーア将軍、ロクモン将軍、オルトラーナ将軍、ラーナキ将軍。
貴下も承知の通り、現在、反政府的なアンドロを主体とする軍が行動を開始している旨の情報があります。
また、現時点において、多くのパリサイドがニューキーツ上空にあり、我々と対峙するかのような態度を見せています。
ニューキーツは、きわめて不安定かつ危険な状態にあるといえます。

 レイチェルの書簡は、そのような状況の整理から始まっていた。
 長い文章だった。


 レイチェル自身に起きた出来事と、これまでのいきさつが記されていた。
 その中に、ハクシュウが政府軍あるいはアンドロ一派の軍との戦闘に巻き込まれ、何者かによって殺害されたことも記されてあった。

 主文には、行動基準及び大まかな戦略が記されてあった。
 作戦の詳細は四名の将軍の合議によること。
 そして、洞窟の攻撃隊との合流後はンドペキ隊長を加え、彼が防衛隊及び攻撃隊すべてを率いること。
 ということが指示され、最後には、パリサイドとの対応方法が示されていた。

 私は、事態が許す限り、ンドペキ率いる東部方面攻撃隊と行動を共にします。
 貴下らは、街の平穏維持、市民の安全、軍事、すべてにおいて、最善かつ迅速な対応をしてくれるものと信じています。
 我らはニューキーツの市民と共にある!

 オレゴーナ地方の洞窟にて
 ワールド暦五百六十七年七月八日十六時

 そして、レイチェルのサインがしたためてあった。


 ンドペキは書簡に封をし、コリネウルスに手渡した。
 コリネウルスの目が燃えているようだった。
 ンドペキは、一歩下がったところで直立しているチョットマを見た。
 彼女の目も強い光を放っていた。
 ふたりに声を掛けてやりたかったが、気の利いた言葉が浮かんでこなかった。
 その代わり、ふたりの肩を強く握った。
 心の中で、チョットマには、おまえの出番が多すぎて悪いな、と声を掛けた。

 そのとき、フライングアイが飛び込んできた。
「荒地軍の状況を報告します!」
「してくれ」
「二つの軍が対峙しています!」


 イコマの話では、洞窟の南東百五十キロ付近、グリーンフィールド地方を流れる中規模河川を挟んで、二軍が南北に分かれて睨み合っているということだった。

「北軍、兵数約二百名。南軍約百。装備は似通っていますが、南軍は旗指物をつけています」
「旗指物とは?」
「敵味方が混乱しないように、全員が背に旗をつけます。古い日本の戦のしきたりです」
「で、どちらが我らの味方だ?」
「まだわかりません! 旗先物には、ピンク色のハートが描かれています。今のところ、情報はそこまでです。今から、まず北軍に近づき、当初の予定通り、面会を申し込みます」

「待ちなさい!」
 レイチェルが叫んだ。
「南軍に! きっと南軍が正規軍!」
「南軍!」
 ピンク色のハートマーク!
 そんなものは正規軍の印にはない。

 ンドペキの疑問を無視して、レイチェルは勢い込んでいる。
「旗指物って、日本のものということですね! 我が軍には日本人がいます。ロクモン将軍! それに」
 レイチェルが言いよどんだ。
「ピンクのハート。いつも私がちょっとした書類やメモにサインするときに、ちょこっと」

 ンドペキは叫んだ。
「イコマさん! 南軍に! レイチェルの言葉を伝えて欲しい!」
 レイチェルに断って、ンドペキは書簡の封を破り、イコマに見せた。
 なるほど、サインの後ろに小さなピンクのハートマークがあった。
「私が本物だとわかるように」
 レイチェルが、そう言いながら照れた。


「コリネウルス、チョットマ! 聞いてのとおりだ! 状況が変わった! さっきの任務は白紙だ!」
 コリネウルスもチョットマも、指示を待ってピクリとも動かない。
「パキトポーク! スジーウォン! 全軍すぐに出立できるように! 戦闘準備!」
「ラジャー!」
 ふたりが駆け出していく。
「コリネウルス隊は、レイチェルをそこまで運べるように準備してくれ!」
「了解!」
「バードもだ!」
「了解!」
「チョットマ! 俺達の隊をまとめておけ!」
 そして、走り出したチョットマの背中に指示を飛ばす。
「全員、不要なものは持つな! 戦闘最優先の装備! 終れば一旦ここに戻る! そう伝えろ!」

 ンドペキはレイチェルに向き直った。
「やっと外の空気が吸えますよ」
「うれしいわ!」
「あなたが戦場に行けば、政府軍の士気がぐんと上がるでしょう。そして、そのまま街に向かえばいい」
「ハイ!」
「ただし、あなたがここを出て行くタイミング。それは任せてくれますか?」
「もちろんです!」
「敵はアンドロ軍だけではないかも知れない。パリサイドの動きも不明だ」
「ハイ!」


 イコマからの報告。
「南軍に接近中! メッセージを送っています!」
「返事が来ました! 自分たちはロクモン将軍の隊だといっています!」
「ロクモン将軍が軍にいるかどうか聞いています。おられれば、面会を申し込みます!」


 ようやく事態が好転しつつある。
 ンドペキは心が沸き立つのを感じた。
 上手くイコマがロクモンと会うことができれば、レイチェルと会談させることができる。
 そうなれば、我々も正規軍として合流できる可能性が高まる。

「ダメです!」
 フライングアイが叫んだ。
「どうした!」
「川を挟んで戦闘が始まりました!」
「クッ」
 遅かったか。
「戦況は?」
「混戦! 入り乱れて! ピンクハートが押されているようです!」


