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ニューキーツ 作者:奈備 光

6章 やってしまった

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85 約束の色

 洞窟内には、昼も夜もないが、夜明けが近い時刻だった。
 ンドペキとチョットマが瞑想の間に戻り着き、大歓声によって迎えられた。
 二人が、立ったまま簡単に事情を説明すると、大きな拍手が湧いた。
「ホトキンを生け捕りにし、街への道が通じた! 今日はいい日になるぞ!」
 年配の兵士が叫んだ。
 おおーっ、という声がとどろいた。

「生け捕りって、極悪人みたいだね」
 チョットマがささやいた。
 ンドペキは、違うのか? とささやき返した。
「本当は、丁重にお願いするべきだったんじゃない?」
「ふん。知るか。とにかくこいつを、あそこに連れて行きゃいいんだろ」

 ンドペキは、ホトキンを縛り上げているワイヤーを解く気などさらさらなかった。
「ちゃんと、生きてる? 年寄りなんだから」
「じゃ、生き返らせるか。チョットマ、ほっぺたをひっぱたけ!」
「了解!」
 あんなことを言っていたわりに、躊躇なくチョットマはホトキンの頬を叩いた。
「こら! 起きろ!」


 ハクシュウとプリヴの死は、チョットマから報告された。
 瞑想の間は水を打ったように静まり返った。
 今後は自分が東部方面攻撃隊を率いることになる。
 しかし、ンドペキに気負いはなかった。
 気負わなくても、パキトポークやスジーウォンやコリネウルスがいる。そして、チョットマもいてくれる。
「事態は好転しつつある。そう考えよう。ホトキンをエーエージーエスに連れて行く。それが先決だ」
 そんな言葉で、ンドペキは隊員達に前を向かせた。
 背中にホトキンを括りつけたまま。
 大げさな宣言などはしなかった。
 今は、亡くした仲間を悼む気持ちより、前進する気持ち。それが重要だと思った。


 その足で、ンドペキは地上に出た。
 この仕事は誰にも任せられない。
 コリネウルスやスジーウォンは、荒地軍の攻撃に対応しなくてはいけない。
 彼らが立てた作戦だ。自分が肩代わりして上手くいくとは限らない。
 お供にチョットマを連れて行きたかったが、彼女には、万一のとき、街への通路を案内するという大切な任務がある。
 ンドペキは、久しぶりに大気の臭いを思い切り胸に吸い込んだ。
 攻撃要員ひとり、通信要員ひとり、医務官ひとりを連れて、エーエージーエスの入り口に向かった。

 背中のホトキンは、オーエンの元へ連れて行くという話をしても、了解する様子はなかった。
 ただ、嫌ではなかったのだろう。
 チョットマがライラの言葉を伝えると、かすかに笑ったように唇を歪ませた。

 幸い、KC36632が伝えてくれた荒地軍の宿営地の位置は、エーエージーエスの入り口から少し離れている。
 森の中に潜み、荒地軍が洞窟に向かって移動を始めてから、その背後を回って入り口に向かえばいい。

 見上げると、パリサイドが数人、空を舞っていた。
「あいつらが加勢してくれたらなあ」
 ンドペキはひとり呟いた。


 出発前に想定していた地点に到着した。
 後はここで、荒地軍が移動を始めるのを待てばよい。
 彼らが当方の存在に気づいたとしても、こちらはわずか四人。
 数名は様子を探りに来るかもしれないが、本隊は洞窟に向かうだろう。
 数名が相手なら、勝つ見込みもあるし、なければ逃げればいいだけだ。
 その後、様子を見てエーエージーエスに向かえばいい。

「ンドペキ、ちょっと休んでください。荒地軍の動向は私が注視していますから」
 隊員が気遣ってくれた。
「あなたは、ここ二日、まともに休んでいない」
 ンドペキはありがたく、目を瞑った。


 木片は夢か……。
 本当に、楽しいピクニックの夢でも見たいものだ。
 しかし、まぶたになにが浮かんでくるわけでもない。
 たちまち、夢も見ない深い眠りに落ちたのだった。


「ンドペキ、起きてください」
「おっ」
 ンドペキはたちまち目が覚めた。
「動いたか!」
「それが、様子が変です」
「ん?」
「荒地軍が動かないのです」
 時刻は、朝の十一時になっていた。
「なに。もうこんな時間か」
 かれこれ、六時間も眠っていたことになる。
「あ、ホトキンは?」
「大丈夫です。あなたの背中で眠っておられます」


