挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

5章 チョットマの冒険

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

74/126

73 リンゴの歌

「そのおもちゃみたいなの、何?」
「ネット」
「なにそれ」
「古い時代に使われていた通信手段。文字をひとつづつ入力して、やり取りするんだ」
「信じられない! そんな手間のかかることをして、なにかいいことあるの?」
「まあね。俺もめったに使わないけど、アンダーグラウンドの情報は、ここでしか手に入らないからね」
「へえ」
「今は、このような場所での情報交換に細々と使われているだけ。有線なので、政府の通信監視網に掛かりにくいといわれているんだ」
「ふうん。で、なにを調べているの?」
「今から行くところの情報を」


 シャワーを浴びて着替えると、少しは気持ちが落ち着いてきた。
 プリヴに素顔を見せることにも、それほど大きな抵抗感はなくなっていた。
 こんな男だったかな、とチョットマは思った。
 プリブも変相を解いていた。
 平板な顔をしていて、鼻だけがやたらと大きい。陽に焼けた赤ら顔に、短く刈り込んだ髪は黒くてごわついている。
 おぶわれたときにも感じたが、肩幅は広く、体は筋肉質だ。
 しげしげと見ていると、プリヴが鼻の頭を掻いて、どうした? と照れた。
「ううん」

「さ、始めよう。座って」
 飲み物と食べるものが用意されていた。
 テーブルは小さく、向き合うと手の届く距離に互いの顔がくる。
「あ、これ」
「そう、俺もいつも買うんだよ」
 小さなリンゴがあった。
「顔が近すぎて、なんだか緊張するね」
「うん。でも、これが本来の姿さ」
「なにが?」
「いや、まあ。それより君のパパは?」
「あれ? その辺に」
 シャワーを浴びるときに懐から出して、ブースの外に置いたはずだ。
「あ」
 フライングアイはまた、あの紫色の布の上にじっとしていた。
「ここにいる。話を始めよう」
 パパが言った。

「よし。ではまず、イコマさん。なにかホトキンについて情報はありますか?」
 パパが、エーエージーエスとオーエンについての説明をしてくれた。
 しかし、ホトキンという男が何者で、どこにいるか、情報はまだない、という。
「うーむ」
 腕組みをしたプリブが宙を睨んでいる。
 チョットマは痺れを切らした。


「さっき、今から行くところって言ったよね。どこ?」
「ああ」
「早く、それを話して」
「ホトキンが何者か、あそこに行けば何か分かるかもしれない、ということだけなんだ」
「なんだ。でも、まあいいよ。早く、そこに行こう」
 しかし、プリヴは迷っているようだ。
「そうなんだけど……」
 チョットマは食べ始めた。
 考えてみれば、昨日からまともな食事をしていない。
「どうしたのよ」

 プリヴもリンゴをかじった。
「俺ひとりで行ってくる」
「なんで!」
「君は、ここで待っていてくれないか」
「冗談じゃない!」

 プリヴが言いにくそうに、喉を詰まらせた。
「さっき、調べたところによれば、どうも、今日はとても危険みたいなんだ」
「危険って、ここより危険なところがあるの!」
「ここは目立ちさえしなければ、危険じゃないさ。今から行こうと思うところは」


 かなり危険なバーだという。
 ただ、店はこのエリアREFの中でも、比較的安全なフロアにあるという。
「その店には、この街の生き字引みたいな女がよく来る。たいていのことは分かるそうだ。もし知らなくても彼女は必ず調べてくる。かなり年寄りみたいなんだけど……」
「なにも危険じゃないじゃない!」
「いや、そこに今晩、危険人物が来るらしいんだ。それに、その店はひとり客専門で、ふたりで行くことはできないんだ」
「じゃ、私がいく!」
「なあ、チョットマ」

 プリヴが困った顔をした。
「なあ、ここは俺がリーダーだと思って、納得してくれないかな」
 確かにハクシュウは、プリヴの指示に従えといった。
 しかし、チョットマは後に引く気はなかった。
 こんなところで、ぼんやり待っているのは耐えられない。
「そう、あなたがリーダーね。でも、聞くわ。その女に依頼するのは、あなたが適任なの? 面識はある? あなたの頼みなら、大至急で調べてくれるの?」

