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ニューキーツ 作者:奈備 光

5章 チョットマの冒険

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79 魔法使いの歌

「あの、ライラさんとスゥさんは……」
 仲は悪いのだろう。
 チョットマは居心地がよくなかった。
 ライラからぽんぽんと出た自分の名前やハクシュウの名前、そしてスゥのこと。
 すべてを見透かされた上で、頼みごとをするのは、最初から足元を見られているようなものだ。

「スゥという女は、あたしゃ、大嫌いだね」
 と、ライラはだみ声で言うのだ。
 どんなタイミングで、ホトキンのことを問えばいいのだろう。

 ライラはスゥがエーエージーエスに閉じ込められて上機嫌だ。
 今がチャンスだろうか。
 しかし、ホトキンを連れて行くことは、スゥを助け出すことにもなるのだ。


「あの女は、あたしの情報源であり、あたしはあの女の情報源でもある。つまり、持ちつ持たれつってわけさ」
 ライラはそう言って、また酒をあおった。
「これは寂しくなるねえ。愉快だ、ユカイ!」

「あの」
 チョットマは切り出そうとした。
 ずばりと聞こう。

 しかし、ライラに先を越されてしまった。
「その布地、見せておくれでないかい」
「えっ、あ、これですか?」
 聞き耳頭巾の布は、膝の上に置いていた。
 チョットマがいいと言う間もなく、布を取り上げられてしまった。
「ふうむ」
 無頓着にばさりと広げると、両手で掲げ、しげしげと眺めている。

 欲しいと言われたら困る。
 気が気ではなかった。
「これはいいものだねえ」
 パパに大切にしろと念を押されたばかりだ。
「ただの布じゃないねえ」

 チョットマは、バードと出会えた暁には、これを返そうと思っていた。
「古い時代の魔法がかかっているよ。それもかなり強力な」
 自分が持っていてもしかたのないものだ。
 本来の持ち主に返そうと。
「そんじょそこらで手に入るものじゃない」
 チョットマの思いをよそに、ライラはしきりに布を褒めている。
「いったい、どんな魔女が持っていたものなのか」
 生地の織り目に指を沿わせ、感触を確かめている。
「荒地の魔女か、森の魔女か、はたまた泉の魔女か」
 ライラは布を裏返し、光に透かしてみる。
「そうか、だからあんたはチョット魔か」


 なかなかライラは布を返してくれそうになかった。
「あの、もういいでしょうか」
「ああ」
 と頷きながら、まだ撫でる手を止めようとはしない。
「あたしにも魔法の力がつきますように」と。

 しかし、ようやく納得したのか、あるいは魔法の力が十分に乗り移ったとでも思ったのか、
「よし」と、布をきちんと折りたたみ、チョットマの膝に返してきた。
 チョットマはほっとして、いよいよ、聞こうと思った。
「あの、ホ」
「で、さっきの金属板」
 とまた、遮られてしまった。
「あれは、どこで手に入れたんだい」


 チョットマはこれにも答えにくかった。
 ハクシュウにもらったものだが、そう言えばライラは、ハクシュウはどうしている、などと聞いてくるような気がした。
「さっき、形見だとか」
 地獄耳とはこういうことをいうのだろう。
「それは……」

 ライラが畳み掛けてくる。
「名前はとにかく、あんたはどう見ても日本人じゃない」
「は?」
 チョットマは話の展開についていけなかった。
「あれは、古代の日本の武器だよ」
「はあ?」
「忍びが使った手裏剣というものに違いない」
「そうなんですか……」
「一度、手にとって拝んでみたいものだ。そんなに古い武器なら、きっと魔法がかかっているに違いない」
「……」

 もしかするとライラは魔法使いなのかもしれない。
 チョットマはそう思ってしまいかねない自分を諌めた。
 今の時代に魔法使いがいるなんて。
「あの」
「ん、なんだい。後であれに触らせてくれるのかい」
「あっ、ハイ」
 そう応えるしかない。
 さあ、次は自分の番だ。
 チョットマは身を乗り出した。

「ホトキンという男を知りませんか」
 単刀直入に聞いた。
 ライラの顔色が変わったことが分かった。
 そこに憤怒の表情が混じっていることにも気づいた。
 チョットマはたじろいだが、じっと答えを待った。


 ライラがまた酒をあおり、カウンターに滑らせた。
「さあ、帰ろうか」と立ち上がる。
 チョットマはあわてた。
 あわてると同時に、腹が立ってきた。
「待ってください。おばあさん、魔法使いなんでしょ。知らないことはないっていう」

 ライラは立ったまま、チョットマを見上げた。
 思っていた以上に背丈の低い女性だった。
 座っているときには気づかなかったが、腰も九十度以上曲がっている。

 ライラが笑い出した。
「あたしが魔法使いのおばあさん! これはとんだ人違いだ! あたしゃ、魔法使いでもなんでもないさ! スゥは、もしかするとそうかもしれんがね!」
 そんな無駄話に付き合ってはいられない。
 チョットマは半ば叫ぶように言った。

「教えてください! どこに行ったらホトキンに会えるか!」

「あたしゃ、帰るよ。飲みすぎたよ」
 ライラが背中を向ける。
「ちょっと待って!」

 ライラが顔を寄せてきた。
「魔物のお嬢ちゃん、少しは頭を使いな」
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