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ニューキーツ 作者:奈備 光

5章 チョットマの冒険

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74 嘘の色

 KC36632を送り出してから、ンドペキはコリネウルスと話し合っていた。
 その少し前、ンドペキはKC36632に頼んだのである。


「ついては、お願いがあります。相手の軍と、また共に戦ってはくれないでしょうか」
 KC36632は、その依頼を想定していたのか、即座に断ってきた。
「大変申し訳ないのですが、それはできません。我々は今、地球人類にお願いを申し上げている立場です。あなた方同士の戦いに参加するわけには参りません」
 地球人類同士の争いに巻き込まれては、自分達の要求が霧散してしまうというのだ。

「昨日、あのようにさせていただいたのも、先ほど情報をお持ちしたのも、当方のJP01の意向でございます。しかし、これ以上の援助は差し控えさせていただきたく存じます」
 依頼されたからやっているのではない、あくまで自分たちの意思でしていることだというのだ。

 ンドペキは食い下がった。
「おっしゃることはよくわかっているつもりです。ですが、我々は非常に厳しい状況に立たされています。そこをなにとぞご勘案くださいませんでしょうか」
 ンドペキは、おまえからも頼め、と思ったが、レイチェルは黙ってKC36632を見つめているだけだ。
 レイチェルは、自分はパリサイドの要求を受け入れると、この使者に言わなかったのだろうか。
 それとも、切り札として取っておくつもりなのだろうか。

「うむう」
 それならば。
「ご使者の方に、大変失礼なこととは重々承知しておりますが、JP01様にお会いすることはできませんでしょうか。それで、その、私をそちらに連れて行ってはいただけませんでしょうか」
 なかば、やけくその提案だった。

 これに対しても、KC36632の返答はにべもなかった。
「あいにくですが、JP01はほとんど毎日出払っております。今晩は帰りません」
 万事休す。
 レイチェルはと見れば、やはりただこのパリサイドを見つめているだけ。

 ンドペキは諦めた。
 これ以上、KC36632を引き止めておくわけにはいかない。
 スジーウォンに早く伝えてもらわなければいけない。ンドペキにしても、やることはたくさんある。
「そうですか。残念です。では、先ほどのスジーウォンへの連絡の件、よろしくお願いします」
「はい」
「このたびは、ありがとうございました。JP01様にもよろしくお伝えください」


「コリネウルス。頼みがある」
 ンドペキは、洞窟の先の、別の出口に頼るしか手はないと思い始めていた。
 敵の数を考えると、ほぼ勝ち目はない。
 相手が誰であれ、隊員は人間との戦闘に慣れていない。
 頭では分かっていても、目の前に人の顔を見れば、瞬時に撃てるだろうか。
 これはンドペキとて同じことだ。
 シリー川に向かったとき、スゥに発砲したが、その時の強烈な抵抗感はまだ心に、そして腕にも残っている。

 となれば、逃げるしかないのだ。

 どんなことがあっても、隊員を守りたかった。
 失踪した自分を探しに来てくれたばかりか、誰からも嫌味のひとつも言わていない。
 そればかりか、リーダーとして受け入れてくれているのだ。
 もし、隊が壊滅するようなことになれば、隊員達に会わす顔がなかった。


 本来、隊員には、死の恐怖が薄い者も多い。
 死んでは再生される。それを何度も経験しているからだ。
 とはいえ、部下を死なせることはリーダとしてこの上ない恥辱である。そればかりか、部下から見放される。
 ンドペキは、もしそうなっても、元々は自分が蒔いた種であるし、結局は自分の力の無さがはっきりしたのであって、どんな批判も受け入れなければいけないと思う。

 ただ、ハクシュウから任された任務を全うできないとすれば、これほど情けなく、申し訳ないことはない。
 KC36632が言うように、ハクシュウが戦死したとなれば、絶対に隊を守りきること。それが自分の務めだと思った。


「コリネウルス、瞑想の間の奥の通路だが。早急に調査したい」
 コリネウルスは常に冷静だ。
 きちんと話せば、分かってくれるはずだ。

「あの通路の先には、もうひとつの出入り口があるそうだ。俺は、それを見つけ出したいと思っている」
 状況の説明や、その理由を説明する必要はなかった。
 打開策になるかどうかはともかく、袋の鼠にならなくてもよい案なのだ。
「それはいい」

 ハクシュウがいない今となっては、自分が総指揮をとらねばいけない。
 今はまだ、自分が行くということを話すタイミングではない。
 スジーウォンが帰ってからだ。次の総指揮官は彼女だから。


「荒地軍と戦うにあたって、隊員の安全を最優先した作戦を考えてくれ」
「わかった。かなり難しいぞ。相手が多すぎる。この洞窟を捨てるなら、逃げればいいのだが」
 コリネウルスは分かっている。
 もし、この洞窟を捨てれば、そのときは荒地軍の攻撃をかわせても、いずれは追い込まれることを。
 その上で、ンドペキに戦いの前提条件を確認しているのだ。
「ンドペキ、例のパリサイドだが、加担はしてくれないとしても、俺達があそこのコロニーに逃げ込むという案はないか?」
 ンドペキも、それを考えないわけではなかった。
 しかし、それは危険な賭けでもあったし、隊の誇りを傷つけるものでもあった。

