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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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86 生まれた謎の記憶

 その前夜。
 ンドペキとチョットマが瞑想の間に帰り着くと、フライングアイはチョットマの懐から出た。
 イコマが洞窟に入るのは初めてだった。
 瞑想の間の壁際にはうずたかく物資が積まれ、その前には数々の武器や弾薬が並べられ、物々しい雰囲気に包まれていた。

 ンドペキとチョットマが、隊員たちに囲まれている。
 最初は祝福ムードだったが、ハクシュウとプリヴの消息を聞くやいなや、ムードは一変してしまった。
 チョットマがまた泣き出した。


 イコマは、ライラと別れてからチョットマと話したこと、そしてンドペキと出会ってから話したことを反芻していた。
 荒地軍がハクシュウ隊を攻撃しようとしていることを知った。
 そしてそれをKC36632が教えに来たことも知った。
 あのホトキンの装置の前で、ンドペキが水の中に現れた影に声を掛けられたことも、そしてそれがJP01ではないかと思ったことも。

 そしてイコマの方からは、バードは本来の名はアヤだということを伝えた。
 アヤが目を開けたとき、自分は自然にバードとは呼べない気がしたからだった。


 イコマは、ライラの言葉を繰り返し検証していた。
 エーエージーエスで殲滅された軍は正規の防衛軍で、レイチェルをあそこからから救出しようとしていたのかもしれない、という考え方についてである。

 イコマ自身は、眠っていたおかげでその凄惨なシーンを見ていない。
 ただ、話によれば最新鋭の装備を揃えていたという。
 ハクシュウ隊のようにてんでバラバラ、というようなことはなく、統制のとれた軍のようだったという。
 ハクシュウらはその相手と交戦もしていなければ、言葉さえ交わしていない。
 軍の目的は、実際はわからないのだ。
 オーエンが敵軍だと言った、その言葉だけで判断しているにすぎない。
 自分には判断できないことだが、ライラの言うことが正しいとも思えた。

 ンドペキが話してくれた、今の洞窟の状況。
 つまり、いつ何時、荒地軍が攻撃を開始するかもしれない状況についても、同じようなことがいえた。
 KC36632がもたらした情報のみが、ハクシュウ隊の行動を左右している。

 敵が誰なのか、どういう目的なのか。
 実際は誰も把握していないのだ。

 オーエンは信用できるのだろうか。
 KC36632は信用できるのだろうか。


 オーエンは、どれだけ頼んでも扉を開けようとはしない。
 ホトキンを連れて来いという条件。
 ハクシュウらはこの男の罠にまんまと嵌められただけではないのか。
 エーエージーエスの科学者の目的を達成するために、利用されているだけではないのか。
 オーエンは敵軍という言葉を使って、ハクシュウらが確かめる間もなく、殲滅してしまった。
 そうしておいて、オーエンは恩を押し付けただけではないのか。


 KC36632はどうだろう。
 彼女が伝えたように、荒地軍が集結しているのは事実だ。
 洞窟に帰還してきたスジーウォンの報告とも一致した。

 しかし、荒地軍が洞窟のハクシュウ隊を攻撃するという点はどうだろう。
 彼女の言葉を正確にンドペキに思い出してもらったが、それは、目標は明らかにこの洞窟です、というものだった。
 攻撃する、あるいは戦闘といった言葉は使っていない。

 その前に、スゥは荒地軍が攻撃するつもりだと言ったし、現に撹乱しようとしたチョットマは攻撃された。そのことだけが相手との具体的な接触なのだ。
 KC36632は、嘘は言っていない。
 しかし、彼女の目的はなんだろう。
 いや、JP01の、あるいはパリサイド側の目的というべきだろう。
 彼らはなにをしようとしているのだろう。

 KC36632がもたらした情報によって、ハクシュウ隊は戦闘準備を整えることになった。
 それは自然な対応だ。
 それを見越しての通報ではないだろうか。

 つまり、パリサイドはニューキーツの軍内部で戦闘を引き起こそうとしているのではないだろうか。
 ニューキーツ全体の防衛力を削減するために。


 イコマはこれらのことをンドペキに伝えた。
 しかしンドペキは唸るだけで、明確な反応は示さなかった。
 彼とて、わからないのだ。
 では、荒地軍に使者を送ってはどうか、という提案にも、ンドペキは首を縦に振らなかった。
 ハクシュウが殺されているのだ、と答えるのみだった。