 この時刻になっても荒地軍が動かないのはおかしい。
 時間をかけても、荒地軍にメリットはないはず。
 むしろ洞窟の軍に、防衛の準備をさせる時間を与えるだけだ。
 兵糧作戦を取るつもりなのだろうか。

「こちらに感づいた様子は?」
「それはわかりませんが、誰一人向かってきません」

 ンドペキは決断した。
 エーエージーエスの入り口に向かうしかない。
 荒地軍に近づくことになるが、チューブの中で待っているであろうパキトポークとスゥをこれ以上、待たせるわけにはいかない。それに、ホトキンをいつまでも背負子に縛り付けておくこともできない。


 慎重に移動を始めた。
 空には相変わらず数人のパリサイド。
 そういえば、会談の日は?
 いつだろう。よくわからなくなっていた。
 シリー川は、今、どうなっているのだろう。
 ンドペキは、ホトキンを連れ帰ったとき、レイチェルの部屋に顔を見せ忘れたことに気がついた。
 まずかったかな、と思ったが、後の祭だ。

 エーエージーエスの入り口に到着した。
 依然として、荒地軍はじっとしたまま。
 ただ、あの時残してきてしまった、自分たちの資材は跡形もない。
 階段を下りていった。

「オーエン!」
 ンドペキは最初の扉の前で叫んだ。
「ホトキンを連れてきたぞ! 扉を開けてくれ!」
 すぐに声が返ってきた。
「話をさせてくれ!」
 まだホトキンは背負子に括りつけたままだ。
 もう暴れることはないと思うが、移動時に落ちられても困る。
 万一、戦闘になれば、括りつけておかなければ危険だったからだ。


「扉を開けるのが先だ!」
「ホトキンはそのままの状態でいい。まずは話をさせろ!」
 ンドペキはホトキンに話しかけた。
「おい、あんた。オーエンが話したいんだとよ」
 ホトキンがどんな表情をしているのか、見えない。
 黙りこんでいる。
「どうした」
「起きています」という隊員の答が返ってきた。
「聞こえていないのか?」
 それでもホトキンは話そうとしない。
「オーエンの声は聞こえているか?」

 ようやくホトキンが口を開いた。
「聞こえている」
「あんたと話したいんだそうだ」
「いやだといったら?」
 ンドペキは怒りを爆発させた。
「そうかい! じゃ、おまえに用はない! 死ねばいい! くだらん謎掛けなんかしやがって!」
「フン。そろそろこの体にも飽きてきたところだ。いいじゃないか、殺してくれ」
「いいか、おまえはあの洞窟で死ぬんだよ。再生なんかされない!」

「ホトキン!」
 オーエンの声が怒鳴った。
「相変わらずだな! 減らず口を叩くな! また、俺の元で働いてくれ!」
 やはり、そうか。
 オーエンはホトキンをここでまた働かせようと企んでいたのか。それなら、ホトキンは納得するかもしれない。
 そう思ったが、ホトキンはまた黙り込んでしまった。


 ホトキンがオーエンの希望を無視すれば、まずいことになる。
「ホトキン! どうした!」
 オーエンがまた怒鳴った。
「おまえの力が必要だ! おまえも知っているだろう! やつらが地球に帰ってきた! すぐに研究を再開せねば!」
 依然として、ホトキンはオーエンを無視している。
「フン、いい気になりやがって。勝手なことを言ってやがる」
 と、呟いただけだ。


 やつらとは?
 パリサイド?
 どうでもいい。自分が詮索することでもない。
 早く扉を。
 ただ、それだけだ。

 オーエンのあの殺傷装置はここでも効力を発揮するのだろうか。
 もし、ここには備わっていないのだったら、ホトキンを降ろしてもいいかもしれない。
 そうすれば、オーエンは扉を開けるかもしれない。
 約束だ。
 少なくとも、ホトキンを連れてきたのだから。


「オーエン! ホトキンをここに残していく! 扉を開けろ!」
 言うが早いか、ンドペキは隊員に命じて、ホトキンを背負子から降ろし始めた。
 その途端、スパンッと扉が開いた。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。

「パキトポーク!」
 ンドペキは叫んだ。
「おまえ達はここに残れ!」
 隊員にそう言い残して、ンドペキはチューブに突進した。
「パキトポーク!」
 チューブの底に、三人が並んで横たわっていた。
「スゥ!」
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