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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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89 やってしまったの歌

 大広間に集まった隊員に、ンドペキが状況を説明していた。

 もし、外の荒地軍がアンドロ軍であれば、洞窟の通路を通り、エリアREFを経由して街へ帰還するという案。
 しかし、その場合はアヤの扱いが問題となる。
 アヤは一命を取り留めはしたものの、意識はまだ戻らず、絶対安静が必要な状態である。
 今は別室で、イコマが付き添っている。

 チョットマは、ンドペキの声を聞きながら、KC36632のことをぼんやりと考えていた。
 サリの姿をして現れたという。
 顔を借りるとか、姿を借りるとは、どういうことなのだろう。
 単に真似ているということなら、癪に障るが、まだ許せる。
 しかし、もし体を乗っ取ったということなら許せないことだし、サリを元通りにしなければいけない。
 このことをンドペキはどう考えているのだろう。

 KC36632もさることながら、チョットマはレイチェルにも腹を立てていた。
 ふがいなくもアンドロの策謀に嵌まり、エーエージーエスに閉じ込められたことが今回の騒動の始まりではないか。
 その代償は大きかった。
 ハクシュウとプリヴが死んだ。
 いわば、レイチェルが原因ではないか。


 そのレイチェルが、遅れて大広間に入ってきた。
 どよめきがおきた。
 顔の包帯がとれていた。
 目の覚めるような長い金髪で、くりっとした目にエメラルドの瞳。
 控えめな鼻にふっくらとした頬。
 形の良い唇には、誰しも笑みを返すだろう微笑が浮かんでいる。
 チョットマも驚いた。
 似ている! なんとなく自分に!
 背格好や体型もそっくりだ。
 隊員達の中には、レイチェルとチョットマをあからさまに見比べている者もいた。
 サリに似ているという声も聞こえた。

 ハクシュウの死の原因となったレイチェル。
 チョットマは掴みかかりたい衝動を押さえ込んでいた。
 レイチェルは平然と広間の中央に進み、ンドペキの横に座る。
 フン。
 髪の色がぜんぜん違うじゃない。
 私の方が、もっとかわいい、と思うけど。


 しかし、目の前にいるレイチェルに、ますます腹が立ってきた。
 場の中央に座っている。
 そして、ずっとンドペキの顔を見上げている。

 なんだ、あの女。
 ンドペキにべったりくっついて。
 癪に障る。
 チョットマは、なるべくンドペキを見ないようにしていた。
 レイチェルが目に入ってしまうからだ。


「チョットマ、説明しろ!」
 突然、ンドペキに指示されて、チョットマはうろたえた。
 聞いていなかった。
 何を説明する?
「え、あの」
 視線が集まっている。
 その中に、レイチェルの視線もある。
 フン!
 クソ!

 チョットマはびっくりした。
 自分の口から出た言葉に。
「なぜ、ここにレイチェルがいるんですか! ここは東部方面隊の作戦会議じゃないんですか!」


 まずいことを言ってしまった、と思ったが、口から出た言葉は回収できない。
 たちまち顔がほてった。
 どうしよう。

 会場はしんと静まり返ってしまった。
 何か言わなければ。

 しかし、その前に声が上がった。
「私もそう思う」
 シルバックだった。

 ンドペキ、ごめんなさい。
 どうか、上手く収めて。


 しかし、ンドペキは悠然としている。
 怖い目で睨んではいるが。

 チョットマは立ち上がった。
 謝らなければ。
 ところが、また別の声が上がった。
「俺もそう思うな。これじゃ、いつものように自由に発言できない」


 ようやくンドペキが声を出した。
「知っての通り、レイチェルはニューキーツの街の長官であり、軍の最高指揮官だ」
 大広間がざわついた。

 レイチェルが軍の最高指揮官だということは誰でも知っている。
 あえてンドペキがそう説明したことに反発するムードが漂った。


「そんなことは百も承知だ。我々はレイチェルの指揮下にある。しかし、ここは東部方面隊の作戦会議。作戦の中身は我々で決める」
 そんな声が上がった。
「レイチェルは何も発言していない」
 ンドペキがそう言ったが、会場は収まりがつかなくなりかけていた。


「そこにおられるだけで、発言がしにくい。そう感じる隊員がいるとしたら、問題ではないか!」
「ハクシュウやプリヴは、どう思うだろう!」
 そんな声に、会場はまたもや水を打ったように静まり返ってしまった。
 さすがにこの発言は、乾坤一擲、止めの一撃だった。
 誰の心にも、染み入っていく言葉だった。


 まずいことになってしまった。
 チョットマは顔を紅潮させていたが、もう自分では収拾できないことは明らかだった。
 レイチェルは目を伏せている。
 数多の声をじっくり聞いているという態度で。