「退避します!」
 イコマが叫んだ!
「そうしてくれ!」
 間に合わない!
 今から洞窟から出陣しても、戦場に到着するには最低でも数十分はかかる。
「ちきしょう!」
 それでも、ンドペキはイコマを引っ掴み、大広間に走った。
「レイチェル! おまえはここにいろ!」

 ンドペキ隊の戦闘準備はすでに整っている。
「これより、政府軍の援護に向かう!」
 そう叫んで、洞窟の入り口に突進した。
 すでに、洞窟の入り口を塞いでいたカモフラージュは取り除かれ、パキトポークとスジーウォンの隊は、洞窟の外に出て、命令を待っていた。
「隊列は無用だ! まずは戦場に急げ!」

「あああっ!」
 イコマが叫んだ。
「新手が現れた! 南から!」
「どこの軍だ!」
「わからない! あっ、北軍に砲撃を始めている! その数約五十!」
「よし!」
 南軍! 何とか、持ちこたえろ!
 ンドペキはがむしゃらに走った。

「北軍が後退を始めた!」
「南軍が隊形を立て直した! 三つの隊に編成を変えた!」
「北軍、いよいよ後退!」


 南の空におびただしい閃光が走っていた。
「北軍を挟み撃ちにするぞ! 旗指物のない兵が北軍! それがターゲットだ!」
 ンドペキは号令を下した。
「いいか、よく聞け! このまま進めば、北軍の北西からアタックすることになる! 半ば敗走兵だ! がむしゃらに向かってくる恐れがある! 注意しろ!」

 次々にイコマが戦況を伝えてくる。
「北軍は引いている。しかし、秩序は保たれている!」
「捨て駒を使っている! 本隊は無傷だ!」
「なおも撤退! しかし余裕のある引き際!」
「北軍、東北東に進路を転換!」

 こちらの動きを察知したか!
 東北東に向かうとなれば、追いつかない。
「北軍を追走する!」
 ンドペキは叫んだ。
「どこの隊かは不明だが、僚軍が接近! 敵と見誤るな!」


 ンドペキ率いる隊と南軍は北軍を追っていったが、装備の水準は同じレベルだ。
 逃げている敵に追いつくことは難しい。
 それでもンドペキは追っていった。
 やがて南軍と並行して走ることになった。
 そしてその距離は縮まっていく。
 約十キロ。


「並走する南軍からの攻撃に注意! 彼らは我々を敵とみなしている可能性あり!」
 そう叫んでおいて、ンドペキは南軍に向かって、メッセージを放った。
「我々は、東部方面攻撃隊である! 指揮官はンドペキ! レイチェルの命を受けて、貴軍を援護する!」
 応答は返って来なかった。
 クソ、やはりそうか!
 ンドペキは唇を噛んだ。
「東部方面隊! 左方へ一旦離脱! 南軍と距離をおけ!」

 南軍がこちらを味方だと認識していない以上、十キロ程度の距離で並走するのは危険が大きい。
 側面から攻撃されると、犠牲は少なくない。
「左方二十キロ、森へ! そこで待機! 各隊で集結しろ!」

 イコマからはもう報告は来なかった。
 スピードについていけないのだ。
「イコマさん! 我々は一旦、追走を中止した! 後は頼む!」
「そのつもりだ!」


 ンドペキは、森の中で停止した。
 たちまち隊員達が集まってくる。
「全員揃ったぞ!」
 パキトポークとスジーウォンから、相次いでメッセージが届く。
「隊ごとに、その場で待機! イコマからの戦況報告を待つ!」
「ラジャー!」
 パキトポークとスジーウォンの隊とは、それほど離れてはいない。
 数キロ程度だ。
 集めてもいいが、またすぐに進軍を始めるかもしれない。

 もちろんンドペキもパキトポークらも、自らの探査で南北両軍の動きは手に取るようにわかっている。
 しかし、目で見なければわからないことも多い。その表情や戦意や、どちらを向いているかなどだ。
 イコマの逐次報告はありがたい。

「南軍は北軍に追いつかない!」
 イコマから報告が来た。
「しかし、北軍の兵数が減っている!」
「依然として、北軍は東へ移動。南軍追尾中!」
「現在地、グリーンフィールド地方東端部。東部方面隊の現在位置から、すでに東に八十キロ!」
 イコマはかなり上空を飛んで追いかけているといった。

「東へ百キロ地点に到達! ますます北軍の兵数減少!」
 ンドペキは聞いた。
「南軍が攻撃しているのか!」
 先ほどはあれほど華々しかった閃光が全く見えなくなっていた。
「発砲はしていない。両軍間の距離は十五キロほどある」
 敵との距離が十五キロあれば、走りながらの砲撃ではまず当たらない。
 狙いは正確でも、それが火薬弾であれ、量子弾であれレーザーであれ、弾が到達する前に回避されてしまうからだ。

「うむう」
 ンドペキは唸った。
 追うか、留まるか、戻るか。


「南軍の一部が戻り始めている! 東部方面隊が停止している方向へ!」
「その数は!」
「約五十! 北軍の方はもうほとんどいない!」
 ンドペキは直ちに、隊員を集結させた。
「絶対に発砲するな!」
 そして、また南軍にメッセージを送った。
「我々は、東部方面攻撃隊である! 指揮官はンドペキ! ニューキーツ軍総司令官レイチェルの命を受けて、ここに陣を敷いている! 貴軍の指揮官と話したいことがある!」
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