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ニューキーツ 作者:奈備 光

5章 チョットマの冒険

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82 涙声の歌

「う、ひっく、そう、そうです」
 チョットマは鼻をすすりながら、なんとか声を出した。
「ンドペキがそう、ひっく、言って、ました」

「ということは、レイチェルは今、スゥの洞窟にいると思います。そして、ハクシュウの隊がレイチェルを守っているものと思われます」
 ライラがどちらの見方なのかわからないが、ここは信じるしかない。

「ハク、ハクシュウは、う、軍に襲、ひっく、われて、死んで、しまった、ん、です」
 チョットマは何を話せばいいのか、わからなかった。
 ライラがなにを聞けば納得してくれるのかわからなかった。

「プリ、ヴは、ヘルシード、の前で、いっく、殺され、しゅん、ました」
 後、何を話せば……。

「軍が」
 パパが後を引き取ってくれた。
「かなりの数の軍が、行動を開始してます。エーエージーエスの中でも、北の森でも。そしてハクシュウを襲った軍。プリヴとチョットマを襲った者。いずれも、政府軍ではないようです。ようだと言ったのは、レイチェルが差し向けたとは思えないからです」

 ライラが口を開いた。
「おたく、どうしてそれがわかるんだい。レイチェルを救出するべく行動している軍じゃないって、どうしてわかるんだい」
 チョットマは虚を突かれた。
「えっ、でも、ハク、シュウが」
「レイチェルを人質に、洞窟に立て篭もっている反逆者。ハクシュウはそうだろ」
「ち、違います!」
「軍はそうとるだろうよ」
「そ、そんな!」
「え、イコマさんとやら、あんた、バードという娘かわいさに、まともに頭も働かなくなったのかい。知能の人、アギが」

「えっ、でも、正規、しゅん、軍の、記章を、うっく、つけて、なかったって」
「フン、チョットマ。あんたらの考えは、そんなちっぽけなことで左右されちまうのかい。バッチがあるかないかみたいなことで、人の白黒はついてしまうのかい! え! そんなものなのかい!」


 ライラの言うことは、もっともなことだった。
 外面に現れた小さな印。そんなことで、人は判断できない。
 立場が変われば、そんなまやかしの正義はいかようにも移り変わるのだ。

「フン。この街のおん大将が敵に捕らわれて、みっともなくて正規軍が記章なんてつけて、行動できるか!」
 チョットマもパパも言葉はなかった。
「それに、あのバッジは特殊なメタルでできている。特殊なものは特殊な方法で溶けちまう、ってこともあるんだよ!」
「じゃ、あれは、政府の、しゅん」
「わかりゃしないさ! あたしゃ、その軍がどっちのものか、興味もないさ!」


 しかし、ライラの声音が急にやさしくなった。

「ただ、それとホトキンのことは話は別さ。ホトキンの居場所は教えてやる。前金でいただくよ」
 情報料は、恐ろしいくらいに高額だと、プリヴから聞いていた。
 かなりの持ち合わせはある。
 しかし、桁が違うかもしれない。しかも、ライラを怒らせてしまった後だ。
 チョットマは、思わず唾を飲み込んだ。

「その布地と、手裏剣をいただこう」
「!!」
 チョットマのしゃっくりは、いっぺんに収まった。
「ちょ、ちょ、ちょっとそれは!」
「嫌なら、帰りな」
「そんな!」
「お金に換えりゃ、二束三文だろ。あたしが教えてやらにゃ、あんたはその価値もわかっていなかったんだろ」
「でも」
「安いもんじゃないか」
 すでにライラは立ち上がっている。
 また、帰れとばかりに、ドアノブに手を掛けた。

「待ってください! この布は私のものじゃないんです! 相談します!」
 チョットマは、パパに聞こうと思った。
 しかし、パパの方から、先に返事が来た。
「渡しなさい。それこそ、角を矯めて牛を殺すだ」
 意味がわからなかったが、手裏剣とて、惜しくはない。
 形見が活かされるのなら、ハクシュウも喜んでくれるだろう。