 ンドペキの言いたいことは理解できる。
 ハクシュウとプリヴが殺され、チョットマは砲撃を受けている。
 荒地軍は敵なのだ、という思いがある。

 しかも、数の上で圧倒的に不利。
 使者をのこのこ向かわせるのは、降伏の印以外の何物でもないだろう。
 ただイコマは、洞窟近くで駐屯している部隊が本当に敵なのか、という疑問が心から消えなかったのだ。
 そして、敵だとしても、それが誰なのか、がわかっていないではないか、という思いだったのである。


 瞑想の間では、ようやくンドペキとチョットマの報告が終った。
 隊員達が、それぞれの持ち場に戻っていく。
 チョットマもこれから忙しくなるだろう。
 それに、疲れてもいるだろう。
 イコマは、チョットマと一緒にいることは止めて、しばらくは単独で行動しようと思った。
「うん、いいよ」
 と、チョットマは泣き顔に無理やり笑みを作って、「一緒にいてくれてありがとう」とフライングアイに手を触れた。

 イコマはレイチェルの部屋を訪問した。
 急ごしらえの扉が設置してある。
 隣の部屋は空室だそうだが、そちらにも扉がある。アヤの部屋として準備された部屋である。
 どちらも下に隙間が開いていて、フライングアイが自由に出入りできるように配慮されていた。
 真っ先にレイチェルと話したかった。
 どうして、アヤがエーエージーエスに放り込まれることになったのか、それを聞いておきたかった。


「入ってもよろしいか」
「どうぞ」
 女が座っていた。包帯姿が痛々しい。
 入ってきたのがフライングアイだと知ると、目を丸くした。

「始めまして」
 イコマはチョットマのパパだと自己紹介した。
 レイチェルとチョットマは会っていないはず。チョットマとは誰かと聞いてくるだろう。
 それをきっかけに、街の様子などを話そうと思っていた。
 が、あてが外れた。
 レイチェルは、黙ってチラチラと視線を返してくるだけだった。

 イコマは、チョットマの任務のことなどは外して、街の様子を話すことにした。
「街の様子をお話ししましょうか」
「ええ、ありがとうございます」
 イコマの見る限り、市民は平穏である。
 ただ、街中で武装することは厳しく禁止され、兵器などの店は閉ざされている。また、防衛軍や治安部隊の巡回は頻度を増している。
 レイチェルは唇を引き結び、黙って聞いていた。


「あるバーに、将軍と呼ばれる人が飲みに来ていました」
 さすがに、レイチェルは目を剥いた。
 この事態に、何をしているのだ、といいたいのだろう。
「その将軍、誰ですか?」
「存じません。私はチョットマの懐に入っておりましたので、姿も見ておりません」
 やはりレイチェルは、チョットマとは誰かとは聞かない。

「ところで」
 と、イコマは本題のひとつに入った。
「政府のものと思われる、四つの軍が確認されています」
 レイチェルが目を上げた。
「エーエージーエスの中でオーエンに殲滅された部隊。エーエージーエスの入り口付近でハクシュウ隊を追ってきた部隊。今、この洞窟の近くで駐屯している部隊。そして昨日、街の近くでハクシュウを襲った部隊」
 レイチェルが体を震わせ始めた。
「なんていうことを……」
 その言葉がなにを指しているのか、明らかだった。
 ハクシュウが殺されたことを言っているのだ。
 しかし、イコマは念を押した。
「ハクシュウのことですね」
「まさか、こんなことになるとは……」


 イコマはレイチェルの考えを把握しておきたかった。
 軍の動き。レイチェルこそが説明できることだろう。
「あなたはどうなると思っておられたのですか? よろしければ教えてください」
 レイチェルは、しばらく黙り込んだ後、まともにフライングアイに目を向けた。
「すみません。フライングアイとお話しするのは初めてなので」
「わかります」
「なんとなく間合いが掴めなくて」
「ほとんどの人はそうです。チョットマは別ですが」
「そうですね」
 微妙な言い方だった。
 ほとんどの人がフライングアイと話したことはないということに同意したのか、チョットマは別だといったことに同意したのか、イコマにはわからなかった。
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