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ニューキーツ 作者:奈備 光

5章 チョットマの冒険

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83 それぞれの夜、それぞれの思い

 その頃、生駒の思考本体は、ホトキンのことを調べ始めていた。
 エーエージーエスのひとつの試験装置の技術責任者ということがわかったおかげで、個人を特定できた。
 どんな人間なのか。マトなのか、メルキトなのか。
 どの街で生まれ、ライラと結婚したのはいつなのか。子供はいるのか。
 そして、オーエンとの関係は。

 ハワードから新しい情報が入っていた。
 ンドペキ率いる東部方面攻撃隊が立て篭もる洞窟の位置は、正確に把握しているという。
 街の市民も知っているほどだから、当然、軍は把握している。
 早晩、何らかの軍事行動があると考えておいた方がよい、という。


 その頃、エーエージーエスの中では、パキトポークとスゥが入り口に到達していた。
 相変わらず、呼べど叫べど、オーエンは応えない。
 背負子のバード、つまりアヤはまだ生きていたが、非常に危険な状態であることに変わりはない。
 緊迫した状態なのだが、如何ともしがたい。
 緊張を解そうとパキトポークは、なんどもスゥに話しかけるのだが、話は弾まなかった。
 スゥは返事はするものの、曖昧な言葉を返してくるだけで、いつのまにか黙り込んでしまう。
 やがてふたりは、チューブの底に横になった。
 パキトポークは絶望はしていなかったが、ある種の覚悟ができつつあった。


 コリネウルスは、洞窟入り口の周囲に、多くのトラップを仕掛け終えていた。
 篭城を覚悟で、洞窟の入り口を塞ぎ、そこにも罠を仕掛けた。
 入り口から大広間に至る通路にも。
 ありあわせの資材で製作したトラップなので効果は小さいかもしれないが、それなりに敵の兵力を削ぐことはできるだろう。
 そして、最後の砦となるであろう瞑想の間に、すべての物資を移動させた。


 スジーウォンは戦闘に備え、睡眠をとっていた。
 戦闘の中心となる隊員たちにも休息を与えている。
 洞窟の入り口に荒地軍が殺到してからの作戦は、いろいろなパターンに分けてすでに検討済みである。
 そして、それを隊員たちにきちんと伝えてある。
 人間を撃つことになるかもしれないということを考えた。
 そんなつもりで兵士になったわけではないと思った。自分にできるだろうか。
 戦争とは、こんな状況に追い込まれて、やむなく突入していくものなのだろか。
 今回の場合は、血迷った軍部、あるいは独裁者がいるわけでもない。それなのに、戦争になるのだろうか。
 自分達は、どこかで判断を間違ったのだろうか。
 答はまだ見えない。
 正しい答が欲しい。そう思いながら眠りについた。


 レイチェルは、この洞窟から出られないと悟り、レターをしたためた。
 そこには、自分がこの洞窟に保護されていること、騎士団を寄越すこと、そしてアンドロの動きを注視し、防衛隊は万一の場合には街を死守せよと記した。
 そして、コリネウルスに街へのその伝言を頼み込んだ。 
 しかし、そんな余裕はないと断れらると、医務官とシルバックに見守られ、ベッドにもぐりこんで泣いた。
 自分の非力さを悲しみ、そしてバードやンドペキ、チョットマのことを思いながら。


 ライラは、チョットマを送っていった足で、再びヘルシードに向かった。
 将軍がまだ店にいることを祈りながら。


 ハワードはレイチェルを探して歩き回っていたが、無力を思い知らされるだけだった。
 ハクシュウが再生者リストに掲載されていることを知り、イコマに伝えた。
 しかし、相変わらずイコマに信用されていない、そう感じただけだった。


 その頃、サリが目覚めていた。
 目の前には、「安静」と記されたボードがあり、その下には「警告:許可があるまで、体のどの部位も動かしてはいけません。特に頭部を動かすと、あなたの記憶量と思考力に重大な影響を及ぼすことがあります」と記載されていた。
 ああ、これが再生されるということなのか、と思った。

 そして、どこで死んだのか、どんなことをしていたのかも思い出せないことに気がついた。
 ただ、頭部を動かせないことで、ベッドの脇に架けられた札に、自分のものではないアクセスIDや名前が記されていることには気がつかなかった。


 ンドペキは木片に触れていた。
 スイッチのように押すのか。それとも……。
 空洞のある辺りの岩壁に変化はない。

 後はスジーウォン、うまくやってくれ。
 死にたいなどと考えていた己のふがいなさが、思い出された。

 木片を摘まんで、裏側を見た。なにも書かれてはいない。
 これをどうする……。

「むっ」
 背後にかすかな音が聞こえてきた。
 木片を投げ捨て、テーブルの背後に横っ飛びすると、振り返りざまに武器を構えた。

「さあ、出てきやがれ!」
 しかし、そこにまだ変化はない。

「いい夢を見させてもらおうか!」
 ンドペキはスコープのモードを変えながら、異変の兆候を把握しようとした。  

「ん!」
 音が大きくなってきた。
 水の音だ!
 淵の水が退き始めていた。

「けっ、竜神様のお出ましかい!」
 しかし、ただ水音がするだけ。


 そのまま一分が過ぎた。
 何者かが現れるという気配はない。
 水が退いていくだけで、危険の臭いはしない。

 ンドペキは水辺に近づいた。
「むっ」
 水中の壁に横穴が見え始めていた。
 ゴーッという水音を立てて水位が下がり、穴から大量の水が流れ出していく。
 やがて横穴の全貌が姿を見せた。
「通路か……」

 その穴は人の手によって穿たれたものだった。
 ここに至る、巨石の隙間を縫うような通路ではなく、石貼りの床が見えていた。
 その床の高さにあわせて、テラスのようなプラットホームが突き出していた。
 通路の中もプラットホームも、水が引いたばかりで、所々に溜まった水がンドペキの当てた光を反射していた。

 淵の水は、プラットホームが出現した位置でしばらく渦巻いていたが、やがてぴたりと止まった。

 こういう仕掛けだったのか。
 プラットホームまでわずか一メートルばかり、高低差は二メートルほど。
 プラットホームの幅は広く、五メートルはある。
 跳び移ることに何の問題もない。
 そうすれば通路に入っていける。

 ンドペキは、迷いを封印し、跳び移ろうとした。
 そのときである。

「ダメ!」
 と、叫ぶ声を聞いた。
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