 チョットマは布と手裏剣を差し出した。
「よし。いい子だ。さあ、行こう。案内するよ。かなり遠いから覚悟しな」
 そういうが早いか、ライラは扉を開けた。

 一旦、建物のホールに戻り、中央の通路をとる。
 プリヴの部屋のあるエリアへ向かう。

 布を被っていないからなのか、あれだけ聞こえていた呻き声などは全く聞こえない。
 さすがに深夜だからなのだろうか。
 ライラが足早に前を行く。


「あたしの亭主なのさ」
 ライラが唐突に言った。
「エーエージーエスのひとつの試験装置の技術責任者だった」
 ライラが歩きながらポツリポツリと話し出した。

「エーエージーエスが運転を停止してから、あいつはおかしくなっちまった」
「生きる目的がなくなってしまったんだ」
「妙な趣味にのめり込んでね」
「旅人をたぶらかすことが面白くなってしまった」
「洞窟に罠を張って、謎掛けをするんだ」
「数百年前は、まだこのあたりには、街道が通っていた。今みたいに飛空挺だけが移動手段じゃなかった時分さ」
「街のそばには敵が残していったマシンがうろついている。それを避けるために、旅人は地下の洞窟を通ったものさ」

 チョットマは、口を挟むのは失礼だと思ったが、思わず声が出てしまった。
「その洞窟って」
「そうだろうよ。レイチェルがあんた達に押し込められている洞窟だろうよ」
 ライラの物語がまた始まった。


「うちの亭主は、毎日のようにそこに通うのさ。もうだれも通らないのに」
 ホトキンは、洞窟の中で旅人を待ち伏せ、謎掛けをするという。
「あたしゃ、いい加減、亭主にこの遊びをやめて欲しいんだよ。あいつは狂ってしまったんだよ。ここ二百年間、もう、誰も通りやしない。なのにあいつは毎日そこで、人が来るのを待ち続けている」

 ライラが立ち止まった。
「だから、今夜あんたが持ってきた話は、あたしにとっても渡りに船さ。あいつをエーエージーエスに連れて行ってやっておくれ。必要とされているのなら、あいつも正気を取り戻すだろうさ」


 プリヴを見失って泣きそうになったところを通り過ぎた。
 ライラが立ち止まったのは、荷物を預けた男のいるあの部屋だった。

 ライラのいう洞窟とは、ここのことだったか?
 ホトキンとはこの男だったのか?
 チョットマは戸惑った。

「あの」
「このカーテンの向こうさ。あたしの案内はここまで」
 ライラは示したものはプリブの部屋に向かうカーテンだった。
 なるほど、この男ではなかった。
 チョットマは幾分ほっとした。
「この先にはあたしゃ、行ったことがない。あいつが言うには、道なりに行けば迷うことはない。かなり遠いらしい。人間が普通に地に足をつけて歩けば、一時間ばかりの距離だそうだ」

 ライラがしゃがみこみ、門番の男に小声で話しかけた。
 誰も通してはいけない、と念を押している。
 礼を言わなくてはいけない。そう思って、チョットマは話が終るのを待った。
 前にここを通ったときには気付かなかったものが目に入った。
「SANTNORE」と刻まれた銘版が男の頭上に掲げられていた。


 ライラが立ち上がった。
「ホトキンは、見ればすぐにわかるだろう。真っ青な作業服を今も着ている。胸にはエーエージーエスのマークが縫いこんである」
「わかりました! 本当にありがとうございました!」
 チョットマは頭を下げた。

「首尾よく、あいつをエーエージーエスに連れて行ってくれたら、情報料は要らないよ。あれはふたつとも返すから、取りにおいで」
 ライラがカーテンをたくし上げた。
「さあ、お行き。あんたをつけてきた奴は、ここから先には絶対に行けないから、その点は安心していいよ」
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