 プリヴは首を横に振った。
「会ったことはない。正直に言うと、その店に入ったこともない」
「だったら、私でもいいわけよね。あなたは、変装して広場でハクシュウが来るのを待っていてもいいわけよね!」
「……」
 プリブはその案を考えているのか、あるいはチョットマをどう納得させるかを考えているのか、目を落としてリンゴを見つめている。
「危険人物って、いったい誰?」
「聞いてどうする」
「だって、知っておかなきゃ」
「だから、君は」

 チョットマは、自分でも大人気ないと思ったし、プリヴの指示に従わなければいけない場面であることも分かっていた。
 しかし、この状況に我慢がならなかった。
「ここで待ってるなんて、私は絶対にいや!」
「いい加減にしてくれ」
「私が行く!」
「これはハクシュウの命令だと思って、了解してくれ」
 そんな卑怯な言い方ってあるものだろうか。
 チョットマは愕然とした。

 しかし、そこまで言われると、従わねばならないのだろう。
「……わかったわ。でも、ここにいるのはダメ。広場でハクシュウを待つ」
「それはダメだ。ここの方が安全だ!」
 プリヴが初めて声を荒げた。
「なぜ! ハクシュウがこの部屋に来るとでもいうの!」
「ハクシュウは来ない! 広場にもここにも!」
「そんなこと、あんたに分かるはずないでしょ! ハクシュウから連絡があったとでもいうの!」

「いい加減にしろ!」
 プリヴがテーブルをバンッと叩いた。
「ハクシュウがどうして来なかったのか、自分で考えてみろ!」

 チョットマは平手で打たれたような気がした。
「まさか……」
 ハクシュウが軍に追われていたのは、もちろん理解していた。
 しかし、ハクシュウならきっと逃げおおせたはず。
 そう、信じていた。
「プリヴ……」


 チョットマは、なんども深い息を吐いて、心を落ち着けようとした。
 飲み物を口にした。
 甘いバニラの香りがした。

「ねえプリヴ、教えて。あの後、ハクシュウがどうなったのか」
 プリヴは目を落として、自分の指先を見つめている。

「君には言わないでおこうと思っていたんだ。ふたりでこの作戦を成功させなければいけなくなったことを」
「!!」
 チョットマは、気を失うほどに驚いた。

「君がどんな反応をするか、分からなかったし」
 驚きが退き始めると、体が震え始めた。
「俺達には、悲しんでいる時間なんてないから」
 震えと共に、体の力が抜けていくのを感じた。


「どうして……」
「ハクシュウが旋回して北に向かったとき、俺はあわてた。その方角に、かなりの数のマシンがたむろしているのに気づいていたから。ハクシュウにそれを知らせたが、返事はない。俺は、自力でそのマシンをひきつけて移動させようとした」
「……」
「しかし、間に合わなかったんだ」
「……」
「ハクシュウもマシンに気づいたようで、西に急旋回した。しかし、そうしたことによって、軍との距離が一気に縮まってしまった」
「くっ」
「俺は迷った。このまま、街に向かうか。ハクシュウを援護するか」
「そんな」
「いや、聞いてくれ。命令に従うなら街に向かわなくてはいけない。しかし、俺にはできなかった。できることは何もないけど。俺はハクシュウを追った」
 プリヴの目に光るものがあった。


「運が悪いとしかいいようがなかった。ハクシュウの前方に西部方面隊の一団がいたんだ」
 プリブの目から涙がこぼれ落ちた。
「彼らも驚いたのだろう。大軍が迫ってくるんだから。彼らは戦闘隊形をとった。それはハクシュウに対してとった行動なのか、軍に対してとった態勢なのかは分からない。たぶん、両方なんだろう」

 プリヴが涙を拭った。
「ごめん。みっともないところを見せてしまったね」
「ううん、気にしないで。それでハクシュウは?」
 チョットマは聞かなくてもいい、と思ったが、言葉が先に出てしまっていた。

「追いつめられた。でもハクシュウは最後まで攻撃しようとはしなかった。人を相手に撃てるものじゃない。そして……」
 チョットマの目からも涙が溢れていた。
 プリブの指が伸び、チョットマの涙を拭った。
 チョットマは、なされるがままにしていた。

「戦闘が始まった。先に攻撃したのはハクシュウを追っていた方の軍。しかし……」
「……」
「その攻撃が始まる前に、ハクシュウの姿はレーダーから消えていた」
「ん?」
「なぜか、それは分からない」
 それは最も恐れていたことだ。
 システムによって消されたのだろうか。

「戦闘は一瞬で片がついた。西部方面隊は殲滅」
「そんなこと、どうでもいいよ! ハクシュウは!」
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