 パキトポーク、コリネウルスは我関せずという様子だ。
 スジーウォンは、薄ら笑いさえ浮かべているように見えた。
 彼らはンドペキの、隊長としての手腕を確かめようとしているのだろうか。
 チョットマは不安になってきた。
 ところが、肝心のンドペキも平然として、時々フッと笑ったりしているではないか。


 どうしよう!
 やっと、ンドペキがレイチェルの方を向いた。
「ということです。レイチェル、やはり別室で待っていてくれませんか」
 ううっ、緊張する!
 レイチェルがすんなり従ってくれればいいが、嫌だといったらどうする!
 チョットマはすがる思いで、レイチェルを見つめた。
 ふと、サリを見ているような気分になった。
 やっぱり私にではなく、サリに似ている。そんな気がした。

「そのようね」
 レイチェルが、にこりと笑った。
「さすが、東部方面隊ね」と、立ち上がる。
 近くにいた隊員が介助する。
「皆さんに気を使わせてしまった。ごめんなさい」
 レイチェルはそういうと、大広間から出て行く。
 すでに顔の包帯は取っているが、手や足は、まだままならないようで、ぎごちない歩き方だ。
 隊員達の目がその姿を追ったが、レイチェルは始終にこやかな表情だった。


 よかった……。
 チョットマは胸をなでおろした。
 しかし、レイチェルが歩きながら、自分を睨みつけたのを見逃しはしなかった。
 チョットマはつくづく、まずいことを言ってしまったと後悔した。

「それで?」
 ンドペキが何事もなかったかのように、チョットマに説明を求めた。
「えっと、あ、何でしたっけ。緊張したので、何を説明しようとしていたのか、忘れました!」
「地下通路を通って街へいく場合に備えて、その通路の状況を」
「ハイ!」


 チョットマの説明が終ると、フライングアイがンドペキに発言の機会をもらって、挨拶をした。
 アヤ、つまりバード、が意識を取り戻したという。
 パパは、何度も何度も隊員達に礼を言った。

 会議は終了となり、各々自由に過ごしていいということになった。
 チョットマは自室に戻り、眠ろうとした。
 朝、ここに帰ってきてから少しは眠った。しかし、眠り足らない。
 しかし、興奮がまだ続いていて、睡魔は訪れてこなかった。

 またサリのことを思った。
 会議のとき、サリが隣にいてくれたらどんなに心強かっただろう。
 サリがいなくなってから、いろいろなことがあった。
 そのどんな場面にでも、サリがいてくれていたら……。


 サリの捜索。
 もう、ンドペキはしないだろうな。
 いや、でも少なくともKC36632には、ちゃんと理由を聞いてくれるだろう。
 ンドペキが聞かないなら、私が聞こう。
 そんなことを思った。


 フライングアイが部屋に入ってきた。
「パパ、よかったね」
「ああ、チョットマ、ありがとう。君に頼んで本当によかった。感謝している」
「私は何もしていないよ」
「ううん。ホトキンを見つけてくれたじゃないか。それに、最初に相談したのは君だ。君がハクシュウを動かしてくれた」
 チョットマは、そう言われてうれしかったし、誇らしくも感じた。

 次に、カーテンをたくし上げて、ンドペキが入ってきた。
「お邪魔してもいいかな」
 チョットマは姿勢を正した。
「さっきはすみませんでした。あんな生意気なことを言って」
 ンドペキが微笑んだ。
「おまえこそ、我が東部方面隊のホープだ。そのおまえが、俺の部下でよかったと思ってるよ」
 チョットマは涙が出そうになった。

「でも私、レイチェルを怒らせてしまった……」
「いいんだよ。本当は俺が断らなけりゃいけないのに、俺もパキトポークもスジーウォンもコリネウルスも、彼女に押しきられてしまったんだ」
「そうだったんですか……」
「なにしろ、俺は隊長初心者なんでな。これからも、おまえにいろいろ助けてもらうよ」
「ハイ、あ、いえ、よろしくお願いします!」

 ンドペキはニッと笑うと、パパに話しかけた。
「荒地軍の様子はどうですか?」
「もう少しで接触できます。ちょっと待ってください」
「わかりました」
「ただ、妙な具合なんです」
「ん?」
「パリサイドが、このあたりに終結しています」


 パパが言うのに、大勢のパリサイドが羽根を広げて、空を覆っているというのだ。
「ただ、空に浮かんでいるだけです。荒地軍も攻撃はしていません」
「うーむ」
「ちなみに荒地軍は何の行動も起こしていません。位置も動いていません」
「そうですか。何かあればすぐに伝えてください」
「もちろんです」

 ンドペキが出て行ってから、チョットマはパパに話しかけた。
「ねえ、パパ。少し話をしてもいい? それともアヤさんの部屋に戻る?」
「いいよ。でも、少しだけね」
 チョットマは、さっき思っていたサリのことを話した。

 しかし、話の途中で、フライングアイは何も言わずに部屋を飛び出していった。
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