「俺達が敗残兵になって、最後に流れ着くところではあるかもしれない。しかし、それを前提にした作戦はないだろう」
「だろうな」
 ンドペキは、ハクシュウを思った。
 あいつならどうする。


「その別の入り口が見つからなかった、あるいは見つかる前に敵に攻撃されたという前提で考えよう」
 コリネウルスが案を出した。
「外で戦うのは不利だ。隊員の多くが犠牲になるだろう。切り離されて、囲い込まれて集中砲火を浴びるだろう
。地道な作戦だが、この洞窟の構造を利用するしか手が最善だろうな」
「うむ」
「スジーウォンが到着してから、この洞窟に至るエリアに、トラップを仕掛けよう」
「ああ」
「それで荒地軍の十パーセントは削減できるだろう」
 コリネウルスは、トラップの準備はすでにできているといった。

「次にこの洞窟の防衛。ここは入り口が小さい。しかも、飛び降りる構造だ。ひとりづつ入って来たやつを倒せる。おいそれとは入れさせやしない。これで十パーセント減らせる」
「そうだな。しかし、露天掘りのように、入り口を広げにかかるかもしれない」
「ああ。だが、この岩盤は厚い。一日や二日でこの岩盤は破られない」
「後は篭城戦法か。しかし、敵の補給路が確保されている以上、それは敗戦を意味する」
「そのとおり。後はこの洞窟でどう有利に戦うかだが、いかんせん時間がない。最短を考えると、後五時間で荒地軍の攻撃が始まるだろう。それまでにできることは少ない」
「できる仕掛けは、できるだけやってくれ」
「もう準備を始めさせている。それより、大きな声では言えないが、レイチェルを活かせないか」


 ンドペキもそれを考え続けてきた。
 しかし、妙案がないのだ。
 あの施設に放り込まれたのだから、実際はもうレイチェルには何の使い途もないのかもしれない。
 街ではアンドロ扮する偽レイチェルが、頬杖を突いて甘いものでも食べているかもしれないのだ。
「しかし、なにかいい使い途はないものか」
 コリネウルスが「レイチェルの使い途」という言葉を連発した。

「彼女はホメムで、ニューキーツの長官。そして軍の総司令官。彼女が出て行って、撤退を命じたら」
「ダメだ。効き目はない」
「それなら、今からレイチェルをパリサイドのコロニーに連れて行って、協力を要請させるというのは」
「ダメだ。そのつもりがあるのなら、さっきKC36632に、自分からそう言ったと思う。それに、今晩は向こうの責任者のJP01がいない」
「やってみる価値はないのか」
「やってみて損はないだろうとは思うが」

 しかしハクシュウの命令は、レイチェルを洞窟から出すな、というものだった。
 ただそれは、この事態に及んでも守るべきものだろうか。

「コリネウルスはどう思う?」
「それは君が決めることだ。ただ、俺の意見を言わせてもらえば、答えはノーだ。パリサイドは、もうレイチェルに力がないことを知っている。彼らの目的は地球に居座ることだ。地球人類の喧嘩の仲裁に入ろうとはしない」


 スジーウォンが帰還してきた。
 スジーウォンも加えて協議したが、いくら話しても、いい案は出てこない。
 結論は、この洞窟の別の入り口を使う作戦しか手はない、ということに落ち着いていったのだった。

「よし、そうと決まれば、すぐに瞑想の間の奥に向かおう」
 ンドペキは議論を終結させた。
「俺が行く」
 コリネウルスが目を丸くした。
「おい!」
 スジーウォンが目を吊り上げた。
「ンドペキ!」

 ンドペキは、そこに恐ろしい男が待っているという話をするつもりはなかった。
 得体の知れないものを引き合いに出して、だから自分が行くのだと言いたくはなかった。
 かといって、隊員を正体不明の危険に立ち向かわせるつもりもなかった。


「言いにくいんだが、スゥからその話を聞いたとき、彼女は、万一のときは俺が行かなければいけない、と言ったんだ」
「どういうことなんだ!」
「それは俺も知らない。というより、そのときはこんなことになるとは思いもしなかった。でも、考えてみてくれ。スゥはこうなることを予想して、ここに俺達が篭城する準備をしていた。全くそのとおりになったわけだ。そうなれば、彼女の言うとおりに俺が動くのがベストなんだと思う」
 ンドペキは、考えておいた嘘を言った。

 スゥは、その通路を行くものを指定したりはしていなかった。
 しかし、そうとでも言わなくては、指揮官の自分がひとりで戦場を後にできるはずがないし、コリネウルスやスジーウォンが納得するはずもない。
「わかっていると思うが、この洞窟は彼女のもので、彼女が用意してくれたものだ。もし、スゥの言うことを信用せず、俺が行かずに誰かに行かせて、もしものことがあれば、俺はどうやって皆に説明すればいいんだ?」
「むう」
「今から出立する。俺が戻るまで、なんとか持ちこたえてくれ」
 ンドペキは立ち上がった。

「待って」
 スジーウォンが立ち上がった。
「私の部下を連れて行って。何かと役に立つ男がいるから」
「ありがとう。でも、俺ひとりで行く。後を頼む」
 背を向けたンドペキに、スジーウォンの声が追いかけてきた。
「気をつけて、なんて言わないよ。きっと帰ってくるんだろ!」
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